会社設立費用1円は非現実的?リスクや資本金を決めるポイントを解説
会社設立費用1円での起業にはリスクが多い!
会社を設立する際は資本金が必要です。創業時の資本金は会社ごとに異なり、最近は「1円起業」という言葉も注目されています。
少ない資本金でも会社を興すことは可能ですが、現実的に考えると1円での起業は多くのリスクが生じるので注意が必要です。
そこで今回は、会社設立費用1円で起業するメリット・デメリットや実際に設立にかかる費用、資本金を決めるポイントについて解説します。
会社設立時の資本金の設定に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
本当に1円でも会社を設立できる?
会社を設立したいのであれば、資本金について理解を深めておかなければなりません。また、資本金1円で本当に設立可能かについて解説します。
会社設立時に必要な資本金とは
資本金は、事業立ち上げの際に株主や投資家によって出資される資金のことです。
金融機関からの借入れとは異なり、調達した資本金は株主や投資家に返済する必要はありません。
事業展開のための元手となるお金なので、活用できる資本金が多いほどスムーズに事業を展開することが可能です。
創業時点では、多額の資金を出資してくれるような株主・投資家がいないケースがほとんどであり、創業者が自己資金を投じて資本金を確保するケースが多いです。
個人の資産から捻出することになるので、無理のない範囲で投じる必要があります。
最低1円からでも会社設立は可能
現行の法律では、最低1円の資本金でも会社設立は認められています。かつての商法では、株式会社の設立に最低でも1,000万円の資本金が必要と定められていました。
しかし、創業時点で1,000万円を確保するのは難しいため、最低資本金を満たさなくても会社が設立できる特例がありました。
特例適用の条件は、5年以内に最低資本金の金額まで資本金を増やすことです。ただし、5年以内に増やせなかった場合、立ち上げた会社を解散しなければなりません。
この制限が起業促進の妨げになっていました。
そこで、起業促進とベンチャー起業の育成を目的に2006年に社会法が改正され、最低資本金の概念がなくなったのです。
それにより、理論上は資本金1円でも会社設立が可能となりました。
会社設立費用1円で起業するメリット
1円の費用で会社を設立することは、創業者にとってメリットがあります。具体的なメリットは以下のとおりです。
容易に株式会社を設立できる
会社設立費用を1円にする大きなメリットは、起業しやすいことです。最低資本金が定められていた頃は、株式会社を設立するために1,000万円以上の資金調達が必要でした。
出資してくれる人がいない場合に、創業者自身で高額な資金を確保しなければならず、大きな負担がかかっていました。
資本金1円であれば、創業者は少ない負担で会社を立ち上げることが可能です。
会社と個人事業主だと前者のほうが社会的信頼を得やすく、融資や取引先の獲得などで有利になります。
会社設立がしやすくなることは、ビジネスの成長を加速させたい創業者にとって魅力的なメリットです。
一定期間は消費税が免除される
資本金1円で会社を設立した場合、消費税の納税義務が生じた際に一定期間は納税が免除されます。
消費税の納税義務が生じるのは、2年前の売上げが1,000万円以上超えている場合です。
ただし、会社設立当初は2年間の売上げが存在しないため、課税事業者に該当するかどうかは資本金で判断されます。
資本金が1,000万円以上であれば、設立1年目から課税事業者となってしまうということです。
反対に資本金1,000万円以下で設立すれば、初年度の利益が1,000万円以上になったとしても、その年は免税事業者と判断されます。
そのため、1円で会社を設立すると初年度に消費税の納税が不要となり、利益を増やすことが可能です。
2年目も原則納税は免除されますが、例外もあります。
1年目の前半期(事業年度開始から6カ月の期間)の売上げ、または給与支給額が1,000万円を超えている場合、2年目から消費税の納税義務が生じるので注意してください。
法人住民税の均等割を減らせる
法人住民税は、事業所のある地方自治体に支払う地方税で、法人税割と均等割で構成されています。
