インキュベーションとは?起業家をハード・ソフト両面からサポート
インキュベーション支援の特徴や施設の選び方、メリット・デメリットを解説します
「起業しよう!」と思っても、起業家には知識やノウハウが少なく、つまづく人も多くいます。そのような起業フェーズに対して手厚い支援を行っているのが、インキュベーション支援施策です。
しかし、インキュベーション支援については数も多く、何を使えばいいのかわからないというご相談も多く聞きます。この記事では、インキュベーション支援の概要と、支援施策を提供するインキュベーション施設について解説します。
この記事の目次
インキュベーションとは
「インキュベーション(incubation)」という言葉をご存知でしょうか?
「インキュベーション(incubation)」とは、「孵化、卵をかえす」という意味です。起業の文脈で「インキュベーション」というと、事業の創出・創業を支援するサービスや活動全般のことを指します。
「起業しよう!」と思っても、起業のための知識やノウハウ、資源、人脈が不足しており、なかなか起業に踏み出せない人も多いのではないでしょうか。
実際、起業へのハードルはまだまだ高いもののようです。中小企業庁が発行している2020年版「中小企業白書」では、起業希望者や実際に起業をする人は減少傾向であるものの、副業で起業を希望する人が増えているという調査結果を発表しています。
(出典:中小企業庁ウェブサイト 中小企業庁「2020年版中小企業白書」)
会社員の副業解禁の流れも受けて、急に起業するのはハードルが高い、まずは副業から始めたい、という人が増えていることが、この調査結果から分かります。
そこで、国や地方自治体・民間企業では、起業を促進するために、様々なインキュベーション支援を用意しています。
受けられるサポート
では、インキュベーション支援ではどのような支援が受けられるのでしょうか。インキュベーション支援では、起業希望者が特に不足する「知識やノウハウ、経営資源、人脈」に向けた様々な支援を行っています。
インキュベーションマネージャーによる経営相談
起業をしたいと思っても、起業の相談はまず誰にすればいいのでしょうか。
インキュベーション支援では、起業や新規事業開発に明るいインキュベーションマネージャーによる経営相談を受けることができます。
インキュベーションマネージャーには、経営コンサルタントの国家資格である中小企業診断士を保有する人や、新規事業開発に明るい事業家など、様々なビジネスの経験を積んだ人材が就任していることが多いです。
このインキュベーションマネージャーは起業全般の相談に対応しています。例えば、事業計画づくりのサポート、他の専門家(社会保険労務士、司法書士、弁理士等)への橋渡し、融資や補助金獲得のための事業計画作成支援が主な相談項目です。
行政や中小企業支援機関のインキュベーション支援の場合、行政や中小企業支援施設が提供している、起業希望者への支援施策の紹介や橋渡しもしてくれます。
人脈づくり
起業をしたいと思う人は、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」という、いわゆる経営資源が少ないことが弱みですが、特に「ヒト」が不足していることに課題を感じる人が多いです。
起業をしようにも、事業のコアとなる知識・ノウハウが自らにない場合は、その知識・ノウハウを持った人を事業パートナーとして迎えることが必要です。しかし、どうすれば自分たちが出会いたい人材とつながることができるのでしょうか?
そこでインキュベーション支援として、起業を希望する人や、ビジネスマッチングを希望する人との交流イベントが開催されています。これは、起業をしたい人の人的ネットワークを広げるとともに、新たなビジネスチャンスの発掘やビジネスマッチングにもつながるものです。
例えば、ピッチイベントに参加しビジネスプランをアピールすることで、審査員にベンチャーキャピタルがいた場合、資金提供者とのつながりが得られます。他、イベントをきっかけにビジネスパートナーが見つかることも多くあります。
オフィス利用
インターネット環境が整ったことにより、自宅で起業することも十分可能です。
しかし、「より集中したい」「信用を得たい」「自宅は登記ができない」「自宅を住所として公開するのは、防犯上問題がある」などといった理由から、事業用のオフィスを検討する人もいます。
インキュベーション支援を提供する施設では、月額料金を支払うことでオフィス利用ができるところが多くあります。形態は、他の利用者とシェアするコワーキングスペース型や個室型など、施設によって様々です。
インキュベーション施設のオフィスは、起業希望者を支援する目的から、一般的な事務所より安価に借りることができ、もちろんインターネット環境、机イスなどがそろっています。
追加料金が発生することもありますが、会社の登記住所としても利用できます。
また、行政や金融機関のインキュベーション施設に入ることで、一定の信用が得られることもあります。行政や金融機関の運営するインキュベーション施設に入居していることが、創業融資や創業補助金の申請要件の一つになっていることがあります。
試作品開発支援
製品開発を伴う起業の場合、市場に出す前に試作品を作る必要があります。ではその試作品は、どうやって作ればいいのでしょうか。
近年では、3Dプリンターを使って安価で早く試作品を作り、ユーザーレビューを元に何度もアップデートすることが可能になっています。モノづくり系に特化したインキュベーション支援として、試作品開発に利用できるラボを用意している施設もあり、3Dプリンターが安価で利用できます。
インキュベーション施設とは
これらのインキュベーション支援を提供するための中心的な存在であり、起業しようとする人のサポートのために設けられているのが、インキュベーション施設です。
運営団体による特徴
インキュベーション施設は、運営団体によって様々な特徴を持っています。
