社保倒産が急増?起きてしまう理由や対策方法を解説

創業手帳

社会保険料の差し押さえで倒産する企業が増えている


企業を経営する中で、社会保険料の負担が重いと感じる方は多いです。
現在、社会保険料や各種税金の支払いを滞納したことで、自社の資産を差し押さえられてしまい、結果的に倒産へ追い込まれてしまうケースが増えてきています。

そのような社会保険料による倒産は「社保倒産」と呼ばれていますが、なぜ社保倒産が発生してしまうのでしょう。

今回はその理由と社保倒産を防ぐための対策方法について解説します。
社会保険料の負担を少しでも軽減させる方法についても解説しているので、気になる方はぜひ参考にしてください。

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社保倒産とは?


社保倒産は、厚生年金や健康保険などの社会保険料が支払えず、滞納してしまった結果、会社の資産を差し押さえられて倒産することを指します。
社会保険料は原則個人と事業主の折半によって支払われているため、社会保険に加入する正社員数が多ければ多いほど、会社の負担も大きくなっていきます。
社保倒産はどの業種・業態でも起こり得るものであり、また一時は売上げが200億円以上にも上っていた企業でさえ、社保倒産に追い込まれてしまうケースもあるほどです。

社保倒産が急増している現状

社保倒産は近年増加傾向にあります。
帝国データバンクによる調査では、消費税や固定資産税、社会保険料などを含む「公租公課」が納付できていない、または滞納による差し押さえを受けた結果、倒産した件数は2023年度で138件だったことがわかっています。
これは2022年度の97件に比べて、1.4倍も高い数値です。また、月次ベースでも2024年1月で14件、2月は16件、3月は20件と過去最多件数を伸ばし続けています。

また、日本年金機構の報告にて、2022年度時点で140,811の事業所が社会保険料を滞納しており、27,784の事業所が実際に差し押さえを執行されていました。
14万以上の事業所が社会保険料を滞納していることから、今後も増えていくことが予想されています。

2024年10月以降は社会保険の適用範囲が拡大し社保倒産は増える見込み

2024年10月以降から、社会保険の適用範囲が拡大されます。
これまでは、従業員数が101人以上の企業等で働くパート・アルバイトの方は社会保険が適用されていました。
しかし、今回の拡大により51~100人の企業等で働くパート・アルバイトの方にも適用されます。

社会保険の適用対象となる従業員の要件は以下のとおりです。

  • 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満(フルタイムで働く従業員の週所定労働時間が40時間の企業の場合)
  • 所定内賃金が月88,000円以上
  • 2カ月以上雇用する見込みがある
  • 学生ではない(休学中、定時制、通信制の場合は加入対象)

今回の拡大によって、これまでは社会保険の適用を受けなかったパート・アルバイトの方も、社会保険が適用される可能性があります。
社会保険が適用されれば、会社の負担する社会保険料も増えるため、社保倒産はますます増加すると考えられます。

社保倒産が多い業種

社保倒産は社会保険料の滞納によって起こり得る倒産になるため、どの業種・業界でも起こり得ます。
しかし、その中でも特に多く社保倒産が見られているのがサービス業です。
2023年度で社保倒産となった企業を業種別にみると、サービス業が86件、運輸業・通信業が64件、建設業が55件でした。
ほかにも製造業や小売業でも社会保険料や税金の滞納により倒産を迎えています。

社保倒産が起こる理由と増加の原因


社保倒産は社会保険料の滞納によって引き起こされる倒産ですが、なぜ社保倒産に陥ってしまうのでしょう。
ここでは、社保倒産が起こる理由と増加の原因についてご紹介します。

円安や物価高でコストが増加しているから

日本銀行が2024年7月1日に公表した6月の「企業短期経済観測調査」によると、1ドル160円台などの円安状態が続いたことで、経済活動に大きなダメージを与えていることがわかりました。
製造業では特に円安・コスト高による影響で人手不足に拍車がかかっており、中小企業を中心に倒産に追い込まれるようになっています。
企業はいくらコスト高に陥ったとしても商品を仕入れる必要があります。商品を仕入れるために社会保険料の支払いが滞納され、社保倒産につながっているのです。

