赤字でも融資OKに? 金融庁が進める「新しい融資制度」やさしく解説

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事業価値を伝える準備と説明が成功ポイント


「今の財務状況では好条件の融資は難しいだろう」
「将来性を評価してもらって融資して欲しい」

融資を考えている方で上記のように、お悩みの方は多いのではないでしょうか。2014年から推進されている融資評価の事業性評価では、厳しい財務内容でも事業の将来性や成長力を重視しています。

さらに金融庁は、新たな融資制度として企業価値担保権付き融資を検討中です。事業性評価でも将来性のあるスタートアップ企業や先行投資の大きいAI企業では資金調達が困難でした。

2026年春頃から施行予定である企業価値担保権は、技術力や顧客基盤といった無形資産も評価対象となり、より事業性評価が推進されます。

この記事では、新たな融資制度による変化や制度内容、金融庁が銀行に求めている方針を解説します。また、企業側の準備や注意点などについても紹介しますので、将来的に融資を検討している方は参考にしてみてください。

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新たな融資制度により融資評価はどうなる?

新たな融資方法である企業価値担保権付き融資により、これまで以上に事業性評価が推進されます。

事業性評価とは、決算書など財務資料の数字だけでなく、企業の技術力や事業の将来性も考慮する融資評価です。融資評価の変遷は以下のとおりです。

時期 融資評価の動き 内容
2014年以前 金融検査マニュアルに基づいた評価 過去の財務情報による結果を評価
2014年 金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)の発表 ・事業性評価を推進
・企業の技術力や事業の将来性も考慮する評価方針
2019年12月 金融検査マニュアル廃止 事業性評価を基本にする
2024年6月 事業性融資の推進等に関する法律」が成立 企業価値担保権の創設
2026年以降 企業価値担保権付き融資の開始見込み 企業の無形資産を評価して担保にできる

参考:

  • 金融庁 平成26事務年度金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)
  • 厚生労働省 「事業性融資の推進等に関する法律」の成立について

金融検査マニュアルの影響がある融資評価では、将来性ある企業が発展しにくい問題がありました。事業性評価の推進により、企業の技術力や将来性も重視され始め、徐々に問題が改善されています。

今回の新たな融資制度の制定から、より将来性や無形資産などを重視した評価が推進されるでしょう。

新しい評価では何が見られる?

企業価値担保権付き融資の導入により、決算書に現れない「見えない価値」が今以上に重視される仕組みです。

  • 事業計画
  • 成長見込み
  • 経営者の能力
  • 技術力
  • 知的財産
  • ブランド力
  • 顧客基盤

これらの価値から、将来の収益が見込めると融資検討になる可能性が高まります。

事業計画・成長見込み(売上予測・キャッシュフロー予測など)

事業の将来性やビジネスモデルの実現可能性が最も重要となります。具体的な評価ポイントは、以下のとおりです。

  • 売上予測やキャッシュフロー予測などの数値計画の妥当性
  • 市場での競争優位性
  • 事業の継続性 など

企業実績を根拠として事業計画の達成や成長性に説得力をもたらします。

経営者の能力と経験

事業の安定または拡大が実現できるかどうかは、経営者の能力や経験も重視されるポイントです。

  • 過去の経営実績
  • 業界経験年数
  • 事業経営の成功事例
  • 経営ビジョンの明確性 など

主体的で経験ある経営者は、将来の企業収益力を支える重要な要素となります。

技術力、ブランド力、知的財産(特許・商標など)

企業が持つ技術力やブランド力、知的財産が、将来の競争力を測る重要な指標にもなります。
これらの指標の具体的な内容を表にまとめました。

指標 具体的な内容
技術力 独自技術やノウハウ
ブランド力 顧客からの信頼性やイメージの認知
知的財産 特許や商標

積み上げてきた技術力やブランド力、知的財産は新規参入企業との差別化要因になり、安定した収益の源泉としてアピールできます。

また、研究開発への投資実績や開発体制の充実度なども評価されます。現時点の技術力だけでなく、将来的な技術革新への対応力に向けた重要な判断材料です。

顧客基盤

強固で安定した顧客基盤は、将来の売上を予測する上で重要な要素です。既存顧客との関係性の深さや顧客リピート率、顧客単価の推移、新規顧客獲得力などが売上の実現性として総合的に評価されます。

