スタディプラス 廣瀬 高志|教育で大事なのは記録とコミュニケーション。この考えを広めて日本の教育を変えたい
日本の教育に疑問を感じて大学生で起業。起業後6年間売上ゼロでも諦めなかったから今がある
コロナ禍で大きな変化が起こっている教育業界。自宅学習が増えたことで、特にスマホを使った教育系アプリに注目が集まっています。こうした中、教育系アプリでトップシェアを誇っているのが「Studyplus(スタディプラス)」です。
「Studyplus」は勉強状況を可視化して他のユーザーと共有でき、励まし合えるサービス。斬新な機能が多くのユーザーに支持され、今では大学受験生の2人に1人が利用しています。
慶應大学在学中にこの事業を始めたのが、現在スタディプラス株式会社の代表取締役を務める廣瀬高志さん。日本の教育に強い疑問を持ったことが、起業につながったそうです。今回は廣瀬さんの起業までの経緯や今後の展望について、創業手帳の大久保がインタビューしました。
スタディプラス株式会社 代表取締役CEO
1987年生まれ。2010年、慶應義塾大学法学部在学中にスタディプラス株式会社を創業、代表取締役に就任。2012年から学習管理プラットフォーム「Studyplus」の提供をスタート。2016年からは法人向けに「Studyplus for School」を提供開始し、大学受験だけではなく幅広いジャンルに展開している。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
日本の教育に疑問を感じたことが、教育事業を始めたきっかけ
大久保:廣瀬さんが教育関連の事業で起業しようと思われた、きっかけを教えていただけますか?
廣瀬:学生時代に感じたことですね。僕は学校の授業が苦手で、数学の授業中に先生の話を聞かずに数学の問題集を解いていたんです。そうしたら先生から「話を聞け」と怒られまして。
僕としては、怒られたことに違和感を感じたんです。数学の授業は、生徒にとって数学ができるようになることが目的のはずです。授業というのは一つの手段にすぎないのに、手段が目的化しているんじゃないかなと思いました。
あとは予備校での経験ですね。僕は1年浪人して予備校に通ったんですが、予備校の目的って、生徒を志望校に受からせることですよね。授業はその目的のための手段の1つなのに、当時の予備校では授業しかしてくれませんでした。
面白い授業もありましたけど、勉強のやり方を教えてくれるとか、勉強ができているか定期的にチェックしてくれるとか、そういうサポートが全然ないことに驚いたんです。
大久保:普通の人が当たり前だと思うことに疑問を持つことは、起業家にとってすごく重要だと思います。
廣瀬:それと僕の通っていた高校は進学校だったので、東大志望の仲間が多かったんです。そういう仲間と「受験勉強で成功するためには、モチベーションが鍵だよね」という話をよくしていました。
王道とか鉄板といわれるいい学習教材って、世の中にたくさんあります。実際、東大に合格した方の体験記を読むと「各科目でこの教材をこのぐらい勉強したら受かった」みたいな話もたくさんありました。
いい教材があって、自分でしっかり勉強できれば受験勉強はうまくいく。でも勉強を続けるにはモチベーションが何よりも重要なわけです。この気づきが、今の事業の原点になっています。勉強のモチベーションをいかに維持するかという課題を解決するために、学習の継続をサポートする「Studyplus」を立ち上げました。
大学生の時にビジネスコンテストで優勝して、学生起業を決意
大久保:学生のうちに起業されたとのことですが、事業を始めた経験や会社に勤めた経験がない中、どのように事業を始めたのでしょうか?
廣瀬:実は大学1年生の春から、ベンチャー企業でインターンとして働き始めていたんです。2年くらいはあまり大学に行かず、ひたすら営業の仕事をしていました。
それから大学3年生の終わりぐらいに、たまたまビジネスコンテストに出てみたらというお話をいただいて。面白そうだなという軽い気持ちで出てみたら、優勝できたんです。
そのビジネスコンテストを主催していたのがBEENOSという企業で、当時はネットプライスドットコムという社名でしたが、当時社長だった佐藤輝英さんが慶應大学の先輩なんです。当時、佐藤さんが私のビジネスプランをすごく褒めてくれまして、いけるんじゃないかなと勘違いして、起業した感じですね。
大久保:なるほど。とはいえ、学生起業は勇気がいりますよね。不安はありませんでしたか?