法人税割は、法人税額を基準に金額が算出されます。均等割は、資本金と従業員の人数に応じて税額が変動する仕組みです。
資本金が大きいほど、均等割の税額は大きくなります。資本金1,000万円以下が税額の下限となるので、1円での会社設立は均等割の減額につながるというわけです。
会社設立費用1円で起業するデメリット
1円で会社を設立することはメリットばかりではありません。デメリットもあるため、安易に1円で起業をすると大きなリスクを背負う可能性があります。
具体的なデメリットは以下のとおりです。
設立時点で借金を抱えるリスクがある
会社の運転資金や設備資金といった事業資金は、利益が財源となります。設立した段階で利益はないため、資本金や借入金から捻出しなければなりません。
ところが、資本金1円で事業資金を回すのは困難です。
金融機関から融資を受ける必要がありますが、利益が確定しない状況で借入れを行うことには返済が滞るリスクがあります。
経営者個人の資金で補充する手段もありますが、この場合も会社が経営者から借金をした状態です。
後から補充が必要であれば、初めから事業資金を回せるだけの資本金で設立したほうが効率的といえます。
また、資本金が極端に少ないと資金繰りが悪化した際に対応できない可能性があります。
例えば、取引先からの入金が行われる前に大きな支払いの期日が来た場合に資本金が足りなければ、ほかの方法で一時金を確保して返済しなければなりません。
融資や経営者の個人資産から補充するとなると会社の負債は大きくなり、経営が不安定になるリスクがあります。
社会的信頼を得られにくい
社会的な信頼を得られにくいことも、1円で会社を設立するデメリットです。
資本金は事業を展開していくための資金であり、どれだけの事業投資が可能なのか、資金力はどれだけあるのかを把握できます。
資本金が大きいほど資金に余裕があり安定した経営ができると考えられるため、社会的信頼に直結します。
反対に社会的信頼度が低いと、取引先に「債権の回収が困難になるのでは」という不安を与え、取引きの成約が難しくなる場合があるかもしれません。
自社のホームページに記載しなければ、資本金の金額はわからないと思われがちです。
しかし、実際は登記簿事項証明書の取得、または、インターネットから登記簿情報提供サービスを利用すれば誰でも確認できてしまうので、隠すことは難しいでしょう。
法人口座の開設や融資に支障が出る
社会的信頼を得られにくいため、法人口座の開設や融資にも影響が出る可能性があります。
法人口座や融資を行う金融機関からすれば、資本金1円での起業は十分な事業資金を確保できていないと捉えてしまうからです。
十分な資金がない状態で口座を開設してしまえば、詐欺やマネーロンダリングに使われるのではないかと危惧されてしまうこともあるかもしれません。
いつも以上に審査が慎重に行われ、結果的に開設を拒否されてしまう場合があります。
融資においても、事業資金の不足で資金繰りが悪化し借入金の返済が滞ることを懸念されます。
返済能力なしと判断されてしまえば融資を受けられません。資本金による社会的な信用力は金融機関にも影響が及ぶことを理解しておく必要があります。
事業を行うために必要な許認可を取得できない
業種によっては、行政から許可や免許証を得ないと事業は行えないものがあります。一定金額以上の資本金がないと許認可を取得できない事業もあるので注意してください。
例えば、一般建設業は「自己資金500万円以上」、特定建設業は「資本金2,000万円以上かつ自己資金4,000万円以上」という要件があります。
1円で会社を設立しても許可が下りないため、一般建設業と特定建設業で事業を開始することはできません。
従業員の雇用が難しくなる
1円での起業となると、経営基盤が安定していないイメージから、求人を出しても人材が集まらない可能性があります。
経営が不安定であるために、給与や残業代が支払われない、または福利厚生がほぼないといったイメージを求職者に与えてしまいがちです。
誰でも収入や待遇が良い、または経営が安定した会社に就きたいと考えています。
労働力を増やして事業を成長させていく計画があるとすれば、1円での会社設立は慎重になるべきでしょう。
実際に会社設立する際には様々な費用がかかる
会社自体は資本金1円の費用で設立できますが、実際にはそれ以上の費用がかかります。
