PE&HR 山本 亮二郎|11回上場の「投資の達人」が語る、ベンチャー投資のポイントと哲学
PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎インタビュー
(2018/12/14更新)
創業して間もない起業家にとって、事業を大きくしていくための資金を調達することは欠かせません。そんな資金調達の方法の一つとして挙げられるのが、投資家の存在です。
今回は、投資家の中でもアーリーステージ(創業期)を中心に投資し、投資先企業の成長支援に注力する山本 亮二郎氏に、「投資をする際にここを見ている」というポイントについて、お話を伺いました。
1968年生まれ 早稲田大学第二文学部社会専修卒業
株式会社インテリジェンスなどを経て、フューチャーベンチャーキャピタル株式会社入社。アーリーステージを中心に投資し、投資先企業の成長支援に注力する。創業期に投資し取締役も務めた21LADY株式会社と夢の街創造委員会株式会社が株式公開(IPO)を果たす。
2003年5月、企業の成長発展に「資本」と「人材」の両面から貢献するというコンセプトを掲げ、PE&HR株式会社を設立、代表取締役に就任。2004年5月、「若手起業家のための投資事業有限責任組合」設立。2006年4月、「Social Entrepreneur投資事業有限責任組合」設立。2007年9月、「関西インキュベーション投資事業有限責任組合」設立。2013年12月、「Social Entrepreneur2投資事業有限責任組合」設立。2016年6月「東松山起業家サポート投資事業有限責任組合」設立。ベンチャー企業への投資と共に成長支援の実践的サービスの提供を行う。
トウキョウ・デジタルミュージック・シンジケイツ株式会社、株式会社アクティバリューズ、株式会社日々茶庵、株式会社Creatorsの社外取締役、株式会社VIE STYLEの社外監査役、株式会社スープアンドイノベーション、株式会社森屋の代表取締役社長を務める。これまでに11社の上場経験と、2〜74倍で9度の売却実績がある。
他に第一勧業信用組合、城南信用金庫の評議員を務める。
また、グループに50数店の飲食チェーンを持つ。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社の母子手帳、創業手帳を考案。2014年にビズシード社(現:創業手帳)創業。ユニークなビジネスモデルを成功させ、累計100万部を超える。内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学、官公庁などでの講義も600回以上行っている。
すべての独立する人のために、支援をする
山本:今行なっている事業は3つあります。
1つめの事業はファンドを作り、スタートアップの会社を中心に、上場しようと思っている企業に投資しているものです。投資額は初回で1,000万円から5,000万円、追加を合わせて1億円弱の投資を80数社にしています。
2つめの事業は、フランチャイズ本部を自分たちで経営して、そこに加盟して独立開業する人を支援しているものです。本部の業態は食関係でも、お花屋さんでも、学習塾でもかまいません。
3つめの事業は、ファンドでもフランチャイズでもなく個店(バー、割烹、花屋、塾など)や個人の才能(歌手、ヴァイオリニスト、映画、小説家など)に支援する」ということもやっています。
全体図として言うと、「ファンド」「フランチャイズ」「個の独立」というイメージです。
山本:当社を設立した当時(2003年5月)は、インキュベーション的な事業をしているのは国内に3社くらいしかありませんでした。今は数十社でしょう。
他に変化があるとすれば、株式投資型のクラウドファンディングが我々のやっている領域に少し近いといえます。
山本:私は基本的に良いものだと思っています。株式投資型のクラウドファンディングで投資機会が増えることは良いことだと思うのです。投資資金が増えて底上げされれば、私たちもそこに投資できるわけですから。
山本:そうですね。私の場合は「すべての独立する人のために」というのが理念なので、クラウドファンディングの仕組みは素晴らしいと思っています。
VCとクラウドファンディングは敵対しない。
両立する。
山本:フランチャイズについても、完成したシステムとして高く評価しています。前提として業態はこちらで作り、それを提供するというものなので独立がしやすくなります。
