フォースバレー・コンシェルジュ 柴崎洋平|優秀な人材を獲得できるかは創業時に決まる!採用コストを抑えて人材不足を解消

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年02月に行われた取材時点のものです。

年間5~6万人の高度人材が入国。世界各国の優秀な人材を採用する方法とは?

フォースバレー・コンシェルジュの代表取締役社長である柴崎さんは、「自分の力でゼロから事業を作り、結果を出したい」とソニーを退社し、起業を決意。10年かけて30か国1,000近い大学を直接訪問し、世界中から優秀な人材をリクルーティングしています。

先進国で最も高度人材に就労ビザが出やすい日本だからこそできる、楽天やYahoo!が活用する『採用コストを抑えて優秀な人材を獲得する方法』を創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

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柴崎洋平(しばさき ようへい)
フォースバレー・コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長

1975年東京生まれ。1998年上智大学卒業後、ソニー株式会社に入社。2007年にソニー株式会社退社後、同年にフォースバレー・コンシェルジュ株式会社を設立。2013年にGlobal Leaders 2013選出、同年より上智大学非常勤講師(~2016年)、2018年に世界経済フォーラム(ダボス会議)にてパネルディスカッション登壇、2013・2017・2019年に厚生労働省の外国人材雇用対策に関する研究会委員就任。2019年より一般社団法人外国人雇用協議会 理事に就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役

大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

世界各国からリクルーティングを行う人材事業

大久保:人材ビジネスをメインに展開されていますが、改めて事業の概要を教えていただけますか。

柴崎:我々は非常に珍しい事業モデルで、国を越えて、世界中からどんな人材でもリクルーティングしてくる会社なんです。創業後10年は高度人材だけを扱っていたのですが、今はブルーカラーワーカーも扱っていて、日本のトップIT企業に入る高度IT人材から農業や製造工場で働くワーカーの方まで、約30か国からリクルーティングを行っています。

人材会社は数多ありますが、売り上げ10億円以上規模でこういう内容に特化している会社は日本で我々だけです。

大久保:具体的には、どのような国からリクルーティングされているのですか?

柴崎:中国、韓国、香港、台湾、ベトナム、インドネシア、ネパール、インドなど、アジアを中心に様々な国からリクルーティングしています。

大久保:海外から人材を獲得してくる最大のメリットは何でしょうか。

柴崎:企業が人を採用する際は人材会社を使うのが一般的です。仮に、東京の人材会社を使うとすると、採用コストは年収の35%かかります。しかし、世界の平均は多くても14%といわれているので、日本は世界の約2~2.5倍のコストがかかるんです。会社を興して拡大していきたいときに、日本の減りゆく人口の中から競り合うのか、世界の豊富な人材の中から採りたいジャンルの人を採用するのかで採りやすさが全然違います。

特にITを中心としたエンジニア系については、世界から日本への人材獲得がしやすいので、楽天やメルカリ、LINE、Yahoo!などの会社が我々を介して世界から人材を採用しています。ただし、英語で採用を行うことや、日本語が流暢であることを求められないといった条件で採用する日本企業が少ないことはネックではありますね。

大久保:日本語の制約だけ外せば、わりと世界から採れるということですね。採用の戦略が根幹から変わってくると。

柴崎:そうです。なぜ楽天が英語を公用語化しているかというと、ITの会社として、優秀なIT人材を確保するためなんです。ITエンジニアは世界に2千数百万人いて、そのうち約百万人が日本にいるのですが、日本語が話せるのはその約百万人だけ。でも、英語にした瞬間に数千万人にアクセスができます。

そのため、IT関連の会社は特に、局所的でも英語の社内公用語化を導入するか否かを創業時に判断することが大切です。創業時に判断しないと、日本的な日本語企業になっていくので、後から海外の人材を採用しようとしても難しくなってきます。

