「ボトムアップでイノベーションを起こす」“ブロックチェーン起業家” バイナリースター代表 山本氏インタビュー

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年03月に行われた取材時点のものです。

「ブロックチェーンに関わる人たちが日本で集まれる場所を作りたかった」という山本氏の目に今見えているものとは?

2008年にビットコインの論文から始まった新しい技術”ブロックチェーン”は、今や第四次産業革命の支柱とも呼ばれ、2020年から2025年にかけて年平均成長率は67.3%になると見込まれています。そのようなブロックチェーンに早期から取り組む、バイナリースター株式会社の代表取締役 山本純矢さんに、事業内容や展望についておうかがいしました。

今回は、なぜブロックチェーンに取り組んでいるのか、業界の構造、そしてこれからブロックチェーンで何をしていくのかを教えていただきました。

山本 純矢(やまもと じゅんや)
バイナリースター株式会社 代表取締役 社長
1988年生まれ。2011年に青山学院大学 国際政治経済学部を修了。その後、ベトナムで2012年にオフショア開発企業の立ち上げに参加し、3年間で120人規模にまで拡大させた。2015年9月に独立起業し、ブロックチェーン専門の開発企業Infinity blockchain labs(IBL)を設立。企業をグループ化し現在に至る。また、2019年6月より、日本最大のブロックチェーンのビジネスハブを提供するバイナリースター株式会社の代表に就任。

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ブロックチェーンビジネスからバイナリースターの代表に就任するまで

新しい技術、ブロックチェーンの盛り上がり

ーなぜブロックチェーン分野に進出するようになったのでしょうか。

山本:2015年9月にベトナムでブロックチェーン専門の技術会社を立ち上げたのが、私の現在のビジネス背景になります。

その前まで、私はベトナムにオフショア開発企業を作り、多くの受託開発をしてきました。しかし、賃金がどんどん上がっていく中で、単に受託だけだと先細りしてしまうということが当時の課題意識としてありました。何か強みを持ちたいと思っていた過程で、色々な技術を探していて、そのときにブロックチェーンという技術に出会いました。

現在、最も良く使われているブロックチェーンのひとつとなったイーサリアムが2016年2月に正式公開になっているので、私たちはそれよりも前からブロックチェーン技術を研究していることになります。

ーIT業界は、だいたい1~2年おきに新しい分野のキーワードが出てきては盛り上がり、ブロックチェーンもその中のひとつでした。盛り上がっている時には実需はほとんどなく、その後出てくるという印象がありますが、ブロックチェーンに関してはどうですか?

山本:全体的に盛り上がったのが2017~2018年です。この時は”仮想通貨”というワードで過熱していました。実は、これはブロックチェーンの第二次バブルになります。その前は、2013~2014年です。このバブルはマウントゴックス事件で冷え込みました。

ーということは、今は一段落して実需があるということでしょうか?

山本:これは、私の独自の考えですが、ブロックチェーンかどうかではなく、ブロックチェーンの中に色々なカテゴリがあります。その中で技術の移り変わりがあります。

2013~2014年は、まさにビットコインの伸びでした。このときに、ビットコインに似たような通貨が出てきました。2017~2018年のブームは、イーサリアム関連の伸びといわれていて、ブロックチェーンを活用したサービスの全体像に対する過熱でした。

その後は終わったという話がありますが、そうではなく、技術を活用することで色々なことができるようになりました。ブロックチェーンの中には様々な技術領域があり、その領域でメインフォーカスが変化していっています。

ブロックチェーンに関わる人たちはどこにいる?

ー現在は、ブロックチェーンの業界団体はありますか? どのように分かれていますか。

山本:国によって異なりますが、日本の場合は、ブロックチェーン技術そのもの仮想通貨取引セキュリティトークンと呼ばれる証券として法的に規制するブロックチェーン上の資産、というふうに分かれて3つの協会が作られています。ひとつ目の技術は、商業サイドから作られているところが大きいので、協会ではなく会社ごとに分かれています。

ービジネスをしていると、ブロックチェーンに携わっている人に会うことはまずありません。彼らはいったいどこにいるのでしょうか?

