Deepwork 横井 朗|高額の資金調達をせずともSaaSは作れる!
やりたいことだけ詰め込んだ起業で顧客満足度90%以上のサービスを創出
インボイス制度や電子帳簿保存法などの法改正に対応しながら、非効率な入力作業を自動化できるシステムで、企業間取引におけるアナログな業務の効率化を目指すDeepwork。
以前のインタビューでは代表取締役の横井さんに起業の経緯や事業についてお聞きしましたが、今回は高額な資金調達をせずにやりたい要素だけを詰め込んだ起業スタイルや高い顧客満足度の理由、また今話題のChatGPTについて創業手帳代表の大久保がうかがいました。
株式会社Deepwork 代表取締役 Chief Executive Officer
1977年3月生まれ。東京工科大学卒業。2000年にエンジニアとしてのキャリアをスタート。2003年に株式会社ビーブレイクシステムズ(東証マザーズ上場)に参加し、業務システムの開発を担当。2015年には、株式会社クラビスに参加し、2016年より取締役・CTOに就任。この2社での経験を生かし、2019年に株式会社Deepworkを設立。企業間取引の自動化に取り組む。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
無理をせず、やりたいことだけを詰め込んだ起業は可能
大久保:経理業務を自動化するクラウドサービス「invox」を開発・運営されているわけですが、起業までの経緯は前回のインタビューでお聞きしたので、今回は起業するときに意識されたことについて教えていただけますか。
横井:そうですね。起業前の2社での経験を通して、会社の運営には辛いこともたくさんあるということを実感しました。物欲や自己顕示欲が強いタイプではないので個人の成功だけを目標にするならば、起業を楽しめないかもしれないと感じたんです。
また僕自身、管理するのもされるのもあまり好きではないので、会社のメンバーには自律して仕事を楽しんでもらいたいと思いました。
そのために必要なのは、お客様に喜んでもらえているという実感、社会に役立っているという実感、頑張りがきちんと金銭的にも報いられる事の3つだと考え、ESGを事業に埋め込みたいという気持ちで次の取り組みを行っています。
※ESG:Environment(環境)Social(社会)Governance(企業統治)を組み合わせた言葉。企業が環境や社会に配慮した活動を行うこと。
invoxで処理した請求書1件につき1円を、ひとり親問題や待機児童問題の解決に取り組む「認定NPO法人フローレンス」に寄付し支援しています。これは創業して1枚目の請求書から寄付させていただいていますね。
また、時間と場所に縛られず生活賃金を得られる仕事を創出したいという思いから、確認作業をするオペレーターを主婦などに依頼して仕事を生み出しています。
大久保:素晴らしい取り組みですね。起業時の資金調達に関してはいかがですか。
横井:それまでの経験を活かして嫌な要素は省こうと考えた結果、VC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達はしていません。VCから資金調達をした場合、3年先・5年先の事業計画を出して、予算が達成できなかったらサービスを値上げして上場を目指さないと、というようなことが起こり得るので、それは選択肢にありませんでした。
株主ではなく、お客様とメンバーを見て仕事をしたかったので、自分がやる気になり、長く楽しめる要素だけを選択して起業することを意識しました。
スタートアップというスタイルで起業をしようとすると、通常はエンジェル投資家やVCから資金調達をする必要がありますが、スタートアップで事業を創るというのはリスクも難易度も非常に高いので、初めての起業にはあまりおすすめできないと個人的には思っています。
まずは自分のコントロールできる範囲のサイズ感で始めたり、スタートアップをやりたいならスタートアップを経験した上で自分の得意なことを活かしてサービスを作るといいのではないかと思いますね。
大久保:ホンダがF1を始めた時に聞いた話なんですが、乗用車とF1って発想が真逆で、乗用車はいかに少ないガソリンで効率よく走らせるかが大切ですが、レーシングカーは短時間にすべて使い切らないといけないんですよね。
通常の経営は乗用車タイプだけれども、スタートアップってロケットスタートと言うように、短期間で燃料を大量投下して事業を燃やすというイメージがありますよね。
横井:弊社のサービスの競合といわれるところは、テレビCMを出稿していたりするので弊社とマーケティングコストが全然違うと思います。マーケティングコストが高いとどうしても提供価格も上がりますし、単価の高いサービスを売るためにはフィールドセールスも必要になります。
逆に弊社はなるべく提供コストを下げて多くの人の課題を解決したいと思っています。低価格で提供するということを目的にすると、起業のスタイルも広告の打ち方も変わってきます。
低価格でなるべく多くの方に使っていただこうとサービスを設計し、90%を超える(※1)満足度、継続率も99.5%(※2)という結果になっています。
※1:2023年1月にインターネット調査で実施した顧客満足度アンケートの結果
※2:2022年1月〜2022年12月における登録ユーザーの月次解約率の中央値
すべてはお客様にちゃんとサービスを使ってもらうため
大久保:それは素晴らしいですね。満足度が高い理由の背景には何があるとお考えですか。
