農業とテクノロジーを合わせたアグリテックとは何?その仕組みや事例などを解説
農業の効率化を目指すアグリテック。問題解決方法や仕組み、事例などを解説します。
日本国内における農業従事者の高齢化が進み、農業人口も右肩下がりになる中、非効率な生産や人手不足など、農業が抱える問題は山積みです。
そこで、より農業を効率化してマンパワーをテクノロジーで補おうとするものが、アグリテックです。
アグリテックを導入するにあたり、その仕組みをよく知って自分が営む農業にどう取り入れるかを考えることが大切となります。
今回は、アグリテックについて詳しく解説します。
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
アグリテックとはどのようなものか
まずは、アグリテックの概要についてこちらで説明します。
アグリテックについて
アグリテック(AgriTech)とは、農業が抱える問題をICT(情報通信技術)の活用で解決・効率化することを指し、英語の農業=Agricultureと、技術=Technologyを組み合わせた言葉です。
IoT(モノのインターネット)やAIによるデータ解析、ドローンなどの技術で農業を効率化させ、農業従事者のマンパワー不足の軽減から後継者問題までカバーできるとされています。
アグリテックの試みは、近年登場したものでこれからの浸透が期待されており、現時点でも様々な技術の応用で活用事例を広げています。
アグリテックの仕組みとは
アグリテックの主な仕組みには、IoTによるものがあげられます。
温度や湿度を感知するセンサーを田畑に設置し、規定値に差異が出た時にインターネット経由で農業従事者に通知されるなどの仕組みが多く用いられています。
また、この仕組みは作物に与える日照や水分のコントロールにも用いることが可能です。
その他、AIのデータ解析技術を駆使して作物の成長状況を分析したり、ドローンの技術で自動的に空から農薬を散布したりなどの活用ができます。
農林水産省が掲げる「スマート農業」
農林水産省では、近年の農業における課題を解決すべく、「スマート農業」の活動を推進しています。
同省の調べでは、農業従事者人口の減少、また農業従事者における高齢者の割合増加をデータ化しており、これらを深刻な問題として捉えています。
そこで、農業従事者の負担軽減や作業効率化を図る「スマート農業」を掲げ、下記の3つのポイントを狙いとしています。
・作業の自動化
インターネット経由での田畑の環境・水分管理、ロボット農機などの導入で作業を自動的に行えるようにします。
・情報共有の簡易化
熟練の作業者が持つノウハウや作業に関する記録をデータ化し、アプリで管理することにより、後継者や新規従事者にも共有できます。
・データの活用
センサーやドローンなどによる温度・湿度管理や天候のデータを収集、分析し、作物の成長状況を管理もしくは予測し最適化します。
また、上記を実現すべく、「農業新技術の現場実装推進プログラム」を掲げ、具体的な施策を打ち出し農業従事者に技術の導入を促しています。
アグリテックの導入シェア
アグリテックが農業に導入されているシェアとしては、年々右肩上がりにある傾向です。
あるデータでは、2020年度から2024年度までにほぼ2倍近くシェアを伸ばす試算が行われています。
このデータによると、2020年におけるアグリテックの市場規模は200億円超です。
シェア拡大の要因として、温度や湿度等管理システムや生産を支援する仕組みに加え、ロボット農機やドローンの普及が見込まれているようです。
このように、政府の施策推進や農業従事者による積極的な導入が進み、農業の効率化を図る動きが今後もより活発になっていくという見通しが立てられています。
アグリテック導入が進む理由
農業において、アグリテックの導入が進められている理由には、以下のようなものが考えられます。
国内における食料自給率の改善
日本国内では、特に米の国内消費量の減少、海外から輸入する農産物・畜産物の増加により、国内における食料自給率はなだらかに下落しています。
農林水産省のデータによると、1964年の食料自給率はカロリーベースで73%ありましたが、2019年になると38%です。
生産額ベースでは、1964年に86%あったのに対し、2019年には66%まで落ち込んでいます。
この事態を深刻なものとし、同省では将来的に食料自給率を向上させる目標を立てています。
農林水産省が掲げる食料自給率目標
農林水産省の目標では、2030年までにカロリーベースの食料自給率を45%、生産額ベースでは75%までの引上げを掲げています。
これを実現するためには、飼料などの国内生産率を向上し、農業にかかる材料の自給率を上げることが重要です。
全体の数値を底上げすることで食料自給率を向上させることを目指しています。
農業従事者の負担を軽減
近年の農業従事者の高齢化、さらに少子化などによる農業従事者の人口減少により、現役の従事者の作業負担は重くなる一方です。
その結果、生産性は下がり十分な作物の共有がままならない事態も起こっています。
