創業融資で経営者保証がなくなる?経営者保証改革プログラムをわかりやすく解説

創業手帳

経営者保証改革プログラムで創業融資が受けやすくなる!


創業のための資金を集める手段として、創業融資があります。この創業融資を利用するためには、経営者保証が必要でした。

しかし、経営者保証改革プログラムが策定され、経営者保証の制度は見直されることになりました。これにより、以前よりも創業融資が受けやすくなると期待されています。

そこで今回は、経営者保証改革プログラムについてわかりやすく解説します。創業融資の申込みを検討している方は、ぜひ参考にしてください。

創業融資に必要な経営者保証とは


創業融資を利用する場合、経営者保証を求められるのが一般的です。どうして経営者保証が求められるのかを、知らない起業家も多いのではないでしょうか。
まずは、経営者保証とはどのような制度なのか、制度の問題点について解説します。

経営者保証の意味や役割

経営者保証とは、中小企業向けの融資を受ける際に、経営者自身が会社の連帯保証人となる制度です。融資を受ければ返済が必要です。
しかし、経営が軌道に乗らず、返済が滞ってしまった場合は会社に代わって経営者個人に返済義務が生じます。

創業時点の融資は返済の保証が確実なものといえないため、金融機関にとって大きなリスクをともなうものです。
しかし、経営者保証の設定により金融機関は安心してお金を貸すことが可能となり、起業家も融資のハードルを下げられるメリットもあります。

80%の融資で経営者保証が求められている

中小企業庁が公表する2020年度の「経営者保証の提供状況」によれば、経営者保証を提供する割合は以下のとおりとなっています。

  • 借入れの全部で経営者保証を提供:44%
  • 借入れの一部で経営者保証を提供:36%
  • 経営者保証を提供していない:20%

中小企業向けの融資の80%は、経営者保証の提供を求められている現状です。

各金融機関では、経営者保証に依存しない新規融資もあります。
2021年度の経営者保証に依存しない融資の平均割合は、政府系金融機関で平均47%、民間金融機関は30%、信用保証協会は29%でした。

つまり、政府系金融銀行は約50%、民間金融機関と信用保証協会は約70%の割合で、経営者保証が必要となっています。
経営者保証に依存しない融資の比率は増加傾向にありますが、それでも多くの融資で経営者保証に依存しなければならない状態が続いています。

経営者保証の問題点

経営者保証は創業融資のハードルが下がる反面、以前から問題点が指摘されていました。
その問題点とは、返済の負担や思い切った事業拡大が難しいこと、事業承継が厳しくなるという点です。

法人の経営者や出資者は、会社が倒産してしまっても、有限責任によって事業に必要な借入金の債務が経営者個人の財産にまで及ぶことはありません。
しかし、その融資で経営者保証を求められた場合は、連帯保証人として融資の返済をしていく必要があります。

返済の責任を負うことになれば、個人の生活に支障が生じてしまいかねません。また、事業を再生しようと思っても、自己破産に追い詰められればそれも難しくなります。

経営者保証の存在は、思い切った事業拡大を妨げる要因のひとつです。
新規事業を立ち上げたいと思っていても、それが失敗すれば経営者個人に返済の負担がのしかかってしまうので、リスクをともなう事業へのチャレンジをためらってしまいます。

また、経営者が親族以外に経営を委ねようとした場合も、経営者保証は大きな弊害になります。
事業承継の際に連帯保証人も引き継ぐことになるので、候補者が承継を拒否するケースも少なくありません。

経営者保証の解除や免除する方法はある?


経営者保証は免除や後から外すことはできるのかを、気になる人は多いのではないでしょうか。
経営者保証改革プログラムが策定される前から、「経営者保証に関するガイドライン」に基づいて経営者保証の解除や免除は可能でした。ここで、詳しい条件を解説します。

ガイドラインに沿って金融機関と交渉すれば経営者保証は解除可能

経営者保証は金融機関との交渉で解除が可能です。しかし、経営者保証を外すためには、経営者保証のガイドラインにのっとって交渉しなければなりません。
ガイドラインでは、経営者保証の提供のなしで資金調達を希望する場合は、次の3つの要件を満たしている必要があります。

1.法人と経営者との関係の明確な区分・分離
2.財務基盤の強化
3.財務状況の正確な把握・適時適切な情報開示などによる経営の透明性確保

1は、簡単にいうと法人と経営者個人のお財布が別々になっている状態を指します。
例えば、運転資金を経営者個人の資産で投資していたり、土地や建物の所有者が経営者になっていたりする場合は、その状態を解消しなければなりません。

2は、法人だけで返済できるほどの財務基盤が整っている状態を指します。
3は、金融機関から事業計画や業績の見通しなどの情報開示を求められた際に、正確で信頼性の高い情報の提示・説明が可能で、透明性のある経営ができている状態です。

