トリファ 嘉名雅俊|海外旅行者のインフラに。アプリひとつで完結するeSIMサービスとは
エンジニア出身の起業家が挑んだ、コロナ禍での起業の裏側に迫る
近年、海外旅行やビジネス出張が再開される中、現地での通信環境の確保は多くの方にとって大きな課題となっています。特に、旅行先でのSIMカード購入の手間や高額なローミング料金は、多くの旅行者にとって悩みの種です。
そうした課題を解決し、海外でネット環境を利用するために必要なすべての設定がアプリで完結するスマホeSIMアプリ「trifa(トリファ)」が注目されています。
代表取締役の嘉名雅俊さんに、起業の背景やサービスに込めた思い、そして今後の展望についてお話を伺いました。
株式会社トリファ 代表取締役
学生時代にベトナムに行き、Sun*にてインターン。帰国後Zealsにエンジニアインターンとしてジョイン。そのまま2019卒として入社し、PM・海外開発拠点責任者を経て、2020年に株式会社トリファを創業。2021年に「トリファ」をリリース。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
ベトナムでの経験が起業のきっかけに
大久保:学生時代から起業しようと思っていたのですか?
嘉名:いえ、それはなかったですね。実際、大学2年生までは「スタートアップ」という言葉すら知らなかったです。
それまでの学生生活は、どちらかというと悶々とした気持ちで過ごしていました。大学3年になっても、その気持ちは変わらず、「何かしなければいけない」という焦りはありつつも、行動に移していない状態でした。
そんなとき、信頼している方から沢木耕太郎さんの『深夜特急』を紹介されました。そこで初めて「世界はこんなにも広いんだ」と感じました。その瞬間、今まで日本の中だけで悩んでいた自分が小さく感じられて、「就職活動に入る前に、一度外の世界を見てみよう」と決心しました。
それがきっかけで、1年間ベトナムに行くことにしました。
大久保:ベトナムでの生活はどのようなものでしたか?
嘉名:ベトナムでは、現地での生活だけでなく、Sun*という会社にお世話になりました。
Sun*の事業は日本国内のスタートアップ支援だけでなく、ベトナムでも展開されており、現地のスタートアップです。その中で、初めて「スタートアップ」というものに触れました。
私にとっては、その経験が大きな転機でした。これまで自分の中でモヤモヤしていたものが、「スタートアップ」という方向性を持ったことで、一気に直感的に解消されたんです。「自分もスタートアップで何か大きなことをやりたい」という気持ちが芽生えてきました。
東南アジアでのIT成長に衝撃を受ける
大久保:ベトナムでスタートアップに触れることで、日本との違いを感じた部分はありましたか?
嘉名:はい、そのとき初めて東南アジアのIT成長を目の当たりにして、非常に衝撃を受けました。日本やアメリカのように、生活インフラが整った場所では、ITが徐々に生活に溶け込んでいく形ですが、東南アジアではまだ社会基盤が整っていないところに、急速にITが入ってくることで、社会全体が一気に変わっていくんです。
その代表的な例が、Grab(グラブ)でした。これはバイク版のUberのようなもので、ベトナムでは社会のインフラの一部になっていました。社会に浸透し、人々の生活に欠かせない存在となっている様子を見て、非常に感動しました。
また、現地の高校生や大学生の人たちが「自分たちもITスタートアップで社会を変えていきたい」と生き生きしているのを見ました。そのとき、日本の若者とは違う熱意と情熱を感じました。
さらに、彼らの目指す先が日本ではなく、中国やアメリカであることにも驚きました。彼らは「一度アメリカや中国に行って、そこから学びを得て起業したい」と話していて、日本を目指していないことに悔しさや寂しさを感じたんです。
起業に必須なスキルを身に付けるため、エンジニアとしての経験を積む
大久保:その経験を経て、起業を決意されたわけですね。次に、エンジニアとしてのキャリアを選んだ理由を教えてください。
嘉名:そうですね、Sun*の社員に相談したとき、「スタートアップをやるなら、まずエンジニアリングのスキルを身に付けたほうがいい」とアドバイスを受けました。
当たるかわからないプロダクトを何個も作り続けるためにエンジニアコストがかかるのは結構大変だと教えていただき、自分でプログラムを書いてリスクを減らしたいと思ったんです。
大久保:本当の意味でテックを知るために、最初のキャリアとしてエンジニアを選んだのはいいですね。
嘉名:そこで、帰国後にZealsというチャットボットを提供しているスタートアップにエンジニアとして入りました。
入社したときは社員が30人ほどの規模でしたが、退職する頃には100人規模まで成長しました。外から見るとスタートアップは華やかに見えますが、中から見ると毎日が非常に大変で、メンバー全員が成長していく過程を共にする経験ができたのは、本当に大きな学びでした。
未知の中で挑んだコロナ禍での起業。eSIM事業への挑戦と柔軟な戦略
大久保:エンジニアとしての経験を経て、最終的には起業を決意されたわけですね。トリファという事業に行き着いた経緯を教えてください。
嘉名:実際に起業を決意したのは、コロナ禍の真っ最中でした。当時は、プロダクトを決めて起業したわけではなく、「とにかくスタートアップをやりたい」という気持ちが先行していました。
モバイルオーダーなどのプロトタイプを自分で作って試してみたものの、どれも本気で取り組む気持ちにはなれず、「自分が本当にやりたい事業は何だろう?」と考え直しました。
そのとき、ベトナムでの経験に立ち返り、海外旅行で利用されるポケットWi-Fiに注目し、「もっと良い解決策があるのではないか?」と考えました。そして、eSIMというまだ浸透していない技術に注目し、「これなら自分が本気で取り組める」と感じ、事業化することを決めました。
大久保:ポケットWi-Fiなどの物体でやり取りしていると情報は残りませんが、アプリだと二次的な利用もできそうですね。
嘉名:そうですね。トリファは「トリップ+インフラ」から名付けたんですが、eSIMという分かりやすい名前にしなかったのは、海外旅行者のインフラとなるようなサービスを作りたいという思いからです。
このアプリ上に旅中で便利にあるようなサービス、例えば保険や決済、モビリティなどを付け加えていって、「パスポートとトリファさえあればいいよね」という世界観を作れたらと思ってます。
大久保:eSIM事業の初期段階で、どんな課題がありましたか?