横井:そうですね。サポート体制が整っていることが満足度の高さの一番の理由だと思っていますし、実際にそういったクチコミも多くいただいています。エンジニアが効率的に開発するためには、お客様とその課題をよく知ることが大事だと思っています。営業がやりたいことと、エンジニアがやりたいことが離れると効率が悪いんです。
サポートはチャットで行っているのですが、対応するチームにはかなりの時間を割いて教育をしています。お客様の業務の話や、過去にどういうご要望があったのかなどを話し、課題を理解し、業務フローを提案したりこんな風に使うといいですよと具体的に案内できるようにしています。
また、判断に苦しむものは現場で判断せずに、その場でエンジニアを呼んで対応することにしています。すべてはお客様に満足してサービスを使ってもらうためですが、開発者が対応するのできちんと課題解決できることが顧客満足度につながっているのではと考えています。
大久保:エンジニアが直接コンタクトを取ることで、エンジニア側にもフィードバックが得られますよね。手がけられているinvox受取請求書というサービスはインボイス制度と電子帳簿保存法に対応されていますが、インボイス制度は今どのような状況ですか。
横井:本格的に準備に乗り出した事業者さんが増えたという印象ですね。きちんと制度の内容まで理解して取り組んでいる方と、キーワードしか知らず内容はよくわからないという方と二極化している現状があると思っています。
やらなければいけないことは実はシンプルで、請求書を出す側は、インボイス制度を満たす請求書を出しましょうということです。受け取った請求書をどこまでちゃんとチェックするかは会社の規模によってさまざまですが、小規模な事業者の場合はそこまで気にされていない方も多いですね。
大久保:電子帳簿保存法についてはいかがでしょうか。
横井:PDFなどの電子データは電子で保存すればいいのですが、大きな分かれ道として紙も電子化するのか、紙は紙のままで保存するのかという問題があります。
「最低限法律に対応すればいい」ということですとメリットがあまりないので、業務効率化のメリットを得るために紙もスキャナ保存に切り替えるペーパーレス化をおすすめしています。
大久保:ペーパーレス化がなかなか進まない人へのアドバイスはありますか?
横井:そうですね。紙で慣れていて、紙のままがいいという方はやはり多いです。わざわざ複合機でスキャンするのが手間に感じられる、業務プロセスを変えたくないという声は大きな壁です。
業務上一番効果が感じられて入口としていいなと感じているのが電子契約です。今までの契約書は印刷して製本して、印鑑を押して、印紙を貼ってと非常に手間がかかるものだったのが、誰にでもわかりやすい形で劇的に効率的になりますので、今までどれだけ無駄なことをしていたんだという気づきになり、そこから他の書類の電子化にも広がるのではと思いますね。
大久保:DX(デジタルトランスフォーメーション)のメリットを実際に体験するといいんですね。そのために契約のところからデジタルを取り入れるのはいいアイディアですね。
横井:会社をバックオフィスと営業に分けると、バックオフィスはどこもやっていることはあまり変わらないですよね。請求書や契約書を電子化し、会計はクラウド会計、人事はSmartHRなどを取り入れると、劇的に効果を感じやすいと思います。実際に業務の非効率さやコスト負担を感じている人がDXの効果を実感できると、導入も進むのではないでしょうか。
これからのAIとのつき合い方とは
大久保:会話形式でやり取りできるChatGPTが話題ですが、AIは今後どんどん賢くなっていくと思いますが、万能なわけではありません。人間はAIとどのようにつきあっていくべきだと思われますか。
横井:いろいろな分野での活躍が期待されていますが、現時点では精度面での課題があるため、それほど正確性が求められない領域か、正確性の検証がやりやすい領域での利用になるのかなと思います。
僕が期待しているのはプログラミングですね。お願いのしかたも大切なんですが、やりたいことを明確にすると、それなりの完成度のものを書いてくれます。ちゃんと動くかどうかの検証もしやすいので、今後簡単なプログラミングはAIの力を借りることになっていくんだろうなと思います。
僕の友人も先日SNSに「部下にお願いしたら3日かかるだろうなっていうプログラミングがChatGPTに聞いたら5分でできた」という投稿をしていました。
文章コンテンツだと間違いを探すのは難しいと思いますが、プログラミングは動きがおかしければすぐにわかるので、検証しやすい分野のほうが使いやすいでしょうね。
ただ、あくまでもAIが作ったものは下書きで、それを推敲できる人が使うというところからはなかなか抜け出せないのかなとも感じます。
一方、AIが作ったコンテンツがそのままウェブに公開されると、程度の低いコンテンツが無限に広がっていってしまうのではという懸念もありますね。
今までも質の低いアフィリエイト記事があってグーグルが記事の評価を落として、というようないたちごっこがあったわけですけれども、低品質の記事が出るスピードがその時代の比じゃなくなっていくのではと思います。
大久保:確かにその懸念はありますね。今後はAIをうまく使いこなすコツを知った会社が生産性を伸ばしていくのではという気もしています。
横井:そうですね。先ほども触れましたが、AIが作ったものを下書きとして推敲するというようにうまく使いこなせば業務効率化が可能ですし、課題解決をしたいと思ったときに選択肢が増えるということなので、起業や経営者にとってはいいツールだと思います。今後の動向に注視して、上手に取り入れていくといいのではないでしょうか。
(取材協力:
株式会社Deepwork 代表取締役 Chief Executive Officer 横井 朗)
(編集: 創業手帳編集部)