この3つの要件をクリアしていれば、経営者保証を外してもらえる可能性は高まります。

免除特例制度により経営者保証なしで新規融資が可能

日本政策金融公庫では、経営者保証免除特例制度により経営者保証をつけずに融資を受けることが可能です。
この特例を適用するためには、経営者保証に関するガイドラインに基づいて以下の要件を満たす必要があります。

1.税務申告を2期以上実施していること。また、事業資金の融資取引がある場合は、直近1年間(取引歴が1年未満は取引きがある期間)、返済の遅延がない
2.以下2つの要件を満たしていること
 ・最近2期の決算期で、減価償却前経常利益が連続して赤字ではない
 ・直近決算期で債務超過ではない
3.法人から代表者への貸付金・仮払金などがない

この条件を満たしていれば、経営者保証をつけずに創業融資など受けることが可能です。
ただし、特例を利用した融資では、利率が0.2%上乗せされるため、金利が高くなる点に注意してください。

経営者保証を外す方法について、詳しくはこちらの記事を>>
経営者のための銀行融資で個人保証を外す方法まとめ 弁護士がわかりやすく解説

「経営者保証改革プログラム」の目的とは


経済産業省・金融庁・財務省は、2022年12月23日に「経営者保証改革プログラム」を策定・公表しました。
経営者保証には、創業や思い切った事業展開・円滑な事業継承・事業再生の弊害になっているなど、様々な問題や課題があります。
指摘される問題や課題を解消するために、国は経営者保証をつけずに資金調達が受けられる要件などをまとめたガイドラインの活用促進に取り組んできました。

それでも、多くの融資で経営者保証が必要な現状です。そこで、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速させる目的で、経営者保証改革プログラムを策定しました。
これにより、起業家や経営者は経営者保証をつけない融資を受けられやすくなります。

経営者保証改革プログラムの主な内容


経営者保証改革プログラムは、経済産業省・金融庁・財務省が連携のもとで策定・実行されます。
具体的には、「スタートアップ・創業時の融資」・「民間金融機関からの融資」・「信用保証付融資」・「中小企業のガバナンス」の4分野を重点的に取り組むプログラムとなっています。

1.スタートアップ・創業時の融資

創業時の融資では、経営者保証を求めることが創業意欲を阻害する原因のひとつとなっています。
その問題を踏まえて、起業家に経営保証を徴求しないスタートアップ・創業融資を促進させる施策が策定・実施されていく見通しです。
具体的に実施される取組みは以下のとおりです。

施策内容 備考
①スタートアップの創業から5年以内の人に対する{経営者保証を求めない新しい信用保証制度の創設} 保証割合100%、保証上限額3,500万円、無担保
相談受付開始:2023年2月、制度開始:2023年3月
②{日本公庫などにおける創業から5年以内の人に対する経営者保証を求めない制度の要件緩和} 2023年2月から実施
③商工中金のスタートアップ向け融資における{経営者保証の原則廃止} 2022年10月から実施
④民間金融機関に対して、経営者保証を求めないスタートアップ向け融資を促進する旨を要求 2022年内に実施

2.民間金融機関からの融資

民間金融機関からの融資では、経営者保証を求める際の手続きを厳格化するための監督指針の改正が行われます。
手続きを厳格化させる狙いは、安易な個人保証に依存する融資を抑制し、同時に事業者・保証人の納得感を向上させることです。

また、「経営者保証ガイドラインの浸透・定着に向けた取組方針」の作成と公表の要請などを行い、経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた意識改革も進められます。

金融機関が個人保証を徴求する手続きの監督強化

経営者保証を徴求する手続きの監督強化を図るための主な施策は、以下のとおりです。

施策内容 備考
①個人保証契約を締結する場合、{事業者・保証人に対して保証契約の必要性などに関する説明を個別かつ具体的に求める}と同時に、結果などの記録を求める 2023年4月から実施
保証契約が必要な場合、「どこが不十分であるため、保証契約が必要となる」、「どのような改善を図ることで、保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」などの説明が求められるようになる
②{①の結果などを記録した件数を金融庁に報告}することを求める 2023年9月期の実績報告分から実施
「無保証融資件数」+「有保証融資で適切な説明を行い、記録した件数」=100%を目指す
③金融庁に経営者保証専門窓口を設置し、事業者などからの相談を受け付ける 2023年4月から実施
④状況に応じて、金融機関に対して特別ヒアリングを実施

