東京プロマーケットとは?上場のメリット・デメリットや他の市場との違いを解説
上場基準が柔軟!新興企業の上場市場として有効な選択肢の一つ
企業が成長してくれば、多額の資金調達が必要になったり、創業者がイグジットするために上場を目指す方は多いでしょう。一方で、よく知られた東京証券取引所のプライム・スタンダード・グロース市場は上場基準や維持基準が厳しく、企業によっては上場するメリットに乏しいと感じる場合もあるでしょう。
そこで新興企業の上場先としておすすめの市場の一つが、今回紹介する東京プロマーケットです。取引参加者をプロの機関投資家などに絞る分、上場基準や維持基準が柔軟に設定されています。
この記事では東京プロマーケットの特徴や上場するメリット・デメリットを紹介します。これから上場を検討している成長企業の経営者の方は、ぜひ東京プロマーケットでの上場を選択肢の一つとしましょう。
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この記事の目次
東京プロマーケットとは?
東京プロマーケットは、東京証券取引所(以下「東証」)が運営する市場の一つです。東京証券取引所でよく知られる市場としては、プライム・スタンダード・グロースの3つの市場がありますが、東京プロマーケットはこれらとは別の市場となります。
東京プロマーケットの特徴を、プライム・スタンダード・グロースとも比較しながらみていきましょう。
プロ向けの株式取引所
プライム・スタンダード・グロースといった市場は、個人投資家を含む幅広い投資家が証券会社などを通じて売買できます。
一方で、東京プロマーケットは「プロ向け」に限定されているのが特徴です。ちなみにここで言うプロとは、次のいずれかの投資家(特定投資家)を指します。
- 国、日本銀行、適格機関投資家など
- 上場会社、資本金5億円以上の株式会社など
- 日本国内に住所または居住を持たない個人・法人
また、これ以外の株式会社や3億円以上の純資産もしくは金融資産を持ち、1年以上の取引経験がある個人も「みなし特定投資家」として参加が可能です。
上場基準が緩和されている
東京プロマーケットは、上場基準がほかの市場と比べて緩いのが特徴です。そもそも基本的に上場基準は、個人を含む一般的な投資家が安心して投資できる銘柄を揃える目的で設定されています。そのため、株式発行数が多くて柔軟に売買でき、長期にわたり業績が安定していて情報開示にも積極的な企業が基準をクリアできる仕組みとなっています。
東京プロマーケット | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 | |
株主数基準 | なし | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
流通株式数 基準 |
なし | 20,000単位 | 2,000単位 | 1,000単位 |
上場申請~承認期間 | 10営業日 | 3カ月 | 3カ月 | 2カ月 |
上場前の監査期間 | 1年間 | 約3年間 | 約3年間 | 約3年間 |
四半期開示 | 不要 | 必須 | 必須 | 必須 |
その点、東京プロマーケットは投資に対して高い専門性を持つ投資家だけが参加できる分、流動性や情報開示、業績それぞれの基準が緩和されています。投資に高い専門性をもつ投資家であれば、自身の知見や情報ソースを活かして銘柄を分析・調査して投資の意思決定が可能であると考えられるからです。
上場銘柄はまだ少ない
東京プロマーケットの上場銘柄数は、2023年12月28日時点で90銘柄です。2022年12月末時点では64銘柄だったため、着実に増加傾向ではありますが、他の市場は以下の通りなので、まだ上場銘柄数は少ないといえます。
- プライム|1,657銘柄
- スタンダード|1,621銘柄
- グロース|566銘柄
そもそもプライム・スタンダード・グロースは前進の東証一部・二部などの上場銘柄を引き継いでいることを踏まえると、相対的に長い歴史があります。対して東京プロマーケットが創設されたのは2008年なので、市場自体が新しいのが特徴です。
ほかの市場と比べると取引参加者が限られているため、一般消費者や投資家の認知度を高めたり、資金調達先を拡大させたりといった効果は限定的です。これらの効果を最大限追求したい企業の場合は、プライム・スタンダード・グロースを選好すると考えられます。
東京プロマーケットに上場するメリット
続いては、上場する企業の視点に立って、東京プロマーケットに上場するメリットを整理しました。
- 信用力の向上につながる
- 資金調達手段の多様化が可能
- 上場の準備の負担が相対的に小さい
- イグジットの手段としては問題ない
信用力の向上につながる
