KAMEREO 田中 卓|ベトナム現地企業向けのBtoB Eコマースでベトナムの飲食業界インフラを整える
日本人がベトナムで事業を行う上で大事なのは「組織作り」
日本の飲食店の多くは、卸売業者から食材を仕入れることが多いですが、ベトナムの飲食店の多くは伝統的市場やスーパーマーケットで仕入れています。
ベトナムにも卸売業者はいますが、扱う食材の品質と価格が不安定で、配送時間や納品内容にもミスが多いという課題があります。この課題解決に取り組むために、ベトナムでBtoB Eコマースプラットフォーム「KAMEREO」を運営するのが田中卓さんです。
今回の記事では、田中さんがベトナムで起業した背景や日本人がベトナムで組織作りをする上での注意点について、創業手帳の大久保が聞きました。
株式会社KAMEREO CEO兼ファウンダー
1989年生まれ。ワシントン大学への留学を経て大学卒業、外資系証券会社であるクレディスイス証券日本法人に入社する。日系・外資系の株式営業に従事しセールスで結果を残すも、関心の合った海外でのレストラン事業に参画するため退社、Pizza 4P’sに転職。ベトナムでの飲食業を経験し、購買業務の非効率さを改善すべくKAMEREOを立ち上げる。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
飲食店の開業を目指して証券会社で社会人経験を積む
大久保:まずはこれまでの経歴を教えてください。
田中:私は幼い頃から飲食店の開業を夢見ていました。ですが、社会勉強のためと開業資金を貯めるために、大学卒業後は金融業界で法人向けに株の売買を勧める営業の仕事に就きました。
今と比べてコンプライアンスが緩かったからできたことですが、上場している飲食業界の経営者の方々とお話しさせていただける機会も多くありました。
日本の飲食業界の経営者の多くが仰ったのは、日本の飲食業界は競争環境が激しく、マーケットも伸びていないため、逆に東南アジアなど伸びているエリアを見ているということでした。
私もそれには同感でした。経済成長により、今までお肉を食べなかった人が食べ始める、お酒を飲まなかった人が飲み始める、家での食事が外食になるといった行動変容がこれから起きてくるので、東南アジアでビジネスをするのが良いと考えました。
Googleで”東南アジア 飲食”と検索すると、ベトナムのホーチミンで日本人が創業したまだ1店舗しかないピザ屋さんの創業ブログを見つけ、面白そうだなと思い、直接問い合わせをしてベトナムまで見に行きました。
ベトナムに1週間ほど滞在して感じたこととしては、ベトナムは日本よりは貧しい国ですが、明日は今日より良い日になると思っているから、みんな笑ってます。そして、お金も貯めないで使っています。日本の人に聞いても明日が今日よりも良い日になると思っている人は多くはないでしょう。
ベトナムの飲食業界が抱える最大の課題は「仕入れ」
田中:私はバブルを経験していない世代なので、20代をこの伸びているマーケットでチャレンジするのも面白いかなと思い、まだ1店舗しかないピザ屋スタートアップに転職しました。
そこでは最終的にCOOまで昇進させていただき、HR・アドミン・仕入れ・店舗展開・ファイナンスなどを経験させていただきました。
私自身が起業する形として、飲食店も1つのアイデアとしてあったのですが、課題も少なくありませんでした。特に、飲食店経営のオペレーションの中で一番大変なのが食材の「仕入れ」です。
日本のようにフードサプライチェーンのインフラが整っていないため、卸売業者に頼んでも注文通りに納品されない、値段も毎日変わるといったことが平気で起きています。
当時から私が注目していたのはベトナムなのですが、ベトナムで飲食店を経営されている方々は、仕入れに関して同じ課題を抱えていました。
私は以前から自分で飲食店を開業することも考えていましたが、それよりも卸業やサプライチェーンを作った方がベトナムの飲食業界全体の成長に寄与できるのではと考え、飲食店向けのBtoBのEコマースで起業しました。
ベトナムでBtoB Eコマース「KAMEREO」を創業
大久保:全くの異業種への参入だったと思いますが、どのような手順で事業立ち上げを行いましたか?
田中:私は以前、サプライヤーとバイヤーを繋ぐプラットフォームを立ち上げて、受注管理のDXを進めるビジネスをしている日本の企業と金融時代に関わっていたことがあり、そこを参考にしてスタートさせました。
とはいえ、サプライヤーのレベルが高くなかったため、二者間を繋ぐだけでは、問題解決にはなりませんでした。
大久保:どうやって課題を解決しましたか?