コロナ禍前の売上まで回復できていないから

コロナ禍では経済活動が鈍化し、どの企業も売上が低迷していました。
コロナ禍は緊急事態ということもあり、政府が社会保険料を支払えない企業に対して、売上が回復するまで社会保険料の支払いを猶予していました。

しかし、コロナ禍からアフターコロナへ移行したことで社会保険料の猶予がなくなっています。
それでもコロナ禍前の売上までに回復しきっていない企業も多く、社会保険料をその後も滞納し続けてしまう結果になっています。
また、猶予はあくまでも後ほど未払い金を支払う必要があり、売上が回復したとしても未払金分の負担は大きく感じてしまうでしょう。

ゼロゼロ融資の返済が始まったから

コロナ禍では売上が下がった事業者に対して、実質無利子・無担保で融資を行える「ゼロゼロ融資」がスタートしました。
すでに2023年9月で各金融機関での受付は終了しており、融資実行から3年目を区切りに返済をはじめる企業も増えています。

しかし、コロナ禍によるダメージが十分に回復しきっていない中で、急激な物価上昇と人手不足の問題が出てきました。
物価上昇と人手不足によって企業が利益を上げるのが難しく、そこにゼロゼロ融資の返済がスタートした結果、社会保険料を滞納せざるを得なくなり、社保倒産に追い込まれてしまいます。

社会保険料が値上がりしているから

そもそも社会保険料が値上がりしていることも、社保倒産が増加している理由として考えられます。
社会保険料のうち、2023年4月納付分から健康保険料および介護保険料、雇用保険料の値上げが行われました。

例えば雇用保険料だと業種ごとに雇用保険料率が設定され、そこから保険料を計算していきます。
「一般の事業」に分類される業種では、事業主負担分が8.5/1,000だったのが、9.5/1,000まで増加しています。
社会保険料が値上がりすれば、その分事業者の負担も大きくなってしまうのです。

赤字状態でも社会保険料は発生するから

法人税の場合、利益次第で納める金額が決まっていることから、経営が赤字状態になった場合は課税対象外です。
しかし、社会保険料は会社の利益に関係ないため、赤字だったとしても社会保険料を支払う必要があります。
特に社会保険料は、従業員がいればいるほど会社側の負担も大きくなってしまいます。
赤字状態となると従業員への給与の支払いも厳しくなってしまい、倒産に追い込まれてしまうケースも多いです。

賃上げや人件費の向上が影響しているから

社会保険料は対象となる従業員が多ければ、その分社会保険料の負担も大きくなってきます。
2023年頃から大手企業を中心に賃上げが積極的に行われています。
2024年の春闘では5.17%の賃上げ率を記録しており、5%以上になったのは1991年以来の約33年ぶりの出来事です。

賃上げは中小企業にとって人手不足を解消するための手段ではあるものの、ゼロゼロ融資の返済や過去に滞納していた分の社会保険料を支払うための資金が不足している状況でもあります。
ここで賃上げまで行ってしまえば会社の資金が不足してしまうかもしれません。その結果、社会保険料を滞納せざるを得ない状況になり、社保倒産につながってしまいます。

社保倒産を防ぐための対策方法


社保倒産を防ぐためには、社会保険料を支払うことが重要です。
しかし、企業側の負担が大きいことで支払いが難しい場合もあります。ここからは、社保倒産を防ぐための対策方法についてご紹介します。

未納問題は早めに専門家へ相談する

ほかの支払いを優先したことで社会保険料の未納が発生した場合、なるべく早めに専門家へ相談するのがおすすめです。
社会保険料に関する専門家は、税理士や社会保険労務士(社労士)などが挙げられます。
専門家に相談することで各法律・制度などを活用し、企業の現状に合わせて最適な対応策を提案してくれます。
相談が遅れてしまうと対応が難しくなってしまう可能性も考えられるため、未納問題が発覚した際にはなるべく早く相談するようにしてください。

納付猶予制度を活用して分納にする

社会保険料の支払いが難しい場合、納付猶予制度を活用することも可能です。
申請するためには自然災害による影響や著しい業績の悪化など、条件が設けられているものの、条件をクリアすれば納付期限から原則1年以内、最長2年の猶予が与えられます。

