小規模企業共済の共済金の受け取り方は?申請の流れや受け取れる共済金の種類を解説

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小規模企業共済に加入するなら共済金の受け取り方を確認しよう


国の機関として中小企業の経営者・役員や個人事業主などをサポートしている中小機構では、経営者や個人事業主が利用できる退職金制度「小規模企業共済」を提供しています。
小規模企業共済に加入することで、将来的に共済金を受け取ることが可能です。

もし現在小規模企業共済への加入を検討しているのであれば、共済金の受け取り方についても理解しておいてください。
今回は、小規模企業共済の基礎知識から共済金を受け取るために知っておきたいことまで、詳しく解説していきます。
小規模企業共済への加入に興味がある方は、ぜひ参考にしてみてください。

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経営者や個人事業主が加入しておきたい小規模企業共済とは?


まずは小規模企業共済の基礎知識からご紹介します。そもそもどのような制度で、加入することでどのようなメリットがあるのか、加入対象の条件なども併せて解説します。

掛金の積立で退職・廃業時に共済金が受け取れる制度

小規模企業共済は、国の機関である中小企業基盤整備機構(中小機構)によって運営されている制度です。
小規模企業の経営者や役員、個人事業主などの対象者が掛金を積み立てていくことで、退職・廃業時に共済金を受け取れるようになっています。
2022年3月現在で全国約159万人が活用している制度です。

小規模企業共済では、主に以下の特徴が挙げられます。

  • 毎月の掛金を500円単位で自由に増減可能
  • 掛金全額が所得控除の対象になる
  • 共済金の受取りを一括・分割・併用の3つから選べる
  • 掛金の範囲内であれば低金利の貸付制度が活用できる
  • 契約者が死亡した場合でも遺族に共済金が支払われる

掛金がすべて所得控除の対象になることで、高い節税効果が期待できます。
また、万が一事故や病気などで契約者が亡くなったとしても、掛金は無駄にならず遺族へ支払われるのも大きな特徴です。
この場合、承継通算として契約を遺族(配偶者または子ども)が引き継ぎ、共済金の支給割合を増やすことも可能です。

小規模企業共済に加入できる人

小規模企業共済制度には誰でも参加できるわけではありません。以下の条件をクリアしている人は加入資格を持っています。

1.建設業・製造業・運輸業・サービス(宿泊・娯楽のみ)業・不動産業・農業などを営んでいる場合、使用する従業員が常に20人以下の企業経営者や役員、個人事業主
2.商業(卸売業・小売業)・サービス業(宿泊・娯楽以外)を営んでいる場合、使用する従業員が常に5人以下の企業経営者や役員、個人事業主
3.事業に従事する組合員が20人以下の企業組合役員や、常に使用する従業員数が20人以下の協業組合役員
4.常に使用する従業員数が20人以下で、農業の経営を主に手掛ける農事組合法人の役員
5.1・2に当てはまる個人事業主が営んでいる事業の共同経営者(個人事業主ひとりあたり2人まで)

ただし、常に使用する従業員の中に家族従業員や臨時従業員、共同経営者は含まれないので注意してください。

受け取れる共済金の種類は立場や請求事由で異なる


受け取れる共済金は主に4つの種類がありますが、受け取る人の立場によって請求事由が異なります。それぞれ請求事由にどのような違いがみられるのかご紹介します。

個人事業主の場合

個人事業主が受け取れる共済金の種類と、受け取るための請求事由は以下のとおりです。

共済金A 個人事業が廃業(複数の事業を営む場合はすべての事業)した場合
共済契約者が亡くなった場合
共済金B 老齢給付
準共済金 個人事業を法人成りさせたことで加入資格がなくなり、解約となった場合
解約手当金 任意解約
掛金が12カ月以上支払われなかった場合
個人事業を法人成りさせたことをきっかけに解約した場合