ですが、フランチャイズだから成功できるというわけでは全然なくて、フランチャイズでもブランドが確立していないベンチャーがたくさんありますよね。そうすると強い商売にならない可能性もあると思います。また、やはり実際にお店を経営するオーナーの経営力というか、気迫というか、それが何より重要です。
時代のよってビジネスは変わっても、起業家のモチベーションは変わらない
山本:どちらも会社側から言われたのではなく、自分でゼロから見つけてきたところでした。そのうち1社は全社的には大反対。絶対投資させないという雰囲気でした。
それでも説得して投資した結果、ゼロから自分で開拓した2つの会社がどちらも上場しました。それが投資の成功の最初ですね。売上ゼロの創業期から取締役にもなり、そのうちの1つは上場後もしばらく役員を務めました。
山本:2社のうち、1社は経歴がしっかりされている方でした。名前のある会社で副社長や取締役をされていて、実績のある方。初めての独立でしたが、一言で言うと「経営力がとてもあるな」と感じました。入社して最初の3ヶ月で投資した会社なので、投資のことをまだ全然わかってはいなかったのですが、わからないなりにそれを感じたのです。
もう1社はまったく無名で、経営も不安定な会社。すぐにでも倒産しそうな、かなり危ない状態でした。けれどもその人のことがなんだか気になり、会社に報告して社長に来てもらったのが最初でした。
その人の持っている、なにか苦労人としてのいろいろな側面を感じたのかもしれません。投資しようというときに、何らかの大きなインパクトや印象を感じるということは必ずありますね。
数十時間のデューデリジェンス(※1)の過程を整理して言語化するのは困難ですが、その人の魅力や生きてきた道を映し出すものに惹かれているのだと思います。
※1
デューデリジェンス:投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査すること。
山本:時代によってビジネスは変わりますし、複雑性も増すかもしれません。
ですが、起業家、商売をしようとする人の本質は変わらないと思います。そこはどんなに複雑になっても、凝視すれば必ずわかります。人間を観る力が問われるのだと思います。
山本:先ほどお話しした「起業家の人間」という点に加えて、投資家は「このビジネスの構造と成長性はどうなっているのか」ということを理解しようとします。当たり前ですが「単価×個数(回数)」が売上高です。それがいつ、どのくらい、どうなるか、というのを投資家はまず知りたいのです。
どう考えても起業家が言う単価と回数にならないな、というときは投資しにくいです。仕組みがよくてニーズのありそうなビジネスでも、大したサイズにならないと思えば難しく感じますね。
単価×個数(回数)=売上高
を繰り返し検証しよう
あとは、限られた時間の中でそのサイズまでたどり着けるのかどうか、という体内時計をきちんと持っているかどうかも重要になります。
次に、ビジネスモデルはどういった利益構造でどのくらい利益が出るのか、それはいつなのかを理解しようとします。
投資を受けようと考えている起業家は、このような点を意識して事業計画を検討すると良いですね。
教科書に書いてあることだけではなく、真理の部分を見よう
山本:本物のエンジェルであればそのようなことは起きないのだと思いますが、多少知られた経営者や元経営者の中には、最初に出資する時の比率が高すぎるケースが未だにあります。起業家も「お世話になった方だから」などと言うのですが、これが後々、資本政策を苦しめます。また同時期に出資するVCとの条件面の開きは長くしこりとして残ることがあります。
エンジェル投資をするときには、これから始まる起業の長い物語をしっかり見据え、成長のために将来エクイティファイナンス(※2)がやりやすい資本政策(シェア)を考える必要があります。
そして、資本政策の教科書に書いてあるようなことだけではなく、もっと人間的に本質の部分で合意できるかどうかが大切だと思います。
※2
エクイティファイナンス:企業が株式を発行することにより、事業に必要な資金を調達すること。
資本政策は、人間的に
本質の部分で合意できるかどうかが大切
(取材協力:PE&HR株式会社 代表取締役 山本 亮二郎)
(編集:創業手帳編集部)