そのため、体力仕事である農業について、人員が少ない状態でいかに負担を減らすかは大きな課題です。
アグリテックを導入することにより、マンパワーをかけることなく農業従事者の体力的・精神的・時間的負担の大幅軽減が実現します。
以下の方法で負担を軽くできる
・センサーで温度、湿度を管理
田畑の温度や湿度を最適に保つために、センサーを設置してデータを取り、基準とする数値から大きな差異が出た場合に通知されるようにします。
これにより、作業者が何度も田畑を見回り管理することなく、必要な時のみ処置を施すことが可能です。
・ドローンによる農薬散布
田畑全体に農薬を散布する作業は、農薬の入ったボトルを持ちながら歩いて行う方法が主でしたが、体力的には辛い作業で時間もかかります。
この農薬散布を、ドローンに任せて空中から行うことで、作業者の負担を減らすことができます。
・作物の成長状態を監視
作業者の負担として大きいもののひとつに、作物の成長状況をひとつひとつ目で確認しなければならないことがあげられます。
この監視作業をAIに任せ、データ分析により成長状況を確認できるシステムを導入すれば、毎日何度も状況を見に行く手間が省けるでしょう。
農業従事者のノウハウを具現化する
これまでの農業は、土壌や気候、作物の成長状況などによる対応方法を、熟練の作業者の知識や勘に頼らざるをえませんでした。
しかし、このノウハウは一朝一夕で後継者に伝えられるものではなく、技術を伝承する方法もなかったため、結果的に後継者や新規農業従事者が育成できない事態に陥っています。
そこで、熟練の作業者のノウハウを、AIによりビッグデータ化および分析することで具現化し、熟練の作業者が持つ知識や勘を目で確認できるようにします。
これにより、今まで伝わり辛かった作物生産のコツを知ることができ、後継者や新規の農業従事者にも引き継ぐことが可能です。
都市型農業の発展を目指す
農業には、広大な敷地に田畑を持って作物を栽培するイメージがあるかもしれません。
しかし、IoTやAIなどの技術が進歩すれば、敷地の狭い都市部でも農業を営むことができます。
例えば、建物の屋上や使用していない倉庫などでも、適切な温度・湿度・日照管理、作物の成長管理や分析が行えれば、都市型農業も十分成立する見込みがあります。
都市型農業の発展は、作物生産量を底上げするほか、近隣の消費者への素早い供給にもつながるため、今後の普及に期待が持たれます。
海外の農業問題にも効果が見込める
アグリテックの技術および思想は、国内のみならず海外の農業問題にも改善効果を見込めます。
・食糧難を切り抜けられる
発展途上国の中には、深刻な食糧難を抱えている国もあります。また、世界的な人口の増加から、食料の供給が追い付かなくなることが予想されています。
そこで、アグリテックを活用した効率的な農業により食料生産率が上がり、低コストで十分な食料を供給できるという狙いです。
・農業従事者の不当な働き方を撲滅する
作物を先進国の海外に輸出している発展途上国では、輸出先から作物を安く買い叩かれ、その結果、農業従事者の賃金は低下し、負担の大きい作業に対し割りに合わなくなります。
このような不当な労働条件を撲滅する方法として、アグリテックが注目されています。
ICTの技術により、作業者の負担や作業効率がかなり改善され、労働条件が大幅に向上するでしょう。
アグリテックを実現するテクノロジーとは
アグリテックは、進化したICTを駆使することで実現します。以下では、アグリテックのために使用されるテクノロジーについて紹介します。
AIを利用したビッグデータによる分析
作物を栽培するにあたり、最適な環境を保ち高品質な生産を行うためにAIを活用し、センサーなどでビッグデータを構築して最適な状況の分析を行います。
これにより、熟練作業者の知識や勘のような可視化できないノウハウを数値化し、成長状況による対応や収穫時期の把握、害虫対策などを的確に行います。
この技術を利用することで、より質の高い作物生産が可能となるでしょう。
IoTによる作物の監視
IoTは、モノとインターネットを繋ぐ技術であり、田畑にセンサーを設置して作物の状況や収穫できる作物量などを監視・予測できます。
従来であれば、監視に膨大な人員や時間を割かなければならないところを、自宅にいながらにしてPCなどで簡単に監視できる利点を持っています。
ブロックチェーン技術を活用
ブロックチェーンとは
ブロックチェーンは、取引き記録をブロックとして保管し、分散したブロックを時系列順に繋げていく構造です。
これにより、各所に散らばったデータをまとめて蓄積・最適化することができます。
ブロックチェーンは、収穫した作物の生産・収穫・出荷・販売(サプライチェーン)のように分散したデータを一元して管理することを可能にします。
アグリテックにおけるブロックチェーンの活用法
アグリテックにおいては、ブロックチェーンを活用して生産から販売までのルートを透明化し、農業従事者がワンストップで把握・管理できることも期待されます。
