カメラマン石田 紀彦|Twitterでバズった「飯テロ料理写真」冊子の制作秘話
手軽に誰でもできる!売り上げをアップさせるための効果的な写真の撮影方法と考え方
2021年11月21日、とあるTwitterユーザーが投稿したツイートが大いにバズり(※)ました。ツイートの内容は、政府系金融機関である日本政策金融公庫が同年6月に発行した『売上アップにつながる写真の撮り方ガイド(飲食店編)』。飲食店向けに料理写真の撮り方を指南する真面目な内容ですが、その有用性やわかりやすさから、「飯テロの勉強になる」などと評されTwitterユーザーたちに大ウケ。インターネット界隈は一時、この話題で持ちきりになりました。
この小冊子を企画・監修していたのが、フリーのカメラマンからキャリアを始め、現在はフォト・パートナーズ株式会社代表取締役の石田紀彦氏です。石田氏は中小企業診断士の資格と、MBAの学位も保有している、ビジネスへの造形も深いカメラマンとしてご活躍されています。
Twitterでバズった写真の裏話や、中小企業が売り上げをアップするための写真の撮影方法や考え方について、創業手帳の大久保が聞きました。
(※)バズる…SNSなどで投稿が爆発的に拡散されること。炎上とは違い、ポジティブな拡散で、ユーザーは投稿に対して好意的に思っている場合がほとんど。
日本大学芸術学部写真学科卒業。中小企業診断士。MBA(経営学修士)カメラマン® として、「世の中に眠っているすべての価値を表出させる」という経営理念のもと、日本の中小企業の業績向上に寄与している。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
意図せず写真がバズった裏話
大久保:本日はよろしくお願いします。Twitterで石田さんが監修した冊子がバズったことで、多くのメディアから取材が来ていると思いますが、どうですか。
石田:よろしくお願いします。LINE株式会社様が運営するニュースサイトBLOGOSさんから取材を受けました。ほかにも、セミナーのご依頼を数件いただきました。
大久保:普通であればお洒落な写真を使うかと思うのですが、バズった冊子の一番最初のページにあったのは、地味そうに見える刺身の写真でした。
石田:正直に言って、私もバズることを狙ったわけではありませんでしたので、驚きました(笑)。でも、このような生々しい刺身の写真を一番最初のページに持ってきたのは、狙ってやったことではあったんです。
というのも、今回出した冊子の想定読者層は50代〜60代の中小企業経営者なのです。もし最初の写真がInstagramで人気になるような超お洒落な写真だったら、「こんな写真は私には撮れない…」と思われてしまい、冊子のその先を読んでいただけないと思っていました。
だからこそ、業務の途中に実際に撮ったような地味で、生々しい写真にしたんです。小洒落た写真からわざと「ハズした」んですね。
大久保:それが意図せずハマったんですね。
石田:そうみたいです。
写真の目的を決める
大久保:まずお聞きしたいのですが、人物写真と商品写真の撮り方に違いはあるんですか。
石田:人物写真だからこう、商品写真だからこう、ということではありません。
それぞれの写真の目的を考えて、目的に沿った写真の撮り方を採用する、ということが最重要です。
写真には、①ブランディング用写真、②商品写真、③説明写真という、大きく3つの役割があります。
たとえば、人物写真には大きく2種類の目的があります。一つはその人物をカッコよく見せることを目的にする「プロフィール写真」。もう一つは、免許証のようにその人物を証明することを目的にする「証明写真」です。写真の役割で考えると、プロフィール写真がブランディング用写真、証明写真は商品写真になるので、撮り方も当然違ってきます。
商品写真の場合も考え方は同じです。人物であれ商品であれ、カッコよく見せるのか、ありのままを見せるのか、という目的の違いで撮り方を変えます。だから、まず目的を決めることが重要なんです。
大久保:なるほど。たしかに、なんとなく写真を撮っている人が多いかもしれません。
