シックスティーパーセント 松岡那苗|アジアのファッションを世界のメインストリームに

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年03月に行われた取材時点のものです。

アジア10か国の約1,500ブランドが出店! 国内最大規模の越境ファッションEC

アジアブランドに特化したファッションECサイト「60%」(シックスティーパーセント)にはアジア10か国から1,500ブランドが出店。

2018年の創業以来、総額約6.5億円を資金調達し、2024年よりグローバル版サイトをリリース。国内外のユーザーに向けた「グローバルマーケットプレイス」化を加速します。

そんな国内最大規模の越境ファッションEC「60%」を共同創業された1人、取締役副社長である松岡那苗さんに、起業までのキャリアやプラットフォームビジネスについて創業手帳代表の大久保が伺いました。

松岡那苗(まつおかななえ)
株式会社シックスティーパーセント取締役副社長・共同創業者
1992年生まれ。早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。フィリピン・マニラに勤務し、プロジェクトマネジメントを担当。その後、ラグジュアリーブランドのデジタルマーケティング部門で主にeコマース事業に従事し独立。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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起業したのは赤か黄色かを選ぶような感覚


大久保:起業を意識されたのはいつからだったのでしょうか。

松岡:CEOの真部と私自身も家業が小売の自営業でして、私で言うと父方がモードブランドの経営を行っています。サラリーマンベースの家ではなかったことも、真部とわたしが起業を選んだ理由かもしれないですね。

あまり起業が難しいと考えたことはなくて、赤を選ぶか黄を選ぶかくらいの感覚でした。

大久保:どのようにキャリアをスタートさせたのですか。

松岡:私が学生の頃、オンラインで服を買う消費者行動に関しての意見の食い違いが父とあった事もあり、家でバトルが勃発したなんてこともありましたね(笑)。むしろ私は「なんでオンラインで売らないの?」と思っていました。ただ、社会に出たこともない学生が言っても説得力がないので、まずは実績を積んでから主張しようと外資系のラグジュアリー企業のデジタルチームで働き始めたんです。

大久保:世界的な有名ブランドに入られたんですね。いかがでしたか。

松岡:外資系企業だと日本支社は売上げとしてのインパクトがあるとはいえ、クリエイティブなどの関してはあくまでも本社からの指示がある事が前提で、メイン業務はオペレーションが多かったです。

まさに歴史に紐づいたブランドパワーが強かったこともあり、何を仕掛けたら売り上げが動くというよりは、商品・ブランド自体の力で売れている感覚が多かった事が印象的でした。ブランドを守るために細かいところまで統一事項があり、有名ブランドの世界観を知ることができたのはいい学びでした。

この経験もあって、自分たちの手が入ることによってブランドを育てられるアジアを選んだというのもありますね。

大久保:そのあとリクルートに入られたのですね。

松岡:はい。リクルートが買収したスタートアップ企業のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション/M&A後の統合効果を最大化するための統合プロセス)の担当チームにアサインしていただきました。

入社1年目で買収先に入って、リクルートのやり方と買収先のカルチャーを統合していくステージと、新規事業の立ち上げ部分を体感する事ができました。アシスタント業務が大半ではありましたが、フィリピン現地で3週間勤務、日本に1週間戻ったらまたフィリピンに渡航する、と言うような生活を約1年行い、非常に貴重な経験をさせていただけたなと感じています。

その後外資系ラグジュアリー企業に入り、マレーシアブランド「NERDUNIT」の日本立ち上げをした後に2018年に「60%」(シックスティーパーセント)をCEOの真部とともに立ち上げました。最初の1年間は兼業していたんですが、「60%」が盛り上がり始めたときにこちらにフルコミットすることを決めました。

ですので、立ち上げという意味では2つ目と言えます。

大久保:他のところで一度立ち上げを経験できたのはよかったですね。

松岡:そうですね。勝てる市場かわからないところでビジネスを立ち上げるというのは、起業家がみんな経験することだと思うので経験できてよかったです。

大久保:アジアのブランドが盛り上がっているという肌感はどのようにつかむのですか。

松岡:例えばインスタグラムを見ていて、「フォロワー数も多くて、資金力のある事がわかる動画クオリティ(例えばドローンを使った大規模な撮影など)をしている動画が投稿されているブランドがあって、このブランドはどの国のブランドだろう?」と思ったらマレーシアだったというように、蓋を開けてみたらアジアだったというブランドが数多くあることに驚き、プラットフォーム化しようと思いました。

弊社の場合、特にブランド側からの需要が高かったですね。

営業コストをかけずとも出店ブランドが集まってきて、Kpopの影響もあり、ある韓国ブランドが出品すれば売れるような状況が作れたことは、パイオニアとしていいタイミングで市場が作れたと思っています。