嘉名:はじめは、大手通信会社と直接契約するのは非常に難しかったです。通信会社にとって最も重要なのは、こちらがどれだけの通信量を購入してくれるかというトラクション(実績)なんです。そのため、直接ドアをノックしても相手にされることはほとんどありませんでした。
そこで、少しずつユーザーを増やしてトラクションを積み上げ、一定の実績ができた段階で再度提案を行い、最終契約を結ぶことができました。この段階までにどれだけトラクションを積めるかが非常に重要でしたね。
コロナ明けでの急成長。次なるステップはグローバル市場への挑戦
大久保:トリファを立ち上げたのはコロナ禍の真っ最中だったということですが、そのタイミングでの起業にはリスクもありましたよね。
嘉名:確かに、コロナ禍での起業は大きなリスクでした。旅行客が激減している状況だったので、事業が軌道に乗るかどうかは未知数でした。ただ、結果的にコロナ禍での起業はチャンスにつながりました。
当時は旅行者が少なく、その分サービスの改善に集中する時間を十分に確保できたからです。具体的には、コロナ期間中にすでに海外に住んでいる人たちにトリファを試してもらって、フィードバックをもらいながらサービスを磨き上げました。そのおかげで、コロナが明けて旅行者が増えたとき、ある程度完成度の高いサービスを提供でき、スムーズにトラクションを伸ばすことができました。
大久保:コロナが明けたタイミングで大きく成長したのですね。
嘉名:はい。コロナが明けた頃からユーザー数が急増し、トラクションがどんどん伸びました。その頃は、すでに大手の通信会社とも契約が結べていたので、クオリティの高い通信網を提供でき、200以上の国と地域でトリファのサービスを展開できるようになりました。これは大きな一歩でした。
大久保:今後、トリファのビジョンとしてどのような展開を考えていますか?
嘉名:まず、日本国内で圧倒的No.1のポジションをさらに強固なものにしたいと思っています。現状では、多くの方が海外に行くときはWi-Fiを選ぶと思いますが、最終的には「海外に行くならトリファを使うのが当たり前」と言われるような存在にしていきたいです。そして、トリファは海外eSIMの分野なので、国内だけに留まらず、グローバルマーケットにも積極的に展開していきます。
特に、日本の海外旅行者数は年間約2000万人に限られていますが、インバウンドや国内のアウトバウンド市場は今後も増加が見込まれています。そのため、日本国内での成功を基盤に、世界各地でトリファを展開し、多言語対応やマーケティングを強化していきたいと考えています。
大久保:スタートアップの初期段階で、グローバル展開を意識しているのは素晴らしいですね。多言語対応についても、すでに準備が整っているのですか?
嘉名:はい、トリファはアプリ自体がオンラインで提供されるため、多言語対応が容易です。現在、すでに複数の言語に対応しており、今後は各国のマーケティングに注力していく予定です。日本での成功事例を参考にしつつ、世界中で同じようなサービスを展開し、海外旅行者にとって重要なインフラとなることを目指しています。
大久保:最後に、これから起業を目指す読者の皆様にメッセージをお願いします。
嘉名:僕自身、最初は2〜3個ほどのプロダクトを潰しながら、今のトリファにたどり着きました。やはり、自分が起業した背景や、好きなドメインだからこそ、踏ん張りがきいたのだと思います。
これから起業する人には、もちろん収益性やビジネスチャンスも重要ですが、それ以上に、自分が本当に情熱を持って取り組む領域で挑戦してほしいと思います。その情熱があれば、困難な状況でも乗り越えられると思います。
そして、海外での視点を持つこともとても大切です。私もベトナムでの経験が起業の大きなきっかけとなったように、海外で新しい価値観や視点を持つことで、新たなビジネスアイデアが生まれるかもしれません。そのときには、ぜひトリファを活用してみてください。
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(取材協力:
株式会社トリファ 代表取締役 嘉名 雅俊)
(編集: 創業手帳編集部)