コロナの影響で株主総会もリモート化?!バーチャル株主総会についてスタートアップ専門弁護士が解説
スタートアップから見るバーチャル株主総会のメリットや注意点
(2020/05/11更新)
昨今、コロナ禍でバーチャル株主総会の議論が盛り上がっています。
経済産業省からも資料が出ていますが、上場企業とスタートアップを分けずに議論されていることが多いように思われます。
そこで、今回は、スタートアップの目線からみたバーチャル総会のポイントについて、国内トップクラスのスタートアップ専門弁護士事務所であるAZXの弁護士高橋知洋氏に聞いてみました。
AZX Professionals Group (AZX総合法律事務所)弁護士
2004年 東京大学文学部 卒業
2008年 東京大学法科大学院 卒業
2009年 司法試験合格 司法研修所 入所
2011年 麒麟麦酒株式会社 法務部 入社
2014年 AZX Professionals Group 入所
2017年 株式会社ブリッジインターナショナル 社外監査役 就任
2019年 AZX Professionals Group パートナー 就任
2020年 株式会社日本データサイエンス研究所 社外監査役 就任
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この記事の目次
Q1 バーチャル株主総会とは何ですか?
A. いくつかの種類がありますが、1つは、「バーチャルオンリー型株主総会」と呼ばれるもので、リアル株主総会を開催せずに取締役等と株主がすべてインターネット等の手段を用いて株主総会に出席するものです。
しかし、現行の会社法では株主総会の「場所」を定める必要があるとされているため、解釈上難しいとされています。
現実的に議論されているのは「ハイブリッド型バーチャル株主総会」と呼ばれるもので、リアル株主総会とオンラインを組み合わせたものです。
さらに、ハイブリッド型バーチャル株主総会は大きく2つに分類されます。
①ハイブリッド参加型バーチャル株主総会
(株主が株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会)
②ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
(株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会)
Q2 スタートアップがバーチャル株主総会を導入するメリットはありますか?
A.ケースによりますが、あるといえます。
一般にバーチャル株主総会のメリットは、株主の出席機会の拡大や株主との双方向の議論の拡充であるとされています。このメリットは、スタートアップにも当てはまる面があります。
スタートアップでは、普段から「株主総会を会場で開催して株主が参加して議決権を行使する」という、いわゆる上場企業でイメージされる株主総会を開催している例は少なく、多くは書面のやり取りのみで完結している例が多く見受けられます。
株主総会を、会社と株主との対話の場であると位置づけるのであれば、書面のやり取りで完結している状態は望ましくはないでしょう。そのため、双方向の議論拡張がもたらされるバーチャル株主総会は、スタートアップにも導入メリットがあるといえます。
ただし、株主から役員が派遣されていたり、株主間契約で株主の意向を問うことが義務付けられていたりして、普段からコミュニケーションを取っているスタートアップも多いため、導入の必要性が高いかと言われると、ケースバイケースという回答になるかもしれません。
Q3 現状、スタートアップではどのような株主総会が開かれているのでしょうか?
