ウミガメ 松下勇介|歯科医院のマーケティングや経営を支援!患者と技術力の高い名医の出逢いを最適化する

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年10月に行われた取材時点のものです。

歯科医師から相談を受けて2社目の起業を決意。こだわったのは同じ想いを持つ人の採用


歯科医院を対象にマーケティングDXサービスを提供するウミガメ株式会社は、2018年の設立からわずか6年で3,300医院のデジタル化を実現しました。

創業者の松下さんはウミガメ株式会社の他にも、動画テックの会社である株式会社AtoOne(エートゥーワン)を2014年に設立しています。

そこで今回は松下さんに、ウミガメ株式会社や株式会社AtoOneを設立した経緯、2社の経営でこだわっていること、今後の展望などをお伺いしました。

松下 勇介(まつした・ゆうすけ)
ウミガメ株式会社 代表取締役、株式会社AtoOne 代表取締役
業界トップクラスのSEO対策・MEO対策・SNS運用/SNS広告・リスティング広告・メディア運営のインターネットマーケティングを軸にこれまで上場・未上場企業を問わず直近3決算期の収益(売上高)成長率で3年連続国内TOP5に選ばれる企業を作り、また1000万人以上の方が見るサイトを3つを立ち上げ運営した経験がある。
現在は、大手広告代理店様のインターネットマーケティングの研修を行ったり、成長企業のマーケティング戦略のお手伝いをしている。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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親族のほとんどが経営者。子どもの頃から起業が身近だった


大久保:松下さんは、子どものころから起業をしようと考えていたのですか?

松下:子どもの頃から「起業したい」と考えていたわけではないのですが、親族のほとんどが起業家ですので、身近ではありました。

大久保:新卒で入社された会社はコンサルですよね。どのような業務を担当されましたか?

松下:主にM&Aが終わった後の「PMI」と言われる業務を担当していました。具体的には、経営体制はもちろん、経理や人事、システム、従業員の意識の統合、重複している事業の整理整頓などをして、1つの会社として定着させる支援です。

そのため、メインのお客様は大企業やメガバンクでした。

大久保:PMIを経験すると、経営の根幹を知ることができるのではないでしょうか。

松下:そうですね。僕の親族には起業家が多いとお話ししましたが、数千人規模の会社の社長から個人商店規模の経営をしている人までいて、それぞれの会社規模はバラバラなんです。

でも、親族の悩みはだいたい同じで、「人」「お金」「事業が成長するか」の大きく3つだったんですよ。コンサルのPMIに配属されて経験を積んだことで、親族が言っていたことがよくわかるようになりました。

大久保:その後、スタートアップに転職された理由をお伺いできますか?

松下:最初は、起業の成功確度を高めることができると思っていたコンサル会社で働くことを選んだんです。

ところが、コンサル会社で担当したのは大手企業ばかりで、いい意味でも悪い意味でもかなり整った環境でした。そのような「大手の感覚」では起業しても成功できないなと感じて、スタートアップにいこうと考えたんです。

経験を積むために、コンサル会社からスタートアップへ転職


大久保:転職先のスタートアップは、どのような基準で選びましたか?

松下:「創業したばかりの会社」であるかどうかで選びました。「なにも決まっていない会社」へいって、創業者と同じような経験を積みたかったからです。

実際に入社したのも創業したての会社で、日銭を稼がなければならないような状況でした。そこで事業を選択するところからできたのは、いい経験になっています。

大久保:当時はスタートアップにとって、かなり厳しい時期ですよね。

松下:そうなんです。僕がコンサル業界に入ったタイミングでリーマン・ショックがありまして。少し落ち着き始めた2010年にスタートアップへ転職したのですが、創業したばかりの小さな会社には厳しい時期でした。

と言いますのも、リーマン・ショックの余波で銀行も大手もお金を出しませんから、借り入れも引き合いも実現しにくい状況だったんです。

大久保:やることが決まっていないスタートアップは、経営を安定させにくいと思いますが、実際はいかがでしたか?

松下:それが、最初に立ち上げた「太陽光や自然エネルギーも含めた電気代の比較サービス」がうまくいったんです。

大久保:立ち上げた当初は、太陽光発電の助成金がスタートしたころですか?

松下:いいえ。まだ助成金も出る前で、太陽光発電も普及していない状態でした。

ただ、太陽光の自然エネルギーの需要が高まっている中で事業としてかなり伸びるだろうと考えていましたし、そのうえ化石燃料などの世界的な課題解決にも繋がる点で、太陽光発電の事業をやろうとなりました。その中でも、太陽光発電やエネルギの一括見積もり比較サービスを選びました。

立ち上げから3年ぐらいで事業がかなり伸びまして、デロイトトーマツが出している「Fast50」という企業の評価ランクでは、3年連続でトップ3を獲得しました。

そのころの成長率は、昨年度対比で1,620%アップするような状態になりました。

大久保:太陽光の導入は制度の変更で伸び悩みましたよね。

松下:そうですね。買い取り制度の「買い取り金額」が驚くほど下がっていった結果、太陽光発電の導入が激減し自分たちのサービス利用者も減少していきました。

その当時の太陽光発電の導入が、電力の買い取り制度を利用した投資商品として設置された方が多く、屋根に付けて自家発電する目的で付けるのではなく、「利回り何%」という投資商品として見られていたためです。