ITで事業を興していくなら、エンジニアの確保やその後の世界展開を含め、全員でなくても一部のチームは英語で運用できるようにしておくべきだと思います。そうするだけで、採用の母数や有効求人倍率が一気に変わります。

大久保:プログラミングも英語みたいなものですし、プログラマーの方は同じプログラミング言語を用いるので、そこまで言葉が流暢じゃなくても話が通じますからね。

優秀な人材とのビジネス経験から、事業の着想を得る

大久保:起業されたきっかけや理由についてお話いただけますか。

柴崎:祖父が会社を経営していたので、幼い頃から経営に興味があり、学生時代には25歳くらいで起業しようと考えていました。
でも実際に起業したのは32歳の時で、当初の予定よりも遅くなりましたね。それは、新卒で入社したソニーのサラリーマンライフが楽しくて不満がなかったんです。
ベンチャースピリットが非常に溢れている会社で、『誰かがやっていることはもうやらない。最初に何かをやることが大事』という考えを注入してもらいました。

ただ、ソニーというブランドが強すぎて、ビジネスが成功しても自分の力とは到底思えなかったんですよね。『自分たちで何かをゼロから作り、結果を出す』ということをやってみたいという思いがソニーにいたからこそ強くなり、起業を決めました。

大久保:ベンチャー企業で経営手腕の経験を積むなどはせず、すぐ起業されたのですね。

柴崎:はい。当時は起業する年齢が遅くなったという思いが大きかったので、どこかのベンチャー企業で経験を積む時間はないなと。「早く勝負しなきゃ!」という思いでしたね。

大久保:外国人材採用支援事業をメインにしようと思われた理由は何ですか?

柴崎:ソニーで携帯電話内蔵カメラの商品企画や経営企画を担当していた際、ノキアやモトローラ、サムスンなど、世界有数の携帯電話会社とビジネスを行っていたんです。色々な国を飛び回り、自分よりはるかに優秀な人材を見ているうちに「こういう人材を国を越えてリクルーティングできたら、どんなすごいチームになるんだろう」と考えるようになりました。
このモデルで勝負したいと思ったのは、ソニーで世界中の人材と出会い、一緒にビジネスをした経験からですね。

人材業界は何兆円という巨大産業で、企業数は個人事業主を含めて無数にあるのに、当時の日本では国を超えたリクルーティングをやっていなかったんです。ソニー本社でさえも見渡す限り日本人ばかりで。そこにチャンスを感じ、「国を越えて働きたい」という人たちを結ぶプラットフォームになりたいと考えました

大久保:ちなみに、社名の『フォースバレー』の由来は何ですか?

柴崎:大学時代はアメフト部に所属していたのですが、人生で一番気合いが入っていた時期だったんです。起業するにあたり、オフィスをどこにしようかと考えた時に、自分の後輩たちが練習しているグラウンドの横を通って毎日出社すれば「今の自分は、あの時の自分より気合いが入っているか」と問い続けることができる。そんな思いからオフィスを四谷におき、社名も『フォースバレー』にしました。

日本は高度人材の就労ビザが出やすい国

インド工科大学ハイデラバード校での日本就職セミナーの様子

大久保:海外からのリクルーティングは、どのように開拓していったのですか?

柴崎:最初の10年で30か国1,000近くの大学を直接訪問し、「日本就職セミナー」を毎年開催していることが一番大きいですね。何かのイベントに便乗したことは一度もなく単独開催でありながら、アジアの大学ランキング1位(「QSアジア大学ランキング2022」より)のシンガポール国立大学や、インド工科大学など世界有数の大学の学生が大勢集まってくれるんです。

海外の学生からすると、我々は「リクナビワールドワイド版」なので、後輩たちも毎年弊社に登録してくれる流れができています。そのため、2021年11月時点での累計登録者数は、世界186の国と地域で約40万人に上ります。

