Timewitch 三浦 健之介|「時差ビジネス」で日本の残業を減らし、海外に雇用を届ける
時差を利用して「夜に発注、翌朝に納品」を実現
以前から日本企業の「残業の多さ」は問題視されており、時間外労働の上限規制などの「働き方改革」が進められています。一方で、海外には失業率が高い国も多い上に、特に現地在住の日本人は仕事が見つかりにくいという問題があります。
運良く仕事を見つけられた海外在住の日本人の方々も、自身の経験やスキルを活かした仕事にはつけていない場合が多いです。
このギャップをチャンスに変えて、日本企業の残業を減らし、海外在住の日本人に雇用を届けているのがTimewitchの三浦さんです。
今回の記事では、三浦さんがTimewitchで時差ビジネスを始めるまでの経緯や背景、Timewitchで解決する課題について、創業手帳の大久保が聞きました。
株式会社Timewitch CEO
早稲田大学創造理工学部建築学科卒業、電通にて広告やWebデータ活用を中心としたマーケティング、BCGにて中期経営計画策定等の経営コンサルティングに従事。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
外資系コンサルタントを経て「Timewitch」を創業
大久保:起業の経緯から教えていただけますか?
三浦:サラリーマンの家庭に生まれ、中学受験、大学を経て、広告代理店の仕事に就くという平成の王道を進んでいました。
そこで、同期が過労で自殺をしてしまい、人生を考え直すきっかけになり、独立の選択肢があることを知りました。
とはいえ26歳で起業しても、学生起業に毛が生えた程度でしかないと思い、広告代理店で4年ほど勤めたのち、外資系コンサルティング企業に転職しました。
そこで物事の考え方、成果の出し方などを体系的に教えていただけたので、実りのある時間だったなと思います。
当時は大きな組織で働いていたため、実務については理解が出来ない部分もあったのですが、起業して13人ほどの組織になった今、学んだ事と実務がやっと繋がってき始めました。
大久保:サラリーマン経験やコンサル経験があると、資金調達をする時や誰かに何かを説明する時に、アドバンテージがありそうだと感じています。
三浦:はい。私が一定以上の知名度ある企業に入社できたことは、私自身の信頼に繋がったと思います。何をやるか悩んでいる学生は、とりあえず有名企業に入ることをお勧めします。
大久保:そこからどのように起業へと繋がっていくのでしょうか?
三浦:外資コンサル会社で1年半ほど働いたところで、そろそろ起業したいと思い、日々ビジネスモデルを考えていました。
その頃、コロナウイルスが流行し始めたのですが、私が関心を持っていたブラジルは世界で2番目に死者数の多い国でした。
原因を調べてみると、そもそも失業率が高く、国民の5人に1人は仕事がありません。
コロナ禍により経済活動が抑制されたことで、失業率がさらに上がってしまいます。しかし、国としてコロナウイルスを完全に隔離できなかったため、何百人もの犠牲者が出てしまったと思っています。
この出来事をきっかけに「ブラジルの雇用問題を解決する方法はないか」と考えるようになりました。
日本の残業時間を減らし、海外在住の日本人に雇用を届ける
大久保:具体的にはどのようなアイディアがありましたか?
三浦:日本の真裏に位置するブラジルとの時差を利用して、日本人の残業時間を減らしつつ、その分の仕事をブラジルの方々にやってもらえれば、Win-Winな関係を築けると思いました。
このアイディアをそのまま共同創業者の方に話をしたところ、起業を進めたいという話になり今に至ります。
大久保:日本企業の業務をブラジルの方々にやってもらうことは簡単ではなさそうですが、実際にやられてどうでしたか?
