M&Aの費用は全額損金算入が可能!税制改正の概要やメリットなどを解説

資金調達手帳

2024年M&A関連の税制改正を実施


政府は国内企業の競争力を強化させ、経済の活性化を促すためにM&Aを推進してきました。
2024年度の税制改正では、M&Aがより活性化されるように大幅な拡充を実施しています。
具体的にいえば、中小企業がM&Aを行う際に税負担を軽減し、M&A費用の全額損金算入ができるようにしています。
そもそも改正される前はどのような制度があったのでしょう。

今回は、税制改正の概要からもともとの制度について、M&A費用を全額損金算入させるための方法についてご紹介します。
M&A関連の税制改正についてより詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

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経営資源集約化税制によるメリットはM&Aの全額損金算入だけではない!


2019年12月頃から世界的に新型コロナウイルスの感染が拡大していき、日本国内でも経済が低迷してしまいました。
国はコロナ禍の状況でも事業承継やM&Aが円滑に行えるよう、経営資源集約化税制を設けています。

経営資源集約化税制は後ほど詳しく解説しますが、準備金の積み立てによる株式取得価格の一部を損金算入できるというメリットがあります。
投資金額の7割以下を5年間の据置期間をつけて積み立てた場合に適用されるものです。

また、経営資源集約化税制は設備投資や従業員の給与を増額させる際に、税控除が受けられるメリットもあります。
設備投資や従業員の給与が増えれば当然企業側の利益は減ってしまいますが、代わりに税控除が受けられるため、税負担を軽減させることが可能です。
このように、経営資源集約化税制はM&Aの全額損金算入だけでなく、中小企業にとってメリットの大きい制度といえます。

M&Aに関する「経営資源集約化税制」とは


経営資源集約化税制とは、M&Aによる生産性向上などを目標に設定した計画を作成し、認定を受けた中小企業が税制の優遇措置を受けられる制度です。
正式名称は、“中小企業の経営資源の集約化に資する税制”になります。

経営資源集約化税制には、主に2種類の措置を活用できます。それぞれの措置がどのようなものなのか、詳しく解説していきます。

中小企業事業再編投資損失準備金

中小企業事業再編投資損失準備金とは、M&A実行後の簿外債務などのリスク対策として準備していた積立金を損金算入できる制度です。
株式などの取得にかかった金額の7割以下までを積み立てることができ、損金算入として計上できるようになります。
ただし、5年の据置期間を置いてから準備金は均等取崩によって毎年益金算入されます。

また、万が一簿外債務などが発生して減損が生じた場合も、準備金を取り崩し益金に算入することになります。
それでも投資額7割以下までを準備金として積み立てられ、なおかつ損金算入できることで、リスクに備えながらM&Aを実施した年の税負担を軽減できるので、メリットは大きいです。

なお、2024年度の税制改正により、さらにM&Aの損金算入がしやすくなりました。改正内容については後ほど詳しくご紹介します。

設備投資減税(経営強化税制)

設備投資減税とは、設備投資を実施した企業の税制を優遇する制度です。一定の条件を満たすことで、以下の2つのうちいずれかの優遇を受けられます。

  • 設備投資費用をその年度に全額減価償却(即時償却)が可能になる
  • 設備の取得にかかった金額の一部(10%または7%)を税額控除できる

なお、経営資源集約化税制の場合、経営資源の集約化に関連する設備投資でなければいけません。
M&Aを実施した際に導入する設備投資が適用されるため、単に生産性を向上させるための設備ではなく、有形固定資産回転率もしくは修正ROA(総資産利益率)の指標改善が見込める設備投資になる必要があります。

経営資源集約化税制の目的


経営資源集約化税制の主な目的は以下の2点です。

M&Aのリスク低減や実施後の企業成長を促進するため

2021年8月2日に施行された税制で、M&Aによって生じるリスクの低減や実施後の成長をより促すことを目的としています。
M&Aは買収側がリスクをともなうことから、実施したくてもできない企業は存在します。そのような方でも準備金の積み立てによってリスクの低減を図ることが可能です。

さらに、設備投資減税を活用することでM&A実施後も恩恵を受けられ、設備投資や雇用の拡大を進められます。
その結果、企業の生産性が向上して新規事業や事業の多角化など、経営の選択肢が増やせます。

