カケハシ 秋山光輔|中華圏進出を考えるなら、台湾×クラウドファンディングがアツい!

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年10月に行われた取材時点のものです。

試作品で反響が直に見られるクラウドファンディングは海外進出の大きな味方

東日本大震災が起こった2011年に日本を飛び出して台湾に移住し、事業を始めた秋山氏。6才の娘を育てながら会社経営をしているシングルファーザーでもあります。

台湾は日本と近く、似ているようでいて、文化や国民性には大きな違いもあるそうです。そんな台湾で10年間日本と台湾をつなぐビジネスをやってきた秋山氏に、創業手帳代表の大久保が、起業に至った経緯や企業の台湾進出事情を聞きました。

秋山 光輔(あきやま こうすけ)
台湾法人カケハシ代表取締役社長
台北経済新聞編集長
1978年2月、京都府生まれ。ITを専門に学びながら大学時代に起業。大阪でWebデザイン事業をスタート。2008年、 Facebookセミナーを日本で開始。2011年に台湾に移り住み、インバウンド専門のウェブマーケティング台湾法人「TJ mediawave corporation」を設立。2016年3月、社名を「CAKEHASHI-カケハシ-」に変更。2019年8月には台湾と日本の経済情報を発信する「台北経済新聞」の運営開始。2022年2月、クラウドファンディングによる海外進出サポートサービス「Tonarie(トナリエ)」をスタートさせる。6歳の女の子を育てるシングルファーザー。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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なぜ台湾で起業?

第2のオフィスにて

大久保:秋山さんは台湾で会社を経営されていらっしゃるのですよね。初めて起業したのが台湾だったのでしょうか。

秋山最初に個人事業主として起業したのは学生時代ですね。IT系だったのでパソコン1台で起業しました。

大久保:その後、どのような経緯で台湾で起業されたのですか?

秋山:大学を卒業して、大阪でウェブデザインの会社を立ち上げましたが、業種的に強みを持っていないと生き残れないと感じていたときにSNSと出会ったんです。

日本でまだFacebookのアカウントを持っている人が0.5%ぐらいの時代に、台湾は55%で世界1位と聞いて、単純にどんな国なんだろうと興味を持ちました。

当時、商工会や企業向けにSNSの可能性について講演をさせていただく機会が多く、そのご縁で大手企業の台湾進出の下見にウェブリーダーとして同行しました。それまで海外で仕事をするということは考えていなかったのですが、ビジネスという視点で海外を見た時に、目に映るものすべてが新鮮に見えて、なんて面白い市場なんだろうとわくわくし、中国語はまったく話せない状態で半年後には移住し、会社設立をしました。

大久保:すごい行動力ですね。台湾で会社を作るのはスムーズでしたか?

秋山:当時、会社設立に必要なのは50万元、日本円にすると250万円ぐらいでした。現地の国籍の方がいなくても設立できますし、そういう意味では会社設立の難易度は他国と比べると高くないと思います。

わたしは当時中国語がしゃべれなかったので、日本のコンサル会社に相談し、手続きの方法などをサポートしてもらいました。そちらの費用が30万円ほどだったと思います。

大久保:事業内容についてお聞かせください。

秋山:ウェブマーケティングを主体とし、日本と台湾の間でインバウンド集客の支援事業を行っています。具体的には、台湾で影響力のあるインフルエンサーと組んで日本の食品や商品をPRしたり、台湾に進出したいという日本企業のサポートなどですね。また、『台北経済新聞』の編集長もしています。

大久保:起業した当時から今のような事業を行っていたのでしょうか?

秋山:台湾には親日の方が多く、日本を訪れる人も多いということで、日本の観光情報を中国語で発信していこうと事業を始めました。まだインバウンドという言葉も物流という意味では使われていましたが、今のような意味では使われていなかったですね。

台湾で有名なブロガーさんも少なかったですし、インスタグラムも今ほど浸透していなかったので、個人でやるだけではなく、我々と組んだらもっと伸びるのではという思いがありました。

起業してすぐに東日本大震災があったのですが、すぐに台湾で24時間生テレビのような義援金を集める番組が放送されて、リアルタイムで見ていました。結局、他の国の義援金をすべて集めた額よりも多い約200億円という金額を台湾が出してくれて、こんなに近くに日本のことをここまで考えてくれる国があったんだと感動しましたし、ここでビジネスを始めたのは間違っていないという確信のようなものを感じました。