山本:オンラインにいます。エリアは関係ありません。この世界の人たちの特徴はフットワークが非常に軽いです。私たちは今まで世界中で300を越えるイベント開催などに関わってきましたが、どこに行ってもいる人がいます。

ブロックチェーンの普及を行いたい有志によって作られたバイナリースターは、私は途中からCEOとして入りましたが、アメリカのマイアミで開かれたブロックチェーンのカンファレンスが声をかけていただいたきっかけになっています。

ーバイナリースターにはどのような経緯で関わるようになったのでしょうか。

山本:海外だとブロックチェーンの拠点は色々あるのですが、バイナリースターを立ち上げる前は、オープンにブロックチェーンの人たちが誰でも集まれる場所は日本にありませんでした。世界中の人から「ブロックチェーンの人たちが日本で集まれる場所はどこ?」と聞かれてもなかったので、バイナリースターを社会貢献的に作りました。有志による持ち合いで、採算度外視でこの施設を作ったという背景があります。

国や国境のないビジネスを可能にするブロックチェーン

世界中から金融へのアクセスが瞬時にできる!

ーブロックチェーンは、金融と非金融に分かれていると思いますが、自分だけが知っているブロックチェーンのワクワク感はありますか。

山本:個人的には、お金のアクセスが世界中に瞬時にどこでもできるというのはものすごいイノベーションだと思っています。

金融というのは、お金を人の間で移動させて便利にさせるもので、お金を融通するというのが語源になっています。これは今まで人がやっていました。人がいなくなったときのお金の動き方というのはものすごく速いです。

例えば、10分で100億円集まったということが実際にありました。これは100億集まったからすごいわけではなく、それがよくわからない国の村でやっているようなビジネスに集まる可能性がある点が非常に革新的です。お金が国境を超えて個人間でいつでも移動でき、そこに誰でもアクセスできるという世界が既に存在しています。

東南アジアでも様々なスタートアップが誕生していますが、例えば日本から昔私も住んでいたベトナムのスタートアップにアクセスするのはものすごく難しいです。言葉もわからないし、ベトナムのスタートアップ文化を分かるわけがないと。しかも社会主義です。何が正しいかわからない中で投資するには、従来であれば現地の有力な人がやっているという信用に依存していました。

一方で、それがいつでも誰でもアクセスできるというブロックチェーンのインフラの上に成り立っている世界では、国や国境が関係ないビジネスが起きます。例えば、ベトナムの村で起きたビジネスに対して、ウォールストリートの金融トップからすぐに投資ができるようになります。逆に、ウォールストリートの中だけで回っていたビジネスに、ベトナムの村の人が投資して一攫千金を当てるということもできるようになります。

今までは金融マーケットが国や通貨で分断されていたものが、オンラインで繋がって今や地球という範囲になっています。それはすごく面白いところだと思います。

ーそれは仮想通貨やブロックチェーンを使った何かということなのでしょうか。

山本:どちらもです。これらは切り離せません。

仮想通貨を使うことで、ブロックチェーンによりお金があるということが証明できるようになります。それをいつでも送って受け取ることができ、いつでも現金化できる世界があります。これが金融のインフラとしては非常に大きなインパクトです。

しかも、それが現金に親しいもの、証券でも実現することができるようになっています。つまり、色々な金融商品が誰の管理がなくても誰でもアクセスできる世界というのが金融側のインフラで起きているということです。

先程のベトナムの例に戻ると、スタートアップが正しいかどうかデューデリジェンス(投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査すること)するというのはまた違う理論になります。そもそもお金を受け取ったビジネスが詐欺だったら意味ないからです。

これがブロックチェーン側のイノベーションで、信用が生まれ変わってきています。信用という言葉は、今までであれば誰かが関わります。例えば、法人や個人の信用、国の信用といった感じです。

でも、そのような信用がなくても仕組みで必ずできる領域というのがあって、今ではそれを技術的に証明できるようになってきました。もちろん全てが変わるわけではないですが、電子データが証明できる世界になっています。

