小規模な飲食店がDXを導入するメリットや始め方、成功事例など

飲食開業手帳

これからの飲食店経営はDXでコストを抑えて効率化しよう

現在の飲食業界ではDX=デジタルトランスメーションは重要なキーワードです。間違いない手順で取り組めば、様々な店の悩み事を解決し、コストを抑えながら集客や収益アップの可能性も広がります。

しかし、多くの店がDX化を考えているものの、実際に実行できている店はまだまだ半分もないのが現状です。顧客と直接触れあう飲食業はデジタルに対して根強い抵抗感があります。逆に考えると、今からでもDXを実行すれば他店と差をつけるチャンスと言えそうです。

この記事では飲食店がDXに取り組むメリットや、成功事例、DXの始め方、便利なDXツールを紹介します。

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飲食店のDXとは「デジタル技術で顧客体験・顧客満足度を向上」させること

経済産業省が2022年に発表した「『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.0」では“DXとはデジタル技術やツールを導入すること自体ではなく、データやデジタル技術を使って、顧客目線で新たな価値を創出していくこと。”と説明しています。

デジタル技術と言うと、人の手を減らし機械化・自動化することをイメージしますが、DXはあくまでも顧客の満足度を上げるのが目的で、デジタルはそのためのツールに過ぎません

出典:経済産業省「中堅・中小企業向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.0」

DXに関する大きな誤解

DXへの抵抗感はいくつかの誤解から生まれているようです。ここでは主な誤解の例をあげていきます。

・効率化でお客様とのふれ合いがなくなる
効率を上げるためにすべて自動化してしまうと、かえって顧客離れを起こすのではないかという懸念があります。現に完全に注文システムを自動化したハンバーガーショップや機械が焼くピザ店は顧客離れが起き閉店しています。完全な自動化は顧客も望んでいませんので、効率化で生まれた余力を活かし、顧客とのコミュニケーションを増やしましょう。

・コストが高く、小規模な飲食店では不可能
DXというと、大きな機械やシステムを導入するため、設備投資のコストがかかると想像するかもしれません。しかし、現在は規模に応じた飲食店向けの手頃なDXツールがリリースされています。DXに拒否反応を起こして情報を収集せずにいると、間違った選択をしてしまいかねません。

・ネットやパソコンに精通していないと導入できない
飲食店のDX化にはそれほどデジタルやネットの知識は必要ありません。店舗に導入するツールはスマホのように誰もが扱える操作が簡単なものであることが重要です。

飲食店のDX導入メリット


DXの取り組みで飲食店は様々なメリットが得られます。その中でも代表的なものを紹介します。

コストが削減できる

仕入、販売、廃棄、顧客動向、従業員の配備、飲食業に関わる情報は全てデジタル情報として蓄積できます。どこに無駄があるかを可視化し、省くことが経費削減に繋がります。

時間の有効活用ができる

無駄がなくなるのは経費だけではありません。余分な工数や時間が減ることで、時間にゆとりが生まれます。新たに生まれた時間を大きな成果を見込める重要な仕事に集中できます。

顧客データの蓄積と活用ができる

売上の全ては顧客からもたらされるので、顧客情報は売上の源泉です。
しかし、目の前の業務に精一杯で、顧客情報を入手するところまで手が回らない店も多いようです。

DXツールを利用すれば、今までより簡単に顧客情報を入手し、顧客動向を正確に把握できるようになります。細かい顧客セグメントができると、特定のメニュー・サービスにふさわしい顧客へピンポイントでメッセージを送れます。店舗外での顧客コミュニケーションも容易になって、安定した集客をもたらします。

顧客体験価値を向上させる

以上のメリットがうまく循環できれば、メニューやサービスのクオリティが上がり、最終的には顧客体験価値の向上につながります。店のファンが増えて経営基盤が安定し、他店舗展開などのさらなる発展も期待できます。

小規模な飲食店ほどDXでコストを抑えた経営を


「DX導入が店のためになることは分かった。でも、うちのような小さな店には見合わないよ」と思うオーナーもいるかもしれません。しかし、小さい規模の店ほどDXが必要です。

経営環境が年々厳しくなる飲食業界。資本力のある大規模店舗でさえ、従来通りの手法では以前のような効果が得られず、集客や人材確保が難しくなっています。
立地、資本、知名度など全ての面で大規模店に劣る小さな店は、人手に頼るだけでは、ますます店舗運営がままならなくなります。
行き詰まる前に、早い段階で少しずつDXを進め、人件費などのコストを抑えた飲食店経営を進めて行くべきでしょう。

飲食店のDX導入は開業時が一番しやすい

現在、飲食店開業を検討している方は最初からDX導入を視野に入れたプラン設計をおすすめします。

店舗開業時は物件選び、店舗改装、事業資金の確保、などとにかくやることが一杯です。DXは今までの飲食店開業のプロセスに入っていないため、とりあえず後回しにして、開業した後、落ち着いてからじっくり取り組もうと考えがちです。