しかし、この実態を日本企業の方はあまりご存じなく、「優秀な人材はみんなアメリカに行くでしょ」と考えがちなんです。でも、アメリカはビザが出ないんですよね。その点、日本にはチャンスがあるので、そこに目をつければ少なくともIT系の人手不足は一切なく起業ができます。

大久保:アメリカはビザが出づらいんですね。

柴崎:はい。大企業の駐在員は別として、イギリスもオーストラリアもほぼ出ません。先進国のうち、最も高度人材に就労ビザが出やすい国は日本なんです。仮に、大久保さんがアメリカの企業に転職しようと思い、内定が出たとしてもビザがなかなか下りないんです。ビザが出るための証明が大変で、アメリカ人ではそのポジションを担う人が一人もいないと証明しなくてはいけないので、勝負できる人はかなり限られています。

そのため、就職先の第一希望は日本ではないものの、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、シンガポールと英語圏がほとんど消えていくので、我々が日本に呼び込めるんです。

大久保:なるほど。20~30年前であれば、日本のマーケットも魅力があったと思うのですが、今は何を魅力に思って応募してくるのでしょうか。

柴崎:給料が10倍になるのが魅力です。例えば、インド全土の初任給平均は、日本の約10分の1で約2万円です。そのインドから日本に来て、初任給20万円、IT起業で30万円もらえるならそれは大変魅力的なことなんです。

現在、日本の一人あたりGDPは約40,000ドル。約4,000ドルがインドネシア、約3,000ドルがフィリピンとベトナム、約2,000ドルがインド、約1,000ドルまでの間にミャンマー、バングラデシュ、カンボジア、そしてネパールと続いています。そのため、我々が一番力を入れている国はネパールです

つまり、ネパール最大の大学であるトリブバン大学など、最高学府の優秀なITエンジニアであっても初任給は2万円ほどなので、「日本で働きませんか?富山県で初任給は15万円です」という条件でも応募があります。

日本の人口が減っていても、世界の新興国・途上国の若者は増え続けていて、初任給は1~4万円ほどです。この経済格差・所得格差を活かして世界からリクルーティングしているのが我々のモデルです。

大久保:日本に入国してくる高度人材は、年間どのくらいの人数なのですか?

柴崎:コロナウイルスの影響で入国が制限される前は、年間5~6万人、累計30万人ほどです。ちなみに、日本の高度人材年間ビザ発行数は、オーストラリアやイギリスの倍です。日本の労働人口は減っているものの、ビザは非常に出やすい国なので海外から採用しない手はないですし、採用側としてこのチャンスを活かさないのはもったいないと思います

大久保:コロナ禍で渡日できない問題については、どのように解決されていますか?

柴崎:解決方法としては2点ありまして。まず一つは、すでに日本に入国している外国人に向けて企業へのマッチングを強化しています。

そしてもう一つが、『peopleトランスファー』から『jobトランスファー』への移行です。今まで人材をトランスファーしていたのを、業務を移動させればいいと。コロナ禍ではリモートが当たり前になってきて、特にIT系企業ではほとんどの人がリモートで働いています。インターネット環境さえしっかり整っていれば、東京近郊で働くのと、インドのデリーで働くのと違いはないはずなので、国境を越えて世界中の人材を獲得しています。今後、入国制限が緩和されたら、そのとき入国すればいいですし。場合によっては、コロナ終息後も入国せず、ずっと遠隔で働く形でも良いのではないかと考えています。

外国人を対象とした事業のビジネス化

ネパール/トリブバン大学での記念撮影

大久保:実は、創業手帳を立ちあげて2年目くらいにフィリピン法人を立ち上げたことがあります。

柴崎:そうなんですか!?