実際、小口の家庭用の太陽光発電の導入や事業として産業用太陽光発電を導入した企業も採算が合わなくなって撤退するところも増えていました。

太陽光に関わる僕たちのような比較サービスの他、工事会社やメーカーも倒産する会社と撤退する会社が続出しました。

大久保:イノベーションや環境変化で、業界や業界の特定部分が突然なくなってしまうことは、IT業界には起こりうるリスクだと思います。それを身をもって経験されたわけですね。

会社を立ち上げてこだわったのは「人の採用」


大久保:その後、松下さんは株式会社AtoOneを立ち上げておられます。動画制作などのマーケティング支援をする会社と伺っていますが、立ち上げてからは順調でしたか?

松下:動画市場がこれから盛り上がっていくという状況もあり、立ち上げてからは比較的順調に進んで行きました。

大久保:スタートアップに入ったことが活かされたのでしょうか?

松下:はい。最初に一緒に仕事をすべき人、入れておくべきツール、システム化しておくべきところなど「最初に必ず押さえるべきこと」がある程度わかっていたので、創業時の苦労は少なかったかもしれません。

大久保:立ち上げ時から採用にこだわったんですね。

松下:これまでの会社経営や新規事業の立ち上げの中で、「人」で苦労した経験があったからです。

気持ちがずれている人が最初に入ってくると、その人と意識をすり合わせるためのコミュニケーションに時間を取られてしまいます。さらに、一生懸命話し合いをしたとしても、ついてこれなかったり辞めてしまったりすることも多いんです。すると、新しく入ってくる人たちにまで悪影響が出ます。

だから、最初に一緒に仕事をする人は、スキルよりもマインドを重視しました。「何をやりたいか」「なぜそれをやるべきだと思うのか」が、自分と似ている人たちを採用しました。

大久保:それ以外にも、創業時に力を入れたことはありますか?

松下:サービス設計にはこだわりました。

会社を立ち上げたころは「YouTuber」という言葉もでてきたばかりで、SNSマーケットができあがっていなかったので、市場規模の換算もできませんでした。

でも、SNSのニーズが高まっていくことはわかっていましたから、市場さえ成長すれば顧客の数も増えてくると予想できました。だから、先に運用フローやサービス設計を固めたんです。

当時僕たちは「SNSを使って何をやりたいのか」を考えて、「採用」「集客」「ブランディング」の3パターンがあると気づきました。それらにSNSを活用する場合は、今使っているコストの転換が必要になると予測し、「どこが一番スイッチングコストが安いのか」「SNSを始めようとするお客様に刺さるキーは何か」を、とにかくヒアリングしました。

ボランティアから2社目の起業へ。歯科医院のマーケティング支援をスタート


大久保:次に「ウミガメ株式会社」という新しい会社の立ち上げもされています。どのような経緯で2社目を起業されたのでしょうか?

松下:医療系の事業に携わりたいという思いはずっと持っていたのですが、自分から動いてはいませんでした。そんなとき、以前顧客として関わっていた寺尾から「歯科医の先生とご飯に行きましょう」と誘われたのがきっかけになりました。

大久保:寺尾さんは、ウミガメ株式会社を一緒に起業された方ですね。

松下:そうです。寺尾はもともと歯医者さんの勉強会や手技をDVDで販売したり、セミナー開催を支援したりする会社の社長をしていました。ただ、具体的な話はできていなかった状況で、歯科医師の先生とご飯に行き、その先生から歯科医師業界の話をいろいろ聞いたんです。

大久保:どのようなお話でしょうか?

松下「歯科医院にIT系の会社が営業には来てくれるけど、歯科だけに特化してる会社は少ない」「彼らは経営を上手に行なっている歯科医院の支援はしてくれるけれど、そうでない会社は違う」といったことですね。

さらに興味深かったのが、さらに興味深かったのが、「腕がある先生は経営が下手で、経営が上手な先生=腕が良いというわけではないんだ」という話です。どうにかしたいけれど、自分は歯科の技術を教えることはできても、経営は上手く教えることはできないと。

だから、「僕が力になれることがあれば、お手伝いします」と伝えたんです。すると数日後にメールで、「この先生が困っています」というパスをもらいまして。

それから、歯医者さん何人かとお会いして困っていることをヒアリングしてみました。その結果、歯医者さんの悩みは「患者さん集め」と「働いてくれる人の採用」の2つだとわかったんです。

そこで、困っている歯科医院の「集客」と「採用」の2つをお手伝いしたところ、ありがたいことに結果が出ました。

大久保:その支援は、費用を取られていたのでしょうか?

