Okage 内田善久|金融業から事業家へ!飲食DXの広がる可能性とは
飲食DXで省力化だけでなく顧客体験をリッチに!そしてみんなをハッピーに
人手不足に悩む飲食業界にとって、モバイルオーダーやセルフレジなどのDXは、今では必要不可欠なものです。Okageが扱うDXは、エンターテイメント性を何よりも大切に、お客様の感動体験をよりリッチにするためのサービスを開発・提供しています。
金融業界から事業家へと転身するまでの経緯や創業時の思い、飲食DXの広がる可能性など、創業手帳代表の大久保がお話を伺いました。
この記事の目次
Okage株式会社 代表取締役CEO
大手証券会社、ベンチャー支援会社役員、自然言語処理ベンチャー創業、中堅SI会社代表を経て、2009年にOkageの前身となる会社を創業。
2016年10月に現社名のOkage株式会社に社名変更後、モバイルPOS、セルフオーダー、セルフレジ、モバイルオーダーなどの飲食店向けOkageDXプラットフォームのサービス群を充実して、現在に至る。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
明日のソニー、ホンダを応援したい!と転職
大久保:これまでのご経歴や創業の背景について、教えていただけますか。
内田:起業前は証券会社に勤務していました。デリバティブやクオンツ運用などの金融工学が非常に普及し始めた頃で、現在のAIのようなものも含め、データサイエンスの可能性を感じていました。
当時、本田技研など大手の企業を担当していて、創業時の話などを聞く機会があったのですが、銀行マンが体を張って事業を支援したという話に影響を受けて、ベンチャー支援をしたくなったんですね。そして、明日のソニー、ホンダを応援したいという思いで、ベンチャーだけを支援する証券会社に転職しました。
ところが、それまで金融だけをやってきていたので、一度自分で事業をやってみないとわからないという思いになり、CFOという選択肢もあったのですが、いろいろな事情から社長をやることになりました。
「食」の分野でみんなをハッピーに
大久保:スタートアップでは、どのようなことをやりましたか。
内田:自然言語処理という今のChatGPTみたいなことをやりましたが、うまくいきませんでした。当時はまだビジネスモデルがなく、最初に莫大な資金が必要になるため、日本では厳しい現実がありました。そして、日本でAIをやるなら何がいいのかと考えたところ「食」という非常に大きな分野に注目しました。
AIといっても、ネットにある情報は、クロールすればChatGPTのように知識化できてしまいます。しかし、クロールできないデータはどこにあるのかと考えたとき、販売実績のわかるPOS(※1)データが非常に面白いと思ったんです。レストランオーナーの友人にPOSレジの相談を受けた際に、1980年頃から変わらず同じような仕組みで動いていることを知りました。時代遅れともいえるような仕組みが残っている業界だったんですね。
クラウドベースの新しいPOSを提供しながら「食」という分野でAIができれば、いろいろな人たちがハッピーになるだろうと思いました。そして「Okage」の前身になる会社を起業し、今に至ります。
※1:POS・・・・・「Point of Sale」の略称で販売時点情報管理のこと。POSを導入することによって、商品が売れたときの情報を記録・集計することができる。
日本の金融業界にとっての悲劇とは
大久保:金融の方が、ベンチャーのほうに行くのは珍しいと思います。さらに、事業をするというのが非常に面白いと感じました。金融側と事業側のそれぞれの視点をお持ちですが、いかがですか。
内田:そうですね。昔は回転ドアといって日本の銀行マンは事業会社に出向したり、また戻ってきて金融をしたりなど、金融と事業が融合していました。シリコンバレーのベンチャーキャピタリストも、どちらかといえば金融畑の人というよりは、元マーケターとか元エンジニアなど自分でも起業できるような人が圧倒的に多いです。また、そういう人がメンター的に若い起業家を支援しているみたいなのがあって、高度成長期の日本の企業もそうでした。
ところが、バブル以降は金融機関が人を見て投資したり、お金を貸すことがなくなり、担保やスコアリングなどに頼るようになってきていました。その結果、金融と事業の関係が非常に弱くなってしまったという問題意識があります。やはり、昔のように銀行マンが回転ドアで、金融と事業を行ったり来たりしないと、金融と事業の間の溝はなかなか埋まらないと思います。
私自身、金融側にいるときは成功している企業ばかりみていたので、スタートアップの企業が伸び悩んでいるのを見ると、なんでこんなことができないのだろうと思うこともありました。しかし、実際に自分が事業側になってみると、それは大きな間違いで、こんなにも大変なんだということもわかりました。したがって、回転ドアと呼ばれるものの価値は非常にあったと思っています。
大久保:日本の企業もそうだったと初めて聞きました。昔は日本も事業がわかる人がお金を出していた面があったんですね。金融は血液であるお金を送る心臓のような役割があったけれど、今は弱くなってしまったんですね。
内田:そうなんですよ。侍みたいな銀行マンがいたからこそ、ソニーやホンダなどの企業が成長できた部分はあります。銀行マンが出向して事業会社で活躍していたんです。事業がわかる金融マンがいなくなったということは、日本の金融業界にとって大きな悲劇だと思っています。
金融ビジネスの主戦場はデジタル領域へ
大久保:ベンチャー企業を応援したいということが最初のきっかけで、今は事業をされていますが、金融のときと比べていかがですか。