田中:ベトナムの卸売業者の全てに改革を起こすことは困難ですので、まずは自分たちでサプライヤーをやることになりました。
数ある商品の中でも、野菜の品質、価格、供給が不安定という課題が大きかったので、まずは野菜の取り扱いから始めて、今のBtoB Eコマースの形になりました。
卸売業者ではなく伝統的市場やスーパーで仕入れるのがベトナム流
大久保:ベトナムの飲食店はどこから原材料を仕入れていますか?
田中:ベトナムの飲食業は大手のチェーンレストランがほぼないということもあり、卸売業者が発展しておらず、飲食店が食材を調達する時は近くの伝統的市場やスーパーで買うというのが主流です。
既存のプレーヤーは組織が小さいからこそ、サプライチェーンの川上まで行けないため、飲食店の需要を集約してサプライチェーンの川上の農家さんから直接仕入れて川下の飲食店まで自社で卸すことで、価値を出すことができると考えました。
日本には農協があり、市場に売る流れがあるので、品質管理もしっかりされていますが、ベトナムではその機能はありません。
値段の決定プロセスも個人間で決めているので、いわゆる「マーケット価格」というのがありません。
そのため、ロジカルに川上から川下まで、丁寧にサプライチェーンを作っていきたいと思い、2019年から動いたというのが経緯となります。
大久保:生産者、受け取り手、流通、全てにおいて整っていないのは、日本と違うところですね。ですが、そのインフラを整えるのは、お金がすごくかかりそうですね。
田中:そう思われるのですが、意外とそうではありません。
例えば、ベトナム人は全員バイクを持っているので、アセットは倉庫を借りるだけです。
私が野菜の集荷場として借りた倉庫は500平米ですが、日本円で投資金額100万円ほどだったので、新しく作った方が早いです。
ただし、その後のオペレーションは簡単ではありません。当社ではロジカルにデータドリブンでPDCAを常にを回しており、それが強みになっています。
大久保:出来上がっていないからこそ、やり甲斐がありそうですね。
ベトナム国内に投資家はいない。海外からの資金調達が成功への鍵
大久保:日本人がベトナムで起業することにアドバンテージなどもあるのでしょうか?
田中:ベトナム語が完璧にはわからないので、空気を読まずに新しいことに取り組めるところはあります。
また、ベトナムでスタートアップできるポイントとして重要なのは、資金調達ができるかどうか、という点にあります。
理由としては、ベトナム国内に投資家はほぼいません。
そのため、海外投資家から資金調達ができるコミュニケーション力とネットワークが非常に重要となってきます。
ベトナム人チームには、事業を成長させるために動いていただき、私は投資とパートナーシップ、長期戦略にフォーカスするという役割分担をしています。
同じ東南アジアでもエリアにより特徴が異なる
大久保:東南アジアの他の国と比べた時のベトナムの特徴や違いなどはありますか?
田中:同じ海外スタートアップでも、ベトナムと他の国では違いがあります。
例えば、フィリピンは全員が英語をしゃべれるので、外資が入りやすく、競争が激しいです。
また、タイ、フィリピン、インドネシアは財閥が強いため、財閥M&Aの事例も多く、IPOをする企業はほとんどありません。
逆にベトナムは面白いです。
ベトナム戦争が1970年代に終わっているのでこれといった財閥がなく、企業の2代目3代目が家系で全てコントロールしている、といったところがありません。
そのため、ベトナムの比較的大きい会社の全てが1代目という特徴があります。
ただし、ベトナムには投資家が少なく、ベトナムの銀行もなかなかお金を貸してくれないので、海外からの資金調達が必要となってきます。
大久保:お話を伺っていると、日本とベトナムは今ちょうど真逆の立ち位置にいるように感じました。
日本は低金利でお金をたくさん使うことができますが、若者が少ないため、やる人がいません。
逆にベトナムは、富が集積していないため、お金は足りないが、働く人がたくさんいる。
田中:おっしゃる通りです。
そのため、私は今後、日本からの資金調達も視野に入れて活動したいと思っています。
日本は10年後、20年後に大きな市場のど真ん中で、ナンバーワンになれる市場はほとんど空いていないと思います。一方、ベトナムでは大きな市場かつ成長市場のど真ん中に圧倒的なウィナーが存在しない市場がまだたくさんあります。
そこで、日本から資金を調達して、ベトナムの大きな食料卸マーケットのナンバーワンシェアを取りに行きます。
大久保:私が新卒で働き出した頃は、WebやIT業界は、倍々ゲームのように伸びていってました。
ベトナムで日本人が行う組織作りの工夫
大久保:日本人の組織を作るのも大変だと思いますが、ベトナムでの組織作りも苦労しましたか?