大久保:日本人として、心温まる出来事でしたね。事業は最初から順調に伸びたのですか。

秋山中国語も話せなければ、台湾人の思考感覚もわかっていなかったので、最初の2年は大変でした。やっていることは間違いではなかったと思うのですが、あるサービスを提案しようとしても、あるお客様は高いと言い、違うお客様は安いと言うなど、適正値を見つけるまでに時間がかかりました。弊社がお手伝いすることで、どれぐらい売上げが上がるのかといったことを時間をかけながら数値化していった感じですね。

3年目に入ったころから、そういった企業努力に加えて時代の流れがインバウンドに向いてきたことで、軌道に乗ってきました

大久保:『台北経済新聞』ではどのようなことをされているのですか。

秋山地域ニュースを取り上げている『みんなの経済新聞』と提携し、その台北版をやっています。掲載しているのは台湾と日本のローカル情報ですね。

ただ、台湾に進出している企業や台湾の有名人にインタビューして記事を作るということも積極的にやっていますので、そういった部分はほかの経済新聞とは違うところかなと思っています。

低リスクで挑戦できるクラウドファンディングを海外進出の第一歩に

インバウンドマーケットEXPO2020でのメインステージでの講演

大久保:会社の組織作りという点で苦労された点などはありますか。

秋山:そうですね。まだ組織としては大きくないので、大手の代理店とどう住み分けしていくかということは大事なポイントです。働き手としてはやはり有名なところに行きたいですから。

台湾のYahoo!ニュースにも取り上げてもらったのですが、弊社では日本と台湾の祝日を両方取り入れており、年間の休日が130日以上、昼寝も可能という仕組みを作っています。いわば日本と台湾のいいとこどりですね。

余談ですが台湾は昼寝文化なんですよ。小中高みんな昼寝の時間があります。勉強やビジネスにもいいらしいですね。働き方ということでいうと、ジョブホップ文化でもあり、転職を重ねることでキャリアアップしていくという文化なんですが、この2年の離職率はゼロです。働きやすさという点に注力した結果かなと思っています。

大久保:日本人との違いはどんなところに感じますか。

秋山:日本のように、「気持ちでついてきてもらいたい」と期待しても失敗します。台湾の人は現実主義なので、飲みニケーションのようなものは不要ですし、きちんと報酬で評価してあげないといけないですね。

大久保:海外だとそういう場所が多いというか、むしろ日本が特殊なんでしょうね。インバウンド事業だと、コロナの影響は大きかったのではないですか。

秋山:はい。撤退している会社もたくさんある中で、なんとか踏ん張ったという感じです。「人が動けないので物を動かそう」という発想で、日本の製品を台湾に展開していく「トナリエ」という事業を作りました。台湾のクラウドファンディング業界で最も大きなシェアを持つクラウドファンディングサイト「嘖嘖:zeczec」と業務提携し、翻訳や出品をサポートします。

やはり今まで自由に行けていた日本に行けないということで「日本ロス」が生まれ、「日本のものを食べたいな」「日本のものを買いたいな」という気持ちが高まっている方が多いんです。

大久保:なるほど。ひとつの市場が縮小すると違う市場が生まれるので、それを見つけに行くといいですよね。台湾でのクラウドファンディングはどのような状況ですか。

秋山感度が高い方、いいものなら高額でも出すという方が集まっていると感じます。ガジェット系や電化製品系の商品が特に人気という印象ですね。

試作品がひとつあれば、クラウドファンディングで反響をダイレクトに見ることができるので、かなりリスクは低くなります。台湾進出の足がかりとしてぜひ活用していただきたいと思います。

大久保:台湾に進出する企業は多いのですか。

秋山台湾は中華圏の入口として距離的にも近いですし、親日というアドバンテージもあるので、中華圏進出のためにまず台湾、というのはひとつの選択肢だと思います。台湾から香港、そこから陸続きで中国本土というコースがおすすめですね。

いきなり中国本土に進出というのはハードルが高いですが、台湾には日本が好きで流行を追いかけているという人も多く、SNSやネットが発達して昔は1年後ぐらいに流行が伝わっていたのが、いまは1〜2か月で伝わると言われています。

日本で売れたものを台湾に輸出するということは戦略としてアリだと思います。ただ、起業に対するハードルは低いのですが、実は撤退する企業も多いんですよ。

国民性の違いなどもあるので、日本の物やサービスをそのまま持ち込むのではなく、アレンジやローカライズが必要です。日本の有名な飲食店で、台湾観光客も多いから台湾でも売れるだろうと進出したけれど、最初の1か月だけは流行ったけどその後はさっぱり、ということで撤退した例もありますね。

