下請けGメン・急に立入検査!?知らないと怖い下請法と対策を弁護士がわかりやすく解説
下請法を分かりやすく解説。この機会に体制を見直そう
下請法が改正され、発注側が注意しないといけない範囲が増えています。役所からの立入検査となると数日かかり、準備や事後対応と、対応が甚大になります。出資や上場を目指すような会社にとっては、監査面でも痛手になります。
一方で、顧問税理士による対処法もある程度確立されていますが、下請法は会社の管理部門・経営に負担が直撃します。珍しい話と思われがちですが、実はこの下請法違反での立入検査は珍しくありません。新しくなった下請法をわかりやすく弁護士が解説し、対策をまとめました。
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この記事の目次
下請法はスタートアップにも関係する?
高橋:「下請(したうけ)」とは、引き受けた仕事をさらに別のものが引き受けて行うことを指す言葉です(一部、自社で使用する情報成果物の作成を第三者に委託するケースも下請法の対象となるため注意してください)。下請けに対する不当な扱いなどが問題になっており、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」とする)が改正された経緯があります。
高橋:「勧告」「指導」「罰金」といった対応が取られ、勧告を受けた場合は公正取引委員会のWEBサイト上で「下請法勧告一覧」で公表されます。信用上のダメージが大きいですよね。また50万円以下の罰金が、法人と代表者の双方に科される可能性があります。
高橋:これは、声を大にして「関係する」と申し上げます。
下請法の規制対象となる取引にあたるかどうかは、取引当事者の資本金チェックから始まります。後述のように、親事業者の資本金は最低でも1000万円以上あることが要件ですが、1000万円という金額は、昨今のスタートアップの資金調達状況に鑑みると決して珍しくありません。下請法の資本金要件は意外とハードルが低いのです。
また、独占禁止法と違って、当該企業が市場で支配的地位にあるかといった点は考慮されません。この点でも、親事業者に該当する可能性が容易にあると言えるでしょう。
また、下請という言葉の語感から、昭和の町工場のような古い産業(機械の部品製造など)のような感覚もあるかもしれません。しかし、下請法の対象となる取引には、情報成果物作成委託(特にプログラム作成)が含まれますので、ソフトウェアの作成を行っている企業は該当する可能性があります。この点でもスタートアップと決して無関係ではない法律であることがお分かり頂けると思います。
高橋:前述の通り、公正取引委員会のウェブサイト上で「下請法勧告一覧」で公表されるため、レピュテーションリスクが大きいと考えます。スタートアップの資金調達や上場などで大きなマイナス評価になるでしょう。是正されても、他にもあるのではないか?と思われてしまいますよね。
そして、立ち入り検査の対応も大変な負担になります。
下請法でつまずくことは、成長したいスタートアップベンチャーにとって絶対避けたいところです。
下請法とはそもそもどんなもの?
高橋:メーカー系列の下請けや従属的な取引関係のフリーランスなど(下請事業者)は、親事業者に対して弱い立場であることが多いです。
下請けいじめなども社会的問題になっていました。具体例を挙げますと、親事業者が注文した物品などの受領を拒むことや、下請代金を支払期日までに支払わないことなどです。
そうした親事業者の行為を取り締まり、下請事業者の利益を守るための法律が下請法です。
下請法の対象となる取引の例
・精密機械メーカーが部品の製造を部品製造会社に発注する。(製造委託)
・自動車ディーラーが修理作業を修理会社に委託する。(修理委託)
・システム会社が開発を外部に委託する。(情報成果物作成委託)
・ビルメンテナンス会社が清掃作業を清掃会社に委託する。(役務提供委託)
親事業者・下請けは規模によって下記のように分類されます。まずは自社がどこにあてはまるか確認しましょう。さらに、取引の種類については、取引類型ごとにさらに細かく分かれていますので、後述の「ポイント解説下請法」などを参考にチェックする必要があります。
パターン1
取引の種類 | 親事業者 | 下請事業者 |
・製造委託、修理委託 ・情報成果物作成委託、役務提供委託 (プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理にかかるもの) |
資本金3億円超の法人 | 資本金3億円以下の法人・個人 |
資本金1000万円超〜3億円以下 | 資本金1000万円以下の法人・個人 |
パターン2
取引の種類 | 親事業者 | 下請事業者 |
・情報成果物作成委託、役務提供委託 (プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管・情報処理にかかるものを除く) |
資本金5000万円超の法人 | 資本金5000万円以下の法人・個人 |
資本金1000万円超〜5000万円以下 | 資本金1000万円以下の法人・個人 |
高橋:列挙すると以下のようになります。
1.書面の交付(下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日や支払方法などを記載したもの)
2.下請代金の支払期日を定める
3.書類の作成・保存(下請事業者の給付、給付の受領や下請代金の受領などを記載したもの)
4.遅延利息の支払
一言でまとめると、「契約書をしっかり作って内容を定め、支払いをしっかりする」ということですね。
また、禁止行為としては下記のようなものがあります。
1.受領拒否の禁止
2.下請代金の支払遅延の禁止
3.下請代金の減額
4.返品の禁止
5.買いたたきの禁止
6.物の購入強制・役務の利用制限の禁止
7.報復措置の禁止
8.有償支給原材料など、対価の早期決済禁止
9.割引困難な手形の交付の禁止
10.不当な経済上の利益提供要請の禁止
11.不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止
要はアンフェアな取引を押し付けてはいけない、ということです。強い立場の親事業者が、不当な要求をするということを制限しています。
立入検査になってしまったらどうする?
