SIGNING 亀山 淳史郎|「プレミアムフライデー」の仕掛け人!社会課題をクリエイティブ力で解決したい
社内起業での起業を選んだ理由とは。社内課題の兆しを見つけるポイントやコロナ禍での創業について
どの企業もSDGsやダイバーシティなどの社会課題への対応が求められるようになった今、世の中にある「社会と経済」の課題の両方をクリエイティブやデザインの力で同時に解決を目指すのがSIGNINGの亀山さんです。
博報堂DYホールディングスという大企業から社内起業した経緯や「ソーシャルグッド×イノベーション」という新しい挑戦について創業手帳代表の大久保が聞きました。
株式会社SIGNING 代表取締役・共同CEO/Social Business Designer
社会課題解決×ビジネスグッドをプランニングするソーシャルビジネスデザイン領域の業務を手がける。2017年“プレミアムフライデー”のプランニング&プロデュースをし、新語・流行語大賞にノミネート。2019年にポイントドネーションWEBサービス“BOSAI POINT”をアスリート本田圭佑氏と立ち上げ、グッドデザイン賞を受賞。2020年から日本発クリエイティブオンラインビジネスイベント“Innovation Garden”を手がける。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
博報堂DYホールディングスの100%子会社としてSIGNINGを社内起業
大久保:起業までの流れを教えてください。
亀山:SIGNINGは2020年4月に共同代表の牧と創業しました。博報堂DYホールディングスに所属していたディレクターやプロデューサーたちが独立して作ったグループ会社です。現在、従業員は23名います。
SIGNINGは、近年注目されるSDGsやカーボンニュートラル、ダイバーシティなどの「ソーシャルグッド(社会課題解決)」と企業の成長に必要な「イノベーション(新市場創造)」の領域に着目して活動しています。
大久保:SIGNINGを創業した目的は何ですか?
亀山:広告会社の強みである「クリエイティブやデザイン」で、「社会の課題」と「経済の課題」を同時に解決したいと思い、SIGNINGを創業しました。
社会とビジネスの課題を同時に解決する事例としては、数年前にSIGNINGが経済産業省と仕掛けた「プレミアムフライデー」です。プレミアムフライデーは、働き方改革と個人消費の活性化を同時に進めるための新しい行動提案として仕掛けました。
大久保:「プレミアムフライデー」がどのように世の中に広まったか教えてください。
亀山:国が主導するだけでなく、様々な企業にも参画してもらうことで、大きなムーブメントとして世の中に広がると思いました。
「働き方改革」は社会や会社が明確にルール化できておらず、具体的な行動認識にまで落とし込めていないことが大きな課題でした。
その一つの解決策として、消費が伸びる月末最後の金曜日は早めに仕事を終える流れを作って、「消費喚起」と「働き方改革」を推進しようと考えました。
博報堂DYホールディングスの強みを生かしつつ新しい分野に挑戦
大久保:SIGNINGと博報堂DYホールディングスさんの関係性と、創業までの経緯を教えてください。
亀山:私と共同CEOの牧が一緒に起案したのですが、物を売るだけではなく、社会をより良くするクリエイティブに特化した事業をしたいという思いがありました。
当時世の中では、企業も社会課題解決に寄与しながら成長しないといけないという意識が高まっていたので、博報堂DYホールディングスの100%子会社としてSIGNINGを創業することになりました。
大久保:社内起業のメリットやデメリットを教えてください。
亀山:社内起業の1番のメリットは、親会社のノウハウやネットワークを使えることです。
広告会社は、企業とメディアを繋ぐことが主な役割です。博報堂DYホールディングスには、多くのクライアントや各種メディアとの繋がりがあります。
私たち広告会社は、これらの企業の間に立って動くことが得意なので、元々の繋がりをフル活用することが社会課題の解決に近道だと思いました。
大企業からの独立起業ではなく「社内起業」という選択
大久保:博報堂DYホールディングスでの社内起業ではなく、独立起業するという選択はありませんでしたか?
