フォトシンス 河瀬航大|スマホで扉の開閉を可能に!クラウド型入退室管理システム「Akerun」で実現するキーレス社会

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年11月に行われた取材時点のものです。

世界初の後付け型スマートロック!キャッシュレス化の次に来るサービスを生み出した先駆者に迫る


近年急速にキャッシュレス化が進み、現金を持ち歩かずに外出や買い物を楽しむことができるスマートフォン決済がスタンダードになりつつあります。

そんな状況下で、次に世の中を便利にするサービスとして注目を集めているのがスマートロックを活用したキーレス社会です。

このキーレス社会の実現を早くから理念に掲げ、世界初の後付け型スマートロックを誕生させたのがPhotosynth(以下フォトシンス)。オフィス向けのクラウド型入退室管理システム「Akerun(アケルン)」を事業の軸に据え、美和ロック社との合弁会社「MIWA Akerun Technologies」では住宅向けサービスを開発・提供しています。

今回は同社の代表取締役社長を務める河瀬さんの起業までの経緯や、「Akerun」開発の舞台裏について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

河瀬 航大(かわせ こうだい)
株式会社Photosynth 代表取締役社長
1988年、鹿児島生まれ。2011年、筑波大学理工学群卒業後、株式会社ガイアックスに入社。ソーシャルメディアの分析・マーケティングを行う。2013年にはネット選挙の事業責任者として、多数のTV出演・講演活動を行う。「facebook 知りたいことがズバッとわかる本(翔泳社)」執筆。2014年、株式会社Photosynthを創業、代表取締役社長に就任し、スマートロックAkerunを主軸としたIoT事業を手掛ける。経産省が所管するNEDO公認SUI第1号をはじめ、これまでに累計50億円を調達するなど、IoTベンチャーの経営を担う注目の若手起業家。Forbes主催、Forbes 30 Under 30 Asia 2017にて、アジアを代表する人材として「ConsumerTechnology」部門で選出。筑波大学非常勤講師。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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新卒入社のガイアックスで経験した、新規事業や新サービスを生み出す醍醐味

大久保:まずはご経歴についてお聞かせ願えますか。

河瀬:筑波大学理工学群を卒業後、新卒でガイアックスに入社してソーシャルメディアの分析・マーケティングを担当しました。2013年にはネット選挙の事業責任者として、多数のTV出演や講演活動を行っています。

ガイアックスを選んだのは、多くの起業家を輩出していることが理由です。大学在籍時に将来を模索した際、事業家や起業家を目指したいという想いが強くなったんですね。

同社はひとつの事業を推進していくというより、個々人があらゆるプロジェクトを立ち上げながらボトムアップで事業を作り上げている会社なんです。それで自然と「ガイアックスなら若いうちから新規事業を作ったり、世の中にサービスを広げていくノウハウやスキルを身につけることができるのではないかな」と選びました。

大久保:学生時代から起業家精神をお持ちだったんですね。ご経験者の河瀬さんの視点から見て、起業前にベンチャーやベンチャーマインドのある企業に属して学べることをお教えください。

河瀬:すべてのベンチャー企業で得られる学びではないという前提ですが、プロジェクトを立ち上げる前段階で必須となる「市場を作っていく感覚」を身につけることができるのが最も貴重だと考えています。

この感覚を会得できるのは、新規事業や新サービスの創出にダイレクトに関われるからなんですね。その過程で、新たな事業やサービスがどういうふうに広がっていくのか?どんな要素で停滞するのか?といったさじ加減を学ぶことができました。

だからこそ積極的に新規事業を立ち上げ、推進しているベンチャーのほうが掴めるものが多いと思います。

大久保:実際に肌感覚で理解できたんですね。

河瀬:はい。知識として書籍で知っていたことを「こういうことか!」と実践を通して習得できたのが良かったです。当たり前のことではありますが、経験してみないとわからないことが多いですからね。

20代前半に腕試しとして始めた副業の事業運営を通し、自分自身を探求

大久保:ガイアックスでのご経験を経て起業されましたが、その経緯についてお聞かせください。

河瀬:現在、弊社で展開しているクラウド型入退室管理システム「Akerun(アケルン)」は、当初から会社設立をして推進するという過程で生まれた事業ではありませんでした。