「こういうビジネスがはねるだろう」というマーケットインな考え方ではなく、「アジアのファッションを世界のメインストリームに」というミッションドリブンで始めているので、ブランド側にそのミッションに共感していただくことも多いです。

プラットフォームとして世界観とシステムをしっかり作る


大久保:韓国ブランドがやはり強いんですね。

松岡:「60%」を立ち上げた2018年ぐらいはまだそこまでではなかったんですが、翌年Netflixで韓国ドラマが全部1位になり、韓国カルチャーの人気がどんどん高まっていきました。

今では約80%を韓国ブランドが占めています。

韓国以外では中国、台湾、香港などのブランドもありますね。例えばKpopなどのライブ用のファッションなどは有名ファッション誌でも先に取り上げるので、その派生から韓国以外の国の注目度も高まっているなという印象があります。

大久保:私の世代からすると、どちらかというと韓国が日本のドラマに影響を受けたり、日本のファッションを追いかけているような印象を持っていましたが、今は違うんですね。

松岡:アジアのファッションというのはいい意味で歴史もなく、同時に偏見もありません。うちのメインの顧客はZ世代ということもあり、新鮮なものを受け入れる度量がしっかりとある世代だなと感じています。

大久保:韓国の人はアグレッシブでミスしてもいいから新しいことにチャレンジする印象で、それに対して日本人は真面目で新しいことにチャレンジしない印象ですよね。
 
松岡:そうですね。若年層向けのカルチャーに関しては韓国の方が一歩前進していると感じますね。

韓国に関して言えば、立ち上げのタイミングから海外を意識しているブランドが非常に多いです。韓国自体の人口も少ないので、「自国だけでビジネスをしても上が見えている」というのはよく聞く言葉ですね。そこは「60%」が韓国ブランドを日本最大級レベルの量まで取り扱いを増やすことができた一つではあるかなと考えています。

大久保:どんなお店が売れるなどというような傾向はありますか。

松岡:この10年ぐらいずっとストリートブランドがファッション市場を席巻していて、そこはひとつカテゴリーとして強いというのはあります。

ただ、うちのプラットフォームとしてのよさとして、ロングテールな収益モデルが作られているのが強みではあるので「このカテゴリーで作ったら売れる」というよりはいろんなブランドがいつもランキングを縦横無尽に動く形を作れたらという気持ちはあります。

大久保:アパレルの店舗では、買うためには接客が大事だったのかなと思いますが、今それに代わるものは?

松岡SNSがブランドのポートフォリオになっているというのはありますね。100%オンラインで成立する世界観かなとは思っています。

国によってTikTokの制約がある国もあるのでブランドによって保有してるSNSが違ったりはしますが、うちで言うとマーケティングに関してはTikTokとインスタグラムが2強ですね。

大久保:プラットフォームビジネスをする上で心がけていることはありますか。

松岡:ミッションの「アジアのファッションを世界のメインストリームに」を叶えるためにはさまざまな人達がノイズをあげる必要があります。ミッションに賛同して色々なアジアのブランドが入ることによってカルチャーが作られるというところは意識していて、今やっと1500ブランドくらいまで来たところです。

また、プラットフォームとして世界観をしっかり作るのも大事ですが、システムをしっかり作るということも意識しています。

例えば、ブランド側がいかに使いやすいアドミンシステムを提供できるかというところはフルスクラッチでしっかり取り組んでいるので、合理性とファッションのバランスをうまく保つことに関してはかなり意識しています。

ちゃんとプラットフォームとして評判を上げるためには、やはりブランド側の売上げをきちんと立てることも重要です。入ったところで売れないという話が広まってしまうとブランドを集めることも難しくなってしまうので、弊社が提供できる内容はブランド側にちゃんと可視化して関係の継続性を保つことも重要視しているポイントです。

大久保:越境ビジネスでは、物流がひとつの大きなポイントになりますね。

松岡:基本的にうちは物流の倉庫を持ってないので、商品が売れたらブランド側からお客さまに対して発送するという流れです。例えば韓国のブランドがタイで売れたり、台湾のブランドがヨーロッパで売れたりというケースも発生しています。

大久保:システムもそうですが、途中で物流を乗り換えるのは大変ですよね。

松岡:そうですね。弊社も取扱高に関しては非常に大きくなってきましたが、それこそもう1桁2桁増えたタイミングだと乗り換えのハードルがかなり上がってしまいます。

大久保:組織の作り方に関して意識していることはありますか。

松岡:「60%」はグローバルスタートアップなので、日本人の従業員がメインではありますが、勿論、外国籍の方もいますし、業務委託として海外で働いている方もいます。

社内の言語は基本的に日本語ですが、弊社のお客さまはほぼすべて外国の方なので、社員の70〜80%は2か国語が話せて、韓国語、中国語、英語は社内でもミーティングなどで飛び交っています。