しかし、一度できあがった店のシステムを変更するのは困難です。新しいやり方にスタッフが適応するのも大変ですし、新システムを導入する費用もかかります。DXを含めた店舗運営を計画してください。

飲食店が活用できるDXツール


飲食業に限らず業務の全てはDX導入が可能ですが、飲食業ではとくにホールやバックオフィスの予約や受発注などシステムのDXが進んでいます。

以下では、代表的なものを紹介していきます。それぞれのシステムが連携しているツールもありますので、自社の飲食店で使いやすいものを選ぶようにしましょう。

飲食店のホールで活用できるDXツール

飲食店で最も多くDXを導入しているのが、顧客と直接接触するホール回りです。スムーズなオーダーや決済で、オーダーミスや会計時のトラブルを減らすことで、顧客やスタッフのストレスも軽減できます。

POSレジ

多くの飲食店がDX導入で最初に行うのがPOSレジの導入です。
従来のPOSレジから進化して、低コストで軽量なPOSレジが開発され小規模な飲食店でも導入しやすくなりました。
会計だけでなく、レジ1つで顧客管理や複数店舗管理、分析機能など様々な機能で、経営をサポートしてくれます。

キャッシュレス決済

経済産業省が発表したデータによると2022年キャッシュレス決済比率が約36%と、年々増加しています。
キャッスレス決済は、クレジットカードだけでなくデビットカード、コード決済、電子マネーと手段も多様化しています。そのため、さまざまな決済手段に対応した会計システムが求められます。

参考:経済産業省 ニュースリリース2023年4月6日 ニュースリリース「2022年キャッシュレス決済比率を算出しました」

モバイル・セルフオーダー

モバイル・セルフオーダーとは、顧客が自らスマホアプリやWEB、専用の端末などで注文することです。
コロナ禍において非対面・非接触という面で一気に浸透しました。コロナが落ち着いた後も、繁忙時の注文の聞き間違いや伝達ミスの防止、ホールの人手不足の解消、ミスなく料理を提供することで顧客体験も向上します。

飲食店のバックオフィスで活用できるDXツール

ホール内だけでなくバックオフィスと連携すれば、さらにDXが加速します。

予約管理システム

従来の予約方式では電話、メール、グルメサイトからバラバラに予約が入ってきて、管理ミスやダブルブッキングが起きがちでした。
予約管理システムは予約が一元管理できるのでミスがほぼありません。

顧客管理

顧客と店とのあらゆるタッチポイントのデジタルデータを収集することで、細かい顧客動向を把握できます。一人一人の顧客にフィットしたサービスやメッセージを届けることで、CRM(カスタマーリレーションシップ マネジメント)(※)を促進できます。

※CRM・・・顧客関係管理という意味で、顧客と信頼関係を作り、初回購入客からリピート客へ、リピート客からファンへと関係を深めていく経営手法のことです。
 

シフト・勤怠管理システム

限られた人数で店舗を回していくためには、ただ営業時間を埋めるのではなく、状況に合わせたシフト作りが欠かせません。
さらに、スタッフ間の情報共有も大切です。それらの作業をシフト・勤怠管理システムで行うと、業務効率化に繋がります。

事前決済システム

事前決済システムは、注文時に決済が完了するためキャンセルや代金の未回収のリスクを軽減することができます。
マルチ決済に対応した事前決済システムを活用すれば、予約の自動管理と併用して、スタッフの負担を軽減し、業務効率を向上することができます。

デリバリー管理システム

コロナ禍で普及したフードデリバリーですが、かつてはデリバリープラットフォームに集客や配達を依存していました。複数のプラットフォームと契約していた場合は、プラットフォームごとにメニューや価格が変わり、店舗スタッフは混乱を極めました。
しかし、デリバリー管理システムで、一元管理できれば、ミスが起きる可能性がほぼなくります。

小規模な飲食店でのDX成功事例を紹介


ここではDXに成功した飲食店3軒を紹介します。小規模なお店でもテクノロジーを上手に取り入れて、経費削減や業務効率化に成功しているのが理解できます。

モバイルオーダーで調理の作業効率と客単価が向上:カフェ&バー Anplagd

愛知県名古屋市のカフェバーAnplagdは店主市原拓己氏が一人で切り盛りしています。テーブルのスペースを占めるメニュー表は開店当初からの悩みの種でした。そこでQRコードをスマホで読み取るモバイルオーダーを導入しました。

注文の聞き間違いもなくなり、注文を聞くたびに中断していた調理もスムーズに行えるようになりました。手元でメニュー変更できるようになったため、メニュー表を作り直す手間や印刷代も削減できました。

最大の効果は客単価がアップしたことです。顧客のタイミングで注文できるので、追加注文しやすくなったからです。さらに全てのメニューに写真を添付できることで、人気のなかったメニューも注文してもらえるようになりました。