事業承継の推進や2025年問題に対応するため

もともと経営資源集約化税制は、新型コロナウイルスによって大きなダメージを受けてしまった企業が存続することを目的につくられた制度です。
また、新型コロナウイルスの影響だけでなく、2025年問題への対策も目的としています。

特に現在は2025年問題の影響が大きくなっています。
2025年問題とは、第1次ベビーブームの時期に誕生した「団塊の世代」が全員後期高齢者(75歳以上)を迎え、超高齢社会になることで生じる影響のことです。
例えば現役世代が支える社会保障費の負担が増加したり、医療・介護の需要が増加することで体制を維持するのが困難になったりするなどです。
また、2025年までに経営者約245万人が平均引退年齢の70歳以上を迎えることで、後継者不足による廃業が増えると予測されています。

黒字にもかかわらず廃業せざるを得ない状況も生まれてしまうことから、M&Aの税額負担を軽減させることで事業承継の推進を図ろうとしているのです。

中小企業事業再編投資損失準備金の改正内容


ここまでM&Aの税額負担を軽減させる「経営資源集約化税制」について解説してきました。
経営資源集約化税制のうち、中小企業事業再編投資損失準備金に関しては2024年度の税制改正により内容が変更されています。
具体的にどのような改正が行われたのか、解説していきます。

損金算入金額の上昇

まず、これまでは株式などの取得価額のうち7割までを準備金として積み立てることができました。
しかし、今回の改正によって複数のM&Aを実施する場合、最初の株式など取得する際は取得価額の9割、2回目以降から準備金を全額損金算入することが可能になりました。

例えば株式などの取得に10億円がかかった場合、これまでは7億円分を準備金として積み立てて損金算入することになります。
改正後だと初回のM&Aなら9億円分、2回目以降であれば最大10億円を損金として算入することが可能です。

対象に中堅企業が追加

従来の制度では、中小企業だけが活用できる制度でしたが、今回の税制改正により中堅企業も活用できるようになりました。
中堅企業とは、中小企業を除いて常時使用の従業員数が2,000人以下の企業を指します。
これまで法的に明確な定義はありませんでしたが、2024年度の税制改正によって中堅企業の定義が位置づけられるようになりました。
中堅企業も利用できるようにすることで、M&Aの実施を促すことが目的と考えられます。

取得価額の要件が緩和

これまでの制度だと税制優遇を利用するためには、株式などの取得価額が10億円以下の取引きに限定されていました。
10億円までの株式取得に限定されていたことで使い勝手が悪くなっており、2021年度における利用件数はわずか20件しかありませんでした。
しかし、今回の税制改正によって1億円以上100億円以下と取得価額の要件が緩和されています。
100億円以下までが利用できるようになったことで、今後は多くのM&Aで利用される可能性が高いといえます。

納税までの期間が5年から10年に延長

積み立てた準備金は据置期間を経て均等に取り崩し、益金に算入していきます。この据置期間は5年と設定されていましたが、今回の税制により10年へと延長されました。
準備金が益金として算入されることになれば、その分納める税額も増えることになります。
5年から10年に延長されたことで、益金算入による納税までの猶予が伸び、安定した収益を構築した段階から納税できるというメリットがあります。
益金算入がはじまるまでに万全に準備をしておけば、益金算入によって税額が増えても経営を続けられるでしょう。

中小企業事業再編投資損失準備金でM&A費用を損金算入するには


実際に中小企業事業再編投資損失準備金を活用し、M&A費用を損金算入させるためには、どのような手順で行えば良いのでしょう。
ここからは、M&A費用を損金算入させるための方法について解説します。

経営力向上計画を策定・申請する

M&Aを行う相手方が決まったら、基本合意後のタイミングで経営力向上計画を策定します。
経営力向上計画とは、人材育成やコスト管理、設備投資など、自社の経営力を向上させるために立てる計画のことです。
経営力向上計画の策定・申請を行うことで「特定事業者等」の認定を受けられ、中小企業事業再編投資損失準備金だけでなく、様々な支援措置を受けられるようになります。

