Pendo.io Japan ⾼⼭ 清光|外資系IT企業の“日本法人設立のプロ”から見た日本のスタートアップとは?
※このインタビュー内容は2022年5月に行われた取材時点のものです。
グローバル市場で活躍する外資系IT企業と日本のスタートアップの大きな違いは掲げる「目標の高さ」にある
日本には海外発の製品やサービスがいくつも進出していますが、外資系企業が日本法人を設立するためには、日本市場を熟知した信頼できるチームづくりが必要です。
この海外IT企業の日本法人設立という重役を何度も経験しているのが「Pendo.io Japan株式会社」の高山さんです。
外資系企業の日本法人設立の苦悩や、海外のスタートアップから日本企業が学ぶべき点について、創業手帳代表の大久保が聞きました。
この記事の目次
Pendo.io Japan株式会社 カントリーマネージャー
日本ユニシスに在籍後、Omniture社、Cloudera社、Box社と3つの米国スタートアップ企業に、国内1人目の社員もしくは営業として参画。それぞれの企業が米国で上場を果たす中、日本法人での市場開拓と売上拡大に大きく貢献した。23年以上にわたって、グローバルなエンタープライズソフトウェアブランドの日本での需要を拡大させ、ビジネスを確立するために従事してきた経験を活かし、2020年11月よりカントリーマネージャーとしてPendoの日本法人を統括。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
日本ユニシスを経て、複数の外資系IT企業の日本法人設立に挑戦
大久保:Pendo日本法人代表に就任されるまでの経歴を教えてください。
高山:大学卒業後に「日本ユニシス」というIT企業に入社しましたが、すぐに自動車メーカーの「トヨタ」を中心に豊田地区の関連会社を主に担当する豊田営業所に転勤となりました。1990年代後半だった当時の日本ではIT産業が急拡大している時期で、私は20代のほとんどを豊田営業所に勤めました。
豊田営業所に勤める担当者は定年退職するまで転勤はないと言われていましたが、トヨタに関わる業務をしていると海外の最先端IT企業とのやり取りも増えて、海外のIT企業に興味を持ち始めたんです。
そこで、20代の後半で日本ユニシスを退職し、外資系企業に転職する準備として1年ほど海外に行き英語の勉強をしました。海外から帰国して転職活動をすると、色々な外資系企業からオファーをいただきましたが、そのほとんどは「豊田営業所」の立ち上げのための採用でした。
余談ですが、海外で1年ほど英語の勉強をした上に、何社も外資系企業の日本法人立ち上げに関わってきましたが、実は私は英語が全く話せません。英語が全く話せなくても、外資系企業で働けると知っていただけると嬉しいです。
日本企業のためになる仕事がしたいという思いで「Pendo」に参画
大久保:他にも様々なキャリアを積まれているかと思いますが、どのようなことをされたのでしょうか。
高山:次はトヨタ関連の業務以外を経験したいと思い、その時に出会ったのがウェブサイトの解析を行う米国企業の「Omniture」でした。Omnitureには、日本法人の立ち上げのための最初の社員としてジョインしました。6年ほど経つ頃には社員も65名ほどになり、最終的にはAdobeに買収されました。
買収されるという経験も自分の糧になるのではと思い、Adobeでも3年ほど統括部長を担当しましたが、「ビッグデータ」のブームが訪れたタイミングでAdobeを辞め、ビックデータ関連の外資系企業で1人目の営業マンとして働きました。
その間にクラウドストレージサービスの「Box Japan」から1人目の営業として何度もお誘いいただき、熱意や企業文化などに惹かれて、「Box Japan」に転職しました。