廣瀬:実は、全く不安はありませんでした。そもそも僕は小さい頃から、将来経営者になりたいと思っていて。小学1年生の頃、七夕の短冊に「将来は経営者になりたい」って書いていたんです。中高生の時もよく経営者の方が書いた本を読んでいましたね。
それから僕が高校生の頃、ちょうどIT起業家が日本を変えるというムーブメントみたいなものが起こりました。ちょうど堀江貴文さんが話題になった時期です。当時は世の中が本当に変わっていくのかもしれないっていう、期待が高まっていました。
僕としてはずっと起業したいと思っていましたし、そういう時代背景もあってIT起業家ってかっこいいなという憧れもありました。だから不安より、起業家になりたいという想いが強かったんです。
起業後6年間売上ゼロ。それでも諦めなかったから今がある
大久保:ビジネスコンテストにも優勝して、応援してくれる方もいるという恵まれた環境だったと思いますが、起業後は大変なこともありましたか?
廣瀬:なかなか売上が立たないことがきつかったですね。2010年に起業して、その後6年間は売上が出ませんでした。
大久保:ユーザー数は増えていたのでしょうか?
廣瀬:ユーザー数は、口コミのおかげでじわじわと伸びていましたね。実際、リリース直後から、「三日坊主だった自分が勉強を続けられて、志望校に受かりました」というような感謝の声をたくさんいただいていたんです。
ユーザーの方に支持していただいている手応えはありました。一方でユーザーは大学受験生に限られるので、じわじわ伸びるけど一気には増えないんです。
また主なユーザーである大学受験生は、それほどお金を自由に使えません。そこでStudyplusはサービスを無料で使えるようにして、広告でマネタイズしようと考えました。ただ実際に広告営業をしてみるとなかなかうまく行かなくて、ビジネスとしてやっていけるのかなと思いながら、やっていましたね。
大久保:その後何かのきっかけで大きく変わったのでしょうか?それとも地道に続けた結果、少しずつ上向きになっていった感じでしたか?
廣瀬:明確なティッピングポイント(転換点)はなかったんですが、会員数が100万人を超えたあたりから、広告が売れ始めたという感じですね。
あとはデータを見ながら、細かい改善を続けてきました。やはりデジタルのサービスだと、定量でいろいろな数値が取れますので。例えば会員登録のどこにボトルネックがあるのかとか、リテンションを上げるためにここを変えてみたらどうかとか、データを見ながらやっています。
大久保:当時を振り返って「これはやっといてよかった」ことを伺えますか?
廣瀬:諦めなかったことですね。先ほどお話した通り、全然売上がなくて、事業になるのか不安な時期もありました。それでも事業としてブレイクスルーできたのは、諦めずにやっていたからです。
大久保:確かに起業家にとって、諦めないことは最も重要ですね。ただ諦めないためには、自信というか信念も必要だと思います。御社の事業が他社と決定的に違うところを教えていただけますか?
廣瀬:いわゆるIT×教育、エドテックの領域ではコンテンツがほとんどで、他の会社さんは教材コンテンツを提供しています。でも我々はコンテンツではなく、学習の継続支援のためのプラットフォームなんです。ここが一番の大きな違いですね。
社員のモチベーションを上げるために、ミッションツリーを運用
大久保:会社が大きくなった今、組織作りにも取り組まれていると思います。御社は学習者のモチベーションを維持する事業を行っていますが、社員のモチベーションを上げるために、どんなことをされているのでしょうか?
廣瀬:特別なことはしていないんですが、大事にしているのはコミュニケーションですね。役員と毎週1on1ミーティングをするとか、多すぎるんじゃないかっていうぐらい、話すようにしています。
大久保:確かに、伝わっていると思っていても、実際は伝わっていないこともありますよね。目標設定や評価については、いかがですか?
廣瀬:ミッションツリーを運用しています。全社のミッションを、段階的に事業部単位から細かいチーム単位というように、ツリーのように掘り下げていきます。
弊社では四半期ごとにミッションを設定して、評価をしてというPDCAを回しています。3か月ごとに行うのはパワーがかかりますが、やはりコミュニケーションが重要だと思っているので。
上司の期待と、部下が期待されていることの齟齬があるとすごく非効率ですし、不満につながりやすいと思うんです。だから3か月に1回は目標設定と評価を行い、さらに月1回以上は目標設定についての1on1ミーティングを、上司と部下でしてもらっています。
大久保:さすが、学習支援アプリを提供している会社ですね。ミッションツリーはどう管理していますか?
廣瀬:スプレッドシートで管理しています。ミッションツリーは、自分のやるべきことが何につながるのか可視化されるところがメリットですね。
日本の教育の新たなスタンダードを作っていきたい
大久保:「これから日本の教育をこうしていきたい」という今後の展望を伺えますか?