ガイアックス時代に副業で複数の事業運営を行っているうちに「Akerun」の存在が大きくなってきたため、「本格的に事業化しよう」と。その結果として、フォトシンスを設立したというのが経緯です。

先ほどお話しした通り、ガイアックスは起業家を育む土壌がありましたので、本業を疎かにしなければ副業がOKだったんですね。もともと起業志向が強かったこともあり、在籍時からあらゆるプロジェクトを手掛けていました。

当時はまだ20代前半でしたし、なおさら大金を得たいみたいな目的ではなく「自分がどこまでできるか腕試しをしたい」というのが動機だったんです。

「本気で事業を作ったらどんな事業を生み出すことができるんだろう?真剣にお金を稼いだとしたらどれくらい稼げるかな?」といった感じで、その都度目標を設定してチャレンジしていました。

ちょうどスマートフォンや、フェイスブック・ツイッターなどのSNSが普及し始めたタイミングでしたので、付随したサービスを作ったり、キュレーションサイトの登場に合わせて自分でも手掛けてみましたね。それから社会課題の解決という観点でNPOを立ち上げ、障害者の方々を雇用した農場運営にも関わっていました。

大久保:若い時期だからこそ実現できるご自身の探求をされていたんですね。

河瀬:はい。「人生においてお金を稼ぐことが楽しいのだろうか?」と自分に対して疑問を持ち、稼ぐ目的で比較サイトを立ち上げる。「バズり続けるサービスを生み出すと幸せを感じられるのかな?」と考え、バズり系のアプリケーションを開発する。「人脈がつながっていくと充実感を得られるタイプかもしれない」と思いついたら、人脈作りができるイベントを開催する。

こんな感じで、あらゆる観点で自分自身に疑問を投げかけ、すべて実践していきました。今振り返ると、自分探しに近かったのかなと思います。

「テクノロジーを活用してワクワクすることをやろう」のモチベーションで始めたプロジェクト

大久保:副業で複数の事業を展開する中で「Akerun」が誕生し、フォトシンス設立に至った経緯を詳しくお教えください。

河瀬「Akerun」「テクノロジーを活用してワクワクすることをやろう」というモチベーションで始めたプロジェクトです。

きっかけは、「スマホで鍵の開閉ができたら便利だよね」と誰からともなく話題に上がった渋谷での仲間内の飲み会でした。それがものすごく盛り上がったんですよ。

それぞれの体験談として「ホテルに泊まったときに鍵をなくして大変だった」などが飛び出して、そこで各自かばんの中を確認してみると鍵以外のアナログアイテムがほとんどなかったんです。クレジットカード決済もスマホでできますからね。

その瞬間、ビビッと来て。スマートフォンやパソコンを介して鍵を開け閉めすることができるのではないかなと。

「じゃあ秋葉原で部品を手に入れて作ってみようよ」といった流れで、あれよあれよという間にプロジェクトのひとつとしてスタートすることになりました。

大久保:自分たちが困っていた課題の解決が発端だったんですね。

河瀬:はい。「不便だからなんとかしたいよね」という純粋な動機が、新規事業の芽となりました。

その結果として、ふとしたきっかけで新聞に取り上げていただき、掲載後にお客様からの問い合わせが殺到したんです。ホテルやオフィスなど、あらゆるところで「なんとかできないだろうか」と。自分たちが困っていたことは、実は世の中の多くの方々が困っていたんですね。

それでなおさら「これだけ求めてくださる方々がいるのだから、なんとかしなければならない」と決意し、プロダクトの量産体制の構築を目的として、2014年9月1日にフォトシンスを設立しました。

入退室管理を可能にするオフィス向けクラウド型入退室管理システム「Akerun」

大久保:「Akerun」のサービス内容についてお教えください。

河瀬「Akerun」ドアに貼り付けるスマートロックと、ICカードやアプリをデジタルなスマートキーとして活用し、入退室管理を可能にするクラウド型入退室管理システムです。既存のドアに後付け可能なため、電気制御の鍵や自動ドアにも設置できます。