そのような若くグローバル思考が強い従業員の方々が働きやすいような刺激的な環境作りというのは、海外への出張も含めて機会を増やそうと思っています。

大久保:今は円安で、海外進出を視野に入れている日本のブランドにとってもチャンスですね。日本のものが世界に知られるのは素晴らしいことだと思います。

松岡:現在は旅行で日本に来ることも可能ですが、コロナ禍は日本の物を買いたいと思ったらオンラインで購入することしかできませんでした。

「オンラインで日本のファッションを買いたいと思ったら『60%』」という印象を持っていただけるように、注目されている日本のショップやアイテムに焦点を当てて、プロモーションしていきたいですね。

会社を加熱し続けることの難しさ


大久保:起業して大変だったことは何ですか。

松岡:組織の人数が増えていくに従って、10人の壁、30人の壁、50人の壁というのがありますよね。ハンズオンで見通せる人数を超えたときの組織作りに苦戦して、人事の重要さを実感しました。

10〜30人ぐらいまでなら目が届きますが、それ以上になると見えないところで何かがあっても察知できない。

人数が増える前に先行して体制を整える必要性を感じましたし、スタートアップは3年で半数以上が潰れるとよく言われますが、その理由のひとつにそういった壁があるのではないかと感じました。

大久保:確かにそこが後手になると苦しいですね。10人の時に30人の準備をするべきということですね。

松岡人事も経営層も次を想定して動く必要性がありますね。後手になってしまうと、そこで苦労するのはメンバーなので。

だからと言って例えば「500人規模の会社でマネージメント配下に数十名いました」というようなハイレイヤーが初期数名のスタートアップで同じマネージメント運用をしようと思っても本末転倒になってしまいます。いろんな起業家の方がこの種のトラブルにぶつかるということは聞いていたのである程度予測できていましたが、避けられる人はあまりいないだろうなと思います。

大久保:わかっていてもその落とし穴に落ちがちですよね。

松岡:経営していると会社はナマモノだなと思いますね。程よい火加減で点火し続けるのも難しいことだと感じています。

一回強火にするのは難しくなくても、その後弱火になって消えてしまうというのはよくあることですし、火のコントロールについて誰かが舵を取る必要があります。

大久保:事業をスタートする最初は奇跡的に同じ志の人が集まって強火でスタートするとしても、弱火になる時期って絶対ありますよね。そういうときにちゃんと事業になるような気もしますが。

松岡:事業が大きくなっていくプロセスで、常に全員が同じ方向を向いて進んでいけるかというのは結構難しい話だと思うので、そのための旗やビジョンは必要ですし、時々掲げる旗の内容を変えていく必要性もあると思っています。

立ち上げ当初は、ミッション自体よりもあくまでグロースできるビジネスモデルかどうかという所が重要視されている印象を感じていましたが、弊社も5年目を迎え売上が一定規模まで積み上がると、究極本質に立ち返って「ミッションの重要性」という事を再認識する事ができた機会でもあったかなと思っています。

大久保:痛い目を見ないとミッションって綺麗事で終わりそうですよね。

松岡:そうですね。実際に、常に仕掛けた施策がうまくいくわけではないので、その度にミッションに支えられる経験ができたのはよかったですね。

逆に経営層がしっかりと火を灯し続けることができなかったり、バタバタしていたりするタイミングで、ミッションをベースにメンバーの方が頑張れているなと感じる時に会社としての成長を実感できました。

大久保:今後の展望を教えてください。

松岡:5年目にしてやっと、アジアのブランドをただ売るだけではなくしっかりブランドとして見せていく、いわゆるブランディングに会社としてお金を投じていけるフェーズになったので、イベントなどの大きな仕掛けにもどんどん力を入れていきたいですね。

同時に、日本だけではなく世界のお客様がアジアのファッションを求めている時代になっていることを感じていますので、しっかりと販路を確保し、痒いところに手が届くようなシステムを目指して、システム開発にも今後力を入れていく予定です。

UIに関して「使いやすい」「ずっと触りたい」と思ってもらえることは非常に重要だと思っていまして、アパレルだからこそファッションとプロダクトとしての使いやすさのバランスを取ることを意識しています。

また創業者2名が日本人なので日本の市場で起業しましたが、3年後の上場を目指しているのでそのタイミングで約30%の海外比率を取りたいと考えていますね。

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