大久保:当時、フィリピンの大卒初任給が約4万円だったことから、単純に従業員の頭数が10倍だったらと考えたんです。結局、日本とフィリピンを同時にオペレーションするのが大変で閉鎖したのですが、海外に目を向けるとハングリーな人はたくさんいるので、そういう方たちを国力として上手く取り込めるといいですよね。

柴崎:そうですね。現在行っているjobトランスファーは、ネパールの優秀なエンジニアを日本に連れてきて採用していた時の5分の1ほどのコストで採用できています。
そのため、コスト面では現地で採用するパターンもメリットが大きいですね。ただ、大久保さんがおっしゃったようにリモートでのマネージメントは大変なので、コロナ収束後は日本での採用が一気に増えると思います。

大久保:外国人の定着率はどのくらいなのでしょうか。

柴崎:日本人より良いケースが多いです。理由はシンプルで、初任給1~2万円の東南アジアや南アジアから日本に来て初任給20万円もらっている人は、そうそう待遇に不満を感じないんですよね。

ただ、元々日本より圧倒的に給料の高い欧米から来ている人や、日本とほぼ同水準の東アジア・中国・韓国・香港・台湾などから来ている人など、どの国から来ているかによって定着率は変わります。今後我々がメインとしていく東南アジア・南アジアの人たちでいえば、定着率は高いです。

大久保:外国人が日本で働くにあたり、例えば賃貸の借用が難しいなどの問題はあるのでしょうか。

柴崎:日本で働く外国人を対象とした事業がビジネス化してきたことにより、外国人の住みやすさは改善してきたと思います。賃貸の借用に関していえば、外国人向けの賃貸保証や保証人代行を行う会社が出てきています。

大久保:なるほど。ビジネスでカバーできているのですね。

柴崎:はい。ただし、技能実習生が暴力を受けているニュースがあったように、ブルーカラーワーカーを求める企業の中にはモラルが低い企業もあるので、そこが課題ではあります。
工場などで働く技能実習生は高度人材よりもはるかに多く約40万人います。
弊社はホワイトカラーワーカーからブルーカラーワーカーまで幅広く扱っているのですが、高度人材に関しては問題が起きていないんです。ブルーカラーワーカーに関しては、介護や建設など人手不足の業界にとってありがたい存在ではあるものの、コンプライアンス問題が発生しやすいのが日本社会での問題ではあります。

大久保:日本だけでなく、アメリカやドイツなど、どこの国でも優秀層と単純労働層のうち、優秀層に関しては企業側・労働者側どちらもあまり問題が起こらないものの、単純労働層では互いに問題が起こりやすいですからね。

柴崎:そうですね。

低コストで、優秀な人材を採用するサポートを

大久保:2007年に起業されたので、今年で設立15年目ですね。今後、どのような事業展開を考えられていますか。

柴崎:実は今、初めての資金調達をしています。外国人マーケットが大きくなるまでは自前でいこうと思っていたので、創業以来初めてです。コロナ収束後はこのマーケットが爆発的に戻ってくると理解を示してくれる投資家が多く、新規サービスの展開を進めています。

今後も、世界中を飛び回って良い人材を獲得するグローバルな採用代行活動は続けていくのですが、ビズリーチの外国人ブルーカラーワーカー版(connect job WORKERS)や留学生版(connect study ABROAD)などをリリースしていまして、現在、外国人ブルーカラーワーカー版は日本最大の登録者数を誇っています。

登録者には、身分証明書や検定合格証明証を登録してもらっているので、企業側は応募者の登録内容が正しいかを確認できますし、求める人材を検索できるようになっているので、日本語検定合格者に絞って求職者を探すことや、スカウトを送り、直接アプローチすることもできます。

高度人材版(connect JOB)も2022年4月にベータ版をリリースし、7月頃から本格的に始動させる予定です。今後さらにシュリンクする日本のマーケットの中から人材を奪い合うのではなく、世界の豊富な人材の中から、コストを抑えて優秀な人材を採用するサポートを行っていきたいと考えています。

冊子版創業手帳では、人材採用についての情報も掲載しています。資料請求は無料ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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(編集:創業手帳編集部)

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(取材協力: フォースバレー・コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長 柴崎洋平
(編集: 創業手帳編集部)



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