Bodygram ジン・コー|幾度の起業を経験した連続起業家が「AIを活用した身体計測テクノロジー」に注目する理由とは
スマホ1つで服を着たまま採寸可能。高精度の計測が叶うAIサイズテックソリューションを開発
SDGsやサーキュラーエコノミーの観点から、大量生産・大量廃棄を伴うファストファッションの人気に陰りが見え始め、ここ最近は完全受注生産の「オーダーメイド」によるモノづくりが注目されています。
このような時流に乗り、スマホ1つで服を着たまま、迅速かつ正確に身体計測ができるサービスを提供しているのが「Bodygram」です。Bodygramはこの技術を使い、あらゆる業界のコスト削減や顧客満足度の向上を実現しています。
そこで今回は、Bodygram創業者のジン・コー氏に、複数回にわたる起業経験やBodygramのサービス概要について、創業手帳の大久保が聞きました。
Bodygram(ボディグラム) 創業者
マレーシア出身。2015年米国でオーダーメードシャツのオンライン販売事業Original Stitchを展開するOriginal Inc.を起業。創業まもなくから、ECアパレルの返品率の課題を解決すべく自社内で身体計測技術(現在のBodygramの前身となる技術)を開発、当初はOriginal Stitchサービス内の1ソリューションだったが、2019年1月に米国にてBodygram Inc.を設立、Bodygram事業を独立させる。同年5月に完全子会社としてBodygram Japanを設立し、CEOも兼務。2022年にCEOを退き、現在は会長として日本と米国を行き来しながら双方の市場にて開拓に力を注ぐ。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
19歳の時にシリコンバレーで最初の起業を経験
大久保:最初の起業までの経緯を教えていただけますか?
ジン:若い頃はプログラミングを自分で勉強して、お昼ご飯代もプログラミング本を買うのに使ったりコンテストに出場したりするほど、プログラミングに熱中していました。
さらに、今となっては思い出の一冊となった起業について書かれた本と出会い、夢中で読んでいく中で、自分の特技であるプログラミングと掛け合わせて起業したいと思うようになり、19歳の時にシリコンバレーで最初の起業をしました。
大久保:学生起業ということになるのでしょうか?
ジン:はい。私が大学3年生の時に起業しました。
当時の私は、学校の試験こそ受けに行っていましたが、それ以外のほとんどの時間をプログラミングに費やしていました。
大久保:最初の起業から、今の事業に至るまでの経緯も詳しく教えていただけますか?
ジン:19歳の時にShareSpaceという会社を起業して、セキュアファイルシェアリングのサービスを提供する事業を行っていました。
その会社は22歳の時に売却をして、25〜26歳の時に新しく立ち上げたのがバーチャルデスクトップの事業です。
さらに、29歳の時に日本で別のビジネスを立ち上げ、33歳の時に現在のBodygramサービスにつながるBtoCのオーダーメイドシャツECの会社を起業しました。
その後、オーダーメイドシャツECの事業は売却に至りますが、ボディデータを活用したサイズテック部分を別会社としてスピンアウトさせ、現在のBodygramにつながります。
前身の事業売却後にボディデータ事業をスピンアウトさせて「Bodygram」を創業
大久保:ボディデータ事業だけスピンアウトさせたのはなぜでしょうか?
ジン:前身となるOriginal Inc.という会社は、2015年にシリコンバレーで創業しました。
セキュリティ分野での起業経験から気付いたことですが、エンジニアはファッションに無頓着なところがあり、デパートに行って試着することを面倒くさがるという特徴があるため、ここを狙ってオーダーメイドシャツのオンライン販売事業を始めました。
大久保:オーダーメイドシャツ事業にはどのような差別化ポイントがありましたか?
ジン:在庫を持たない完全オーダーメイドアパレルであったことと、10億通りのカスタマイズができるという点が特徴でした。
好きなサイズ、形、柄でシャツを作ってもらえるという内容ですが、例えばMサイズだけど首周りは広めにしたいといったご要望に応えられる仕組みにしていました。
しかし、この事業の一番大きなハードルは返品への対応でした。身体にフィットするシャツということもあり、想定以上に返品率も高かったです。
大久保:その課題をどのように解決しましたか?
ジン:顔と手首の写真を撮ってもらい、パーソナルカラー診断のようにスタイリングするシステムや、精度の高いアパレル採寸を可能にするアプリの展開など、当時は珍しかったであろうアパレルテックの開発を次々と行いました。
しかし、このようなプロセスの中で、最も大事なことはシャツのサイズを測ることではなく、それを使うユーザーの身体そのものをまずは正確に計測することだと気が付きました。
大久保:今までの複数の起業経験や技術が、現在の事業に繋がっているんですね。
ジン:Bodygramは4回目の起業になりますが、日々学んだり、失敗したり、それを活かして現在の意思決定につながっています。
3年後の未来を読むことでビジネスチャンスが見えてくる
大久保:起業を4回行ってきて、やっておくべきこと、やってはいけないことなど、学んだことを教えていただけますか?