田中:会社としてはオフィスとオペレーションを合わせて、日本人は私1人で、他は全員ベトナム人です。
人を集める時に、トップティアな優秀な人材を集めようとはしていません。
基準としては、良い人です。例えば、友達になれそうな人、マインドセットが合う人、コアバリューが合う人などです。
日本では当たり前になってきましたが、ベトナムはビジョン・ミッション・バリューがまだ浸透している会社は少ないです。
我々はそこを大事にしてきているので、組織がきっちり回っているのかなと思っています。
ベトナムで組織作りに失敗する人の特徴
大久保:反対に、ベトナムで日本人が組織作りをする上で、注意すべき点や失敗する人の特徴があれば教えてください。
田中:失敗する例としては、ハイスペックな方を採用した時です。
何度も失敗してきましたが、これしかしたくない、と自分でやる領域を決め混んでしまうからです。そのため、Cレベルでの採用をすることをやめました。
最初はマネージャーとして採用し、結果が出たら上の役職に引き上げることにしています。
従業員の満足度を測るeNPSも四半期で採用しており、評価制度も導入することで、仕事の自分ごと化にも成功しました。
大久保:これからの展望などがあれば教えてください。
田中:今はインフラを作っているので、それを外の会社にも提供していこうと思っています。
例えば、ベトナムで冷蔵小口配送をしている会社はほとんどいません。
我々は配送フィー、倉庫フィーをもらう形で他の食品メーカー、サプライヤーの冷蔵小口配送の受け入れを考えています。次の資金調達のタイミングから拡大していこうと思案中です。
大久保:伸びている市場なので、人を張っておくと、ある程度は伸びていくような感じなのでしょうか?
田中:おっしゃる通りです。また川上から川下までのサプライチェーンを全て自社で管理しているため、規模が拡大するとマージンも増えていきます。
ただ、結局のところ、ボリュームゲームのところもあるため、できるだけ早くマーケットシェア1番になることを目指しています。
ベトナムは成長市場な上にNo.1になれる分野がまだ多い
大久保:コロナ禍の影響はありましたか?
田中:コロナ禍では、理不尽なことなども経験しました。
ベトナムは共産主義なので、外出禁止令が出たら、本当にアパートから1歩も出てはいけず、急に売り上げゼロになったこともあります。
その間に、コアバリューなどにじっくり向き合う時間を取れたので、今につながっているのですが、その時は本当に困りました。
その他にも、理不尽なことは色々と起きますが、悩んでても仕方がないので、どうするかすぐに考えるようにしています。
大久保:途上国は形のない問題解決能力が高い人が向いてそうですね。
田中:おっしゃる通りです。考えすぎないことも大事ですね。
さらに、吐口をスタッフに向けてしまう日本人がいたりもしますが、それをしてしまうと組織が終わってしまうので、戦略的に妥協することも必要です。
もちろん感情の起伏はあると思います。ですが、落ち込んでいる時には、人に会わないようにするといったコントロールをしなければいけません。
大久保:二次災害を起こさないように、という感じですね。
田中:海外で起業されている方は、日本人向けのサービスをしている人が多いですが、私はベトナムでベトナム人向けのビジネスをしています。
簡単なことではありませんが、前職のピザ屋さんで経験している分野なので、有利かなと思っています。
大久保:ベトナムにはまだまだチャンスがありそうですか?
田中:日本と違って、市場規模がある程度ある上に、その市場が毎年伸びていて、ナンバーワンの座が空いている領域がベトナムには多々あります。
我々はそこにチャレンジしていますので、応援していただけたらありがたいですし、同じようにチャレンジしようとしている方がいれば、長期で一緒に頑張っていきましょう!
大久保:ベトナム経済が伸びているのと、対日本に強くなってくるので、見込みの2倍以上いきそうな気がします。
田中:雪だるま式にどんどん大きくなるイメージをしていますので、これからが楽しみです。
大久保の感想
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(取材協力:
株式会社KAMEREO CEO兼ファウンダー 田中 卓)
(編集: 創業手帳編集部)
上りのエスカレーターのベトナムに挑戦している田中さん。今後が楽しみです。