顧客基盤として注目されている評価項目が、インターネット上の顧客資産です。

  • 各種SNSのフォロワー数
  • YouTubeチャンネル登録者数
  • LINE公式アカウントの友だち数
  • メールマガジン購読者数 など

現代においてインターネット上でつながっている人も売上の見込み顧客につながる基盤として認識可能です。また、企業の情報発信力や人気度を示す業界順位として活用される可能性があります。

金融庁が示す「3つのアプローチ」


新しい融資制度である企業価値担保権付き融資の特性に合わせ、金融庁は金融機関に対して従来とは異なる「3つのアプローチ」での評価を促しています。

それぞれのアプローチを見ていきましょう。

【アプローチ1】融資ごとに返済能力を直接評価

融資債権ごとに事業収益からの返済可能性を直接評価するため、従来の評価と異なるアプローチです。これまでの財務内容による評価とは異なり、プロジェクト単位で「この融資は返せるかどうか」を個別に判断します。

新しい融資制度の企業価値担保権付き融資では、銀行が企業の事業価値や将来性に深く踏み込んで融資判断できるでしょう。ただし、これまでより的確な融資判断をおこなうための環境整備が欠かせません。

このため、新たに返済可能性を判断する具体的な判定基準および回収リスクに対する考え方の検討が必要です。

【アプローチ2】プロジェクト単位で将来キャッシュフロー中心に評価

事業そのもののキャッシュフロー予測や財務内容以外の情報により回収リスクを判断するアプローチです。企業価値担保権は有形の個別財産だけではなく、債務者が持つ無形の個別財産を含めた総財産を対象にするためです。

総財産の中から優先順位をつけて判断するため、事業全体の内容を説明して理解してもらう必要があります。決算書には現れない強みを、具体的な事業計画書などで銀行に説明し、資金の使い道や事業の将来性を示すことが求められるでしょう。

【アプローチ3】従来の評価に「未来情報」を加味して評価

事業成長の可能性に対する根拠として「未来情報」を加味して総合判断するアプローチです。融資評価が主な情報源である過去の財務情報だけでなくなるため、より多くの企業が融資を受ける機会が増える可能性があります。

「未来情報」の主な内容は、以下のとおりです。

  • 将来のキャッシュ・フロー見込みの数字面
  • 技術力や知的財産などの事業性
  • 経営者の能力や経験といった経営の質
  • メインバンクとの関係性などの外部環境

企業は過去の財務情報を用いた今後の見通しを示すのではなく、事業性全体の価値を銀行へ適切に伝えることが欠かせません。新しい融資制度により、企業価値が正当に評価される環境になるでしょう。

企業がやるべき3つのことは?

新しい融資制度を活用するためには、銀行の制度設計だけでなく、企業にも準備が求められます。ここでは、企業が準備しておくべき3つのことについて詳しく見ていきましょう。

1.「見えない価値」を伝える準備

企業は財務諸表に関する資料だけでなく、「見えない価値」も伝える必要があります。事業性評価では、こうした価値がこれまで以上に重視されるため、具体的な言語化と伝える力が求められます。

主に企業の無形資産や将来の潜在能力を指し、どのように事業の成長や収益につながるのかを明確に説明できるようにしましょう。

たとえば強みを説明する際に、強みが具体的にどのような競争優位性を生み、将来の収支にどのように貢献するのかという論理的な説明が重要です。銀行も企業の事業性に対して真の価値で評価した融資判断ができるようになるでしょう。

2.説得力ある事業計画づくり

企業は新しい融資制度でも重視される将来的なキャッシュフローの確保を示すために、具体的かつ根拠のある事業計画の作成が欠かせません。単なる数字の羅列ではなく、「どう売上につながるか?その根拠は?」まで示せる事業計画書を準備する必要があります。

たとえば、顧客リストからの具体的な説明です。「顧客基盤に強みがある」といった抽象的な表現では説明不足であり、将来的な収益につながるプロセスの具体的な提示が重要になります。

