「産業雇用安定助成金(仮称)」とは? 中小企業経営者は必読!

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人材の雇用シェアが進む?新制度「産業雇用安定助成金(仮称)」について、2021年の年始時点の情報を整理しました


新型コロナウイルス感染症の収束が見えない状況のなか、雇用調整に踏み切らざるを得ない事業者に対し、出向という形での雇用維持を後押しするのが、新たに創設される制度の産業雇用安定助成金(仮称)です。

現行の「雇用調整助成金」でも、出向元の事業者に対しての助成はあります。

一方で、新設される「産業雇用安定助成金(仮称)」では、出向元に加えて、労働者を受け入れる出向先への助成が追加された点で従来と異なります。

出向先にもインセンティブを与え、雇用調整の手段として出向の活用を拡大させることで、雇用過剰となった会社と人手が足りない会社での「雇用シェア」を促すのが新制度の狙いです。

産業雇用安定助成金(仮称)とは


2020年はコロナ禍に対応するさまざまな経済対策が行われました。雇用・労働分野に対する助成金もさまざまなものがあり、そのひとつである雇用調整助成金には特例措置が追加され、期間の延長が繰り返されています。

なお、この記事で解説する「産業雇用安定助成金」は、雇用調整助成金の特例措置期間が終了することを受け、新設が決まった制度です。

まずはここから!「雇用調整助成金」とは

新制度である「産業雇用安定助成金」について説明する前に、その前身とも言える「雇用調整助成金」について簡単に解説します。

雇用調整助成金は、雇用調整のための休業・教育訓練・出向に対する助成を行うものです。

コロナ禍がその深刻度を増すなか、上限額の引き上げや助成率の拡充、支給要件の緩和等が盛り込まれ、コロナ特例は2021年2月28日までの延長が決まっています。

現段階でわかっている産業雇用安定助成金(仮称)の内容

新型コロナウイルスの感染拡大により、追加経済対策が2020年12月8日に閣議決定されました。

そのなかで雇用調整助成金の特例措置が縮小に向かうことに伴い、新たな雇用対策として、「産業雇用安定助成金(仮称)」が創設される予定です。

雇用調整助成金の雇用シェア(在籍型出向制度)を発展させたものであり、2020年12月15日に厚生労働省から発表された「産業雇用安定助成金(仮称)の創設」が以下の内容です。

画像出典元:「厚生労働省」

資料の中でポイントとなるのは、以下の点です。

ポイント
  • 出向元と出向先の双方に対して助成を行う(※1)
  • 出向元の事業主と出向先の事業主が「共同事業主」として支給申請を行う(※2)
  • 出向初期経費の助成率は9/10(※3)であり、雇用調整助成金(※4)と同水準
  • 雇用調整助成金には、出向初期経費に対する助成はなかった

(※1)雇用調整助成金では、出向先は助成対象外
(※2)申請手続きは出向元の事業主が実施
(※3)中小企業であり、出向元が解雇等を行っていない場合
(※4)新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例

つまり、産業雇用安定助成金(仮称)では、出向先にも助成が入ること、出向のための準備や手続きへの配慮がなされている点が、従来の雇用調整助成金の出向に対する助成と異なります。

産業雇用安定助成金(仮称)は何が良いのか


景気悪化や産業構造の変化、災害といった外部要因により、業界や地域に格差が生じた場合に、人材の流動化を促すことは合理的な考え方といえます。

休業させる従業員の労働意欲の低下など、問題が指摘されていた雇用調整助成金の休業に対する助成に対し、「出向」という選択肢の可能性を広げる制度として、産業雇用安定助成金(仮称)はその効果が期待されているのです。

雇用調整助成金では「出向」が進まなかった理由

雇用調整助成金の休業・出向のそれぞれに対する助成を比較すると、雇用調整を行う事業者にとって、助成額・段取り・手続き的な点を含めて、休業を選択するほうがメリットが大きかったという点があげられます。

なぜなら、雇用調整助成金の休業に対する助成額は、出向労働者の休業手当の相当額に助成率を乗じて算出されるからです。

それに対し、出向に対する助成額は、出向元と出向先で賃金の負担割合を決めたうえで、出向労働者の賃金の1/2を上限額とした額に助成率を乗ずるため、一般的な休業手当の支給率を6割とすると、休業を選択したほうが有利になります。

加えて、手続きの面では出向元と出向先の間での契約が必要であり、そのなかで出向の形態やそれぞれとの雇用関係、賃金や雇用保険の負担割合といった点まで細かく詰めなければ助成を受けることができません。