上記の請求事由によって受け取れる種類は異なるものの、例外となるケースも存在します。
例えば個人事業が廃業した時、2016年3月以前にすべての事業を配偶者や子どもへ譲渡させている場合、受け取れるのは共済金Aではなく準共済金です。

また、2010年12月以前に小規模企業共済へ加入した個人事業主が金銭出資などから法人成りをして解約する場合、解約手当金ではなく共済金Aを受け取ることが可能です。
なお、老齢給付に関しては後ほど詳しく解説します。

法人役員の場合

株式会社などの法人役員も同様に、共済金の種類によって請求事由が異なります。

共済金A 法人が解散してしまった場合
共済金B 病気やケガなどを理由に役員を退任する場合
65歳以上で役員を退任する場合
契約者が亡くなった場合
老齢給付
準共済金 法人の解散や病気・ケガ以外の理由で役員を退任する場合
65歳未満で役員を退任する場合
解約手当金 任意解約
掛金が12カ月以上支払われなかった場合

法人役員が共済金を受け取れるのは、一般的に法人が解散するか、もしくは役員を退任する場合です。
それ以外の理由で退任する場合は準共済金、任意解約や滞納などのトラブルによって解約された場合は解約手当金が該当します。

共同経営者の場合

共同契約者が共済金を受け取れる請求事由です。

共済金A 廃業(複数の事業を営む場合はすべての事業)したことで共同経営者を退任する場合
病気・ケガを理由に共同経営者を退任する場合
契約者が亡くなった場合
共済金B 老齢給付
準共済金 個人事業を法人成りさせたことで加入資格がなくなり、解約となった場合
解約手当金 任意解約
掛金が12カ月以上支払われなかった場合
共同経営者の任意退任によって解約する場合
個人事業を法人成りさせたことをきっかけに解約した場合

共同経営者の転職や独立・開業、のれん分けなどで退任した場合も任意退任に含まれることから、受け取れる共済金は解約手当金となります。

税務上の扱いも年齢や受け取り方で変わる

共済金を受け取った時の年齢や受け取り方によっては、税務上での取り扱いも違ってきます。

年齢・受け取り方 税務上の扱い
共済金・準共済金をまとめて受け取る 退職所得
共済金を分割で受け取る 公的年金等の雑所得
共済金を一括と分割の併用で受け取る 一括分…退職所得
分割分…公的年金等の雑所得
共済金を遺族が受け取る(死亡退職金) みなし相続財産(相続税法上)
65歳以上での任意解約・共同経営者による任意退任で受け取る 退職所得
65歳未満での任意解約・共同経営者による任意退任で受け取る 一時所得
12カ月以上の掛金未払いによる解約で、解約手当金を受け取る 一時所得

共済金はどのくらいの額を受け取れる?


制度へ加入する前に、実際どれほどの金額を受け取れるのか気になるものです。そこで、共済金の算定方法についてご紹介します。

共済金は基本共済金と付加共済金で構成されている

共済金は、主に基本共済金と付加共済金を合わせた金額が支払われます。
基本共済金とは、毎月の掛金と納付してきた月数によって、各事由を小規模企業共済法施行令で定めているものです。

一方、付加共済金は毎年度の運用収入などから、経済産業大臣が毎年定めている率から算定される金額です。
基本共済金の予定利率は1.0%で、廃業・退職時に受け取れる共済金がなるべく多くなるよう設定されています。
銀行の定期預金の金利だと通常は0.01~0.05%、キャンペーンなどで0.2~0.3%に設定されている場合が多く、小規模企業共済の予定利率がいかに高いかがわかるはずです。

基本共済金の算定方法

基本共済金を算定する場合、掛金月額1口500円あたりの金額を支払った月数に応じて計算していきます。
ただし、途中で掛金月額を変更した場合、月額ごとに支払った月数を分けなければなりません。
例えば、以下の条件で掛金を支払った場合をシミュレーションしていきます。