「Box Japan」には7年ほど勤めましたが、ご縁があってカントリーマネージャーとして「Pendo」を紹介されました。Pendoは一言で言うと、ソフトウェアのユーザーデータを収集・分析し、分析結果に基づいてガイドなどを出すことで、例えば使い勝手の悪い業務用ソフトウェアを簡単に使いやすくします。いわば「ソフトウェアを使いこなすためのソフトウェア」です。ビジネスの可能性はもちろんのこと、このソフトウェアは日本企業のためになるはずだと考え、転職を決意しました。
外資系IT企業から見た日本のスタートアップの改善点
大久保:海外のソフトウェアは多少のバグはあっても、次々と面白い機能を発表している印象があります。
高山:その通りだと思います。「Box」はシンプルなクラウドストレージのサービスが主軸で、同じような機能を持ったサービスを日本の名だたるソフトウェア企業も出していました。サービスのクオリティには大きな違いはありませんでしたが、当時のBoxには多少のバグがあっても次々と新しい機能を実装するという「ワクワク感」がありましたね。
売る方は大変でしたが、そのワクワクに期待するユーザーが多かったのだと思います。
大久保:いくつもの外資系企業の日本法人立ち上げフェーズを経験された高山さんから見て、日本のスタートアップの印象を教えてください。
高山:日本のスタートアップの顧問もしていますが、日本のスタートアップの経営者が目指している規模が小さいように感じます。そのため、投資家から資金調達をした後は、上場することが目的になってしまうケースが多く、もったいないなと感じることがあります。海外の製品・サービスや海外のマーケットを見る経験がもっと必要かもしれませんね。
また、多くのスタートアップ経営者が自分よりも優秀な人を採用したいと言いますが、実際にそれができているケースが少ないように見えます。自分より優秀な人を採用するには、それを受け入れる技量が経営者に求められます。そこまで気が回っていない経営者が多いのかもしれません。
プロダクトを広めるためには「目標設定」が重要
大久保:プロダクトを広める際の工夫について教えてください。
高山:まず最初に年間計画のように1年後、自社の製品を導入してほしい企業を20社ほどリスト化して、それらの会社へのアプローチに8割の時間を使うようにしていました。
そうすると1年後にはその20社のうち何社かは取引先になっているものです。
目の前のお客様も大切ですが、規模を拡大したい企業こそ、予め大きな目標を掲げることが必要です。
また、特に創業初期のスタートアップのサービス価格が安すぎるのも問題だと思います。100円のサービスだと多少のバグは見逃されるかもしれませんが、10,000円のサービスだとより細かいフィードバックが得られます。強気な価格設定をして、よりシビアなフィードバックを獲得する戦略は、日本とアメリカの大きな違いだと感じます。
大久保:ビジネスをする市場として、日本の強みや弱みについてどうお考えですか?
高山:東京には日本の上場企業の約半数が集積しているので、企業同士の地理的な近さは日本、特に東京ならではの強みになると思います。
しかし、逆に言うと、いつも同じメンバーで同じプロセスでビジネスを行うことが多くなるので、大きな変革が起きにくい恐れもありますね。
アメリカのスタートアップは最初から世界市場をターゲットにビジネスを組み立てるので、ダイナミックな変革が起きやすいんです。日本でも東京の会社がリモートで働く地方人材を採用するなど、少しずつ変化が起こせるとより日本の強みを生かせるようになると思います。
Pendo流の人材採用のポイント!社員の成長にはフラットな関係性が必要
大久保:人材採用についてはどのように考えていますか?