また、猶予制度の活用が認められた場合、社会保険料を分納で支払うことも可能です。
分割を利用するには、滞納分の支払い期限から6カ月以内の申請であり、さらに分割払いを1年以内で終わらせることが条件となります。

元本の支払いを優先する

社会保険料を滞納してしまうと、ペナルティとして延滞金が上乗せされてしまいます。延滞金は元本と異なり、延滞したとしてもさらなる延滞金は発生しません。
しかし、滞納した分の社会保険料が支払われていない状況が続けば、どんどん延滞金は増えていきます。
そのため、社会保険料を支払う際にまず未納分の支払いを行い、その後延滞金の支払いを行ってください。

社会保険料の負担を少しでも軽減させるには?


社会保険料を滞納すると、延滞金まで支払わなくてはいけなくなるため、未納しないことが重要となってきます。
少しでも社会保険料の負担を軽減させるには、どのような方法を取れば良いのか、解説します。

4~6月は昇給と残業を避ける

社会保険料は4~6月に支給される給与の平均額から、標準月額報酬を決定し、12カ月分の負担額を決定します。
つまり、4~6月の給与をなるべく抑えることで、社会保険料の支払いも抑えることができます。
3カ月分のみ給与を減額させるのは難しいため、残業時間を減らしてなるべく残業代が出ないようにするのがおすすめです。

また、昇給月が4~6月の場合も注意が必要です。7月以降であれば問題ないため、4~6月に昇給月がある企業は7月以降への変更も検討してみてください。

年収の壁・支援強化パッケージを活用する

社会保険料の負担を軽減させるために、厚労省が実施する「年収の壁・支援強化パッケージ」を活用するのもおすすめです。
これはパート・アルバイトなどの短時間労働者が、年収の壁を意識せずに働けるような環境づくりをサポートする施策です。
施策では106万円の壁対応と130万円の壁対応の2種類があり、特に106万円の壁対応では労働者ひとりあたり最大50万円が支援されます。

この支援は、社会保険の加入によって手取りを減らさない取組みを実施する企業が対象です。
例えば賃金15%以上の追加支給や、週所定労働時間の延長による賃金の増額などを行うことで、労働者が年収の壁を意識せずに働けるよう支援してくれます。
人手不足を解消するために賃上げを行いたいものの、社会保険料の負担が大きいことで実現できない事業者におすすめの制度です。

企業型確定拠出年金・確定給付企業年金を活用する

社会保険料の負担を軽減させる方法として、企業型確定拠出年金(企業型DC)と確定給付企業年金(DB)の活用もおすすめです。

企業型確定拠出年金は、企業が毎月掛金を積み立て、従業員自ら年金資産の運用を行う制度です。
従業員は転職時に年金資産を持ち運ぶことが可能で、個人ごとに資産を管理しているため、退職した従業員が有利になるような不公平感もありません。
また、事業主掛金は全額損金算入が可能であり、掛金に対して所得税や住民税も課税されないのが特徴です。
社会保険料の対象にもならないことから、社会保険料の負担を軽減させたい場合にも活用できます。

確定給付企業年金は、厚生労働省による企業年金制度で厚生年金保険の被保険者が加入できます。従業員だけでなく経営者や役員も加入できる点がポイントです。
確定給付企業年金の選択制を導入した場合、給与を減額した分を退職金掛金にすることができ、標準報酬月額の等級を下げることで社会保険料を軽減できます。

まとめ・社保倒産を防ぐために制度の活用や専門家に相談しよう

2024年10月から社会保険料の適用範囲が拡大されるため、企業の負担はさらに大きくなるといえます。
しかし、今回ご紹介した対策方法や、社会保険料の負担を軽減する方法を取り入れれば、社保倒産を未然に防ぐことも可能です。
もし社保倒産になる可能性が出てきた場合は、税理士や社労士などの専門家に相談するようにしてください。

今回の記事では社会保険料の削減方法についてご紹介させていただきましたが、創業手帳では他にも無駄な税金を支払わないためのチェックシートとして「税金チェックシート」をご用意。知っているか知っていないかだけで数十万円も税金の支払い額が変わることもあります。無料でご利用いただけますので、ぜひお使いください。



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(編集:創業手帳編集部)

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