石田:たとえば、プロフィール写真であるにもかかわらず、証明写真のように真正面からの顔写真を撮る方がいますが、これは写真の目的を意識していないことが原因です。
プロフィール写真の場合、少し体を横斜めにした状態で、顔をカメラに対して向ける姿勢がカッコよく見えます。
私は中小企業診断士としても活動していますが、写真で売り上げがアップしない理由でもっとも多いのが、カッコよく見せる「ブランディング用写真」でなければならないところに、証明写真のような「商品写真」を載せているケースです。
たとえば、今回の小冊子のテーマでもあった飲食店のSNSの写真は、カッコよく、美味しそうに見せなければいけませんよね。それにもかかわらず、正面から撮っただけの商品写真をアップしていたら、お客様の目に留まらず、売り上げはアップしません。
消費者購買プロセスのAIDMA(※)の一番最初のAはAttention、つまり注意を引くこと、注目してもらうことです。地味な写真では注目してもらえませんよね。まずはカッコよく見せる写真で注目を集めなければいけないんです。
ところが、経営者の方々は真面目な方が多いので、証明写真のような平凡な写真をお客様に見せてしまう。だから注目されないし、結果として売り上げも上がりません。
(※)AIDMA…Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の頭文字をとってつなげたマーケティング用語。ユーザーが購買するまでのプロセスを細分化して表現している。
大久保:たしかに、平凡な写真では注目は集まりませんよね。ほかにも売れない写真のパターンはありますか。
石田:ほかには、ブランディングの写真ばかり撮ってアップしているケースもあります。
ブランディング用写真はたしかにお洒落でカッコいいんですけど、それだけだとお客様は商品を「自分事」として感じられません。ブランディング用写真だけではなく、「説明写真」を掲載し、商品の使用感を伝えることも必要になります。
『売上アップにつながる写真の撮り方ガイド(飲食店編)』でも紹介した例を出します。「刺身のみ」、「刺身+箸+日本酒」、「刺身+日本酒」、「刺身+箸」の4種類の写真から、一番美味しそうな写真を選んでもらいました。結果として、「刺身+箸+日本酒」が49%の支持を集め、トップになりました。
ただきれいな「刺身のみ」が写っている写真よりも、より食事のイメージを想起させる「刺身+箸+日本酒」のほうが美味しそうに感じる、ということなんですね。つまり、その次の行動を連想させることができる、「自分事」にできるからなんです。
だから、写真を撮る際は、お客様が「自分事」化できる写真を目指してほしいですね。ブランディング用の写真だけではなく、その商品を使用するとどういうことが起きるのかを写真で説明してあげることも、購買につなげるためには重要です。
大久保:商品のカッコいい部分ばかり見せられても、お客様は信用できませんしね。
石田:おっしゃる通りです。そして、写真を撮影しても売上がアップしない最後のケースが「説明写真が少な過ぎる」というパターンです。
チラシが広告宣伝の主流だった時代は終わり、今はWebサイトやSNSで宣伝できる時代です。Webの場合、写真の枚数は複数枚載せられるのにもかかわらず、なぜか一枚の写真しか載せない事業者様が多い印象です。
たとえば、Instagramでは複数の写真を一つの投稿に載せられるので、商品の写真を一枚に絞る必要はないですよね。複数枚載せたほうがお客様も商品のことがよくわかり、購買につながる可能性も上がるでしょう。でもなぜか、一枚の写真しかアップしない方が多いんです。これは非常にもったいないです。
大久保:紙媒体が広告宣伝の主流だった時代の感覚が抜けていないのかもしれませんね。
写真のクオリティは結局、光で決まる
大久保:写真の目的が重要なことはよくわかりました。具体的に写真を撮る際には、何が写真のクオリティを決めるのでしょうか。
石田:写真のクオリティは結局、「光」で決まります。冊子にも書きましたが、「光の方向」と「光の質」の二つが重要です。
まず、「光の方向」について。結論としては、料理写真の場合には「半逆光」と呼ばれる光の方向が一番美味しく見えます。以下の写真内の(2)に該当します。「半逆光」とは、被写体の後方斜め45°から光が射しこんでいる状態です。
