個人の赤字は法人へ引き継げる?法人成りで誤解しやすいポイントを整理
事業内容が同じでも法人化すれば別事業になる

法人成りを検討する人がよく抱く疑問に「個人事業で発生した赤字を、法人の利益で相殺できるのか?」という問題があります。
残念ながら、税法上“個人の赤字”と“法人の利益”は別の主体に属しているものです。そのため、原則として相殺(繰越控除)はできません。
本記事では、個人の赤字が消せない理由、法人成りとの関係、例外的に節税効果が生まれるパターン、注意すべき誤解などをわかりやすく解説します。
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この記事の目次
個人事業と法人は赤字を引き継げない

個人事業から法人化、いわゆる法人成りをすると、様々な変化が生まれます。事業の連続性はあっても、税制や法律的な扱いが変わるので注意が必要です。
ここでは、個人事業で赤字が発生している時、法人成りするとどうなるのかわかりやすく紹介します。
税法上、個人と法人は完全に別人格として扱われる
個人事業主が法人化した場合、事業主は一緒であっても、新しい主体として法人が生まれます。税法上、個人事業主と法人はまったく別の人格です。
個人に課せられる所得税と法人税は、税法上まったく別体系で規定されて納税義務者も異なるため、赤字を相互に移転することはできません。
同一人物が個人事業主と法人代表を兼ねていたとしても、法律上は別の主体です。別の主体の赤字と黒字を混在させる処理は認められません。
また、法人設立にともなう消費税の納税義務の判定など、他の税務上の取り扱いにおいても、個人と法人は別人格として扱われることが国税庁から示されており、赤字の取り扱いも同様に厳格に区分されます。
個人の繰越控除は「個人の将来の所得」にのみ相殺可能
青色申告を選択すると、事業の赤字を翌年以降に繰越できる繰越控除を利用できます。
これは青色申告を選択したケースだけで、白色申告では赤字を翌年以降に引き継ぐ制度自体が適用が認められていません。
個人の青色申告欠損金は税法上「3年」の繰越が可能であり、仕組みとして個人の将来の所得にのみ適用できると規定されています。
法人化した場合には、この繰越控除されている赤字はどうなるのでしょう。
法人成りの後でも個人事業を継続している場合には、個人の欠損金を維持できます。しかし、これはあくまで個人所得に対してのみ控除が適用されます。
つまり、法人に繰越控除された赤字を引き継ぐことはできません。
法人の利益と相殺できない理由
同じ人が事業をしていても繰り越し控除の引継ぎはできません。あくまで繰越控除は「同一納税主体」でのみ適用できる制度です。
個人と法人のように主体が異なる場合は税法上の要件を満たしません。
個人から法人へ欠損金を移転する仕組みは所得税法にも法人税法にも規定がなく、制度として存在しないため相殺は不可能です。
赤字と黒字を主体を跨いで通算すると、恣意的な所得操作が行われる可能性もあり課税の公平性を損ないます。
個人の所得税と法人の法人税では課税体系も違うので、それぞれ厳格に区分した経理が求められているのです。
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法人成りする際によくある赤字に関する誤解

法人成りによって、個人と法人は完全に別の納税者として扱われます。しかし、法人化する時の変化について誤解している人も少なくありません。
どういった誤解があるのか以下で紹介していきます。
誤解①法人を作れば個人の赤字もリセットできる
法人成りすれば、新しい法人格が生まれるため、今までの赤字がすべてリセットされると考える人もいます。
実際には、法人を作っても個人で発生した欠損金は個人の履歴として残り、法人設立によって消えることは税法上あり得ません。
税務署の取り扱いでも「個人と法人は別主体」の原則が徹底されています。
法人が黒字を計上しても法人成り前の個人の赤字と相殺する制度は存在せず、逆に法人の赤字を個人が負担することも法律上認められていません。
赤字の通算は主体ごとに管理されると明確に示されています。
誤解②個人事業を廃業すると赤字も消えてしまう
法人成りした時には、個人としての事業は廃業になり赤字も消えると思われることがあります。
しかし、個人の赤字は青色申告をしていれば、廃業後も将来の個人所得が発生すれば相殺できると税法に定められているのです。
不動産所得や給与所得などの他所得にも欠損金を適用できるため、廃業後でも一定期間は赤字を有効に活用できます。
ただし繰越期間は3年に限定され、控除できる所得が発生しない場合は制度上そのまま期限切れになってしまう点には注意してください。
誤解③事業内容は同じだから法人でも継続扱いになる
事業内容が同一でも法人化した時点で主体が変わるため、個人の欠損金を法人が引き継ぐ取扱いは法律上認められていません。
過去の赤字を繰越することはできても、個人事業の廃業届を提出すると、その時点から『新たな事業の赤字』は発生しなくなります。
個人側で事業を一部でも継続していれば、赤字を保持可能です。しかし、あくまで「個人所得」にのみ控除が可能であり法人には適用できません。
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個人の赤字を有効活用できるケース