高山:私より優秀なメンバーが伸び伸びと実力を発揮できる環境を作りたいと意識しています。なので、社員全員に同じ距離感を持って接するようにしています。例えば全員に対して敬語で話しかけるなど、できるだけフラットな関係でいられる雰囲気を大切にしていますね。
野球で例えると、私は監督ではなくて三塁コーチだと採用面接の時に話しています。
私は一番偉いわけではないけども、挑戦したいメンバーのためには「責任は私が取るから思い切り走れ!」と腕を振って背中を押します。
私が採用したメンバーが私を追い抜いて、将来私の上司になることが理想ですね。
大久保:人材採用について、日本のスタートアップが意識すべき点を教えてください。
高山:「Pendo.io Japan株式会社」の採用ページには、7つのコアバリューという行動指針を載せているのですが、その中で「率直で明快なコミュニケーション」という項目があります。
これは一時的にその場が気まずくなっても、思ったことはその場で言い合える雰囲気作りが大切だという意味です。特にWebサービスを提供する企業では、面白いアイディアが次々と出てくることが会社の成長には不可欠です。
日本企業では1つ失敗をするとその社員の全てがダメだという雰囲気になってしまいがちです。極端に言うと、朝のミーティングに遅刻して入ってきて上司から怒られた社員がその場で、ミーティング中の上司の意見に率直にダメ出しできるような雰囲気が大切だと思っています。
リモートワークだからこそ社員同士のコミュニケーションを大切にする
大久保:リモートワークが中心になった現在において、社員同士の関係性を築くために工夫していることを教えてください。
高山:雑談から生まれるアイディアの重要性に注目している外資系企業も多いため、私も雑談をする時間を意識的に作るようにしています。
「Pendo.io Japan株式会社」でもリモートワークが中心になりましたが、毎週月曜日は渋谷にあるオフィスにできるだけ出社してもらうようにしています。強制ではありませんが、メンバーが顔を合わせると自然と雑談も増えるので、必要な機会なんですよ。
また新しいメンバーが入った時には、最初の2週間は参加できるメンバーでズームをつなぎながらランチを食べるようにして、新しいメンバーの考えやアイディアを聞く時間を設けたりもしていますね。
ソフトウェアを使いやすくするソフトウェア「Pendo」
大久保:「Pendo」のサービス概要を教えてください。
高山:顧客管理や生産性向上など目的ごとに多種多様なクラウドサービスを導入している企業が多いと思いますが、それらのクラウドサービスをユーザーがどれくらい活用できているかを分析するツールを提供しています。
また、使っているクラウドサービスで特定の質問が多い場合には、解説ガイドを自動的にポップアップ表示させることができ、様々なクラウドサービスをより効率的に使えるようにサポートしています。
多種多様なクラウドサービスに、取扱説明書やガイド機能を追加する役割をPendoが担っているというのがイメージしやすいかもしれません。
大久保:どのような方が顧客ですか?
高山:社内でクラウドサービスを使っているユーザー企業や、クラウドサービスを開発しているソフトウェア販売事業者が予めPendoを組み込んで販売することも多々あります。
大久保:具体的にどのような使われ方をしていますか?
高山:大きく2種類の使い方に分けられると思います。
1つ目は、新しいメンバーが入社した時に、社内で使っているシステムをすぐ使いこなせるようにするための使い方です。
2つ目は、新しいクラウドサービスを社内に導入する時に、社員がスムーズに対応できるようにするための使い方です。
いずれにしてもクラウドサービスを触り始めて最初の段階で挫折してしまうと、その後も使われない傾向があるので、初期段階ですぐに使えるようにするためのガイド機能にメリットを感じていただいています。
また、属性によって表示させるガイドを選べるのも特徴です。例えば、2週間以上ログインしていない方や特定の部署の方にのみあるガイドを表示させたり、逆に毎日ログインしている方にはガイドを表示しないように設定することも可能です。
スタートアップや中小企業のDX推進を支援する
大久保:日本のスタートアップでも使いやすいサービスですか?
高山:スタートアップ向けに使いやすい価格帯のプランや無料でお試しできるプランもあるので、スタートアップの方々でも使っていただけるサービスです。
大久保:DX化に苦戦している企業に役立つツールでしょうか?
高山:その通りです。Pendoはクラウドサービスの分析やガイドを行うサービスと聞くと難しく感じる方もいますが、実際はクラウドサービスを使うハードルを下げるツールです。
DXを推進したくても社内のアナログ思考の社員に反対されている場合でも、クラウドサービスと同時にPendoを入れることで、ユーザーの利用率などのデータが簡単に取れるので、データを元にしたDX推進が進めやすくなると思います。
大久保:最後に読者である起業家の方々にメッセージをお願いします。
高山:特にITサービスを開発しているスタートアップでは、どの方向に進めていくのかと悩むことも増えるでしょう。
初期の取引先や売上成績の良い営業マンの意見が強くなってしまうシーンも多いと思いますが、そんな時こそPendoを導入し、個人的な意見ではなく蓄積した「データ」を判断材料にしてほしいと思います。
日本のスタートアップには多くの可能性があると思いますので、志を高く持って、大きな目標を掲げて頑張ってください。
(取材協力:
Pendo.io Japan株式会社 代表 ⾼⼭ 清光)
(編集: 創業手帳編集部)