大久保:なるほど。そういった意味でも、まずは試作品を作りクラウドファンディングで実際にヒットする商品であるかどうかを見るというのは有効ですね。

異国でビジネスをする際に、どの組織が信用できるのかといったような情報はどうやって得ればよいのでしょうか。

秋山:台湾に限らず他の国にも日本人ネットワークが存在すると思いますが、台湾は特に小さい国ですので日本人ネットワークが密に存在します

やはりそういった情報は詳しい人に聞くのが一番だと思います。一番簡単なのは参加人数が多い日本工商会ですね。そこから県人会や同世代のグループに声をかけていただきました。そういったコミュニティに入っておくと、情報交換もできますし、いざというときには助け合いもできます。非常にありがたい存在ですね。

これからは経営と教育の2軸で活動していきたい

6歳の娘の誕生日と自作ケーキ

大久保:シングルファーザーでいらっしゃると聞きました。

秋山:はい。台湾に移住して、ご縁があって台湾のインフルエンサーの方と結婚し、娘が産まれました。

2020年の4月頃に嫁が咳をするようになったのですが、「ただ咳が出るだけで辛くはない」というので、コロナが流行り始めた関係もあり病院行くことでのリスクの方を強く感じたので、二人で話し合いしばらく様子を見ようと、すぐに病院には行かなかったんです。

でもずっと咳が止まらないので、8月頃に病院に行ったら肺ガンのステージ3ということがわかり、半年の余命宣告を受けました。

会社のメンバーが一致団結して、社長がいなくても業務を回せるように体制を整えてくれたので、わたしは闘病支援に専念できました。

余命宣告の通り、半年後ぐらいに嫁は息を引き取りました。今は日本と台湾のハーフである娘と暮らして、育児と経営を両方やっています。

大久保:シングルマザーで起業されている方もいらっしゃいますが、シングルファーザーの場合はまた違う苦労がありそうですね。

経営と育児を両立する上で、意識すべき点は何ですか?

秋山:起業家ってなんでも自分でやろうとしがちですが、しっかり頼るということが大事だと学びました。台湾の国民性として情熱的なところがあると感じているのですが、本当に大変なときは本音をしっかり伝えて頼れば、ちゃんと受け止めてくれます。

自分の場合は嫁の闘病時にストレスを溜め込んで、誰かを頼らざるを得ないところまで追い詰められていたのですが、そんなときに嫁の両親や会社のメンバーが陰ながら助けてくれました。

嫁の両親とのコミュニケーションは中国語で難しさを感じる時もありましたが、言葉を介さずとも育児などを支援してくれる体制になり、非常に感謝しています。

料理の献立や、材料を報告しないといけなかったりと、介入も多いですが(笑)。

大久保:そのあたりは台湾の文化も関係しているのでしょうね。

秋山:そうですね。家族の距離が近いのが台湾の文化だと思います。日本だと、家を出た学生はお盆と年末年始しか帰らなかったりしますけど、台湾だと例えば高雄の大学に行くために台北の家を出た学生がいたら、高雄に住みながら週末には家族と過ごすために、新幹線で2時間ほどかけて月に1〜2度は帰るのが普通です。

また教育事情もかなり日本とは違います。台湾は世界有数の高学歴社会であり、高校から大学に進む人は90%以上。大学から大学院に進む人も50%を超えていて、院を出ないと仕事がなかなか見つからないなんて声も聞きます。

小学校1年生から英語が始まりますが、教育熱心な親たちは幼稚園から英語を習わせたり、英才教育をさせたがります。人気の小学校はそのエリアに住所がないと通えないので、住所の売買なんていうケースもあるようです。

大久保:日本で大学院に行く人口は減少しているのと対照的ですね。台湾で10年ビジネスをされてきて、今はシングルファーザーとして会社経営をされているわけですが、今後の展望は。

秋山:娘を育てながら嫁の闘病支援をしている間にいろいろな思考が巡り、最終的には人生ってなんなの?というところまで考えました

ただ働き続けて、お金を稼いで死ぬのではなく、自分にできる他のことを見つけたいと強く感じました。今後は、台湾で学んだグローバル教育のことを日本で発信し、経営とグローバル教育の2軸で活動していけたらいいなと思っています。

もちろん、今までどおり台湾と日本の距離を縮めるような事業にも力を入れていきます。

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(取材協力: 台湾法人カケハシ代表取締役社長 秋山光輔
(編集: 創業手帳編集部)



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