下請法とはどんな法律?親会社の禁止行為や違反事例を紹介!
親会社は下請法を理解する必要がある
下請企業は資本金の大きい企業との取引きで不利な立場になりやすいことから下請法によって保護されています。
下請法に違反したらペナルティが課せられる可能性があるため、どういった行動が違反となるのか企業全体で把握しておきましょう。
そこで今回は、下請法の基本をおさらいすると共に、実際に起こった事例を解説していきます。
企業の対策ポイントも解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
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この記事の目次
下請法とは
親事業者から不公平な扱いを受けないよう、下請事業者を守るための法律が下請法です。
適用される取引は、以下の4種類です。
・製造委託
製品の販売・製造を行う企業がほかの企業に仕様を指定して製造を依頼することを指します。
家具や家電メーカーなどが自社のプライベートブランドの製品を他企業に依頼するケースが当てはまります。
・修理委託
製品修理を受託している企業が修理を外部に委託することを指します。例えば、家電メーカーが顧客から依頼された修理を他メーカーに位置するケースが当てはまります。
・情報成果物作成委託
ソフトウェアのプログラムや映像コンテンツ制作を実施する企業が、制作を他企業に依頼することを指します。
ゲームソフトを販売する企業が、他企業にプログラム業務を依頼するケースが当てはまります。
・役務提供委託
運送や警備、ビルメンテナンスなどを役務といいます。
これらサービスを実施する企業が、受託した業務を他企業に任せることを指し、運送事業者が荷物の運送の一部分をほかの事業者に依頼するケースが当てはまります。
親会社の義務
取引きを行う際には、下請けとなる企業の利益保護を目的に親会社に対して以下の4種類の義務が定められています。
・発注書面交付義務
口頭でのやり取りのみでは契約内容が曖昧になりやすく、下請事業者が損失を被る危険性があります。
発注者には書面を交付することが義務付けられています。その際には、発注内容や納期、支払期日などを掲載してください
・支払期日を定める義務
親事業者は、下請代金の支払期日を定めなければいけません。期日は、発注品を受領した日から60日以内です。
例えば、月末締めであれば翌月末、もしくは翌々月末での支払いが一般的です。お互いが合意したとしても60日を超えた日を定められないので、注意してください。
・取引記録保存義務
親事業者は、取引内容を記録した書類を作成し、尚且つ2年間保存しなければいけません。
記録には、受領日や支払額、支払日や発注内容の変更理由などを記しておきます。
・遅延利息支払い義務
親事業者が支払い期日を守らなかった際には、下請事業者に対して遅延利息を支払わなければいけません。
受領日から60日を経過した日から実際に支払うまでの日数に年率14.6%をかけて算出される仕組みです。
期日までの支払いに遅れないよう、余裕を持った事務処理をしてください。
違反した場合の罰則
親事業者が下請法に違反したら、どういったペナルティが課せられるのか解説していきます。
・勧告、指導
違反すると親事業者は勧告や指導が行われます。
違反内容によっては、不当に減らした分の代金や支払いが遅れた際の利息を支払うよう勧告がなされるケースもあります。
・罰金が科せられる
下請法に違反すると下請法第10条に基づいて50万円以下の罰金が科される危険性があります。
発注書面の未交付や取引記録の未保存、虚偽の申告や立入検査を拒否した時などです。
・社会的信用を失う
勧告を受けると、違反内容や企業名が公表されるので、取引先や消費者からの信用を失うリスクがあります。
悪質な違反内容であれば評判が悪くなり業績悪化につながって経営が難しくなる可能性があるので注意してください。
下請法の違反事例
ここからは、実際に起きた下請法の違反事例を紹介していきます。
買いたたきの違反事例
卸売業者や子会社向けに販売する電動工具向けのホースカバーセットの製造を他企業に依頼していた電動工具メーカーのK社による事例です。
