企業が分社化するメリットとは?恩恵を受けやすい企業の特徴も解説

創業手帳

分社化を理解し、税金・リスク対策として活用しよう


分社化は、国内企業でも取り入れるケースが増加しています。特に、2000年代に入ってからは大企業だけではなく中小企業でも分社化を進める傾向が強まっています。
分社化することにより、税金対策やリスク対策ができるためです。

今回は、分社化の概要や子会社との違い、分社化の方法、行うことで得られるメリット、恩恵を受けやすい企業の特徴について解説していきます。
分社化を検討している経営者は、ぜひ目を通してみてください。

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分社化とは?


分社化は、企業の一部を切り出し、新たな企業を立ち上げることを意味します。事業や部署などを切り離すケースが多いです。
まずは、分社化の概要や混同しやすい子会社化との違いから解説していきます。

分社化の概要

分社化は、事業や部署、支店、工場などを切り出し、別の企業を立ち上げることです。
子会社を設立するのですが、株式は親会社が100%保持するのが一般的です。最近は、中小企業でも分社化を行うケースが増加しています。

大企業において、イノベーションや新規事業の立ち上げを目的として行われる場合は「カーブアウト」と呼ばれます。
そして、親会社と資本関係がない企業を独立したメンバーが立ち上げる場合は「スピンオフ」、または「スピンアウト」と呼ばれることがあるので念頭に置いておきましょう。

子会社化との違い

分社化と子会社化の違いは、資金の出し方と出資比率にあります。いずれも子会社を作ることに変わりはありませんが、相違点もあるので覚えておく必要があります。

資金の出し方は、分社化だと親会社の資産を分散させて新たな企業を立ち上げるため、資産を分けることに重点が置かれているという点が特徴です。
子会社化は、親会社が資金を出して新たな企業を作ったり、他の企業を買収して子会社としたりします。
出資比率は、分社化の場合は親会社が100%出資、子会社化の場合は親会社が子会社に対して50%以上出資すれば良いとされています。
つまり、分社化のほうが支配力は強いです。

分社化を行う3つの方法

分社化には、会社分割・事業譲渡・現物出資という3つの方法があります。続いては、それぞれの方法について解説していきます。

1.会社分割

会社分割は、1つの企業を複数の企業に分割し、それぞれに事業や資産を承継させる方法です。
分割した企業は、事業提供の対価として承継した企業の株式を手に入れられます。

承継の範囲を自由に設定でき、買い手となる会社を用意しなくても済む点は会社分割ならではの特徴です。
承継させる会社の債権者からの同意が必要ないことや、一定の条件を満たしていれば不動産所得税が課せられないこと、といったメリットも享受できます。

新設分割の特徴

新設分割は、事業の一部を切り離し、新たに設立した子会社に移す方法です。親会社は新設した会社の株式を100%保有するため、完全親会社になります。

事業部門の資産や負債を新たな企業に事業譲渡する対価として株式の取得を行います。
その際に生じる“譲渡する資産や負債の帳簿価格”と“時価”の差額は、分割会社側が譲渡損益を計上しなければなりません。

共同分割の特徴

共同分割は、既存の2つの企業がそれぞれの事業を一部切り取り、新たな企業に移すという方法です。
新設した企業の株式はそれぞれの分割会社が取得するという仕組みになります。グループ企業で採用されるケースが多くなっています。

事業譲渡された資産や負債の状況に応じ、新設した企業の株式を親会社となる複数の分圧会社が取得します。
つまり、新設会社と複数の分割会社は比率によって親子会社、もしくは関連会社に分類されるということです。

吸収分割の特徴

吸収分割は、企業が事業の一部を切り分け、既にある他の企業に承継させるという方法です。
A社がB社に事業の一部を移したとすると、対価としてB社はA社に株式を交付するという流れになります。株式の割合によっては、B社がA社の子会社になる可能性もあります。
売り手と買い手が親子会社関係になる場合は分社型吸収分割、売り手と買い手が関連企業のようになりたい場合は分割型吸収分割を採用するケースが多く見られます。

2.事業譲渡

事業譲渡は、事業だけを対象として企業間で取引きすることです。
会社分割とは違い、事業の売買契約とみなされ、承継先の企業が元の企業から事業の一部またはすべてを買い取ったような形になります。