2017年4月から加入、掛金月額1万円……①
2022年4月から掛金月額に1万円プラス(計2万円)……②
2027年4月から掛金月額を1万円プラス(計3万円)……③
2032年3月に個人事業を廃業し、共済金Aを受け取る

掛金月額 支払った月数 掛金合計 掛金月額1口(500円)あたりの金額 基本共済金額(共済金A)
一万円 180カ月 180万円 100,550円(ア) (ア)×20口
=2,011,000円
一万円 120カ月 120万円 64,530円(イ) (イ)×20口
=1,290,600円
1万円 60カ月 60万円 31,070円(ウ) (ウ)×20口
=621,400円
3,923,000円

付加共済金の算定方法

付加共済金は基本共済金に上乗せする形で受け取れる金額です。解約手当金で受け取る場合のみ付加共済金の対象外です。

付加共済金は、基準月ごとに設定される付加共済金額と脱退端数月分の付加共済金額を合わせて算定されます。
2022年度の付加共済金は年度内に納付した期間が36カ月以上となった契約者が対象であり、2022年4月以降に脱退したことで受け取る基本共済金に上乗せされて支給されます。
例えば2022年度に500万円の基本共済金を受け取った場合、付加共済金額は以下のとうりです。
500万円(基本共済金)×0.504%(2022年度支給率)=25,200円

定型書類の自動発送サービスで試算金額を確認できる

すでに小規模企業共済へ加入しており、今受け取れる共済金または解約手当金の試算金額を知りたい場合には、定型書類の自動発送サービスを活用するのがおすすめです。
申し込みから約1週間で登録されている住所に、試算金額などが記載された書類が届きます。

自動発送サービスを活用する際には、事前に以下の情報を準備しておくとスムーズな申し込みが可能です。
また、プッシュホンで操作する際、番号を入力したら「#」を押すようにしてください。

  • 共済契約者番号(9ケタ)
  • 契約者本人の生年月日
  • 取り寄せたい書類の書類番号(共済金試算表は「998」)
  • 契約者の電話番号

共済金の受取方法


共済金は一括・分割・一括と分割の併用から受け取り方を選べます。
一括はどの共済金の種類でも受け取れる方法になりますが、分割と併用は条件を満たさないと利用できません。

  • 共済金AまたはBに該当している
  • 請求事由が「共済契約者の死亡」ではない
  • 請求事由が発生した日の年齢が60歳以上
  • 分割の場合、受け取る予定の共済金が300万円以上
  • 併用の場合、受け取る予定の共済金が330万円以上(一括で30万円以上、分割で300万円以上)

分割と併用を選択すると、受取期間を10年または15年から選ぶことができ、1年間で6回(奇数月)に分けて受け取れるようになります。
また、万が一分割で受け取っている期間中に契約者が死亡、または重度の障害を負ってしまった際には、まだ受け取っていない分を繰り上げてもらうことも可能です。

小規模企業共済の共済金を受け取る手順・必要書類


実際に共済金を受け取る場合、どのような流れで手続きを進めていけば良いのかわからないことも多いはずです。ここからは、共済金を受け取る手順と必要書類について解説します。

共済金を受け取る手順

小規模企業共済に加入し、個人事業の廃業にともなって共済金を請求する場合の手順は以下のとおりです。

1.必要書類を準備
2.金融機関の窓口から口座の確認印をもらう
3.中小機構に書類を送付する
4.共済金を受け取る
5.中小機構から送付された書類(支払決定通知書兼振込通知書)を受け取る

まずは必要書類を準備し、必要な項目をすべて埋めてください。次に共済金を受け取りたい口座がある金融機関へ出向き、共済金等請求書を提示して口座の確認印をもらいます。
書類の準備が完了したら、中小機構へ郵送します。
マイナンバーを記載した書類も送付する場合、紛失などが不安な方は簡易書留などの追跡サービスが使える方法で送付するのがおすすめです。