経営者保証に依存しない融資慣行の確立を目指した意識改革

経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた意識改革として、以下の施策が実施される予定です。

1.金融機関に対して、「経営者保証ガイドラインの浸透・定着に向けた取組方針」を経営者と交えて検討・作成し、公表するように金融担当大臣から要請
2.地域金融機関の営業現場の担当者も含め、監督指針改正にともなう新しい運用、経営者保証に依存しない融資慣行の確立性の重要性などを理解してもらうために、金融機関・事業者向けの説明会を全国で実施(2023年1月から実施)
3.金融機関の有効な取組みをまとめた、「組織的事例集」のさらなる拡充・横展開を実施

引用:経営者保証改革プログラム

経営者保証に依存しない新しい融資手法の検討

民間金融機関が経営者保証や不動産担保に対して過度に依存せず、企業の事業性に注目した融資を取り組みやすくなるためには、新しい融資手法の検討が必要です。
そこで、事業全体を担保に金融機関から資金を調達できる新制度の早期実現を目指し、2022年11月から議論が進められています。

3.信用保証付融資

信用保証付制度では、経営者保証の提供を選択できる環境の整備がなされる予定です。
具体的には、経営者保証ガイドラインに基づいた3つの要件を満たしていれば、経営者保証を解除するという現行の取組みが徹底される内容です。

その上で、ガイドラインの要件をすべて満たしていない場合でも、経営者保証の機能を代替する方法により、経営者保証の解除を事業者が選択できる制度が創設されます。
また、信用保証制度で一歩前に出た取組みを行うことで、経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた道筋を示していくとされています。

経営者保証の提供を事業者が選択できる環境に整備

事業者が経営者保険の提供を選択できる環境に整えるために、以下の施策が講じられる予定です。

1.経営者の取組次第で達成できる要件を満たせば、保険料の上乗せ負担により経営者保険の解除を選択できる信用保証制度の創設(2024年4月から実施)
2.流動資産(売掛債権・棚卸資産)を担保とする融資(ABL)に対する信用保証制度で、経営者保証の徴求を廃止(2024年4月から実施)
3.信用収縮の防止や民間での取組みの浸透を目的に、プロパー融資での経営者保証の解除などを条件に、プロパー融資の一部に限り借換えを例外的に認可する保証制度を時限的に創設(2024年4月から実施)
4.上記の施策の効果検証を踏まえ、さらなる取組みの拡大を検討(順次)

経営者保証ガイドラインの要件を満たした場合の経営者保証解除の徹底

ガイドラインの要件を満たした事業者に対して、経営者保証解除を徹底するために以下の施策が策定・実施されます。

1.金融機関に対して信用保証付融資を行う場合、経営者保証を解除できる現行制度の活用を検討するように経済産業大臣・金融担当大臣から要請(2022年内に実施)
2.保証付融資で原則として経営者保証が必要であるかのような誤解を避けるために、正しい情報を広めるための広報を展開(2022年内に実施)

引用:経営者保証改革プログラム

4.中小企業のガバナンス

経営者保証改革プログラムは、中小企業のガバナンス(監視・統制)体制を整備し、持続的な企業価値の向上の実現が目標です。
経営者保証解除の前提となるガバナンスに関して、経営者と支援機関の目線合わせを図っていくとされています。

同時に支援機関向けの実務指針の策定や中小企業活発化協議会の機能強化を図り、官民による支援体制を構築するという内容です。具体的な施策は以下のとおりです。

1.ガバナンス体制整備に関する経営者と支援機関の目線合わせのチェックシートを作成(2022年12月に実施)
2.中小企業の収益力改善やガバナンス体制整備支援などに関する実務指針の策定(2022年12月に実施)、収益力改善・ガバナンス体制の整備を目的とする支援策における支援機関の遵守促進(2023年4月から実施)
3.中小企業活性化協議会の収益力改善支援にガバナンス体制整備支援を追加して、それに対応するために体制の拡充(2023年4月から実施)

引用:経営者保証改革プログラム

経営者保証がなくなるわけではない


経営者保証改革プログラムにより創業融資が受けやすくなるのは、起業家にとって朗報です。
しかし、経営者保証の仕組みが完全になくなるわけではない点に注意してください。
新しい融資制度の条件やガイドラインの要件を満たせない場合は、経営者保証の提供を求められる場合があります。

また、創業融資を受けるためには、審査に通過しなければなりません。
曖昧で信憑性のない事業計画であったり、経営者個人の信用情報に傷があったりすれば、融資の審査に落ちてしまいます。
融資を受けられるかどうかの審査基準が変わるわけではないため、しっかり対策と準備を万全な状態にして申請する必要があります。

まとめ

創業融資を申し込む予定であれば、経営者保証について理解しておくことが大切です。
経営者保証改革プログラムの策定により、経営者保証の制度は大きく変わっていくと予想されます。
新制度や施策など最新情報を知り、必要な情報を集めて、創業融資へ申し込む準備を進めていきましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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