A.「現実開催」と「書面決議」に分かれます。
「現実開催」は、実際に会社の会議室などでリアル株主総会を開催するため、株主の当日出席が可能です。
しかし、スタートアップの株主は実際に株主総会には参加せず、委任状により事前に議決権を行使することが多いと思われます。場合によっては、電話やメールなどで決議の内容を事前に問い合わせた上で議決権を行使することもあるでしょう。
「書面決議」とは、「決議事項に関し株主全員が事前に書面等で同意した場合には決議があったものとみなす」制度です。株主全員が同意する必要があるという要件がありますが、スタートアップのクローズドな株主間であれば、事前に株主の意向を確認することも可能なため、比較的よく用いられている印象です。
よく混同される方が多いのですが、「現実開催」の委任状による議決権行使はあくまで議決権の行使を第三者に委任することを書面で意思表示しているのであって、書面決議とは根拠条文も異なります。
Q4 バーチャル株主総会を導入する際の事前準備の注意点は何でしょうか。
A.Q1の①参加型でも、②出席型でも、まずは開催側の責任で通信障害が発生しないようにすることです。
バーチャル株主総会は株主と開催場所で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることが前提になりますので、通信障害が発生すると、株主総会の開催に瑕疵があったとして、決議取消の対象になりかねません。
この点、裁判例の蓄積などを経ないと確実なことは言えませんが、スタートアップの実情を踏まえると、一般的に信頼性が高いとされているオンライン会議システムを採用することで会社側の責任は果たしたと言えるのではないでしょうか。
その他、リアル株主総会の開催場所と共に、株主総会の状況を動画配信するインターネットサイトのアドレスや、インターネット等の手段を用いた議決権行使の具体的方法などを招集通知に明記するようにしましょう。
また、株主がインターネット等の手段を用いて株主総会に出席したり、議決権を行使したりするための方法の明記も必要になります。
Q5 バーチャル株主総会を実施する際の注意点は何でしょうか。
A.①参加型の場合は、基本的には株主が開催場所の様子を閲覧できるようにしておけばよいと考えます。
②出席型の場合は、オンラインでどのように議決権の行使に参加させるかということを検討する必要があります。
大企業の株主総会であれば、IDやpasswordなどで誰が議決権行使したかを管理し、賛成・反対を集計するシステムを構築する必要があるでしょう。
スタートアップの場合は、株主数が限定されているので、オンラインで誰が議決権を行使しているかを確認すれば足りると考えます。
また、株主から質問がされる場合において、上場企業の株主総会では、多数の株主がオンラインで質問を行うことにより議事の運営に支障が生じることが想定されるため、事前に質問を受け付けるなどの工夫が必要です。
スタートアップでは特にこのような整理をしなくても、当日オンラインで行われる質問に回答すればよいものと考えられます。
その他、②の出席型の場合は、事前に委任状を提出した株主が当日オンラインでも議決権を行使した場合は、当日の議決権行使の効力を優先するといった取扱いを定めておくとよいと考えます。
Q6 オンラインでの議決権行使は現行法上でも可能なのでしょうか。
A バーチャル株主総会でのオンラインでの議決権行使は可能です。
ここが少しややこしいところなのですが、実は会社法上には従前から「電磁的方法による議決権行使」(会社法298条1項4号)というものが定められています。
「電磁的方法による議決権行使」は株主総会の当日前にオンラインで議決権を行使できるというものです。これを導入する場合、参考書類の交付など付随的な義務が発生します。
少し法律を知っている方だとこれと混同しがちですが、バーチャル株主総会でのオンラインでの議決権行使はこれとは異なり、株主総会の当日にリアル開催されている株主総会においてオンラインで議決権の行使ができるというものです。
これは特別な会社法の規定があるわけではなく、現行の法律の解釈で可能とされています。
なお、注意点として、株主総会議事録には、株主総会の開催場所に存在しない株主の出席の方法を記載する必要があるため、オンラインで出席した場合にはその旨を議事録に残す必要があります。
Q7 スタートアップにおいてバーチャル総会のハードルは高いでしょうか。
A 高くはないと考えます。
バーチャル株主総会に関しては、以下の資料が経済産業省から出ており、網羅的に要点を抑える上で参考になります。但し、上場企業の株主総会を想定した記述も多く、スタートアップには当てはまらない事項も多いと思います。
これを読んで「バーチャル総会、ハードルが高いな…」と思われた方は、会社の実情にあわせて、ここに記載してあるリスクがどの程度自分の会社で当てはまるかという観点から読むとよいと考えます。
たとえば、17ページ目に記載の「なりすましの危険」などは、スタートアップの顔の見える間柄では低いリスクだと考えます。
スタートアップでは、普段行っている書面中心の株主総会に加えて、オンラインで当日経営陣と対話できる機会を増やすという目的で、あまり気負わず導入を検討されてもよいのではないでしょうか。
オンラインという手段もスタートアップに親和的ですし、これを機にスタートアップから新しい株主総会の形が広がっていけばいいなと思います。
バーチャル株主総会におけるメリットや注意点がお分かりいただけたと思います。リモートでありながらも株主総会を経営陣と株主の双方向で築き、きちんと決を採るための準備を事前に知ることで、慣れないバーチャル株主総会をスムーズに行うことができるのではないでしょうか。
しかしながら、現行法に照らせ合わせながら経験のないことを執り行うのは大変困難です。
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(編集:創業手帳編集部)
(監修:
AZX Professionals Group AZX総合法律事務所/高橋 知洋弁護士)
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