そのため、雇用調整の手段として出向を検討する場合、雇用調整助成金の活用は事業者にとってハードルの高いものであったといえるでしょう。

相手が必要となる出向の難しさ

コロナ禍の影響により、「雇用過剰となった業界」「人手不足となった業界」として以下があげられます。

雇用過剰となった業種・業界(送出ニーズが高い) ホテル・旅館業・一般旅客運送業(観光バスなど)飲食店・アパレル・雑貨小売店・食品製造業
人手不足となった業種・業界(受入ニーズが高い) 陸上貨物運送業・スーパーマーケット・ホームセンター・IT企業・倉庫業など

出向元・出向先となる業種・業界をそれぞれ見てみると、運送業や接客業といった関連性が見いだせる部分もあります。

しかし、受入側にとっては異業種からの人材を受け入れるための教育訓練の負担や新たな設備投資の発生など、出向に関する準備が必要であることは言うまでもありません。

この点で、出向労働者を迎え入れる「出向先への手当」を制度に組み入れた産業雇用安定助成金(仮称)は、出向促進へのインパクトが大きいと考えられます。

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公益財団法人「産業雇用安定センター」の位置づけ

出向の送出ニーズ・受入ニーズを持った事業者が、それぞれの相手となる事業者を見つけることは簡単ではありません。

出向という労働者に対する処遇は大企業であれば珍しくないとしても、中小企業では出向先となる事業者を自力で見つけることは難しいでしょう。それを支援するのが公益財団法人「産業雇用安定センター」です。

1985年のプラザ合意による円高不況で雇用不安が社会問題化した際、「失業なき労働移動」を支援するための専門機関として設立されました。出向・移籍の支援、高齢者に向けたキャリア人材バンクの運営などが現在の事業内容です。

産業雇用安定助成金(仮称)では、出向の送出・受入事業者間のマッチングを支援するための機関として役割が与えられています。

また増員による体制強化や、従来の47都道府県労働局のネットワークをベースに、労使団体や地方銀行・信用金庫などの業界団体との連携強化を打ち出しています。

画像出典元:「厚生労働省」

産業雇用安定助成金(仮称)の受給要件は?

2021年の年始時点において、産業雇用安定助成金(仮称)の制度についてわかっていることは、「産業雇用安定助成金(仮称)の創設」に記載された内容に限られます。

産業雇用安定助成金(仮称)では出向先も助成されるため、出向元の受給要件に加えて、出向先に対する要件も加わることが想定されるでしょう。

なお、雇用調整助成金の出向の場合では、14項目の受給要件が定められています。それらを大別すると以下の条件に分けられますが、新制度となる産業雇用安定助成金(仮称)も同様の内容になると考えられます。

  • 出向の期間に関するもの
  • 雇用調整の出向が目的であること
  • 労働者の交換や玉突き出向の禁止
  • 出向後は出向元に復帰することが前提
  • 出向元・出向先にグループ会社等の関連性がないこと
  • 出向労働者本人、労使の同意と出向元・出向先の契約、雇用保険適用事業であるなどの法的・制度的要素

産業雇用安定助成金(仮称)はいつから始まる?

2021年の年始時点での報道では、2021年1月の通常国会で、第3次補正予算の成立が見込まれています。予算の成立後、厚生労働省令の改正や制度設計の最終作業などを経て、2021年の春以降から申請開始になると見られています。

産業雇用安定助成金(仮称)の申請方法は?

申請手続きについても公開されている情報がないため、現行の雇用調整助成金の出向の手続きの流れを見ておくしかないのが現状です。

雇用調整助成金の出向(在籍型出向制度)の手続き申請の流れは、以下のとおりです。申請窓口は都道府県労働局、職業安定部職業対策課(助成金センター)、ハローワークとなっています。

在籍型出向制度の手続き申請の流れ
  • 1.出向先との契約、労組などとの協定、出向予定者の同意
  • 2.計画届提出・要件の確認
  • 3.出向の実施(1カ月~1年)
  • 4.支給申請・助成金受給

まとめ

雇用維持のための選択肢を充実させる産業雇用安定助成金(仮称)は、早期に制度が具体化されることが期待されています。

すでに大規模な出向計画を発表している大手企業の事例では、出向元の労働者が在籍のまま異業種での出向を経験することの意義や、出向受入側の事業者へのプラスの影響など、出向のメリットをあげる声も聞かれるようです。

雇用シェアという取り組みへの道筋が開かれていくことで、労働市場にどんな影響を与えていくのか、さまざまな可能性を期待されるのが産業雇用安定助成金(仮称)といえるでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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