参考元:名古屋、新栄のカフェ&バー Anplagd
生活衛生だより 2023年4月号 No.208

勤怠管理自動化で付加価値提供に集中:蕎麦と酒 ことはり

大阪府守口市のそばバーことはりは、社長の岩尾良英氏ご夫婦と4人従業員の少数精鋭で運営しています。

飲食店は調理や接客という本来の業務の他に、勤怠管理、給与管理などの間接業務も同時に行う必要があります。

間接業務のほとんどを社長夫人が負担していましたが、勤怠管理と給与計算のアプリを導入し、大幅に省力化できました。
間接業務を効率化したことで、メニュー開発や酒の仕入先の開拓など、本来の業務に時間を使えるようになりました。

参考:蕎麦と酒 ことはり
IT プラットフォーム 飲食店のデジタル化特集【給与や勤怠システムの導入】

低コストで使えるPOSレジを導入:豚組食堂

とんかつや豚しゃぶの料理店で知られる「豚組」を運営する株式会社グレイスが次に立ち上げた「豚肉食堂」は客席30席程度のこれまでより小さな店舗でした。

店舗の規模に合わせたiPadによるPOSレジを採用し、通常のレジより手軽にコストを抑えて導入することができました。
また、DXプラットフォームは、店舗の規模や状況に合わせたプランの設定ができたりするため、店舗にあった機能のみをコストを抑えて使用することができます。

参考:豚組食堂
Okage DX Platform 導入事例 株式会社グレイス様 豚組食堂

飲食店DXには補助金を活用しよう


企業のDXは国が率先して取り組んでいる課題なので、DXに関する様々な補助金が用意されています。代表的なIT導入補助金とものづくり補助金を紹介します。

IT導入補助金・ものづくり補助金を活用する際の注意

補助金交付を考える場合、主に、以下の注意が必要です。

・補助金は、全額負担されるものではない
補助金はIT導入にかかった費用に特定の補助率の金額が交付されるものです。

・補助金が交付されるのは運用後
補助金交付が決定しても、実際に交付されるのは、事業実績報告を提出し、交付手続きが完了した後です。それまでは店側が費用を全額負担する必要があります。したがってIT導入する際には前もって導入費用を手配しなければなりません。

・目標未達だと補助金を返金しなければならない
補助金の最終目標は従業員のベースアップです。ITを導入しても給与支給額や最低賃金の目標が未達の場合、返還を求められる場合もあります。

・公募ごとに要項が変更される
各補助金は公募ごとにその規約が微妙に変更される場合があるので、注意してください。

・それぞれの補助金を同じDX導入を目的に重複して申請できない。
補助金に規定によっては同じ目的で二重に申請することができない場合もあります。申請規定をしっかりチェックしてください。

参考:IT補助金2023 事業実施効果報告の手引き
ものづくり補助金総合サイト 補助事業の手引き内

IT導入補助金とは

IT導入補助金は中小企業・小規模事業者がITツールを導入するときに活用できる補助金で、飲食店もその対象者です。

飲食店がIT補助金を活用しやすい枠は、通常枠(A・B枠)とデジタル化基盤導入枠です。

通常枠や、デジタル化基盤導入枠の補助金が申請できる対象は、ソフトウェア・クラウド利用料(最大2年分)・保守サービスや導入費用のみです。
PC・タブレットやレジなどのハード部分の補助金を申請する場合は、デジタル化基盤導入枠で申請することが必要です。

デジタル化基盤導入枠はITツールの部分は、1つのソフトウェア導入の場合、最大50万円で3/4以内。2つ以上のソフトウェア導入の場合、50万円〜最大350万円で2/3以内の補助率です。

ハードウェアの購入費はPC・タブレット・プリンター・スキャナーの場合補助上限額が10万円、レジや発券機だと補助上限額が20万円で補助率が1/2以内になっています。

参考:IT導入補助金2023 

IT導入補助金について、詳しくはこちらの記事を>>
IT導入補助金とは?申請スケジュールや受給額を分かりやすく解説

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)とは

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(通称・ものづくり補助金)ではデジタル枠があります。要件②である「デジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供の改善」が該当し、飲食店でも活用できます。

ものづくり補助金の場合、ソフトウェアやハード、導入、などDXに関連するものであれば、全て申請することができます。

補助金額は、従業員数5人以下:100万円〜750万円、6人〜20人:100万円〜1,000万円、21人以上:100万円〜1250万円です。

参考:ものづくり補助金総合サイト

ものづくり補助金ついて、詳しくはこちらの記事を>>
【2024年最新】最大1億円!ものづくり補助金をわかりやすく解説!

飲食店のDX導入は無理せず取り組もう


飲食店のDX導入について解説しました。お伝えした通りテクノロジーが進み、飲食店のさまざまな業務でDX導入が可能です。

しかし、予算にも限りがありますし、導入する場合はスタッフのトレーニングも必要です。

まずは、自店の課題を見極め、一番気になる部分、またはすぐに実践可能なことから取り組むことをおすすめします。

創業手帳の冊子版(無料)では、起業前後に役立つ情報やノウハウなどを多数掲載しています。起業間もない時期のサポートにぜひご活用ください。

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(編集:創業手帳編集部)

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