事業譲渡のメリットは、取引きされる事業とその事業に関する資産や負債を承継するので、簿外債務を負わずに済むことです。
しかし、事業譲渡が売買契約とみなされるため、買い手側はまとまった資金を用意しなければなりません。
売買なので消費税も発生します。

3.現物出資

現物出資は、その名の通り企業を設立する際に金銭以外のもので出資することを意味します。
現物には事業なども含まれるので、事業を出資することによって分社化と同じような効果が期待できます。対価は会社分割と同じように株式です。

金銭を支払うことなく株式を手に入れられるという点が大きなメリットです。
しかし、手続きが煩雑化しやすく手間がかかってしまう、株式を対価とした売買とみなされるので消費税がかかる、といったデメリットもあります。

分社化を行う8つのメリット


分社化を行うことで得られるメリットはいくつもあります。デメリットもないわけではありませんが、分社化することで受けられる恩恵も大きいのが事実です。
続いては、どのようなメリットがあるのかピックアップしてご紹介します。

1.法人税を節税できる

社長が同じ別の企業を作ると、法人税の節約につながります。
法人税は売上げに比例する累進課税方式を採用していて、800万円以下では15%、800万円超になると23.2%が課税されます。
800万円というボーダーラインを下回っていれば軽減税率が適用され、税負担が小さくなるので企業にとってのメリットは大きいです。

また、連結納税制度の活用も可能です。グループ会社がそれぞれ単独で法人税を申告すると、法人税の総額は大きくなってしまいます。
しかし連結納税制度を使えば、その負担を軽減できます。

連結納税制度を使う場合は適用を受けようとする事業年度の開始日3カ月前までに承認申請書を提出しなければいけません。
節税効果について詳しく知りたい場合は、税理士に相談してみてください。

2.消費税も節税できる

中小企業で条件を満たしていれば、消費税の支払いに関する優遇も受けられます。優遇を受けられるのは年間の売上げが1,000万円以下の事業者です。
年間の売上げが1,500万円だった場合、A社(売上げ700万円)とB社(売上げ800万円)に分割すると消費税はかかりません。

ただし、特定新規設立法人に該当する場合は、消費税の免除が受けられないので注意が必要です。
特定新規設立法人は、他の法人もしくは個人に支配されている(株式などの50%超を直接もしくは間接的に保有する関係にある)などの要件に該当する企業が当てはまります。

もう1つのボーダーラインは売上げ5,000万円です。
売上げが大きい企業を分社化すると、消費税を計算する時のみなし入れ率が適用可能な蟹課税の対象となる可能性が高まります。

3.交際費の限度額を増やせる可能性がある

社長が同じ他の企業を設立すると、交際費の限度額が増加する可能性があるという点も大きなメリットです。
交際費として全額損金算入できる枠が増えるためです。飲み会などに用いる交際費は、中小企業だと800万円までなら経費計上可能となっています。
分社化すると、交際費として計上する金額も半々になるため、2社で1,600万円まで経費計上ができます。
交際費を多く支出しなければならない業種において、このメリットによる恩恵はかなり大きいでしょう。

交際費が一定の限度額まで認められるのは、資本金が1億円以下です。しかし、資本金が1億円以下でも、資本金5億円以上の企業と完全支配関係にある場合は適用となりません。

4.退職金の支給で損金算入ができる

退職金の支給で損金算入ができることも、メリットとして挙げられます。これは、親会社が本人に対して退職金を支給する場合に生まれるメリットです。
業績が好調である程度規模が大きい企業であれば、分社化して授業印を転籍させた時に退職金を支払って節税できます。

退職金を支払う場合、退職金規定をあらかじめ作成しておくことがポイントになります。
なぜなら、退職金は支払わなければいけないものではなく、規定がないと税務署から指摘される可能性があるためです。
法改正によって退職金に関する所得税率などが変更になることもあるので、法改正に注目しながら適宜規定の内容を刷新することも忘れてはいけません。

5.リスクを分散できる

事業リスクや倒産のリスクを分散できることも、分社化によって得られるメリットです。

1つの企業で事業を行っていると、どれかの事業で大きな損失が出てしまったり、トラブルが起こったりすると、全社的なダメージを受けることになりかねません。
しかし1つの企業で1つの事業を行うといったように分社化しておけば、損失やトラブルが発生しても影響を受けずに済みます。
また赤字部門を補填するための黒字部門の人件費をカットしたり、倒産したりするといったリスクも回避できます。