三浦:ブラジルで失業している方々に仕事を届けることはできました。
しかし、現地のブラジル人の多くは日本語も英語も喋れず、時間通りには来ない、PCは使えないといった状況で、日本企業の仕事を発注することは簡単ではありません。
そのため、ブラジルにいる日本人に仕事を発注する方向にしました。
ちなみに、ご存知ない方が多いのですが、世界中に約100万人の在外日本人がいると言われています。永住権を持っていない日本人は、コロナ禍で雇用を切られていました。
この問題を解決するために、海外在住の日本人が働けるようなネットワークを作りました。
大久保:在外日本人は積極的で能力のある人が多いのではないでしょうか。
三浦:例えば、日本の外資コンサル企業で働いていた人が、海外だとカフェで働いている、といったケースも少なくはありません。
言語の壁、ビザの壁、コロナの影響もあって、能力があるのに、現地では稼げていない、といった問題に着目しました。
大久保:日本の仕事を振ることで、海外にいながら、日本の経済圏に引き戻すといったイメージですね。
そして、理想的なライフスタイルを手に入れている方も多くいらっしゃるのでしょうか?
三浦:日本が合わずに、海外に行かれた方もいる中で、日本に貢献できる場を提供できたという意味で良かったと思っています。
時差を利用し「夜に発注し翌朝には仕上がる」という環境を提供
大久保:時差ビジネスについて改めて伺わせてください。
三浦:日本企業が夜に依頼をすると、時差のある国にいる日本人が海外の日中に作業を行い、数時間で納品します。日本企業からすると、前の日の夜に発注した作業が翌朝には仕上がるという環境を提供しているのが時差ビジネスです。
大久保:アメリカとインドはそのような関係なのではないでしょうか?
三浦:おっしゃる通りです。2倍速で経済が回るイメージです。
私が外資系コンサルティング会社にいた際、インドとアメリカとスペインに8時間交代で、24時間誰にでも仕事をアウトソースできる仕組みがありました。
多くのタスクを1人で抱え込んで追い込まれてしまう人もいる中で、アウトソーシングを活用すれば、日系企業でも外資系企業と戦えると考えています。
アメリカ企業としては「時差がある」「人件費が安い」という理由で、インドに拠点を持つのは当たり前になっています。
そのため、私が今やっているビジネスをアメリカでも提供している企業はあったのですが、2年ほどでピボットしてしまいました。
理由としては、アメリカ企業の多くは海外のアウトソース先の人材を含めて、体制を内製化していたからです。
日本にはそのような環境を整えている企業は少なく、言語の壁もあるため、日本ではこれまで流行ってきませんでした。
大久保:創業手帳でも同じように、シンガポールに拠点を持とうとしたことがありましたが、時差がある国で開拓するのは本当に大変でした。
三浦:簡単ではないですよね。
ただし、あくまで内製化しないことで、かかるコストを固定費ではなく変動費として使えます。コロナも経て、固定費がいかにリスキーだということがわかったと思います。
変動費にしておけば、減らしたい時に減らせて、足りなければ増やせます。
大久保:Timewitchさんのサービスの利用方法としては、完成度が100%の成果物が出てくるとは考えない方が良いですよね?
三浦:おっしゃる通りです。資料作りの20〜90%は任せてください、というスタンスです。
最初の20%は資料作りに必要な「情報整理の段階」だと考えていただきます。そして最後の10%は「魂を込める作業」として、細かい微調整などを依頼主様にしていただいています。
海外在住の日本人から「感謝の声」が多数届く
大久保:今のビジネスで「やって良かったな」と思った瞬間を教えてください。
三浦:私たちはTimewitchをコロナ禍で起業しましたが、各国の日本人30人ほどから手紙をいただきました。
コロナ禍に入り、雇用を失い、様々な事情で日本にも帰れない中で、働き口を提供いただきありがとうございました、という内容でした。
国によっては、生活保護のような支援を受けられない国もあります。
このような方々から感謝のメッセージをいただき、会社を立ち上げる意義はこういったところにあるよな、と改めて感じました。
大久保:逆に悪かったお話、想定外だったことなども教えていただけますか?
