葬儀の閉じた世界を広げ、エンディング業界へ【清水氏連載その2】
第2創業で上場!大ピンチの零細出版社を急成長企業に生まれ変わらせた鎌倉新書の清水会長に聞く、成長基調へのヒント
葬儀や墓石、仏具などの事業者とユーザーをマッチングさせるポータルサイト『いい葬儀』『いいお墓』『いい仏壇』を運営する株式会社鎌倉新書。今回インタビューに応じていただいた清水会長が承継された際は、実は倒産寸前まで追い込まれていたといいます。
清水会長は承継後に業態転換を行い、第二創業を成功させました。前回の事業承継のコツや業態転換のエピソードに引き続き、第2回では鎌倉新書が葬儀業界から、さらにライフエンディング業界へと発想を広げていく過程をうかがいました。
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株式会社鎌倉新書 代表取締役会長CEO
証券会社勤務を経て、1990年に父親の経営する株式会社鎌倉新書に入社。同社を仏教書から、葬儀やお墓、宗教用具等の業界へ向けた出版社へと転換。さらに「出版業」を「情報加工業」と定義付け、セミナーやコンサルティング、さらにはインターネットサービスへと事業を転換させた。現在『いい葬儀』『いいお墓』『いい仏壇』『Story』など、終活関連のさまざまなポータルサイトを運営し、高齢者の課題解決へ向けたサービスを提供している。
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この記事の目次
マネタイズのタイミングはコントロールできないもの。経営者には粘りも必要
大久保:清水会長は1990年にお父様の経営する出版社に入社後、出版社から情報会社へ、紙からネットへのシフトを果たされました。
清水:2000年に始めた、全国の葬儀社検索と、お葬式のマナーや葬儀に関する総合情報ポータルサイト『いい葬儀』が転換点でしたね。以降、2003年に霊園・墓地・お墓探しの総合情報サイト『いいお墓』と、仏壇と仏壇店探しに関する総合情報サイト『いい仏壇』を、2008年に全国の優良な石材店と霊園探しのサイト『優良墓石・石材店ガイド』というように、葬儀周辺でのニーズに応えて、ネットでの情報提供プラットフォームを固めていきました。
大久保:広く葬儀業界全体を扱ってこられたわけですが、反響はいかがでしたか。すぐに手応えは感じられたのでしょうか。
清水:シニア層にはインターネットは難しくても、若い層には受け入れられていきましたね。終活や身じまいを考え始める70~80代の方の息子さん、娘さんは40~50代。その世代は仕事でインターネットを使い始めていますから、問題ありませんでした。
それよりも当初難しかったのは、石材店や葬儀店など、業界の人たちですね。当時でも一応、自社のホームページというのは作られていましたが、「ネットから問い合わせや相談、申し込みが入ることなんてほとんどないから、そんなサイトを作っても無駄だ」というような声をよく聞きましたね。
大久保:どのようにして利用者は増えてきたのですか。
清水:無理だと思うけれど、と言いながら、『月刊仏事』のよしみで付き合ってくれるお客様はいたんですね。それで、少しずつポータルサイトが使われるようになって、ユーザーが現れだすと、お客様も評価いただけるようになって、そうしたループがつながってきたのです。
また、5~6年くらいで50~60代のネット人口も増えました。時代に合ってはいたのですね。それでも、インターネットで芽が出るまでに7~8年、売上げはほとんど上がりませんでした。ですので、インターネット事業の費用は主に出版の売上げでまかなっていました。
大久保:途中で止めようとは思わなかったですか。
清水:私自身は、いずれインターネットの時代が来ると信じていたので、止めることは考えませんでした。しかし、社内の雰囲気は良くなかったです。出版部門とインターネット部門の社員が取っ組み合いのけんかをすることもあり、懸命になだめたりしていました。
マネタイズできるタイミングというのは実に難しいものです。ビジネスとして可能性はあると信じてはいても、こちらでコントロールできるものではない部分もあるので、会社の体力や社員の理解は必要ですが、経営者にも粘りが欠かせません。
大久保:そのマネタイズが、葬儀場探しで困っている方と葬儀社とのマッチングで叶ったわけですね。