廣瀬:「学習記録×コミュニケーション」という考えそのものを、日本の教育の新たなスタンダードにしていきたいと思っています。学習に限らず、記録をつけることはすごく大事ですよね。節約をしたかったら家計簿をつけるし、ダイエットをしたかったら体重記録をつける。「測定なくして、改善なし」だと思うんです。
あとは多くの人にとって、勉強はあまりやりたくないものです。この課題を乗り越えるために必要なのが、コミュニケーションです。つまり記録をつけることとコミュニケーション、この2つが勉強には効果的です。
「Studyplus」は、勉強の記録をつけるとフォロワーがいいねやコメントをくれるので、モチベーションが上がります。他の人が勉強している記録を眺めるだけでも、刺激を受けます。
あと弊社には「Studyplus for School」というBtoBサービスもあるのですが、これは塾や予備校、学校などさまざまな場所での学習記録を可視化して、先生と生徒がコミュニケーションできるプラットフォームです。
これを使えば、生徒が通っている塾の先生が、塾に行っていない日も含めて自分の学習状況を把握してくれて、励ましてくれる。一方通行ではないコミュニケーションが増えることで、学習者のモチベーションが高まる。その結果、勉強時間が増えて、成績が上がるわけです。
この記録とコミュニケーションが効果的ということが、まだまだ教育の世界ではあまり知られていません。プロダクトやサービスも大事ですが、我々としてはまずこの考え方をもっと広めていきたいんです。
大久保:なるほど。記録とコミュニケーションの効果というのは、大学受験だけではなくさまざまな分野に応用がきくのではないでしょうか。
廣瀬:そうですね。実はStudyplusは汎用性が高い作りになっています。これは先ほどお話したように、我々がコンテンツを手掛けていないことも要因です。実際に大学受験生だけではなく、今では中学生や大学生、社会人の方々にも使っていただいています。
BtoBの「Studyplus for School」も主な導入先は塾ですが、最近では中学校や高校ですとか、社会人向けの語学スクールや資格スクールにも導入していただいていますね。
我々のような事業をやっている会社が他にないのでニッチに見えますが、あらゆる学習者の方に使っていただける可能性があると思っています。
大久保:日本だけではなく海外でも活用できそうですね。興味はありませんか?
廣瀬:興味はあるのですが、「日本の教育を変える」という意味ではまだ道半ばです。なので、まず国内にフォーカスしてやっていきたいですね。
大久保:最後に、起業を目指す方や起業したばかりの方へ、メッセージをいただけますか。
廣瀬:起業の直前や直後ってすごく大変な時期だと思うんですが、一方で希望があって燃えている時期でもありますよね。「やってやるぞ」っていう熱を帯びている状況だと思うんですが、その熱を冷まさないでほしいと思うんです。初心を忘れず、想いを持続していただきたい。
手段は変わっていいと思うんです。でも起業当初の志や想いは曲げずに、諦めずにやり続けることが大事だと感じます。ピボットしてもいいけど、軸足はぶれない。僕自身、この一貫性をすごく大切にしています。
大久保の感想
(取材協力:
スタディプラス株式会社 代表取締役CEO 廣瀬 高志)
(編集: 創業手帳編集部)
廣瀬さんの印象は、皆が気づかない当たり前のことをやる人です。淡々と本質的なことを言うので気づきが多かったです。
取材させて目からウロコだった点の一つが勉強の成果は「頭の良さや教材よりモチベーション」ということです。
やる気が能力や勉強時間、集中力を引き出すので結果的にそこがいちばん大事なんだというのは当たり前でいて新鮮でした。例えば「オリンピックの金メダリスト」は世界に一人しかおらず才能の世界になりそうですが、難関大学でも各校、毎年数千人、あるいは入学者がおり、入試であれば多少の才能差異というよりモチベーションというのも頷ける話でした。
方法論としては、「記録とコミュニケーション」ということで、これも地味に効きそうです。
また社内向けにやることをブレイクダウンしたミッションツリーも幹部と現場の方のズレを無くすのに良さそうです。
こうした考え方・やり方は単に、勉強やスタディプラスさんの話だけでなく、起業や目標達成したい人全般に効果的だと思いました。社会性も将来性も大きい事業なので今後が楽しみですね。
ここがポイント
・勉強は頭の良さよりモチベーション
・目標達成には記録とコミュニケーション
・ミッションをツリー状に細分化してみよう 伝わりやすくなる