40年以上履き続けられる靴を守りたい。靴の販売員が老舗ブランドを買収した理由
株式会社 新宿屋 代表取締役 丸吉 肇インタビュー
(2019/04/24更新)
日々の生活に欠かせない「靴」。「shinjukuya」は、熟練した職人が履く人に合った「完全オリジナルの靴」を製造している女性向けの国産ブランドで、多くのファンがいます。
「shinjukuya」は、M&Aによって取り扱う会社が次々と変わっていたという過去があります。このブランドを買収して独立したのが、現代表取締役である丸吉 肇氏です。
いち靴の販売員だった丸吉氏は、なぜ多大なコストを払ってまで独立を決意したのでしょうか。その理由を伺いました。
苦い経験を経て生まれた「守りたい」という意思
丸吉:「いくつになってもおしゃれをしたい」
「となりの人とは違う、オリジナルの靴を履きたい」
「とにかく履き心地の良い靴がほしい」
「外反母趾だから、合う靴がない」
このような女性に、洗練されたデザイン、オリジナルの最高の素材、究極の履き心地を同時に実現した「完全オリジナルの靴」を製造販売しております。
現在は、非常に貴重なエキゾチックレザーを使用したオンリーワンの靴を製作する「shinjukuya」と、270億通り以上の組み合わせから、お好きな素材、お好きな色を選んでオンリーワンの靴を作ることができる「Jun.Jun」という2つのブランドを展開しています。
丸吉:私は大学卒業後に相互信用金庫に勤めたのですが、そこが経営破綻しました。預金は全額保護されましたが、出資金が保護されず、お客様の大切なお金は喪失。「多大なご迷惑をかけた」という後悔しか残りませんでした。
その後、(株)ニュー新宿屋靴店に入社。そこで靴のノウハウを学び、「shinjukuya」ブランドの責任者として勤務しておりました。
しかし、(株)ニュー新宿屋靴店は事業閉鎖し、M&Aにより「shinjukuya」を取り扱う会社も転々と変わりました。
その度に、お客様から「もう『shinjukuya』の靴は買えないの?」、「修理メンテナンスはしてもらえないの?」と不安の声を多々いただき、心の中で葛藤しておりました。
そんなある日、祖母が40年間ずっと履いている靴を見せてもらったのですが、なんとそれが「shinjukuya」の靴でした。
まさか自分の祖母も愛用者とは驚きの出来事で、あらためて「shinjukuya」の素晴らしさを実感した瞬間でした。
「信用金庫での後悔を、二度と繰り返したくはない」
「40年以上も履くことができる靴を作れるブランドを守らなくてはならない」
そう思い至って、「shinjukuya」を買収して独立しました。
丸吉:実は、会社の設立方法はおろか、社会保険・労働保険等、何をどのようにしたらいいのか全く知りませんでした。
電話帳で司法書士を探し、一件ずつ電話をかけて、一から教えていただける先生を探しました。当初はこれが大変でしたね。
その後は、すでに起業している友人達に「どのように会社を運営しているか?」、「どんな保険等に入っているか?」など、様々なことを聞いて対応しました。
中でも特に大変だったのは、買収資金の用意でした。
諸事情によって突然買収できることが決まり、1ヶ月以内に多額の買収金額を用意しなければならない状況になってしまったのです。当然、手持ち資金では全く足りない金額です。
各銀行では対応が難しく、日本政策金融公庫の創業支援融資のおかげで乗り越えることができました。
靴に対する「想い」や「喜び」に応え続ける
丸吉:「今までどんな靴も合わなかったのに、この靴なら旅行に行くことができる」
「外反母趾でも、気にせずおしゃれを楽しむことができる」
「この靴ともっと早く出会いたかった」
といったお言葉をいただくことがあります。お客様が喜んでくれる時が一番嬉しいですね。
また、靴に足を入れた瞬間に「きもちいい」「履きやすい」といった驚きの声をあげるお客様もいらっしゃいまして、そういった声を聞くのは特に嬉しいです。
丸吉:お客様に対しては、納期・加工方法など、販売時にお約束することが多くあります。当然のことではありますが、そのようにお約束したことは必ず守るようにしています。
また、「誠意、感謝、おかげさま」という気持ちを常に持ち、「伝統を守りながら新しい発想につなげる」ことを意識しています。
丸吉:オシャレをしたい女性の中には、有名ブランドや海外ブランドの靴をご購入されるケースもあります。
しかし、「足が痛くなってつらい」という声をよく耳にします。
それは、靴の元となる「木型」が、日本人の足に合っていないからです。
下駄文化であった日本人が、主に洋式の靴を履くようになったのは、江戸時代末期から明治時代初期。まだまだ日本の靴文化は浅い為、世の中にあふれている靴の木型が日本人の足に合っていないのは当然のことです。
そのような現実の中で、当社は日本人の足に合う木型を独自に開発しました。製造過程にもこだわり、究極の履き心地を追求したのはもちろん、修理・メンテナンスも充実させています。
このようなことができる靴屋は、本当に少ないと思います。
女性の靴に対する、あらゆる「想い」や「喜び」にお応えすることが、当社の提供する価値であり目標です。
丸吉:私は起業する際、公的機関の相談所の存在を知らずに大苦戦しました。
起業後にその存在を知り、今でも経営相談等でサポートいただいております。
「経営者は孤独」と言われることがありますが、全国に多くの無料サポート機関がありますので、心強い味方になると思います。
起業後も、資金繰りなどに悩んで夜も眠れないような日が来ると思います。
少なくとも、1年先の手持ち現金がわかるように、資金繰り表は必ず作成して下さい。
起業して、会社が存在しているということは、スタッフ、仕入先、販売先等、会社に係わっているすべての人の生活、すべての人の家族に繋がっています。苦しいときも、その人達に幸せを与えていると思うことで勇気をもってがんばってください。
(取材協力:株式会社 新宿屋 代表取締役 丸吉 肇)
(編集:創業手帳編集部)