6.事業の経営状況がわかりやすくなる

事業の経営状況を把握できるようになり、効率化を目指しやすくなります。なぜなら、作成する財務諸表が別々になり、事業の成果が明確になりやすいためです。
事業ごとの業績が見える化できることによって、効率的な経営を実現しやすくなります。

分社化によって全体的な収益が高まれば、給与や賞与にも還元されます。そして従業員のモチベーションアップにつながるでしょう。

7.銀行から融資を受けやすくなる

分社化によって銀行から融資を受けやすくなることも大きなメリットです。複数の企業があると、それぞれに対する融資を受けられる可能性が高くなります。
法人ごとに代表者を分けた場合、それぞれが連帯保証人になることができ、より融資を受けやすくなります。

1人で複数の企業で連帯保証人になると、万が一の時に返済ができなくなってしまうのではないかと考えられるためです。
そのため、それぞれの企業に代表者がいたほうが良いと考えられます。

8.事業承継にも活用できる

分社化することで、後継者問題の解決に結びつく場合もあります。
後継者候補が複数いる場合、1つの企業だと誰を後継者にするのかという問題が生じるケースも少なくありません。
しかし、分社化すればそれぞれの企業に後継者を承継させることができ、円滑に事業承継を行えるというメリットが生まれます。

後継者の経験が乏しい場合にも分社化は効果的です。分社化することで規模が小さくなるので、運営がしやすくなります。
その中で経験を積み、経営者としての知識やスキルを身に付けられます。

分社化の恩恵を受けやすい企業の特徴


分社化は闇雲にすればいいというわけではありません。分社化によるメリットが大きい企業の特徴を把握し、自社と照らし合わせて考えることが重要になります。

1つの事業は好調だが他の事業は不振に陥っている

複数ある事業の中で業績が悪化している事業がある場合は、分社化の恩恵を受けやすいです。
好調な事業を独立させて事業再生を行うことによって、調子が良い事業は更なる成長が望めます。
業績不振な事業が足を引っ張って企業が倒産してしまえば、好調な事業も存続できなくなってしまいます。

事業再生を考えているのであれば、分社化も1つの方法として検討するのがおすすめです。分社化によって親会社が抱える経営問題の改善効果も期待できます。

新規事業をスタートさせたい

本格的な新規事業参入を目指している場合も、分社化は効果的です。
事業目的にはない新規事業をスタートする場合、株主総会の特別決議で定款変更の承認を得て、変更登記を行わなければなりません。
これらの手続きには時間がかかってしまうので、別企業にしたほうが良いと判断される場合もあります。

分社化することで企業のスリム化を実現できるので、経営スピードがアップします。そのため、新規事業をスタートさせたい場合に分社化するのは効果的です。

事業の専門性を高めたい

既存事業の専門性を高めるために分社化するケースもあります。専門性が高まるとともに生産性も高められます。
専門性が高まることによって、競合他社との差別化をしやすくなるためです。

分社化前に注力していた事業が好調だった場合、それに特化した専門の企業を立ち上げるといったやり方がおすすめです。
専門性が高い事業に注力しやすくなり、人材育成や採用も集中的に行えるようになります。

後継者に経営の経験を積ませたい

事業承継を行う際に、後継者となる人材の育成が必要です。経営に関する経験を積むことも後継者になるためには重要です。
そのような場合にも、分社化するという選択肢が候補に挙がってきます。

分社化した企業の経営を後継者候補に任せ、企業経営の経験値を高めてもらうためです。
実際にやってみないとわからない部分も多いので、分社化した規模の小さい企業に任せるのが効果的です。

まとめ

分社化は、税金対策やリスク対策として効果的なので、行うケースが増えています。
大手企業だけではなく中小企業でも分社化を検討する傾向が強まっています。
しかしすべての企業に向いているとは言えないので、恩恵を受けやすい企業の特徴は把握しておいてください。

創業手帳(冊子版)」では、経営に関する様々な情報をお届けしています。分社化を検討されている方も、ぜひご利用ください。
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(編集:創業手帳編集部)

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