個人の赤字を法人成り後の法人に引き継ぐことは認められません。しかし、個人の赤字として活用は認められています。
どういった場合に有効活用できるのか、まとめました。
①法人成り後も「個人の仕事」を少し残しておいた場合
個人の欠損金は個人所得にのみ相殺できます。
そのため、法人成りしてからも個人事業主としての仕事を残しておけば、副業での案件や小規模な個人事業を継続することで赤字を有効に活用可能です。
継続事業として認められるためには収益活動の実態が必要であり、税務上も正当な事業として申告することが求められます。
事業以外にも不動産所得や雑所得など各種所得との通算が可能であるため、個人で一定の収入がある場合には節税効果が得られます。
②赤字がある年に給与所得がある場合
個人事業の欠損金は給与所得とも通算かのです。そのため、赤字がある時に給与所得があれば合算して課税所得を減らすことができる仕組みです。
所得税は、課税所得によって税率が決まります。法人成り直前に給与収入があれば、給与所得と赤字を相殺して実効税率を下げられるため、節税メリットが大きくなります。
給与所得と事業所得を合算する仕組みは所得税法の総合課税制度に基づいたもので、青色申告を選択を選択しなければ利用できません。
法人成りの際に役員報酬を設定し、それを給与所得として赤字相殺することは認められています。
しかし、事業所得が発生していない赤字の状態の時に役員報酬を支払うのは合理的とはいえません。
赤字であれば法人税はかかりません。しかし、役員報酬が発生すれば、会社から資金がなくなる上に所得税などの支払いが発生してしまいます。
③資産や「営業権(のれん)」を法人へ売却する場合
個人が保有する事業用資産を法人へ時価で売却すると譲渡益が発生し、過去の欠損金と相殺して税負担を調整できる場合があります。
譲渡益と過去の欠損金を通算する仕組みは所得税法に基づく正当な手法です。
しかし、価格が不当に高額な場合は否認されるリスクがあります。固定資産の場合には、時価で取引きするのが基本です。
ブランド価値や顧客基盤を営業権として評価し法人に売却する方法も認められますが、適正な時価算定が不可欠となります。
公認会計士や税理士、金融機関など専門家のサポートを受けたほうが良いでしょう。
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法人の赤字(欠損金)はどう扱われる?

個人事業主と法人では赤字の扱いにも違いがあります。法人の赤字は、税務上欠損金と呼ばれ、繰越期間も個人事業主と違います。
法人の赤字(欠損金)がどのように扱われるのかまとめました。
法人にも繰越欠損金の制度がある
青色申告を選択していれば法人の欠損金も個人事業主と同じように繰り越しできます。
法人税法では欠損金の繰越控除期間は「最大10年」とされており、3年間の個人よりも長期間赤字を有効活用できる制度が整備されています。
繰越控除の税制効果は大きく、中小企業は控除限度額の制限を受けず黒字が生じれば欠損金を所得の全額控除できる点が制度上の大きなメリットです。
法人でも個人でも繰越控除を利用するには青色申告が求められます。
青色申告の要件である適切な帳簿保存と確定申告が行われている場合に限り制度が適用されるので、日ごろから正確な会計処理を徹底してください。
個人と法人の欠損金を混ぜることはできない
個人の赤字と法人の利益を相殺することは税法上不可能です。主体が異なる限り欠損金の通算は認められていません。
所得税と法人税では、欠損金の定義や繰越控除のルールなども違います。
また、法人の赤字を個人の所得で吸収する仕組みも存在しません。別の主体として双方の欠損金は必ず別々に管理されることが法律上の原則とされています。
赤字を会計処理する時には「誰の所得か」を常に区別するようにしてください。
これらの赤字を混同して会計処理すると税務調査で否認されるリスクもあります。
個人の赤字は、個人のほかの所得と相殺し、相殺できない部分は3年間の繰越控除を利用してください。
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税務調査で問題になりやすい「赤字の移動」とみなされるケース