ジン:私のもとに、どうやって起業のアイディアを見つけるのかと、質問をしてくる若者が多くいます。
その問いにいつも答えている内容は「まず未来を読むこと」です。
私たちが3年後の未来に行ったとして、そこで人々は「何を求めているのか?」「そのニーズを満たすためには何が必要か?」と考えていくと、チャンスが生まれてくると考えています。
自分の中だけで考えるのではなく、同じように未来のことを考えて、生きている人たちのグループの中で意見を交換することでさらにブラッシュアップされ、アイディアも生まれてくると思います。
大久保:アメリカ、日本、マレーシアでのビジネスの仕方などで違いはありますか?
ジン:マレーシアにいる時は未成年で、起業もしていませんでした。しかし、ご存知の通りマレーシアは「小さなサウジアラビア」のような国で、天然資源は限られていますが、ビジネスチャンスは大いにあると考えています。
また、シリコンバレーがテックの最先端だと思われていますが、最近は随分と分散してきたように感じています。
サンフランシスコを中心としたエリアで新たなムーブメントが起きていたり、マイアミやテキサスなどでも税制上の優遇が広がってきたりしています。
AI技術を活用して身体計測をより早くより正確に
大久保:写真2枚と基礎情報のみで身体計測するというBodygramのサービスは、技術的に大変高度だと思いますが、具体的にどのような点が革新的だったのでしょうか?
ジン:身体計測を人間が行うと、どうしても誤差や待ち時間が発生してしまい、従来はボディスキャナーなど高価なシステムを導入しなければいけませんでした。これでは事業をスケールできません。
この課題を解決するために、スキャナーを手のひらサイズのモバイルデバイスに落とし込んだ最初の企業が我々Bodygramなのです。
ディープニューラルネットワーク(※1)というAIの技術を活用しながら、データで取得したユーザーの身体に点を打って、実際の身体の中から計測をしています。
大久保:アパレルでもSDGsの流れにより、大量生産、大量廃棄が問題視されていますが、この時流に乗りオーダーメイドのハードルも下がっていますか?
ジン:オーダーメイドは在庫を持たなくてよいため、SDGsの観点から見ても大変良い流れではあるのですが、熟練したテイラーなど正確な身体計測技術を持ったスタッフがいないと実現できません。
Bodygramの技術を使えば、ローコストで高精度の身体計測を実現できます。
今後、モバイルで計測して、配送で受け取る、といったオンライン完結型のビジネスも伸びていくと考えています。
※1:ディープニューラルネットワーク(DNN)・・・人の脳の神経細胞の働きをコンピューターで再現し、高精度な結果を出せるようにした技術
起業を成功させるには成功するまで続けるしかない
大久保:基本的に人は、自分の身体のサイズについては身長くらいしか正確に答えられないので、AIで採寸するという点は革新的だと思いました。
ジン:今後はハードウェアもさらに進化していくと思いますので、それに合わせて我々もより良いサービスを提供できると考えています。
大久保:アパレル業界以外での活用も考えられているのでしょうか?
ジン:まさに先日新しいサービスをローンチしたのですが、それは自分の身体をスキャンして、自分自身の未来の体型をAIが提示する「Future You」という機能です。目標体重などの数値を入力することで、未来の自分の身体にどのような変化が現れるかを瞬時に3Dアバターとして見える化することができます。
これにより自分の理想の体重や目標とすべきボディシェイプを知ることができるので、身体づくりや健康増進のためのアクションを継続する際のモチベーション作りに役立つサービスになると考えています。人は、「現在」を正確に測ることだけでなく「未来」の自分がどうなるかについても知りたいと思うものですから。
大久保:最後に読者へメッセージをお願いします。
ジン:良いアイディアを持っていて、自分がやりたいことなのであれば、自信を持って起業してください。
失敗することはありますが、それによって学ぶこともあります。
そして、我々起業家はなぜ起業するのかというと、多くの人が技術やサービス、商品を使ってくれることに喜びを感じたいからです。
眠れない日々を過ごしたり自問自答したりし、何が良いのか悪いのかわからない時もあると思います。
ですが、成功するためには、成功するまで続けるしかないので、一緒に頑張りましょう。
創業手帳冊子版は毎月アップデートしており、起業家や経営者の方に今知っておいてほしい最新の情報をお届けしています。無料でお取り寄せ可能となっています。
(取材協力:
Bodygram(ボディグラム) 創業者 ジン・コー(Jin Koh))
(編集: 創業手帳編集部)