東京プロマーケットであっても、上場を通じて信用力の向上が期待できます。上場基準がプライム・スタンダード・グロースより緩いとはいえ、日本には東証に上場企業が4,000社あまりしかないことを踏まえると、充分に信用力を高める効果があります。
上場を通じて、金融機関の評価が向上し、今後の融資交渉が進めやすくなるでしょう。取引先や顧客との評価向上や取引拡大などの効果も期待できます。
資金調達手段の多様化が可能
東京プロマーケットに上場すれば、機関投資家を中心としたより多くの投資家から資金調達が可能です。
株式は返済が不要なため、財務を圧迫することなく資金を調達できます。上場前は資本性の調達というと一部のファンドやエンジェル投資家からの出資に限られていましたが、プロマーケットの上場により資金調達の規模の拡大と投資家の多様化が実現できます。
上場の準備の負担が相対的に小さい
プライム・スタンダード・グロースと比べると上場しやすいのも特徴です。株主数や流通株式数に制限がないので、あとで上場廃止になるリスクが低いといえます。上場申請から承認までの審査期間が短い分、スピーディに資金調達までこぎ着けることができます。
また、上場前の監査期間が1年しかないため、3年以上の業績安定が求められるプライム・スタンダード・グロースより短期間の実績で上場できます。四半期報告書や決算短信といった開示資料が不要なため、上場後の決算対応の負担も相対的に小さく済むでしょう。
このように制度が簡略化されているため、上場時・上場後の企業経営における従業員や金銭面での負担を軽減できるのが特徴です。
イグジットの手段としては問題ない
この後紹介するように東京プロマーケットにも弱点はありますが、少なくともイグジットが主目的であれば東京プロマーケットを活用することに特段の問題はないでしょう。
経営者が保有する株を処分して経営権を明け渡せばいいので、投資家層の多様化は必ずしも優先事項にはなりません。簡略化されていて手間のかからない上場手続きで、スピーディにイグジットを完結させられる点で、メリットが大きいともいえます。
東京プロマーケットに上場するデメリット
東京プロマーケットには、次のようなデメリットもあります。
- 資金調達の柔軟性・規模に劣る可能性
- 投資家との関係構築にコストがかかる可能性も
- 知名度向上の効果は限定的
以上の要素が気になる企業においては、手間とコストをかけてプライム・スタンダード・グロースでの上場を目指すのも一つの選択肢といえるでしょう。
資金調達の柔軟性・規模に劣る可能性
東京プロマーケットはプロの投資家に限定することで、投資家数が大幅に限定されるため、柔軟な資金調達が難しい可能性があります。増資をしようとしても、投資家が集まらず充分な資金調達ができないリスクは相対的に高いといえるでしょう。
資金調達額についても、一般投資家からのIPO・PO投資需要を集められない分、規模が小さくなる可能性があります。
投資家との関係構築にコストがかかる可能性も
東京プロマーケットの市場参加者は全てプロの投資家となるため、彼らとの関係を良好に保ち投資を積極的に行ってもらう必要があります。こうした投資家との関係構築全般を「IR」といいます。
IRはプライム・スタンダード・グロースに上場していても必要な取り組みです。しかし、東京プロマーケットには一般投資家がいない分、プロの投資家に対して適切に情報発信やコミュニケーションをしながら関係を維持していくことの重要性が高いといえるでしょう。
プロの投資家が満足するだけのIR対応を継続するために、結局多大な人的コスト・金銭面でのコストがかかるケースも考えられます。
知名度向上の効果は限定的
プライム・スタンダード・グロースへの上場は個人投資家に広く認知されるため、企業の知名度向上に与える効果も小さくありません。実際に上場企業の中には、積極的な株主優待を通じて個人投資家からの投資を促進し、企業や商品・サービスの認知度向上につなげているケースも多いでしょう。
東京プロマーケットは、このようにプロではない一般投資家へアクセスができない分、知名度向上の効果は限定的です。情報収集に積極的な投資家であれば、上場の事実くらいは認識しますが、自分が投資できなければその企業に強い興味を寄せる可能性は低いでしょう。
東京プロマーケットの上場手順
東京プロマーケットへの上場手順は、大きく分けて以下のとおりです。
- J-Adviser契約締結
- 上場準備
- 上場審査
- 上場申請
- 上場した後の対応
それぞれのプロセスを通じると、だいたい2年程度の期間が必要です。長く感じますが、プライム・スタンダード・グロースではそもそも監査対象の期間だけで3年分あるため、よりスピーディに上場できるという事実に相違はありません。
J-Adviser契約締結
東京プロマーケットの上場では「J-Adviser」と呼ばれる企業と契約を締結して、上場に向けた事務手続きや審査などを進めていく必要があります。そのため、まずはJ-Adviserに相談して、報酬体系や契約条件などを整理したうえで、契約を締結します。