高橋:はい、実際検査になると、幹部スタッフがつきっきりで対応ということも珍しくありません。
税務調査に対しては、緊張感を持っている経営者は多いと思いますが、下請法の立入検査はそれに匹敵する労力がかかります。
佐野:はい、中小企業庁によると、令和2年度には、親事業者60,000名、及び当該親事業者と取引のある下請事業者300,000名を対象にして書面調査を行い、当該調査の結果、8,111件について勧告又は改善指導の措置を講じており、この措置件数は、下請法施行以降、最多となっています。(出典:「令和2年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」 )。
かなりの数の会社が立ち入り検査を受けていることがわかります。下請法違反行為の内訳としては、義務行為違反では「1.書面の交付」にかかる書面の記載事項不備・未交付が多くなっています。また、禁止行為違反では「2.下請代金の支払遅延の禁止」や「3.下請代金の減額」が多い傾向にあります。
また、取引調査員(下請Gメン)が全国の下請中小企業を訪問してヒアリングを実施しており、また中小企業が抱える取引上の悩み相談を受け付ける「下請かけこみ寺」も全国47都道府県に設置され、下請法違反が露見しやすい状況になっています。
スタートアップは、親事業者・下請け、つまり被害者・加害者両方になる可能性があります。
いずれのパターンでも、制度を理解することが大事です。
高橋:チェックリストを作成して現場に留意点を浸透させることと、定期的なチェックが欠かせないと考えます。経営者の目が届かないところでの問題もありますから、責任者の教育や、内部の監査なども重要です。取引があるのに契約書がないようなケースも要チェックです。
特に組織が拡大して、下請け先が大量で管理の目が行き届かないようなケースに気をつけてください。
高橋:ごまかそうとせず、しっかりと書類を整理して対応しましょう。日頃からの注文書や発注書の整備などがものをいいます。
下請け関係の契約書はすべてそろっているか、不適切な取引がないかすぐにチェックしましょう!
なお、公正取引委員会が調査に着手する前に違反行為を自発的に申し出、かつ下請事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置等、自発的な改善措置を採っているなどの事由が認められる事案については、勧告まで行う必要がないものとして取り扱うとされています(上記出典)。
このような当局の方針に鑑みても、下請法違反については、逃げ隠れせずに公明正大に対応することが大切だと考えます。
高橋:法律を守ることは、面倒でコストがかかるように思えるかもしれませんが、その過程で管理面が整備されます。リスクやコストで見えない面があぶりだされて、会社の体質強化につながることもあります。
また、公正取引委員会は下請法に関して分かりやすくまとめたパンフレットを公開しています(ポイント解説下請法)。経験上、下請法は、悪気なく書面交付義務を失念していた、個人相手の場合は該当しないと思っていた、といった「無知」から違反してしまうケースが多いようですので、違反を未然に防ぐため、チェックリストや上記パンフレットの交付により、日頃から自社の従業員に周知することが大切だと考えます。
この機会に、ぜひ、会社を見直しましょう。
お役立ちサイト/文献
公正取引委員会・中小企業庁「ポイント解説下請法」2020年10月
公正取引委員会・中小企業庁「下請取引適正化推進講習会テキスト」2018年11月
公正取引委員会「令和2年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」2021年6月2日
公正取引委員会WEBサイト
中小企業庁WEBサイト
(監修:
AZX Professionals Group AZX総合法律事務所/高橋 知洋弁護士)
(編集: 創業手帳編集部)