例えば、銀行が背景にあるからお金があるではなくて、技術的に銀行がなくてもお金があることを証明することができます。それをはじめて実現したのがビットコインというブロックチェーンになります。

ブロックチェーンがビジネスに応用され始めたときに、「法人や個人という主体を信用しなくても技術的にできるものがある」というビジネス領域が生まれてきました。例えば、最近流行ったDeFi(分散型金融)は、人を排除しても金融が成り立つようになっています。

ブロックチェーンによって、技術的に必ず成り立つ、もしくは確率的に成り立つというビジネスモデルがたくさん出てきました。それとお金が融合すると、今まで銀行やウォールストリートしかできなかったビジネスに、モバイルですぐに参加することができるようになります。これはすごく面白いことで、金融と技術の両方が必要になってくる領域です。

ゲーム世界のキャラクターをブロックチェーン化⁉

ー今までは金融分野の話でしたが、非金融分野でこれが面白いというのはありますか。

山本:個人的には権利化、モノの権利をブロックチェーンで管理するというのが面白いと思っています。これは、色々なものに使うことができます。金融やゲーム、ファンクラブや会員権、個人情報に応用することができます。その中でもわかりやすくて面白いのが、ゲームの世界のものをブロックチェーン化するということです。

ブロックチェーンのイノベーションというのは、今まで誰かが管理することでしか証明できなかった電子データが、ブロックチェーンという仕組みにより証明できるということです。つまり、電子データにある種の信用ができました。そのデータを信じても大丈夫という確証が得られるということです。

例えば、オンラインゲームの世界でアイテムやキャラクターの所有権というものが、ゲーム会社抜きに生まれたというのは面白いことだと思っています。オンラインの世界の中にきちんとした所有権があり、ゲーム会社がYesと言わなくてもそれが成り立つというのは面白いことです。

下段から変わっていく「リバース・イノベーション」が自分にとってやりたいこと

ブロックチェーンのプロダクトハント事業とは

ーブロックチェーン開発やBINARYSTARに加えて、これから新しい事業を立ち上げるようですが、それはどのようなものでしょうか。

山本:今は、ブロックチェーン企業向けのPRとIRを自動化する仕組みブロックチェーンスタートアップのインキュベーション(事業の創出や創業を支援するサービス・活動)とアクセラレータ(既にある企業の成長を加速するサービス・活動)の支援をする仕組みを作り、それを事業化しようとしています。

ーなぜそれをやろうとしているのでしょうか。

山本:今私は、人と情報の仕組みが変わってきていると思っていて、ブロックチェーン業界でいうと、ブロックチェーンという興味関心に基づいて、場所に関係なく人が繋がり続けている状態になっています。そして、ブロックチェーンのアクセラレータがあちこちの国にいるので、彼らと相談し、ネットワーク化してオンラインに移行させようとしています。

サービスは、現在クローズドβテスト中で、2月の下旬にはオープンβ化する予定です。

ーサービスは、ブロックチェーンを使った仕組みですか。

山本:ブロックチェーン企業向けではありますが、ブロックチェーンは使っていません。

今はブロックチェーンを使った資金調達の仕組みがいくつもあり、インキュベーションの種類が増えました。一方で、その後のアクセラレーションとなると、未だにとれる手段が少ないのが現状です。要は創業時の仕組みが今までから変わったにも関わらず、それを運用する仕組みがなかったということです。私たちは、後者をメインにお手伝いします。

最近は、プロダクトハントというビジネスモデルがあり、その後のコミュニティ、ステークホルダーとのコミュニケーションが複雑化していいます。それらを、きちんとオペレーションできる仕組みを作るのが、今自分たちがやろうとしている事業です。

ープロダクトハントとは。

山本:プロダクトハントとは、プロダクトを作る人と、プロダクトに興味のある人や専門家のコミュニケーションスペースみたいなものです。

これは新しいビジネスモデルになります。日本だとあまり有名ではありません。主にシンガポールやアメリカからですが、日本に入ってきていないスタートアップの情報があり、私たちはそのような情報をもとに組み立てています。