松下:そのときはボランティアでした。その後、結果が出た歯科医院から「この先生も困っています」と次々と歯医者さんを紹介されるようになりました。

そこで寺尾に「これだけの需要があるから、一緒に事業として立ち上げよう」と持ちかけてスタートしたのが、ウミガメ株式会社です。

大久保:そもそもお客さんがすでにいたから会社を立ち上げたのですね。スタートアップの教科書の真逆ですね。

松下:そうなんですよね。最初から口コミで広がっていたので、初年度でお仕事をいただいた医院の数だけでも400ほどありました。

資金調達の好機は「お金さえあれば事業が成長する」と確信できたとき

大久保:2社の立ち上げや経営をご経験されてきて、お金のご苦労はなかったのでしょうか?資金調達はしましたか?

松下:エネルギーのスタートアップのときはベンチャーキャピタルで資金調達をしました。市場の成長が僕らが予測したよりも早かったので、ついていくための選択でしたね。残念ながら衰退するのも早かったのですが。

一方、起業した2社では資金調達は実施していません。これは個人的な意見ですが、「お金さえ入れたら事業が伸びる」というかなりの勝算がある状況になって初めて、資金調達すべきだと思っています。

スタートアップでは、プロダクトを作るときや、グロースしたタイミングで資金調達することも少なくありません。でも、「調達したけれど効果的な使い道がない」「お金を使ったけれど予測したほどの結果が返ってこない」ときが一番不幸です。

お金以外の本質的な課題が問題だったことになりますから、仮説の一段階、二段階前に戻る作業をしなければなりません。それは、資金を調達した側も資金提供した側も良い結果にならずに誰も得しないと思っています。

大久保:かなりの勝率がなければ、資金調達はされないということですね。

松下:99%とまでは言いませんが、高確率で何倍にも成長できるときに調達した方が、自分たちも次のラウンドへ行けますし、自分たちの株式の価値を上げられてお返しもできますから。

腕のある歯科医師と患者さんの出会いを増やしたい


大久保:最後に、ウミガメ株式会社の今後の展望をお伺いできますか?

松下:創業の経緯でもお話ししたように、弊社は歯科医院のマーケティング支援から始まり、今でもその分野で成長を続けています。

ただ、それだけでなく人生100年と言われるこの時代に、歯科の先生方の支援を通して「患者さんのQOLを上げたい」と考えるようになりました。

「経営が得意な先生は、必ずしも患者さんの期待に応える治療技術を持っているわけではない」というものがあります。これは、起業のきっかけになった先生もおっしゃっていたことでした。

だから我々は、専門の修了認定書を持っておられる高い技術を持っている先生や、歯科業界のスタディグループなどで勉強を続けている先生に絞ってご支援することを決めました。「治療技術がある、または、治療技術を上げることを研鑽されている先生と患者さんの出会いを増やすためのマーケティング支援」を広げていきたいと考えています。

大久保:そのために、新しく始めた事業はありますか?

松下:直近では歯科予約サイトをスタートしました。「この時代に予約サイト?」と思われるかもしれませんが、腕の良い歯医者さんに簡単に出会える予約サイトが見当たらなかったという点で始めました。

もちろん歯科業界にもすでに多くの予約サイトが存在していますし、それらのサービスが悪いわけでもありません。

ただ、それらの予約サービスでは、どの歯科医院にいけば、自分の治療に対する専門医がいるかどうかや、腕の技術が良いかどうかがわからないんです。家の近くにあって口コミは良いけれども、それはサービスの内容に対しての情報で、先生の専門が何なのか、腕が良いのかの情報ではないため、分からないという方も多いのではないでしょうか。

歯科の領域でも、大きな病気に発展することもあります。口コミが良いからと通った歯科で適切な治療がなされず、悪化してしまっては大ごとですよね。

だから、そのような問題を解消するための予約サイトを始めました。

大久保:起業1年目くらいの方へメッセージいただけますか?

松下:起業したての方に、僕が覚えておいてほしいと思うことを3つお伝えします。

1つ目は、最初だからこそ、誰と働くかを大切にしてほしいと思います。自分の仲間もお客様もそうなのですが、誰と働くかは「明るい未来」になるのか、「悲惨な未来」なるのかの分かれ道になるからです。

2つ目は、1年目だからこそ何でもやってみてほしいです。もちろん、僕にとっての動画事業のようにプロダクトマーケットフィットを考えたからうまくいくケースもあります。

でも、ウミガメ株式会社のように後々「プロダクトマーケットフィットってこういうことなんだ」と知るケースもあるわけです。ただ、どっちが正解でもありません。結果うまくいけばいいんです。やったからこそわかることもありますから、1年目はとりあえずやってみることが成功確率を上げるのではないかと思います。

3つ目は、単純に楽しむことです。僕もたくさんの経営者の方とお会いしてきましたが、経営者の精神状態が良くないときは、楽しめてないときなんですよね。そして、追い詰められてしまうと、なぜかどんなに優秀な方でも冷静な判断ができなくなるんです。

だからこそ、仕事も私生活も楽しむことが大切です。楽しめていれば、追い詰められるような状況にもなりづらいと思いますし、判断を誤るような事態も避けられるのではないでしょうか。

「苦しいときこそ楽しむこと」を、心に留めておいてほしいと思います。

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(取材協力: ウミガメ株式会社 代表取締役 松下 勇介
(編集: 創業手帳編集部)



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