内田:そうですね。今は事業そのものが面白いと感じています。実は、これからフィンテック(※2)的なサービスを強化していこうと思っています。今、金融ビジネスの主戦場がデジタル領域に移ってきています。金融がデジタルになればなるほど、沢山のデータを保有しているIT企業のほうが高度な与信アルゴリズムがつくれることがあるんですね。
大久保:実際にお店が売れているかどうか、わかりにくいところがあると思いますが、御社の場合は大元のデータがあるからわかりますね。
内田:はい。当社の場合はPOSデータで毎日の売上がわかります。データを与信に活用すれば、今までよりはるかに高度な与信管理ができると思っています。今後は、CRM(※3)にも力を入れていく予定です。そうなればリピーターの割合も見えてきます。流行り廃りが激しい業界なので、飲食店にとってリピーターの存在は非常に重要だと思っています。
飲食データは小売りと違ってJANコードみたいなものがありません。統計整備がされていなくて、構造化されたデータが少ない市場です。だからこそ、そこが面白いところだと思っています。
※2:フィンテック・・・・・Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語で、従来の金融サービスと技術を結びつけた領域のこと。
※3:CRM・・・・・「Customer Relationship Management」の略称で「顧客関係管理」の意味。顧客の情報を収集・分析して、最適で効率的なアプローチを行い、自社の商品やサービスの競争力を高める経営手法のこと。
人間と機械の役割分担の重要性
大久保:改めて、飲食店におけるモバイルオーダーやタブレットの利点、課題などがあればお聞かせください。
内田:人手不足の問題が解消されるという利点があります。注文・会計をお客様にやっていただくことによって、接客に力を入れることが可能です。しかし、問題もあります。モバイルオーダーやタブレットによって省略化し過ぎるとサービスそのものがチープになってしまうのでは、という点です。
紙のメニューでは美味しそうに見えた料理も、モバイル画面で見ると全然美味しそうに見えない、そもそも何が「売り」なのかも分からないなどの問題があるんですね。当社は「こだわりとおもてなしを輝かせる」というミッションを掲げ、省力化だけでなく、顧客体験をリッチにするサービスを提供しようとしています。顧客体験をいかにリッチにしていくのか、エンターテイメント性があるかどうかということが非常に重要であり課題だと考えています。
大久保:モバイルオーダーやタブレットで省略化を図りつつ、データを取ることによって、いろいろな可能性が広がりますね。
内田:おっしゃる通りです。注文画面にURLリンクを埋め込み、ECに繋げたり、インスタやLINEの友達を増やしたり、さまざまな取り組みをしているところです。省力化プラスアルファの戦いですね。
また、インバウンドも復活しつつあるので、ホテルや旅館に営業も始めています。料理の注文だけでなく、お土産なども多言語で注文できるようにしてフロントに用意しておくなど、いろいろな可能性があると思います。
答えはお客様の中にある!会話から生まれる新サービス
大久保:サービス機能で特許をたくさん取得されていますね。
内田:はい。例えばデジタルメニューのフリーレイアウト編集の特許を取得していますが、これにより手書きのメニュー画像をモバイルオーダー画面にしたり、モバイルオーダーとセルフレジの画面に統一感を持たせてお店のこだわりを表現したり、CX(※4)の向上に力を注いでいます。
我々は、お客様からのご意見などに散りばめられたヒントを聞き漏らさないため、常に注意深く耳を傾けるように心がけています。それは、新しいサービスの答えがお客様との会話にあるからです。また、プロダクトリリース後が始まりだと私たちは考えていて、お客様の声をフィードバックして、改善を繰り返していくことも重視しています。
大久保:金融業界にいたからこそ分かることなどがあれば、お聞かせください。
内田:サービスのメリハリをつけることも重要だと思います。床屋業界でいえば、QBハウスさんはシャンプーもひげ剃りもしない、マイナスのサービスで成立しています。しかし、飲食業界ではそういった発想があまりなく、フルサービスになってしまいがちです。一点豪華主義ともいいますが、得意なものを明確にして、削れるものは削るという引き算の発想も大事ではないでしょうか。
※4:CX・・・・・「Customer Experience」の略称で、顧客体験・顧客体験価値のこと。
やりたいことを強く思い発信し続ける
大久保:起業した当時を振り返って、苦労したことや大変だったこと、また上手くいったことなどをお聞かせください。
内田:起業って最初は1人なんですね。チームでやることがあっても、せいぜい数人です。信用も何もない中で、まずは全部1人でやらなければならないステージがあり、非常に苦労しました。一方で、そのときにいろいろな人が助けてくれました。それらの方々がどうして助けてくれたのか振り返ると、自分の思いややりたいことを強く発信し続けていたからだとも思います。やりたいことが明確であれば、味方をしてくれる人がいるということは重要なポイントかなと思います。
大久保:こうしたいんだということを強く思い、やりたいと言い続けて共感してくれる人を集めることが大切なんですね。
内田:10人中9人が馬鹿にしても、本当の味方が1人できれば大成功です。スタートアップでもコアメンバーが重要ですね。
大久保:最後に、創業手帳の読者に向けてメッセージをお願いします。
内田:日本の未来は、新しい産業を興したり、スモールビジネスを活発にしたりすることにあると思っています。我々も小さな飲食店さんを応援することが一番のテーマです。いろいろなことがあるかと思いますが、とにかく好きなことにどんどんチャレンジして欲しいですね。
(取材協力:
Okage株式会社 代表取締役CEO 内田 善久)
(編集: 創業手帳編集部)