亀山:私は博報堂DYホールディングスが嫌で退職したい、独立したいと思ったのではなく、社会課題を解決する新しい仕組みを考えたいという気持ちが強かったんです。
独立や起業を考えている人は、一緒にやりたい仲間がどこにいるかが「独立起業と社内起業」の線引きになると思います。
幸いにも博報堂DYホールディングスの社内には、私と同じような思いを持ったメンバーが10人ほどいたので、独立起業よりも「社内起業」という選択が自然でした。
大企業の良いところは活用しつつ、大企業よりも自由にやれるというのが社内起業の良いところですね。
大久保:亀山さんはご自身をどの分野の専門家だとお考えですか?
亀山:ソーシャルデザイン、つまり社会をデザインする専門家だと考えています。
例えば、SIGNINGではオリジナルのレポートを作成しています。レポートの内容は、コロナに対する意識の変化やwell-beingな幸せのあり方の変化、ソーシャルイシュー探究心、ジェンダー意識などです。
今までの広告会社では、今後成長しそうな市場を調査してクライアントに提案していたのですが、SIGNINGでは今後起こりそうな社会の変化を先読みしてクライアントに提案しています。
SIGNINGという言葉には「兆し」という意味があります。社会や未来の兆しを予測して、ビジネスとして解決していくことを目指しています。
SIGNING独自の「社会の兆し」の見つけ方
大久保:SIGNINGだからこそ言える「社会の兆し」の見つけ方、見分け方があれば教えてください。
亀山:SIGNING独自の「兆し」の見つけ方は2つあります。
アウトフレーミング(脱合理的に考えることで答えを見つける)とサークルプランニング(様々なステークホルダーのWinを叶えるアイディアを真ん中におこうという発想法)です。
目の前の課題だけでなく、社会の課題にまで意識や視点を上げて「兆し」を発見するためのフレームを作っています。
大久保:「兆し」は直感が大切ですか?固定概念を持っていることを捉え直すのでしょうか?
亀山:「課題は深刻でも捉え方はシンプルに」したほうが良いと思います。
通常は市場性や自社のアセットを積み上げて判断することが多いと思いますが、SIGNINGでは「脱合理の視点」を入れてクライアントと一緒に考えることを提案しています。
クライアントの内側にある真価を見極めることが大切
大久保:クライアントと仕事をする時に心掛けていることを教えてください。
亀山:直面している課題の解決策を持っていない企業から相談を頂いた際に、SIGNINGは新しい一歩をクライアントと共に踏み出すことが得意です。
コロナ禍への対応をはじめに、今までのやり方が通用しない局面が増えました。何から始めるべきかを一緒に考えるためのデータや発想法を用意しています。
大久保:本来はクライアントの社内にいる人が考えるべきことをSIGNINGはサポートしていると思うのですが、大切にしている役割分担があれば教えてください。
亀山:まずクライアントが本当に大事にしているものを掘り下げてもらい、その価値を一緒に見極める作業をしています。
クライアントの内側にある答えを探し出すことを大切にしています。クライアントの内側にあるものと世の中が繋がる場所を探すことがSIGNINGの役割です。
コロナ禍での創業を強みに変えた秘策
大久保:SIGNINGはコロナ禍での創業だと思いますが、影響などありませんでしたか?
亀山:SIGNINGを創業した2020年4月1日の1週間後に、初めての緊急事態宣言が発令されました。当時決まっていた仕事は全てなくなりました。
そこで、まずは「コロナに対する意識変化のレポート」を作りました。
通常の調査レポートは数字がたくさん並んでいてわかりにくいので、見やすくマーケターの人でなくともわかるものを心がけて作りました。
レポートの内容としては、緊急事態宣言が発令された1ヶ月間での「消費者の考えの変化」をまとめたレポートを無償公開しました。
このレポートはかなり反響があり、コロナ禍に突入して「これから先どうしたら良いかわからない」という企業から多くの問い合わせを頂きました。
問い合わせを頂いた中でも、特にスポーツジムや習い事教室など実店舗を構える企業さんの悩みが最も深刻でした。
その解決策の多くはサービスをオンライン化することでしたが、コロナ禍を通じてオンラインにはない「リアルの接点」も大切だと感じる人も増えており、リアルとオンラインの掛け算で事業をアップデートしたいという相談がSIGNING創業以来続いています。
SIGNINGが注力する「社会課題」の分野
大久保:数ある社会課題の中で、注力している分野を教えてください。
亀山:今は「防災」「脱炭素」「フードロス」の3分野に力を入れています。
社会課題は「社会全体を大きく見るべき分野」と「個人に着目すべき分野」の2つに分類できると私は思っています。
「社会全体を大きく見るべき分野」としては、SDGsやカーボンニュートラルなど国や大企業が着手すべき課題です。こちらはビジネスが絡む部分も多くあるため、今後、色々な企業が取り組みに着手すると思います。
一方で、「個人に着目すべき分野」としては、ダイバーシティ&インクルージョン(※1)など、個人のパーソナルな課題が積み上がった社会課題です。
特に、LGBTQや子どもの貧困などをビジネスの力で解決したいと考えています。
※1:性別、年齢、障がい、国籍などの多様性を認め合い、良いところを活かすこと
本田圭佑氏と取り組む「BOSAI POINT」
大久保:SIGNINGは「防災」に力を入れているということですが、本田圭佑さんなどが取り組む「BOSAI POINT」はどのようなプロジェクトですか?