三浦:創業時、半分はったりで「海外にいる人材に仕事をしてもらえる」と営業をかけまくっていたことがあります。
そこでパワーポイントの資料を作成する作業を受注した際、仕事を振る先がいない時は、全て自分が徹夜で作業をしていました。
大久保:構想はあるが自分しかやる人がいないという時に、自分でやっていたということですね。
笑い話っぽくもありますが、それが正解だったような気がします。自分でニーズを開拓したということが、今の市場を作ったのでしょう。
三浦:おっしゃる通りです。
さらに、創業時はエクセルや秘書的な業務など、様々なことまで広げて受注していましたが、数時間で終わる作業としては、パワーポイント資料を作成することが一番ちょうど良かったです。
前職で論理的っぽく資料を作ることをよくやっていたので、自分の得意分野でもあります。
システム構築など1週間かかる大きな案件になると、夜作業を依頼する意味がなくなってしまうため今の業務範囲に行きつきました。
大久保:今の起業家に応用できることとしては、サービス開発時の最初に広げてみて後々絞っていくのも良い方法である、ということですね。
三浦:まずは色々やってみることが大事です。100件くらい提案してみて、一番刺さるものを見つけるのが優先順位が高いと思っています。妄想だけしてても良くないです。
大久保:論理的っぽく作るのも重要ですよね。
三浦:「〇〇っぽく」という表現は僕もとても好きです。例えば「論理」というのも人によって違います。しかし、デザインの見せ方によって、論理的に見せることはできるんじゃないかと思いました。
一見、論理的ではないことを、論理的っぽく見せることで、物事が進むこともあります。
そのための重要なポイントは、日本人ならではの「文字量が多い」という点です。文字が多いと、たくさん考えた感が出るので、「論理的っぽい」につながります。
さらに、色のトーンも「青・緑」といった安心感のある色を使ったり、物事のフローがわかるような「全体像×流れ」が入っていたりすると、より論理的っぽいです。
バズった「寝ろ。」広告が生み出された背景
大久保:「寝ろ。」という広告が印象的なのですが、どのような経緯でそのようなクリエイティブを出されたのでしょうか?
三浦:いくら営業しても、成約できなかった時期の話です。
起業家は「やることがありすぎて寝られない」と言っている方がよくいますよね。そういった方に「うちに資料作りを任せてあなたは寝ろ」と本音で思っていました。
それをシンプルにクリエイティブに落としたところバズりました。
今ではその広告をクリックしていただき、最短で5分後には依頼を出せる体制が整いました。
大久保:これまで大変だったこと、教えていただけますか?
三浦:「寝ろ」広告でバズったあと、賞賛の声もあった反面、否定する人もいました。インターネット掲示板やSNS上で、批判の声を書き込まれることがありました。
それを乗り越えるとネット上で目立ち、認知を獲得できました。
最近、X(旧:Twitter)で営業事務募集と条件を記載して投稿したところ、10名ほどからメッセージをいただきました。
さらに、自分のことや会社のことを調べて、知っていただいた上で応募くださっているので、今っぽくもあり、コスパの良い採用ができるようになったと思いました。
大久保:達成感を感じたことも教えてください。
三浦:Timewitchは「年商1億円」を突破し、組織としてもピラミッド型に整ってきており、私自身が達成感を感じたところです。
最近多い「労働集約型のチーム体制」で起業されても、年商1億円の壁を突破できない企業が多い印象です。
その理由としては、一定規模になるとチームが分散してしまうからです。
年商1億円を突破するには、みんなが同じことをするのではなく、役割分担をして、組織設計を整え、オペレーションを回さないと到達できない金額だと思っています。
そのため、起業家としては1億円を達成するところを目標に頑張ってほしいです。
大久保:人に任せるから良くなるし、拡大していきますよね。
三浦:起業したからといって偉いわけではありません。自分より優秀な人を集めて、権限移譲していけば、自ずと拡大していくと思います。
大久保:最後に起業家へメッセージをお願いします。
三浦:今までなかったものを作ってほしいです。私自身、それがやりがいになりましたし、海外に雇用を生み出せました。
自分だから生み出せた価値、富、幸せを追い求める方を応援したいです。さらに、今は令和の時代なので、資本主義ではなく、思いで動く人の方が結果的に上手くいくと思っています。
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(取材協力:
株式会社Timewitch CEO 三浦 健之介)
(編集: 創業手帳編集部)