下請事業者は、原料価格の上昇を背景として製造原価割れが生じることが明らかであると認識したため、K社に対して単価の引き上げを求める見積書を提出しました。
しかし、K社は価格交渉が長期化すると生産活動に影響が生じることを懸念し、下請けに対して自社の利益を優先して製造原価を考慮することなく、区切りの良い金額を提示しました。
それに加え、実際には具体的な計画がなかったにも関わらず、段階的に単価を引き上げる旨を伝えたのです。
結果として、同種類似の取引内容を比べると著しく低い金額を不当に定めていました。
この事例では、下請事業者が提示した見積もり単価を用いて計算した代金と下請代金額との差は総額302万円を超えており、K社は勧告を受けた後に差額分を支払っています。
代金減額の違反事例
建築資材の製造販売を行う親事業者のN社は下請業者に対して自社で販売や製造を請け負う建築資材の製造を委託していました。
しかし、仕入割引の額を下請代金の額から差し引くほか、リベート額を下請代金額から差し引いていたといいます。
減額金額は総額2,320万円以上にも及び、下請代金の減額の禁止の規定に違反する行為と認められ、公正取引委員会による勧告が行われました。
その後、N社は減額した代金分を下請事業者に対して支払っています。
支払い遅延の違反事例
女性向けのアパレルを中心に販売するL社は、女性向け既製服などの製造を下請業者に委託していました。
L社は下請業者に対して消化仕入取引(顧客に商品を販売した時点で、販売者がその商品を買い取り、仕入れたとして計上する取引形態)を行っていましたが、下請け代金の支払期日を過ぎているのに総額約1億7,015万円が支払われていませんでした。
支払い期日を過ぎているのに支払われていない件については、第4条第1項第2号における「下請代金の支払遅延の禁止」に当てはまっています。
また、マークダウンなどの値引きや手数料、金利などを設けることで、総額約14億9,10
0万円を下請代金から減額していたことも判明しています。
さらに、商品が売れ残ったことを理由に、総額約6億5,500万円分の商品を返品していました。
なお、L社に対してマスコミ各社が「下請けいじめ」があったのではないかと報道しましたが、納入業者が声明文の公表と記者会見を行い、下請法違反はあったものの下請けいじめはなかったと発表しています。
不当返品の違反事例
日用品雑貨や家具などの販売を行っているN社は、製品の製造を下請企業に依頼していました。
下請けが作った製品をN社が受領後、受け入れ検査をしていないのに、瑕疵があることを理由に2021年2月~2022年12月までの間、当該製品を下請けに引き取らせていたのです。
返品した製品の代金は、総額4,042万円以上となり、加えてN社は返品時の送料も負担させていました。
結果、引き取ることができる製品の引き取り及び下請代金相当額の支払い、引き取れない製品の下請代金相当額の支払いなどの勧告を受けています。
不当な経済上利益の提供要請の違反事例
電気通信機器の製造販売を実施しているD社は、下請法に該当する違反をし、勧告を受けています。
D社は、自社が製造販売する電気通信機器の部品の製造を依頼し、下請事業者に対して自社で所有している金型や樹脂型、治具などを貸与していました。
しかし、前述の金型を使って製造する部品の発注をしていないにも関わらずに、下請事業者に対して無償で保管させることで下請事業者の利益を不当に害していました。
その結果、無償で金型を保管させていたことによる費用に相当する金額を速やかに支払うよう求められています。
購入・利用強制の禁止の違反事例
親事業者が下請事業者に対して指定する製品や原材料などを強制的に購入させるほか、サービスを強制的に利用させて対価を支払わせる行為が購入・利用強制に該当し、違反行為とされています。
一般貨物自動車運送や貨物利用運送といった事業を行うD社は、下請事業者に対して荷主から請け負う貨物の運送のすべてもしくは一部を委託しています。
D社は、外部販売取引による売上を拡大して自社の利益を確保するために営業活動を積極的に推進し、外部販売取引にかかる売上高の目標金額を定めて活動をしていました。
下請事業者に対しては、委託する貨物の運送と外部販売取引とは直接関係がないにも関わらず、下請事業者に対して目標金額を具体的に示すことや目標達成のために自社が提供する貨物運送の利用を要請していたことがわかっています。
