放送作家 つげ のり子|テレビに取材されるためのポイントはコレ! 放送作家から見た「メディアが取り上げたくなる企業」の条件
繰り返しと継続が実を結ぶ広報の世界
(2017/10/17更新)
自社の商品やサービスを広く世に知ってもらう「PR」や「広報」と呼ばれる作業は、経営していく上で欠かせない仕事の一つです。
ですが「なんとなく重要そうだから」と思って、ただ闇雲に広報活動をしていても良い結果に結びつくことが難しいのが現状です。
そこで、今回は放送作家として、数々の番組制作に関わっている、つげのり子さんにインタビュー。メディア側の目線から「取り上げたくなる企業の共通点」を伺いました。
放送作家。香川県出身。東京女子大学卒業後、NHKや民放各局で、放送作家として数多くの番組を担当してきた。TBSのワイドショー、テレビ東京の報道番組、特に皇室番組を15年担当し、現在に至る。2016年度テレビ東京報道局長敢闘賞を受賞。日本放送作家協会、日本脚本家連盟会員。現在、放送作家に加え、プロデューサーとして番組制作も手掛ける。
著作は「女帝がいた時代」(自由国民社)、「大人も子供も脳の鍛錬 ギリシア神話」「同 哲学」(毎日コミュニケーションズ)、「フィレンツェ愛の彷徨」(ダイソー出版)、「14歳の私が書いた遺書」(河出書房新社)など。2015年に株式会社商品表示研究所を設立しメディアの制作現場の経験を生かした「テレビメディアのほうから食いつく広報活動」の助言、講演活動等を行っている。
取り上げられやすいストーリーの作り方は?
つげ:まず重要視されるのが「ストーリー」です。しかし、そのストーリーも「製品開発部が企画立案して、研究室でプロトタイプを作り、最高経営者会議でOKが出て、工場で量産しました」といったごく当たり前のものだと、人の心は動きませんよね。
例えば、「苦節何十年、ふとした偶然の出会いから生まれた」とか、「病気の母親のために汗と涙で画期的な商品を開発した」といった製品の背景にあるドラマチックなストーリーに、視聴者は興味を持ってくれます。テレビ制作者はそのような話が訴求力を生むと考えていますから、自社のストーリーを大切にしてほしいですね。
これまで自社がやってきたことを再点検して、誰かに話したくなるような内容がないか、改めて見直してみると、意外に見つかるものですよ。
つげ:取材先を探しているのは「番組リサーチャー」と呼ばれる人たちです。リサーチ会社の社員やフリーランス、または放送作家の卵の場合が多いのですが、番組のスタッフ会議で決まった切り口や方向性に沿ったネタ探しの依頼を、リサーチャーが受け持ちます。
リサーチャーはインターネットや大宅壮一文庫といった、あらゆるツールを駆使して探してきます。しかしリサーチャーは全員同じことをやっているのでは、皆、同じ情報になってしまいますので、最終的には独自の人脈を頼りに、欲しい情報を手繰り寄せて集めてきます。ちなみに大宅壮一文庫というのは、今まで発行された雑誌の記事が閲覧できる図書館のようなもので、世田谷区にあります。
最近では、企業のホームページに動画を載せていると、それをリサーチャーが見つけてトントン拍子に取材が進むことがあります。動画を撮っておくことで、テレビ局の人はどういう画が撮れるのかイメージができますし、会社の雰囲気、社長のビジュアル、しゃべり方など、多くのことが分かります。今の時代、動画を掲載しておくことは必須だと思いますね。
メディアにアプローチする際に、押さえておきたい2つの要素
つげ:テレビよりも先に、雑誌や業界紙、ウェブ系のメディア、新聞で取り上げられると、とても可能性が高くなります。
ここで重要なのは、「社会的利益」と「途方もない夢」の、二つの要素です。
「社会的利益」とは、その事業が儲かると社会全体にとってプラスとなる、公共性を持っているという点。よく社会貢献と言われますが、広く多くの人の問題を解決するものであればベターです。
そして「途方もない夢」とは、無名で若く、何の力もないのに、未来に向かって壮大な夢をその事業に託していること。夢は一見実現不可能と思える、無謀なものでもいいと思います。そこに経営者の熱いパッションが込められているかどうか、それが肝心です。
この二つが具体的で、説得力のあるものであれば、自信を持って、いろんなメディアにアプローチしてみて下さい。
「叩けよ、さらば開かれん」の精神です。
勇気をふりしぼって、新聞社や雑誌社に、「こういうのをやりたいんですけど、担当の方はいらっしゃいますか?」と電話すると、とりあえず話を聞いてくれることも少なくありません。
いきなりテレビに取り上げられるのは、ハードルが高くて難しいですから、まずは紙媒体やウェブ媒体で取材されて、そこからテレビへステップアップしてみては、いかがでしょうか。
ベンチャーの広報は繰り返しと継続
つげ:まずは「この企業は面白いことをやっているな」と思ってもらえるアピールを、手を変え品を変えして、繰り返し行うことが必要です。人は3回位見ないと覚えない、と思って行動するぐらいがちょうど良いと思います。そうすれば、「何だろうここは。突飛なことやっているな」と興味を示してくれます。
広報を担当している方がこまめにプレスリリースを出して、先ほど話したように、紙媒体やウェブ媒体でも数多く出ていかないと、テレビが取り上げる確率はなかなか上がりません。
ちなみに、ラジオは朝からほぼ夕方まで、ワイドショー的なトークバラエティをずっと放送しているので、慢性的にネタに困っている担当者が多いです。番組を作っている担当者に売り込みできれば、ラジオは比較的取り上げてもらいやすく狙い目です。
最終的なゴールを決めて、広報活動する
つげ:エッジが立つ、というのは良い意味でも悪い意味でも使われます。企業イメージや商品も同じで「目立ったもん勝ち」なんですね。リサーチャーが寄ってくるような情報をたっぷり用意しておくことが大切です。
企業の広報はプレスリリースが基本ですが、「何を売りにしているか」が伝わらなければ、取り上げられません。自社にネタになりそうなものがいっぱいあるのに、それが分からないまま、書いている広報担当者がすごく多いです。プレスリリースを書く前に、何をアピールしたらメディアに取り上げられるのかをよく考えたほうがいいと思います。
つげ:自分で商品やサービスを立ち上げた方って、それに対しての面白さが分からなくなっていることもあると思います。そういうときは、例えば学生時代の友達とかに「こういうサービスやるんだけど、気味はこのビジネスのどういった点が面白いと思う?」と尋ねて、何が売りになるのかをきちんと整理してからリリースしましょう。
そうすれば、自分のサービスの強みを理解できて、どのようにアピールしたら良いのかがより分かりやすくなると思います。
(取材協力:つげのり子)
(編集:創業手帳編集部)