従来では、農業におけるサプライチェーンは複雑かつ出荷後の動向が読めなかった面がありますが、ブロックチェーンの活用により作物の販売ルートの追跡も実現します。
ドローンを利用した農薬散布など
前述でも触れているとおり、ドローンを操作することで空中から適切な場所に農薬散布する技術が注目されています。
さらに、作物によっては種をまく作業もドローンに任せることができ、農業従事者における身体的負担の大幅な軽減が実現可能です。
テクノロジーの活用で農業はこのように変わる
上記のようなテクノロジーを活用すれば、農業を取巻く様々な環境を以下のように変化させることができます。
食物生産の効率化
食物の生産効率を向上させることで、おのずと生産量も増加し、幅広い地域に十分な供給を行きわたらせ、その供給量も変動なく安定を保つことができます。
農業にかかるコストやマンパワーの問題を解決し、より多くの作物を供給できれば、前述した食物自給率の向上にも繋がるでしょう。
簡潔なサプライチェーンの構築
上記で触れた農業におけるサプライチェーンは、そのルートが複雑化しています。
このため、出荷から先が不透明であるだけではなく、海外の農業従事者が作物を輸出する際、輸出先の不当な対価設定により適切な賃金を支払われないなどの問題も起きています。
アグリテックは、サプライチェーンを消費者に届くまで把握・管理することを実現し、健全なサプライチェーンの構築にも役立つでしょう。
環境への配慮
農業は、農機の使用などからCO2を排出しやすい業種です。
農林水産省がまとめたデータでは、農業を含む農林水産業により排出されるCO2量は、国内の総排出量のおよそ4分の1を占めるといいます。
これは、農機から排出されるガスをはじめとして、肥料や家畜の糞の処理などから発生するものです。
そこで、アグリテックでAIによる環境・土壌分析、CO2排出量の計測を行い、効率的なエネルギー資源の活用などを実践すれば、おのずとCO2排出を抑えることに繋がります。
アグリテックを展開しているベンチャー企業
以下では、実際にアグリテックを推進・提供しているベンチャー企業などの事例を紹介します。
温室内の環境をAIで分析
ある企業では、特に温室内を監視して温度・湿度はもちろん、水分量などの環境を一元管理うるシステムを整えています。
そして、AIによる作業記録によりノウハウを可視化し、収穫時期や収穫量、害虫発生などの予測を出し適切な対応を可能にします。
AIによる画像分析で作物の成長などを監視
こちらの企業で行っているのは、ドローンにより撮影した作物の画像を分析し、成長状況や病気の有無などを監視できるサービスです。
これにより、特定エリアに絞った薬品散布などの対応ができるほか、前年データとの比較で生産状況の把握や予測も実現します。
IoTとAIを駆使した分析・農業従事者の各種支援などを行う
ある企業のサービスは、IoTにより田畑の温度・湿度やCO2量のデータを収集し、AIに学習させて水分や日照などの環境をコントロールするものです。
さらに、IoTとAIで収集したビッグデータを活用し、スケジュールや作業計画を立案して農業従事者を経営面から支援するシステムも備えています。
ドローンとAIによる農薬散布コントロール
こちらの企業は、特にドローンから収集したデータのAI解析を得意とし、必要最低限のみの農薬散布や的確な種まきなどの制御システムを確立しています。
これにより、農薬散布のコストを大幅に軽減できるほか、ライブ映像の共有によりスマホなどで作業者に遠隔指示できる技術も開発しました。
植物工場による栽培の効率化
こちらは、屋外農地ではなく植物を生産する工場における技術サービスを提供する企業です。
植物工場により、徹底した環境管理や生産計画、流通・販売までを一元管理します。
また、ニーズに応じた生産量の調整のように、無駄なく効率的な生産が可能になり、今後の農業のあり方を変える技術として注目されています。
アグリテック活用をサポート
これからアグリテックを導入する農業従事者に向けて、ICTの基礎知識から業界の最新ニュース、さらに農業経営や行政からの情報などをまとめたプラットフォームです。
アグリテックが1から理解できるだけではなく、役に立つコラムや自分に必要なアグリテックサービスの紹介まで網羅しており、初めて農業に携わる人にも役に立つ情報が得られます。
まとめ
農業従事者がアグリテックを導入すれば、作業の効率化はもちろん人員不足への対応、ひいては国民の食生活などの充実にも役立ちます。
さらに、後継者不足に悩む農業従事者にとっては、熟練の知識や勘を具現化できることで、その技術を他の従事者に引き継ぐことが可能です。
農業従事者が持つ問題点の多くを、アグリテックで解決することができます。
これからの農業に不安を感じている人は、適宜ベンチャー企業などのサポートを受けながら、導入を検討しましょう。
創業手帳の冊子版では、農業がかかえる問題を解決するアグリテックの活用方法を紹介しています。アグリテック導入をお考えの農業従事者の方は、ぜひ参考にしてください。
(編集:創業手帳編集部)