下請事業者は自らが荷主から請け負った貨物運送のすべてや一部をD社に再委託することになり、その利用金額が総額6,995万円を上回る結果となりました。
D社は勧告を受けた結果、下請事業者に対して自社が提供している貨物運送を利用させたことで得ていた利益に相当する額を支払っています。
不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止の違反事例
C社は、自社が用いるイラストや2D・3Dモデルの作成を下請業者に委託していました。
しかし、2022年4月~2023年12月までに、下請業者23名に対して、給付を受領したにも関わらず、発注書などに記載された内容からは必要とわからない部分のやり直しを無償でさせていたとして勧告を受けました。
その数は、下請業者23名に対して合計243回にも上っています。
この勧告を受け、C社は公正取引委員会の確認を得た上で、無償で給付をやり直しさせたことによる費用の相当額の支払い、発注担当者に対して下請法の研修を行い社内体制の整備に必要な措置を講ずるとしています。
違反事例から学ぶ企業の対策ポイント
最後に、企業が違反しないための対策方法を解説していきます。
下請法を理解する
違反しないための対策として挙げられる1つ目の方法が、下請法を理解することです。
規制内容を理解していなければ「してはいけないこと」を理解できません。
書籍やインターネットで知識を増やすほか、公正取引委員会から出されているパンフレットに目を通すだけでも「何をするべきなのか」「何をしてはいけないのか」を判断しやすくなります。
下請けに業務を依頼する際には目を通すようにしてください。
発注書交付で注意すること
親事業者が下請事業者に発注を依頼する際には、前述したように発注書を交付しなければいけません。
発注書には、掲載すべき内容があるので忘れずに記してください。
-
- 親事業者名
- 下請事業者名
- 委託をした日
- 給付内容(委託した内容がわかるように明確に記載)
- 給付を受領する期日
- 給付を受領する場所
- 検査が完了する期日(給付内容について検査をする場合)
- 下請代金額
- 手形の金額および手形の満期(手形を交付する場合)
- 金融機関名や貸付または支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額または下請代金債務相当額を支払う期日(一括決済方式で支払う場合)
- 電子記録債権額および電子記録債権満期日(電子記録債権で支払う場合)
- 品名、数量、対価、引渡し期日、決済期日、決済方法(原材料を有償支給する場合)
下請代金の支払いで注意すること
下請代金を支払う際にも注意点があります。
親事業者は、前述したように60日といった支払期日の指定があります。
下請事業者から請求書の提出が遅れてしまったとしても、代金の支払いを遅延してしまうと遅延利息を支払う義務があるので注意が必要です。
支払期日が金融機関の休業日であった際には、翌営業日に支払うことになるため、あらかじめ書面で双方が合意しておく必要があります。
また、発注者側が掲示している下請代金が不当に低い金額になっていないかチェックすることも大切です。
見積もり時よりも発注内容が増えているにも関わらず下請代金は据え置き、大量発注で割引された金額のまま少量発注を行うといったケースでは違反となる可能性があるため注意してください。
弁護士に相談する
下請法で悩んだら弁護士に相談するのも対策のひとつです。
自社の対応で不安な点がある時、迷ったケースがある時などは、弁護士に相談することで違反を避けやすくなります。
仮に違反行為が生じてしまっていた場合でも、早期の是正が可能となるため安心です。
まとめ・違反しないよう適切な取引を実施しよう
他社に業務を依頼する際には、違反行為によってペナルティを受けないよう下請法の規定を確認しておくことが大切です。
自社が下請事業者の立場になるケースも考えられるため、あらかじめ理解しておくことが自社の身を守ることにもつながります。
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(編集:創業手帳編集部)