IoTやクラウド、通信技術などの高度なテクノロジーにより、金融機関並のセキュリティを備えたサービスとして展開しており、2022年5月時点の累計導入社数は7,000社以上になりました。

大久保:サービスが大きく軌道に乗るまでの背景として、ローンチ後にピボットをされたと伺っています。その理由について詳しくお聞かせください。

河瀬:「Akerun」は当初、家庭向けサービスとして開発したプロダクトでした。「世界初の後付け型スマートロック」という目新しさに惹かれ、興味本位でご購入いただいたお客様も多かったんですね。

ところが、「Akerun」はIoTサービスですのでお客様の利用状況がわかるようになっているのですが、ローンチしてから2ヶ月目にアクティブ率が伸びなくなったんです。

なぜかというと個人利用としてマンションで使用するにしても自宅ドアの専用部のみとなり、共用部のオートロックなどは別の方法での解錠だったため、これではユーザーのメリットが少ないんですね。残念ながらアクティブ率は下がる一方でした。

そんななか、唯一アクティブ率が上昇し続けていたのがオフィスやコワーキングスペースなどの法人利用だったんです。「オフィス向けであれば、必ず成功する」と確信を得た瞬間でもあります。

そこでピボットを行い、オフィス向けのプロダクトとして再開発を始めました。単純に家庭向けから法人利用へターゲットをスイッチするだけでは機能面などの必要な要素が足りないため、あらためてプロダクトを再ローンチさせる必要があったからです。

大久保:結果として大成功を収めたわけですが、当時はベンチャーキャピタルの説得に苦労されたそうですね。

河瀬:なにしろ新たな製品として作り変えましたので、ベンチャーキャピタルからすると事業として成功するかどうかの結果が見えづらいんですよね。

ただ、弊社としては「この領域での課題を抱えているお客様が多いからこそ、必ずソリューションとしてフィットする」と自信を持っていました。データや顧客の声などを徹底的に分析し、あらゆる側面から「長期的に利用していただけるはずだ」と。

大久保:河瀬さんにとって、その時期が一番大変だったのではないでしょうか。

河瀬:いやもう本当に大変でした(笑)。とにかく「事業として必ず成功する」という自信をもとに、必死でベンチャーキャピタルの説得にあたりましたね。

大久保:なかなかVCの理解が得られない中で、最終的に資金調達ができた理由をお聞かせください。

河瀬オフィス向けとして再度ローンチ後、短期間の実績を見せたんです。「これだけ伸びている」というデータの提示とともに、今後の展開などすべて具体的に説明しました。

その結果として、資金調達に成功し、資金が入ったことで売上なども一気に伸び出したんです。以降、ラウンドが進んでいきました。

資金調達の過程でもそうなのですが、当初の家庭用プロダクトをローンチしてからデータを細かく分析して、どこが強みなのか?どんな点を改善しながら伸ばしていくべきなのか?をきちんと行い、その上でプロダクトを作る。この部分をしっかりと行ったことで成功できたと思っています。

教科書通りかもしれませんが、実際に結果を出せたことであらためて自信にもなりました。

起業家にとって最も大事なのは、自社のプロダクトを信じ続けること

大久保:最後に、起業家に向けてのメッセージをいただけますか。

河瀬:起業家にとって最も大事なのは、自社のプロダクトを信じ続けることだと思っています。

起業したとき、誰もが「これがやりたいんだ!」という世の中をより良くするために実現したい世界観がありますよね。私にとっては、1つの認証IDですべての扉が管理できるキーレス社会の構築です。

その具現化に向けて挑戦していると、できない理由がたくさん出てきます。でもそこで「やりきるんだ!」という強い意識を持って、仲間や味方を得ながら前進することが大切なのではないかなと。

だからこそできない理由を並べるのではなく、できる方法を無限に考えていただきたい。課題を解決すべく生み出したプロダクトを信じ続け、心が折れないようにがんばっていただきたいと願っています。

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(取材協力: 株式会社Photosynth 代表取締役社長 河瀬 航大
(編集: 創業手帳編集部)



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