ほかにも、被写体の真横から光が射す「サイド光」(1)、撮影者の真後ろから被写体に光が射しこむ「順光」(3)、撮影者の真向かいから光が被写体に射しこむ「逆光」(4)があります。これらはすべて、「半逆光」(2)の写真よりも人は美味しく感じられないようです。
大久保:光の方向は、あまり意識したことがなかったです。
石田:「光の方向」と同時に重要なのが、「光の質」です。
直射日光よりも、散光(さんこう)させた写真の方が光の質が柔らかくなります。たとえば、レースのカーテンで直射日光の光を遮ると、ふんわりとした優しい光になりますよね。そのような優しい光で撮ると、パンケーキのような柔らかい被写体は素材のよさが伝わります。
「思っていない」から撮れない
大久保:自分も写真を撮るときに「思い通りに撮れない」と思うことがあるのですが、アドバイスいただきたいです。
石田:各地でセミナーをするなかでわかったことなのですが、どんなイメージを撮りたいのかを「思っていない」、イメージしていないから撮れない、という方が多い印象です。でも、撮りたい写真のイメージができていなかったら、「思い通りの写真」は撮れないですよね。だって「思っていない」んですから。
大久保:それはそうですね(笑)
石田:商品写真でもそうです。商品を「カッコよく」見せたいのか、「ありのまま」を見せたいのかを決めていないと、思い通りには撮れません。最初の話に戻るのですが、やはり目的を決めることが重要なんですね。その次に、イメージを決める。そこまでできて、撮影に入るのが、売上をアップさせる写真を撮る秘訣です。
いい表情を引き出すコツ
大久保:写真を撮るときに、いい表情を引き出すためのコツなどあれば教えてください。
石田:写真を撮るときに、「自分に対してではなく、相手に向けて笑う」ことがポイントです。
どういうことかというと、たとえば、最初にいきなり「笑ってください!」と言われると、皆さん「ムフッ」と笑うんですね。これは「自分が」恥ずかしくて笑っているので、主語が自分です。
次に、「自分ではなく、レンズの向こうのお客様をイメージして微笑みかけてください」というと、笑顔の対象が自分ではなく、相手になります。その瞬間に人の表情はよくなります。
写真と動画それぞれのビジネスメリット
大久保:昨今、YouTubeをはじめ動画がメディアや広告でも主流になってきています。そこで動画に対して写真という媒体が持つビジネス上のメリットについて教えてください。
石田:動画との対比で写真の役割を言うと、「一瞬で目線を引きつけられる」ことがメリットだと思います。YouTubeでも、サムネイル(≒写真)が動画を見るか見ないか決めると言いますし。動画は一つのコンテンツを見るのに数十秒はかかりますので、一瞬で企業の持つ世界観を伝達できるという点では、写真に優位性があると思います。
大久保:写真のほうがWebとの親和性も高い気がしています。動画をスマホで見るとなると、音声を聴くためにイヤホンをつけなければいけないですし、時間も取りますし。まだ写真の役割はなくなりませんね。写真はほかの媒体でも使い回せますし。
石田:動画のほうが視聴者を「購買させる」パワーは強いかもしれません。写真とは役割が違うということですね。
カメラマンを雇う意義
大久保:自分で撮影するのと、カメラマンさんに頼んで撮影するのとでは、やっぱり全然違いますかね。
石田:カメラマンには専門的な知識もありますし、使っている機材のレベルも全然違います。
たとえば、運動会を撮影するとして、かなり遠くから撮れる望遠レンズを使うとプロっぽく仕上がりますが、そのようなレンズは100万円程度します。
そのような高額な機材を運動会のために買うのであれば、都度カメラマンを雇ったほうが、コストパフォーマンスが良いと思います。
大久保:本日は、Twtitterでバズった料理写真の仕掛け人・石田さんに写真の重要性について伺いました。石田さん、ありがとうございました。
(取材協力:
フォト・パートナーズ株式会社 代表取締役 石田 紀彦(いしだ のりひこ))
(編集: 創業手帳編集部)