個人事業主としての赤字を残したまま法人成りしても、赤字を法人に引き継ぐことはできません。赤字を引き継げば、赤字の移動として税務調査で問題になることがあります。
どういった場合に「赤字の移動」とみなされるのか事例を挙げて紹介します。
①個人の資産を法人に高額で譲渡して法人赤字を作る
個人事業主としての赤字を減らす方法として、個人の資産を法人に高額で譲渡する方法が考えられます。
法人が事業用資産として高額で買い取れば、個人の手元にはお金が残り、法人は経費として処理することが可能です。
しかし、個人資産を不当に高額で法人へ売却すると利益移転と判断されます。
不当な取引きで経費計上したとして法人側の赤字が否認され、重加算税などのペナルティの対象になる可能性があります。
時価より著しく高い価格での取引きは「同族会社の取引き」として特に税務署が注視するポイントです。
法人への譲渡は認められているものの、適正価格での譲渡が原則とされています。
逆に時価よりも極端に低い価格で譲渡した場合には、個人からの贈与として益金に参入しなければいけません。
価格算定の根拠が欠ける場合は個人・法人双方に課税処分が下ることもあるので注意してください。
②意図的な利益移転(役員報酬・外注費の過大計上)
法人から個人へ利益を移すためには、役員報酬も使われます。しかし、役員報酬を過大に設定すると、「不相当に高額」な役員給与として否認されることがあります。
当然その超過部分は、法人税法上の損金に算入できません。
不相当に高額であるかどうかは、職務の内容や同業他社の水準などを総合的に考えて判断されます。
同様に、外注費を過大に計上して利益を個人側に移転する行為も不正と判断されるのです。
外注費は不正を疑われやすく、税務調査で重加算税を課されるリスクが高くなります。こうした利益移転は税務上の重点調査項目です。
適正な契約書・根拠資料がない支払いは否認されやすいので、役員報酬や外注費は業務委託契約書や報酬の算定根拠となる資料を保管しておくようにしてください。
③個人事業の取引きを法人経費に混ぜるケース
法人としての課税所得を減らすには、より多くの経費を計上する方法があります。しかし、個人事業の費用や売上を法人経費に混在させることは許されません。
個人事業の経費は個人に帰属します。主体が一致していないと経費否認や修正申告を求められることがあります。
個人と法人の取引区分が曖昧な場合には、双方の帳簿が不正確と判断されて重加算税を含む厳しい処分が行われるリスクもあります。
税務上は「主体ごとの独立性」が最も重視されるため、個人と法人を混在させる処理はリスクが大きいやり方です。
経費計上は、どちらの経費であるかを明確に線引きして根拠を示せるようにしてください。
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まとめ:個人の赤字は法人へ移せないが“無駄にしない方法”はある
個人事業主の赤字は個人の所得にのみ相殺可能であり、法人へ引き継ぐ制度は存在しません。取引きも会計処理も主体ごとの管理が必須です。
個人事業主が法人成りをしてから個人の仕事を残すなどの方法で、個人の欠損金を有効活用できるケースも制度上認められています。
廃業のタイミングを誤ると欠損金の権利が消滅するため、法人成り計画は赤字残高と繰越期間を踏まえて慎重に判断してください。
創業手帳(冊子版)は、これから法人成りする人に役立つ記事を多数掲載しています。会計や税務処理で悩んだ時には創業手帳を活用してください。
(編集:創業手帳編集部)






