Chatwork創業者(現:SEVEN) 山本 敏行|「起業家と投資家」「地方・東京・海外」「非上場・上場」の3つの軸で考えるスタートアップ
「非上場・上場」「地方・東京・海外」「起業家・投資家」3つの対局する経験について、今思うこととは
Chatwork創業者(現:SEVEN)の山本さんが上梓したのが「投資家と起業家」。山本さんがユニークな点として、
①路線 非上場:上場
②地域 地方:東京:海外
③立場 起業家:投資家
と3つの軸で対極的な経験をしていることです。
どれか一つの経験であることが多いのですが、3つの軸で対極の経験をしているのは珍しいパターンです。
例えば非上場と上場では資金調達の考え方が異なりますが、当初は非上場路線で成功していたものを、急遽上場路線に舵を切ったり、また、山本さんが創業したChatworkは東京の会社ですが、谷上プロジェクト(兵庫)など地方の活性化で一時、谷上に本拠地を移したほか、一時シリコンバレーで事業をしていたことも。
そして現在は「SEVEN」というエンジェル投資家&スタートアップ起業家コミュニティの運営に注力している、そんな山本さんに創業手帳大久保が話を聞きました。
昭和54年3月21日、大阪府寝屋川市生まれ。中央大学商学部在学中の2000年、留学先のロサンゼルスでEC studio(2012年にChatWork株式会社に社名変更)を創業。
「自分がいなくてもうまくいく仕組み」、「日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方」を出版し、いずれの著書もアマゾン売上総合ランキング1位を獲得。
2012年に米国法人をシリコンバレーに設立し、自身も移住して5年間経営した後に帰国。2018年Chatwork株式会社のCEOを共同創業者の弟に譲り、翌2019年東証マザーズへ550億円超の時価総額で上場。現在はエンジェル投資家&スタートアップ起業家コミュニティの「SEVEN」に注力している。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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非上場・上場の経験について
大久保:①非上場と上場路線、②地方、東京、海外、③起業家と投資家の3つの経験を持たれていますよね。それぞれの軸でお話を伺いたいと思います。まず、非上場・上場ですがメリット・デメリットと実感を教えて下さい。
山本:元々、非上場路線でやっていく方針でした。
しかし、Chatwork社は元々全部自己資本100%で、日本人30人チームでシリコンバレーに乗り込んでいって、Google、Apple、Facebookといった企業と戦い、日本発のITサービスが世界で勝ち残るということができれば、誰にも文句言われないぐらいのチャレンジかつ成功だろうということで、シリコンバレーに飛び込んでいきました。
なぜ自己資本100%から資金調達、そして上場を目指すことになったかの背景として、シリコンバレーの競合が数百億円単位でどんどん資金調達をし、このままの戦い方ではどうしても人、物、金の物量で負けてしまうので、「今までの方針を変えて、思いっきりやってみようじゃないか」ということで調達して、上場を目指すことにしました。
上場一年前にChatworkのCEOは弟に譲りましたが、上場のメリットとしては、社会の公器というか社会のインフラになる。
そして外部の目線、株主の目線からしっかりと経営を意識することができるということだったり、資金を外部から入れることによってスピードが上がるということですね。
もちろん会社としても社会的信用も得ることができます。
一方でデメリットは、株主を意識しながら経営をしないといけないというところ。
今までみたいに100%自己資本だったのが、自由に経営ができなくなるというところであったり、もちろん上場を目指すにあたってはすごいスピードでの成長を求められるので、社内のメンバーに対して負担が掛かるということもあると思います。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
上場 | 社会の公器、社会のインフラになる 社会的信用が得られる |
株主を意識しながら経営をしないといけない スタッフに負担が掛かる |
非上場 | 自由度の高い経営ができる | 自由がゆえに成長が遅い 社会的信用を得られにくい |
上場に向けて舵を切る場合ですが、一番難しいのは、最初から上場を目指している会社で社員もそれを理解した上で採用しているのであれば問題ないのですが、上場を目指していなかった会社が上場を目指すとなった時には、中にいるスタッフは「上場を目指す会社だ」とは思って入ってきていないので、その変化についていかないといけない、そしてスピードを上げないといけないというところが、やはり一番大きなハードルになるんじゃないかなと思います。
上場・非上場の両方を体験した身としては、成し遂げたいミッションによって経営者の選択になるので、どちらがおすすめというのは特にありません。
地方・東京・海外での経験について
大久保:地域という軸では、地方・東京・海外を経験されています。その大きな違いやメリットデメリットを教えて下さい。
山本:地方と東京の違いやメリット・デメリットで言うと、地方のメリットは強い競合がいないのでその地域で目立ち応援を得られるようになるのが、短期間でやりやすいかなと思います。あとはコストは安く採用できますし、自然や人のあたたかみなど心が豊かになれるのが良いですよね。
デメリットに関しては、本当に重要な情報はインターネットでは入ってくるものではないのでやはり活きた情報が入ってこないということ。
そして優秀な人を採用することが難しいということがあると思います。
東京のメリットはそれの裏返しなのかなと思います。
ただ、東京のデメリットとしては東京が全てだと勘違いしてしまうので、東京ありきになってしまうとグローバル展開というところになかなか目がいかないという点には課題があると思います。
シリコンバレーについては、世界中の一流の人材がいるということ、資金が集まっているということ。
そしてデメリットとしては、やっぱりコストがめちゃくちゃ高いということと、競争がめちゃくちゃ激しいというデメリットもあります。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
地方 | 競合が少ないので目立てる、やりやすい コストが安い 自然が豊かでライフワークバランスがとりやすい |
情報が入ってこない 優秀な人材の採用が難しい |
東京 | 情報が入ってきやすい 優秀な人材の採用が可能 |
東京だけを意識してしまい、グローバル展開が難しくなる |
シリコンバレー | 世界中の一流の人材がいる 資金が集まっている |
コストが非常に高い 競争がとても激しい |
起業家と投資家としての視点
大久保:山本さんは起業家と投資家という両方の視点もありますよね。
山本:日本の投資家の場合は、まだまだ「お金を投資すればいい」という感じだと思いますが、シリコンバレーの投資家は役割をしっかりと認識していて、自分はどのステージで、どの業種にどんなバリューを発揮できるかみたいなところもすごい細分化されていて、その専門分野の投資家がしっかりいるというのがあります。
日本の場合は広く浅く「いい会社に投資できる機会があれば投資する」みたいな状態かなと思います。
大久保:投資家は資産がある人にとってはおすすめでしょうか?またどのように始めたら良いですか?
山本:投資家としてお金を投資するだけでももちろん喜ばれるんですけれども、起業家に対して「何が提供できるか」っていうのはしっかり見極めたうえで、自分が支援できる、協力できるジャンルの起業に投資するのがいいと思います。
どのように始めたらいいかというのは、告知になってしまいますが『投資家と起業家』を読んでいただくことが一番理解が深まるかなと思います。
大久保:ありがとうございました。
(取材協力:
Chatwork創業者(現:SEVEN)/ 山本敏行 (やまもと としゆき))
(編集: 創業手帳編集部)