郵送で申請することも可能ですが、電子申請を行うのがおすすめです。
電子申請なら記入項目のエラーチェックや自動計算機能などを活用でき、審査の進捗状況なども確認できます。
なお、経済産業部局宛てのみの申請は、2022年4月から原則完全電子化に移行したため、電子申請で手続きを進めてください。

経営力向上計画を申請する際に、事業承継等事前調査チェックシートも添付してください。
チェックシートは、M&Aを実施するにあたり十分なデュー・デリジェンスが実施されているかを確認するための資料です。
また、チェックシートは経営力向上計画の申請時だけでなく、主務大臣にM&Aの報告確認書を発行する際にも添付することになります。

主務大臣から認定を受ける

経営力向上計画の策定・申請が完了したら、主務大臣の認定を受けるまで待ちます。認定されるまでの期間は電子申請で申請書に不備がなければ、休日を除き約14日間です。
ただし、複数の省庁にまたがる場合は約45日かかるので注意してください。

M&Aで株式取得後に確認書の交付を受ける

主務大臣からの認定を受けてからM&Aの最終合意に入り、認定計画に沿って株式を取得していきます。
株式の取得が完了したら、主務大臣に対してM&Aを実施したことと事前調査の内容などを報告し、税務申告までに確認書の交付を受けるようにしてください。

税務申告で損金算入を行う

中小企業事業再編投資損失準備金の要件をすべて満たしていることを確認し、税務申告で準備金積立額の損金算入を行います。
税務申告時には、経営力向上計画の認定書とM&A実施後に交付された確認書の写しを添付してください。

中小企業事業再編投資損失準備金の利用で注意すべきこと


中小企業事業再編投資損失準備金を利用する際に注意すべきポイントもあります。具体的にどのようなことに注意すれば良いのか、事前に把握してください。

免税制度ではないことを理解しておく

M&Aを実施した年度に全額損金算入することで、税額を軽減させることは可能ですが、据置期間後は収益として益金に算入されるため、その分税額が増えることになります。
つまり、一時期の軽減していた分をその後数年かけて納めていく形です。
このことから、中小企業事業再編投資損失準備金は免税制度ではないことを理解しておくことが大切です。
後に益金算入によって税額が増えることはわかっているため、そのための準備を怠らないようにしてください。

スケジュール調整が必須になる

中小企業事業再編投資損失準備金の制度を利用するためには、M&Aの準備を進めながら申請書やチェックシートの作成などを行う必要があります。
M&Aは基本的に相手方とも打ち合わせする機会が多く、スケジュールもかなり厳しい状況が続くケースも少なくありません。
そのような中で別途書類を作成するとなると、スケジュール調整は必須になるといえます。
また、中小企業事業再編投資損失準備金の適用期限は2026年度末(2027年3月31日)までとなっているため、それまでに申請手続きを完了させる必要があります。

要件に該当すると取り崩しになってしまう

取り崩しの要件に当てはまってしまうと、たとえ据置期間中であったとしても準備金の全額または相当分を取り崩して、益金に算入させなくてはなりません。
取り崩しになってしまう要件と益金算入の金額は以下のとおりです。

取り崩しの要件 益金算入の金額
経営力向上計画の認定が取り消された 全額
取得した株式を売却などで所有しなくなった 全額または相当分
株式を取得した法人が合併したことで、当該株式を合併法人に移転した 全額
取得した株式を発行していた法人が解散した 全額
株式を取得した法人が解散した 全額
株式の帳簿価額を減額した 相当分
株式を取得した法人が青色申告書の承認取り消し、または取り止めになった 全額
上記以外の理由で準備金を取り崩した 相当分

M&A費用の全額損金算入で事業承継の負担を軽減しよう!

2024年度の税制改正により、M&A費用の全額損金算入も可能になったことで税額の負担を軽減できます。
これまで税額負担の大きさからM&Aの実施を諦めていた方も、中小企業事業再編投資損失準備金を活用することでリスクを低減し、M&Aの実施後も事業拡大や雇用の確保が行いやすくなるでしょう。
今後事業承継などでM&Aの実施を検討している方も、ぜひ今回の記事を参考に活用できないか検討してみてください。


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