ー場所的なものでしょうか。

山本コミュニティです。

このビジネスモデルが生まれたのが2016年で、プロダクトハントというビジネスモデルを使った「プロダクトハント」というサービスができ、そこからプロダクトハントという言葉が有名になりました。

プロダクトハントを買収したエンジェリストは、投資家とスタートアップをつないでいましたが、プロダクトハントは、スタートアップと専門家やファンをつなぎます。専門家は、コミュニティでスタートアップに対して、色々な質問をします。それを周りの人が見る感じです。「面白いプロダクトがあるね、このプロダクトクールだね」と語り合う場所です。

新しいプロダクトのことを話したい、スタートアップオタクみたいな人がいます。私たちは「このブロックチェーンの仕組みはすごくないですか?」「このウォレットすごくないですか?」という話を普段からよくするのですが、これと似ています。

「この新しいアイデアはとてもクールじゃない?」という話をするのがプロダクトハントで、その話をする人たちのことをハンターといいます。

私たちがやるのはブロックチェーンのプロダクトハントです。そして、アクセラレータやインキュベータの人たちは、現状は人手を使って多言語化して発信しています。私たちは、それを全部自動化させます。今までであれば、人を雇ったり、各国にパートタイムを雇っていたのを、自分たちの言葉でセンターから発信したら、後はそれがすべて完結するということをやっていきます。

事業の立ち上げに向けての具体的な取り組み

ー開発はどうしているのでしょうか。

山本:今は3人でやっています。私とプロジェクトを一緒に立ち上げているブラジル人、アメリカにいるエンジニアのインド人です。国籍は関係ないと思っています。

ーどうやって知り合ったのでしょうか。

山本:一緒に立ち上げを行ったメンバーはグループ内部の紹介から、エンジニアはオンラインで声をかけて知り合いました。

今は、ノーコード、またはローコードという、コーディングがあまりいらない仕組みが増えていて、私とブラジル人はその領域のオタクでした。それを使ってできることはたくさんあるのに、誰もやっていないということに気が付き、仕組みづくりをしていました。

実はこの領域にもプロダクトハントがたくさんあります。ローコード、そしてコーディングが必要ないノーコードもあります。色々なモデルがたくさん増えているのですが、あまりそのような情報が日本に入ってきません。ブロックチェーン自体もそうですし、私としては情報の分断に危機感を持っていました。それが入ってきやすい仕組みを作るのが私たちの役目です。

ー短期的にはプロダクトハントに取り組むとのことですが、長期的にやっていきたいことは何でしょうか。

山本:私自身は「人と情報」という関わりにある課題を、技術で解決することに取り組んでいます。

会社グループとしては、そもそもブロックチェーン技術が色々な産業のモデルを変革する可能性を秘めているので、それを生まれ続ける仕組みを作りたいということでInfinity Blockchain Groupというグループを作りました。

さらに、プロジェクトが集まる仕組みとお金が集まる仕組みの両方が必要なので、私はプロジェクトが集まる仕組みにフォーカスしています。お金を作る仕組みは、もうひとりの創業者がやっています。これが一緒になり、ブロックチェーンを用いた新しいビジネスやサービス、モデルが生まれ続ける仕組みをアジアからスタートしていきたいというのが、私たちが2015年からずっとやっていることです。

私はスタートアップが集まる仕組みづくり、そして彼らが伸びる仕組みというのをやるために、プロダクトハントとIRやPR、いわゆるステークホルダーとのコミュニケーションとのオペレーションをなくすということに取り組んでいます。

ーまだまだ途上の業界だと思いますが、規制を変えたいという想いはありますか。

山本:私にとって、そこはやりたいところではありません。どちらかというと、ボトムアップの方をやりたいです。リバース・イノベーションです。上段から変わるのではなく、下段から変わっていく。それがもっと生まれやすい仕組みを作るということです。

ー本日は非常にためになるお話をありがとうございました!

読んでいただきありがとうございました。冊子版の創業手帳では、さらにいろいろな起業家のインタビューを掲載しています。無料で請求していただけますので、ぜひご利用ください。

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(取材協力: バイナリースター株式会社 代表取締役 社長 山本純矢
(編集: 創業手帳編集部)



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