なお、J-Adviserによっては締結時点で事前審査があり、上場が難しいと判断された場合はJ-Adviserの契約締結には至りません。
上場準備
契約締結の時点ですぐに上場できるほど組織やガバナンスが整備されている新興企業はまずないので、まず、契約締結時には「実施計画書」をまとめて、上場に向けて整えるべき以下のような論点を整理します。
- 内部管理体制
- ガバナンス、コンプライアンス体制
- 予算・業績管理体制
- 決算・開示体制
また、上場前には最低1年間の監査を受ける必要があるため、監査法人が企業の財務・業績を監査します。
最終的に上場審査プロセスに移行できるとJ-Adviserが判断すれば、審査中に解決すべき課題や上場に向けたスケジュールを整理する流れです。概ねこのプロセスで1年~1.5年ほどかかるとみておきましょう。
上場審査
正式な審査でも、J-Adviserが東証に変わって上場に向けた審査を行います。あらためて上場企業として信用に値する組織となっているか、各種上場の要件は満たしているかなどが見られます。また、上場後に公表する決算短信など各種開示資料の作成体制などもチェックされます。
また、東京プロマーケットの上場に際しては、必要に応じて株の売買を行い流動性を提供する「流動性プロバイダー」を選定しなければなりません。一般に流動性プロバイダーは証券会社が担当します。
上場申請
上場審査で問題がなければ、上場申請期間に移行します。J-Adviserが「上場意向表明書」を提出して、最後に東証からJ-Adviserへヒアリングして、上場の適格性を調査します。上場表明から正式な上場申請までは約1ヶ月かかります。
上場申請は、面談後に東証が上場に支障がないと判断したタイミングで実施します。具体的には「有価証券新規上場申請書」をJ-Adviserが東証に提出します。このタイミングで上場の事実が広く公開される仕組みです。そして、上場申請から10営業日後に上場します。
プライム・スタンダード・グロースでは上場申請から上場する期間が2~3ヶ月かかるため、このプロセスも東京プロマーケットの方が格段にスピーディです。
上場した後の対応
上場した後は、適時開示が求められます。基本的には次の様な書類を出さなければなりません。
- 決算短信
- 発行者情報/特定証券情報
- 主要株主の異動、代表者の交代
- 増資、設備投資
- 業績予想の修正
なお、プライム・スタンダード・グロースと異なり、決算短信は半期に一度で要件を満たします。ただし、将来の市場替えを目指して、四半期での情報開示体制を整備する企業も少なくありません。
東京プロマーケットの上場手続き・上場後の費用
東京プロマーケットはほかの市場と比べると低コストで上場できる市場です。上場後の情報開示などにかかる費用も、ほかの市場より少なく済みます。
東京プロマーケットの上場費用
東京プロマーケットの上場にかかる費用の目安は2,000~4,000万円程度です。次のような項目に費用がかかってきます。
- 監査法人|監査費用など
- 信託銀行|株主名簿の作成、出資金・配当の手続き
- 印刷会社|ディスクロージャー、IR情報の作成・印刷
- J-Adivser|上場指導・審査
- 東証|新規上場の手数料
プライム・スタンダード・グロースでは目安として2億円前後がかかるため、東京プロマーケットは費用面でも優位な市場といえます。
東京プロマーケットの上場維持費用
東京プロマーケットで上場を維持するための手数料、上場を維持するために必要な情報開示を進めるための費用などで、合計で年間1,500~2,500万円程度かかります。
- 監査法人・信託銀行・印刷会社|上場時と似た項目に費用が発生
- J-Adivser|上場モニタリング費用
- 東証|年間上場料
上場企業の場合は5,000万円程度が目安となります。また四半期の開示が必要となるため、従業員の負担も大きくなるでしょう。
低コスト・スピーディに上場するなら東京プロマーケットがおすすめ
東京プロマーケットは、投資家の参加要件を限定することで、開示や上場・上場維持の要件を緩和した市場です。新興企業が低コスト、スピーディに上場するうえで、適した市場といえます。また、上場の主目的がイグジットの場合にも選択しやすい市場といえるでしょう。
一旦は、東京プロマーケットに上場しておいて、企業が一段と成長して業績が安定したらプライム・スタンダード・グロースなどへ再上場することも可能です。
審査対応や上場準備を経る中で段階的に組織やガバナンスを整備できるため、段階を踏んだ上場も有効な選択肢の一つといえます。今回の記事を参考に、まずは東京プロマーケットへの上場を選択肢の一つとして検討してみましょう。
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(編集:創業手帳編集部)