清水:2010年を過ぎた頃から、世の中にネット検索が浸透して、分からないことを当たり前のように検索するようになりました。すると当社のポータルサイトでのマッチング実績も増えて、毎年約30%も売上げが伸びてきたのです。そうなれば、事業者のほうで登録を求めてくれるようになり、ようやくビジネスの良い循環が感じられるようになりました。
樹木葬や納骨堂など、お墓のスタイルも生活に合わせて多様化
大久保:そうして、葬儀やお墓、仏壇といったところから、近年では終活・相続・遺言といった周辺領域を含めた「エンディング業界」にまで事業を広げられています。
清水:そうですね。2019年にスタートさせた『いい相続』と『いい生前契約』、2020年に始めた『いい介護』『いい不動産』『いい保険』が、周辺から生まれた事業といえますね。『いい保険』は50代以上の資金計画に特化した相談サイトで、相続や老後資金の悩みに応えるもの。『いい不動産』は不動産売却やリフォーム、その後のサポートに特化しており、鎌倉新書ならではの切り口となっています。
市場規模としては、葬儀が1兆5,050億円、仏壇が1,402億円であり、事業の中核を担うこれらのサービスでは、当社のプラットフォームにこれまで累計153万件以上の相談が寄せられてきました。
大久保:全国の葬儀社を扱っておられますが、地方色などはあるのでしょうか。
清水:地域によって習慣がありますし、仏教と一口に言っても浄土真宗や臨済宗など、いろいろな宗派があります。東京ではご遺体を安置して葬儀を執り行いますが、地域によっては先に火葬をしてから葬儀というところもあるように、お葬式のやり方、仏壇のあり方は異なるもの。ですから、全国一律のオペレーションでは展開が難しいんですね。そのため、葬儀社は地方のファミリービジネス的に営まれている会社が多く、上場企業でもシェアは1%と、規模の小さな競合がひしめく市場となっています。
大久保:エンディング業界のトレンドとして、お墓をめぐる人々の意識は近年どのように変化していますか。
清水:お葬式という儀式やお経の意味というのを、皆よくは知りません。お坊さんがいる理由もよく分からないと言われてしまう。宗教と生活の間に距離があり過ぎて、昔ながらの形だけが残っているのですね。
お墓についても、地域コミュニティが希薄化し、少子化で単身世帯も増えている現代社会には従来の「先祖代々の墓」という仕組みでは、うまく引き継いでいけなくなるかもしれません。
お墓の面倒を誰が見ていくのか。遠くの故郷にあっては墓参りも難しいので、都心の住まい近くにお墓を移す、いわゆる墓じまいや改葬も増えています。形も多様化しており、墓石を置かずに樹木葬のようなスタイルであったり、ロッカー式などの納骨堂も急増しています。生活や家族構成が変われば、お墓のあり方も変わっていくのは当然の流れでしょう。
大久保:鎌倉新書としては、どういうスタンスでご案内をされているのですか。
清水:世の中にある選択肢をすべてバランスよくお示しして、そのご家族ごとに合ったものを選んでいただくという立ち位置です。これが流行だからいいよ、というおすすめの仕方はしていません。
親子関係の変化が、終活を必要にした
大久保:終活という意味では、どういったことに今のシニア層は興味があるのでしょうか。
清水:ここ10年間で、終活は一般的な言葉になりました。それは高齢化社会になったからというよりは、親と子が離れて暮らせる時代だからでしょう。一緒にとか、ごく近所に住んでいれば「親のかかりつけ病院はどこか」、「預金通帳はどこに置いてあるか」などということは知っていて当たり前でした。
しかし、離れて暮らしているということは、子どもが親のそうしたことを把握していなかったりするわけです。ですから親は、財産はこういう風に分けようとか、いざという時の延命措置をどこまで受けたいかなど、自分であらかじめ考えて、分かるようにしておかねばならなくなったのですね。それがエンディングノートです。病気や介護、亡くなり方に葬儀の方法、相続、遺言というのが関心事です。
大久保:鎌倉新書では、葬儀やお墓について毎年全国調査なども行い、トレンドを把握もされています。次回は、そうした最新情報も含め、昨今の終活ブームやコロナ禍がエンディング業界に与えた影響についてうかがっていきます。引き続きよろしくお願いいたします。
(次回に続きます)
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(取材協力:
鎌倉新書 代表取締役会長CEO 清水祐孝)
(編集: 創業手帳編集部)