PAX トイアンナ|「半年ROMってから発信して」トイアンナさんが危惧する”社長の発信”【後編】

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2022年01月に行われた取材時点のものです。

炎上を定義して、対策マニュアルを用意しておこう

「起業家が自らのことを実名顔出しで発信するのは、結構危険」。
そう語るのは、Twitterのフォロワー数が7万人を超えているトイアンナさん。
最近は起業家もSNSやブログで発信する機会も増えていますが、発信の仕方をわかっている方は少ないのかもしれません。
起業家が情報を発信するうえで気をつけたほうがいいことについて、トイアンナさんに創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

トイアンナ
PAX株式会社代表/ライター
外資系企業のマーケティング職として約6年間勤務し、フリーライターとして独立。恋愛とキャリアを中心に執筆しており、書籍に『モテたいわけではないのだが(イースト・プレス)』『確実内定(‎KADOKAWA)』『やっぱり結婚しなきゃ!と思ったら読む本(河出書房新社)』など。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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起業家が情報を発信するうえで気をつけたほうがいいこと

大久保:最近は起業家の方もSNSやブログで発信する機会が増えていると思います。
発信の仕方でアドバイスはありますか?

トイアンナ:起業家が自らのことを実名顔出しで発信するのが良い、といった風潮があります。それに関連するセミナーもたくさんありますよね。
でも私は、結構危険だと思っています。古(いにしえ)のインターネットには「半年ROMれ」という言葉がありました。ROMとは「Read Only Memory」の略で、もともとはパソコン用語ですが、転じて”読むだけの人”を意味します。
まずはしっかり半年読む練習をしてから書き込んだほうがいいのですが、それができていない起業家の方が多くいらっしゃいます。

大久保:いきなり書きはじめると、どうなってしまうのでしょうか?

トイアンナ:炎上して精神を病んでしまいます。
インターネット上にはいろいろな人がいるので、否定されることもあるんです。そんなときには気にしないで無視しておけばいいのですが、ROMっていない人だとそれがわかりません。
否定に対して反論すると、インターネットのおもちゃにされてしまいます。

大久保:起業家の方は、リアルだと投資家以外の人から否定されることってあまりないので、落ち込みやすいかもしれません。否定されることに慣れていませんから。

トイアンナ:そうなんです。
ネットで言われることとリアルで言われることを同等に考えてしまうと、精神を病んでしまいます。
最悪のケースでは、インターネットに殺されてしまいます。

大久保:そうなると、スルーする力が大事ですかね?

トイアンナ:スルーしていいものと、してはいけないものがあると思います。それを見抜く力が必要です。
スルーすると大炎上してしまうものもあれば、スルーしてもまったく問題ないものもあります。
これは経験を積むことでわかるようになります。いつか起業家の方向けに、発信の仕方に関する講座や炎上対策講座を開きたいですね。

大久保:それは受けたい方も多いのではないでしょうか。
最近は会社の広報担当者が、社長の発言に苦労しているケースをよく見かけます。

トイアンナ:社長自身が発言することによって、広報が機能しなくなってしまいます。
かつては広報が情報統制していたので、なかなか企業は炎上しづらかったわけです。
でも社長がSNSをやりはじめて、自分で発信しだしたら広報はどうしようもないですよね。広報から社長に「SNSを辞めてください」とも言えません。
広報にアカウントを運用してもらうことが理想ですが……。

炎上を避ける最大の方法は「炎上を定義する」

大久保:社長が本音をSNSに書き込んでしまい、炎上するリスクはありますよね。

トイアンナ:インターネット上で公開されても問題ない本音ならいいんですけど、そうでないケースもありますからね。炎上を避ける最大の方法は「炎上を定義する」ことです。

大久保:なるほど。炎上を定義するですか。たとえばどのような感じでしょうか?

トイアンナ:たとえば「意見の7割が批判だったら炎上」と定義します。
事前に対処方法マニュアルを作っておいて、炎上した場合はそれに従って対応するんです。
私の炎上の定義は「仕事が減る」です。それ以外は批判が多くても炎上とは考えていません。「批判=炎上」と定義するのは、あまりにもナイーブだと思います。

大久保:批判が少しでもあったら炎上、と考えてしまうのは違うのですね。

トイアンナ:自分の中で「どれくらい批判されたら炎上なのか」を定義することが大事です。
そのときに、どう対応するのかを決めてから発信してください。仮に炎上しても謝罪して自分が学べばいいんです。炎上しても人生は終わりません。炎上した後でも自分の人生を変えることはできます。
批判をそれほど恐れず、でもいただいた批判は真摯に受け止めていけばいいんです。
批判されたからといって自分の存在価値を否定されているわけではありません。自分の心を守りながら、活躍していただきたいなと思います。
インターネットに殺されないでください。

外国で働いている方は二重課税に注意を

大久保:話は変わりますが、トイアンナさんはイギリスに住んでいた時期があるそうですね。
イギリスと日本の文化差は感じますか?