3.金融機関との情報共有

積極的な情報開示とコミュニケーションの姿勢が大切です。決算書には現れない情報も含めて丁寧に説明して伝えると、事業に対する理解を深めてもらえます。

銀行へ「目に見えないもの」を評価してもらうためには、決算書では伝わらない情報も含め、事業全体の構想やビジョンを丁寧に共有することが不可欠です。経営者は丁寧に説明する時間と手間を惜しまず、信頼関係の構築に努めましょう。

銀行との定期的な情報提供や相談を通じた信頼関係の構築が必要です。 

今後の流れと注意点

新しい融資評価制度の導入には具体的なスケジュールがあり、企業側も銀行側もそれぞれ準備が必要です。制度の全体像を理解して対応できるようにしましょう。

「企業価値担保権」は2026年頃から施行予定

企業価値担保権は、2024年6月に成立した「事業性融資の推進等に関する法律」により創設された新たな制度です。施行は2026年春頃が予定されています。

制度の最大の特徴は、従来の個別財産への担保設定とは異なり、企業の事業全体を包括的に担保として活用できる点です。主な違いは以下の表を参考にしてみてください。

資産 現状の担保対象 企業価値担保の対象
不動産
有価証券
預金
技術力
ブランド力
顧客基盤
知的財産

現在でも事業性評価は積極的に取り組まれていますが、換価性のある資産が担保の対象となっています。企業価値担保権では、無形資産も含めた事業価値全体が担保の対象です。

参考:厚生労働省 「事業性融資の推進等に関する法律」の成立について

融資の道は広がる一方で、企業側の準備力・説明力が問われる

企業は銀行へ目に見えない価値を理解してもらえるように説明する必要があります。新しい融資制度によって担保の対象が増えますが、企業価値が評価されないと、担保として効果がありません。

有形資産が乏しいスタートアップ企業や、研究開発投資が先行して一時的な赤字になりやすい企業などには重要です。自社の強みを言語化して、具体的な事業計画を策定したうえで説明を行いましょう。

将来性のある企業として、銀行が納得できる説明のために努力と準備が欠かせません。

金融機関側も新しい評価方法に対応予定

銀行は、これまで以上に企業の事業性へ注目した融資の取り組みが求められます。新たな評価へ対応するために「目利き力」の強化が必要です。

企業の無形資産や将来性を評価するには、専門的な知見やノウハウを蓄積する必要があります。多くの銀行システムでは、新たな評価に必要な情報を反映させることが難しく、システム改修や運用の工夫が必要です。

企業価値担保権付き融資の制度設計には、事業性評価による企業の事業見通しを、より的確に把握する態勢の整備が求められるでしょう。

「伝え方」が融資成功のカギになる時代へ

新しい融資制度の成功は「伝え方」が重要なポイントです。これまで以上に事業性評価が重視され、過去の財務資料提出だけでは通用しない時代が到来します。

銀行も過去の数字だけでなく、企業が持つ真の価値と将来性を理解しようと努めるでしょう。このため、企業価値を適切に伝えられる経営者の企業は、融資を受ける可能性が高くなります。

財務書類で見えない企業価値を、銀行の担当者に具体的なストーリーと数値で伝える力が必要です。相手に納得してもらう説得力が融資成功の決定要因となるでしょう。

まとめ・企業価値を伝える準備をして新たな融資制度「企業価値担保権付き融資」に備えよう

新たな融資制度の企業価値担保権付き融資が始まると、事業性評価がさらに推進されます。新たに技術力やブランド力、顧客基盤などの無形資産も含めた総合的な事業価値が評価される融資制度です。

新たな融資制度により、赤字であっても将来性のある企業には資金調達のチャンスが広がります。ただし、企業は決算書に現れない「見えない価値」を具体的な根拠と数値で説明し、銀行に納得してもらえるように伝える力が求められます。

これからは「伝える力」×「成長力」が融資成功に求められるでしょう。事業計画の説得力や経営者の説明能力、銀行との信頼関係構築が重要です。

新しい融資方法に向けて、早めに準備を進めて、変化の波に乗りましょう!

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(編集:創業手帳編集部)

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