中小機構は送られた書類をもとに審査を実施し、問題がなければ指定された口座に共済金を振り込みます。
共済金が振り込まれるまでは3週間ほど時間がかかってしまうので注意してください。

書類に不備がある場合や、商工組合中央金庫以外の金融機関を借入窓口にしている場合は、さらに時間がかかることもあります。

請求に必要な書類

共済金請求で中小機構に提出する書類は、主に6種類です。

・個人事業の廃業届
廃業年月日がわかり、なおかつ税務署の受付印が押された廃業届、または事業廃止の届出書・承認書(官公署等から受理されたもの)のコピーが必要になります。
e-Taxで電子申告をした場合は申告後に送られてくる「メール詳細」を準備してください。
また、法人設立にともなって個人事業を廃業した方は、設立した法人の定款も必要です。

・印鑑登録証明書
印鑑登録証明書は書類を発行してから3カ月以内の原本を提出します。

・マイナンバーの確認書類
中小機構では個人情報の漏洩などのリスクを避けるために、共済金を支払う際の税務事務のみでマイナンバーを取り扱っています。
そのため、マイナンバーが確認できる書類(マイナンバーカードや住民票の写しなど)も用意してください。

・共済金等請求書
共済金等請求書は中小機構の様式書類です。
中小機構のホームページから様式書類のPDFファイルをダウンロードしたり、書類の自動発送サービスを利用したりすることで書類を準備できます。

・退職所得申告書
退職所得申告書は、共済金を一括で受け取る際に必要な書類です。
請求事由が生じた年度、またはその前年4年以内に退職手当金を受け取っていた場合は、退職手当金の源泉徴収票もセットで送付する必要があります。

・共済契約締結証書
共済契約を締結させたことを示す証書も送付します。もし紛失している場合は共済契約者番号が確認できる、中小機構から発行された書類を添付しなくてはなりません。
ほかの書類もない場合は便せんなどに契約者名、住所、生年月日、締結証書を紛失している旨を記載し、ほかの書類と共に送付します。

65歳以上・掛金15年以上なら老齢給付で受け取れる


65歳以上で掛金15年以上を払い込んでいる場合、老齢給付として受け取ることが可能です。ここでは老齢給付がどのようなものか、受け取る流れと併せて解説します。

小規模企業共済の老齢給付とは

老齢給付とは、65歳以上で掛金を15年(180カ月)以上払い込んだ際に受け取れる共済金で、主に共済金Bの請求事由に該当します。
共済金Aに比べて受給額は若干低いものの、決められた年齢と年数さえ超えていれば請求が可能となるため、払込みや受取りの計画を立てやすい点はメリットです。

また、20年(240カ月)未満で任意解約をすると元本割れを引き起こしてしまいます。
なるべく100%以上の支給割合で共済金を受け取るためにも、老齢給付の活用を検討してみてください。

老齢給付を受け取る流れ

老齢給付を受け取りたい場合の手順は上記でご紹介した流れとほとんど同じです。
ただし、上記の個人事業が廃業したケースでは「個人事業の廃業届」が必要でしたが、老齢給付では不要です。

必要書類を準備したら、共済金の受取りを指定する口座の金融機関で共済金等請求書を提示し、口座の確認印を押してもらいます。
それからすべての書類を中小機構へ送付し、特に書類の不備もなく審査が完了すれば、指定の口座へ共済金が振り込まれます。

まとめ

小規模企業共済は経営者や個人事業主が活用できる退職金制度であり、退職金のようにまとめて受け取ることや、年金のように分割して受け取ることも可能です。
掛金はすべて所得控除の対象となるため、節税対策をしたい方にも適しています。
共済金は一括・分割・一括と分割の併用から選び、必要書類を準備して提出することで受け取れます。

ただし、審査などもあるため、共済金が口座に振り込まれるのは3週間以上時間がかかってしまうでしょう。その点に注意しつつ、小規模企業共済をうまく活用してください。

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(編集:創業手帳編集部)

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