大学
大学が設立しているインキュベーション施設は、大学での研究成果をビジネスにするための支援が中心です。
例えば、医療技術や最新のAI技術・金属加工技術など、大学での研究成果を市場へ出すための支援が行われています。
施設に常駐しているインキュベーションマネージャーは、大学での研究開発とビジネスとしての事業開発の両面に明るい人材が配置されていることが多いです。
例えば、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスに設置されている「慶應藤沢イノベーションビレッジ(SFC-IV)」は、中小機構が慶應義塾大学および地域と連携して運営している起業家育成施設です。
行政(国・地方公共団体)、中小企業支援機関
行政や中小企業支援機関が設立しているインキュベーション施設では、地域産業の特性に沿った起業を増やす支援をしています。
例えば、東京都台東区の「台東デザイナーズビレッジ」は、台東区の地域産業であるファッションや雑貨、デザイン関連ビジネス分野での起業を目指すデザイナーやクリエイターを支援する施設です。
東京都品川区の「SHIP」は、品川・大崎・五反田エリアにものづくり系企業や情報系企業が集積しているという地理的優位性をいかしたイベントや支援を行っています。
金融機関
地域産業活性化や取引先増加を目的として、金融機関がインキュベーション施設を設立することが増えています。
例えば、東京都西南部を基盤とする城南信用金庫は、ものづくりの集積地である大田区に「J-Create+(ジェイ クリエイト プラス)」を設立しています。
金融機関のインキュベーション施設では、行員に融資相談にのってもらえるほか、その金融機関が持つ幅広い取引先とのネットワークを生かしたビジネスマッチング支援などを受けることができます。
民間
民間企業が設立しているインキュベーション施設では、運営団体の特徴を生かした支援を実施しています。
例えば、ベンチャーキャピタルが設立した施設であれば、出資を受けるための事業計画の相談を受けられることや、投資家向けのピッチイベントが開かれています。
飲食店運営会社が設立した施設では、多くの飲食店を開業した実績を持つ事業家から、飲食店開業のための支援をうけることができます。
インキュベーション施設のデメリット
このように、起業のためのサポートが充実しているインキュベーション施設ですが、デメリットもあります。
入居審査がある
インキュベーション施設には入居審査があり、起業しようとする人、または起業直後の人が対象の場合が多いです。したがって、会社員のテレワーク目的では利用できません。
審査で事業計画が必要な場合、根拠に乏しいビジネスアイディアレベルの事業計画では審査に通らないこともあります。
また、「家から近い」といった利便性が高い施設であることから入居を希望する人もいます。しかし、その施設の特色に沿った業種・事業内容となる事業者が入居対象になるため、起業しようとする事業内容がその施設の支援方針と沿っていない場合、近隣住民でも入居できないことがあります。
入居期間が定められている
インキュベーション施設は永遠に入居できるものではありません。
入居期間は1年が多く、更新も可能ですが、更新回数の期限が設定されています。したがって、いつかは卒業(退去)する必要がありますので、インキュベーション施設を登記住所に利用しようとしている人は注意が必要でしょう。
また、更新時に面談があるところもあり、入居者が入居を更新したいと思っても、施設側の判断で退去を求められることもあります。
インキュベーション施設の選び方
このように数多くの特徴をもつインキュベーション施設ですが、どうすれば自分に合う施設を見つけることができるのでしょうか。インキュベーション施設が自分にあっているのか、判断する観点をご紹介します。
施設の特徴を理解する
まず、入居したいインキュベーション施設の特徴を理解することです。
運営主体はどこなのか、すでに入居している企業の業種や事業内容にはどんなものがあるのか、仲間になりそうな企業はいるでしょうか。スタッフの方に事前に確認しましょう。
あわせて、その施設でどんなサポートが受けられるか調べましょう。インキュベーションマネージャーは、どのような得意分野や経歴を持つ人でしょうか。自分が起業したいと思う分野とマッチしない場合、想定していたような助言が受けられないこともあります。
施設によっては、その施設のインキュベーションマネージャーに無料で相談できる相談会を設けているところもあります。事業プランを相談してみて、どのようなアドバイスが得られるか、実際に相談してみるとよいでしょう。
また、意外と大きな要素が、自宅から通える範囲かどうかです。自宅から遠すぎるとなかなか施設にもいかなくなるため、せっかく支払う月額料金に見合ったサービスを受けられず、もったいないことになります。
実際に見に行く
インキュベーション施設の雰囲気を知るには、内覧が一番です。随時受け入れてくれることが多いので、スタッフに問い合わせてみましょう。
また、入居者以外でも参加できるイベントに参加してみると、どのような人が集まっているのか、コミュニティの雰囲気を知ることができます。コロナ禍によりオンライン形式のイベントも増えていますので、積極的に参加してみましょう。
インキュベーション支援を活用し、事業をドライブさせる
インキュベーション支援では、起業のためのハード・ソフト両面の支援が受けられることが魅力です。
起業ステージでは、経営資源が不足することが誰もが持つ悩みです。自身に不足する経営資源はなにか、どの経営資源に対するサポートがほしいかで判断すると、どの支援がよいか選びやすくなるのではないでしょうか。
インキュベーション支援を活用し、あなたの起業プランをさらにドライブさせましょう!
(編集:創業手帳編集部)
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