亀山:「BOSAI POINT」は本田圭佑さんがオーナーのマネジメント会社HONDA ESTILOさんと仙台のワンテーブルさんと北海道のサツドラホールディングスさんの3者共同プロジェクトです。SIGNINGはここで企画運営に関わっています。このプロジェクトは私が本田圭佑さんと防災の新しい仕組みを作りたいと話したことがきっかけで発足しました。
一般的に災害支援は災害が起きた後にしかできません。毎年のように日本中のどこかで起こる災害に日頃から備えられる仕組みを作ろうと、セブン・カードサービスさんの「nanacoポイント」などのポイントのうち、余って失効するポイントに着目し「ポイント・寄付・防災」をキーワードに作ったサービスです。
大久保:「BOSAI POINT」は今後どのように進んでいくのでしょうか?
亀山:ポイントがリアルタイム連携するので将来的にはポイント管理のためのツールであり、寄付のためのサービスとして広げたいと思っています。
連携するポイントサービスを増やして、会社化することが今後の目標です。
大久保:イノベーションガーデンとはどのようなイベントですか?
亀山:日本には名刺交換をして、資料を受け取るだけのビジネスイベントは多くありますが、クリエイティブなビジネスイベントはあまり多くありませんでした。
海外のCESやサウスバイサウスウエストのようにオープンかつ、様々なインスピレーションを受けられる場を日本にも作りたいと考えました。
SIGNINGの今後
大久保:SIGNINGの今後の目標を教えてください。
亀山:解決すべき社会課題を中心に様々な専門家が集結して、解決しては解散するという臨機応変に編成できるチームをたくさん作りたいと思っています。
SIGNING自体も大きくしつつ、外部のパートナーとも提携を増やして、社会課題を解決するチームをどんどん広げることが今後の目標です。
大久保:まずはスピード重視でプロジェクト形式でスタートして、プロジェクトのまま進めるのか、分社化して法人化するのかを決めるということですか?
亀山:今の時代は社会課題の入れ替わりが激しいので、スピード重視で臨機応変に対応する必要があると思います。課題の変化に伴いSIGNINGの形も変わり、提供するサービスも変わっていかないといけないと思います。
大久保:プロジェクトを成功させるためにSIGNINGが大切にしていることを教えてください。
亀山:「ソーシャルグッド」「クリエイティビティ」「ビジネス上のタフネス」の3つを重要視しながらプロジェクトを進めています。
大久保:最後にこの記事の読者である起業家の方々へメッセージをお願いします。
亀山:日本の企業ほど社是に「ソーシャルグッド」を掲げている国はないと言われています。つまり、日本の起業家の多くは社会課題解決を志しているのだと思います。
日本は長寿な企業が多いので、サステナブルに事業を継続するために、ソーシャルグッドな考え方をする文化があるんですね。
創業したばかりの方々が持つソーシャルグッドな心を応援したいですし、広げたいと思います。その結果、事業を長く継続することに繋がると思うので、皆さんとともにSIGNINGも成長していきたいと思います。
(取材協力:
株式会社SIGNING 代表取締役・共同CEO/Social Business Designer 亀山 淳史郎)
(編集: 創業手帳編集部)