トイアンナ:文化差はあまり感じませんが、海外で働く方にとって重要な情報があります。
それは二重課税の問題です。海外に住んでいて日本から報酬を受け取る場合、日本と住んでいる国それぞれに所得税が課されます。
これを免除する手続き(外国税額控除制度)をしないと、二重に所得税を納めることになってしまいます。

大久保:租税条約を交わしている国であれば有効ですね。

トイアンナ:問題は、手続きの書類を取引先が提出しなければならない点です。その手続きは結構煩雑だった記憶があります。

大久保:なるほど。会社を創業して感じるのは、事務作業の多さと重要さです。

トイアンナ:そうですね。現在、創業して5年目になりますが、つねに事務作業と戦ってきたと言っても過言ではありません。
それ以外のストレスは、ほとんどありませんね。

大久保:クリエイティブな仕事と事務作業では、使う頭が違うのかもしれません。

トイアンナ:社長になるような、瞬発力があってアイディアを出すのが得意なタイプの方が多いです。でも事務が苦手な方が多い気がします。

大久保:確かに私もそう感じます。仕事はできても請求書は出せない方もいらっしゃいます。

トイアンナ:1人社長の会というグループがありまして、そのグループでは税金や事務手続きの話ばかりしています。
早くマイナンバーの運用を進めて、確定申告の額を自動決定してほしいと思っている方も多いのではないでしょうか。

大久保:どのような工夫で事務作業をこなしているのでしょうか?

トイアンナ:私はブログで事務作業をしてくれる方を公募しました。
現在はサポートしてくれる方が2人いらっしゃいます。この方達がいないと、仕事ができません。

ほかとは違うプラスアルファが重要

大久保:ブログで公募は珍しいですね。
ライターの方はライター業だけしているイメージがあります。でもトイアンナさんはライターだけではなく、マーケティング講座やライター向けの学校など、さまざまな事業展開をされています。
珍しいケースだと思うのですが、どうすれば事業展開していけるのでしょうか?

トイアンナ:この間ライター界で有名なヨッピーさんが、ライターについてまとめていました。
案件応募型ライターや社員ライター、ブックライターなど、ライターにもいろいろなタイプがあるんです。
その中に「プラスアルファライター」というライター以外の収入があるライターがあります。私はまさにこのプラスアルファライターです。

大久保:たしかにいろいろなお仕事をされていますね。トイアンナさんの場合、要素と要素をかけ合わせてニッチ市場を攻略している印象です。
ほかの方にアドバイスするとしたら、どんなメッセージを送りますか?

トイアンナ:私は「書く学校」というライターを育てる講座を開いています。そこで「あなたはほかのライターと何が違うのか。何が違うから案件を受注できるのか」を一緒に考えているんです。
それを意識すると、案件の受注率は上がるんですよ。

大久保:「何でもできます」という人よりは、得意なことをわかりやすく伝えてくれたほうが、発注側は依頼しやすいですね。

トイアンナ:とはいえ多分野で書けることも大事なので、勉強はしてほしいです。
1つの分野が不景気で落ち込んでも、ほかにも得意な分野があればリスクヘッジになりますから。
私は恋愛コラムに強みを持っていて、恋愛市場が落ち込むことはないと思っていました。でもコロナの影響で、恋愛市場が急激に落ち込みました。

大久保:コロナのことを予想できた人はいないですからね。思わぬところで影響が出る可能性もある、と認識しておいたほうがよさそうです。

トイアンナ:みなさん外に出られないので、恋愛しようがありませんでした。そうなると恋愛コラムを掲載している媒体の広告主が減ります。広告が減れば媒体も更新頻度を減らす、もしくは停止してしまうので、ライターの仕事はなくなってしまいます。
私の場合、ほかの分野でも書いていたので何とかなりましたが、売上は減ってしまいました。あらためて、1つの分野に仕事を集中させることのリスクを思い知りましたね。
複数の得意分野を作ってリスクヘッジしていただければと思います。

これから創業しようと考えている方へのメッセージ

大久保:最後にこれから創業しようと考えている方にメッセージをお願いします。

トイアンナ:私は個人事業主から法人成りしたので、現在個人事業主として活動している方に向けてお伝えします。
どんどん法人成りしてください。年商が700万円を超えたら、税理士さんから法人成りを進められるはずです。まずはそこまで稼いでほしいです。
そのためにマーケティングなり営業なり、多分野の勉強ができるのはフリーランスならではのメリットだと思います。
「勉強しなくてはいけない」ではなく「勉強させてもらえる」と考えてください。

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(取材協力: PAX株式会社代表/ライター トイアンナ
(編集: 創業手帳編集部)



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