会社設立時には登録免許税や定款の認証、法人の印鑑作成・証明書代といった費用がかかることを理解しておかなければなりません。
会社設立時の登録免許税
会社を設立する際に、法務局で商業登記をしなければならず、その際に登録免許税が発生します。
この登録免許税は資本金の0.7%分となっているので、資本金の金額によって変動するのが特徴です。
ただし、一定以下の資本金であれば、会社の種類によって以下の金額が登録免許税となります。
-
- 株式会社:資本金15万円未満は申請1件につき15万円
- 合同会社:資本金6万円は申請1件につき6万円
このように、最低でも6万円または15万円の登録免許税を用意する必要があります。
なお、合名会社・合資会社の登録免許税は固定となっており、申請1件につき6万円です。
会社設立時の定款認証にかかる費用
定款とは、会社の基本情報や規則などが記された書類です。
株式会社を設立する際に、公証人(本社の所在地がある都道府県内の公証役場)で認証を受けた上で法務局に提出しなければなりません。
認定を行う理由は、定款の内容の正当性を公的に証明するためです。公証人による定款認証を行う際に、以下の手数料と収入印紙代が発生します。
株式会社 | 合同・合名・合資会社 | |
定款認証手数料 | 100万円未満:3万円 ~300万円未満:4万円 300万円以上:5万円 |
0円 |
定款謄本手数料 | 2,000円 | 0円 |
定款収入印紙代 | 4万円 | 4万円 |
株式会社の場合、定款認証手数料は資本金によって変動し、最低金額は3万円です。
謄本手数料や収入印紙代を含めると、株式会社の定款認証には最低でも合計72,000円が必要になります。
なお、収入印紙が必要になるのは紙で定款を作成したケースであり、電子定款であれば不要であるためコストカットできます。
合同会社や合名会社、合資会社は原則定款の認証が不要であるため、手数料がかかりません。
しかし、定款が紙であれば収入印紙を貼り付ける必要があるので、最低でも4万円は必要です。
法人の印鑑作成・印鑑証明書代
会社の設立に合わせて、法人口座の開設や契約などの際に使用する印鑑の作成が必要です。設立時に作成する主な印鑑は以下のとおりです。
会社実印(代表者印) | 外枠に社名や内枠に役職名が記載された、登記や契約などで使用する会社の実印 |
銀行印 | 法人口座の開設や銀行関連の手続きで使用する印鑑 |
角印 | 社外文書や社内文書に用いる会社の認印 |
ゴム印 | 社名や住所、電話番号などを記載した印鑑 |
印鑑は、素材や大きさなどによって費用が異なります。角印やゴム印は日常業務で使う機会が多いため、使用する人数によっては作る数を増やさなければなりません。
資本金を決める時のポイント
1円での会社設立はリスクが大きいため、しっかり資金を確保した上で起業するのがおすすめです。
どれだけの資本金が必要になるのかは人によって異なるため、資本金を決める際のポイントをご紹介します。
節税に考慮するなら1,000万円未満に抑える
税金の負担を抑えたいのであれば、資本金は1,000万円以下にするのがおすすめです。
前述したとおり、会社設立時に資本金が1,000万円以上あると初年度から消費税の納税義務が発生します。
消費税の免税を受けたいのであれば、資本金を少なくしなければなりません。
さらに、法人住民税の均等割は資本金によって変動します。均等割の下限が1,000万円未満となっているため、資本金を少なくすることで法人住民税の負担も軽減することが可能です。
初期費用と運転資金を把握する
資本金を決めるにあたり、まずは初期費用と運転資金がいくら必要なのか把握が必要です。具体的に把握しておきたい費用例は以下のとおりです。
-
- 会社設立の登記や定款認証にかかる費用
- 店舗や事務所の契約費用・賃料
- 設備の購入費
- 事業開始後の仕入費用
- 役員報酬や従業員の給与 など
上記の費用を把握しないまま資本金を設定すると、事業を展開できなかったり資金繰りが悪化したりする可能性が高まります。
また、利益の有無に関係なく経費が発生するため、資本金が少ないと運転資金がすぐに底をついてしまうかもしれません。
資本金は初期費用や運転資金を把握した上で、利益が少なくても3カ月~半年は運転できるだけの資金を見積もっておくことが大切です。
許認可が必要な業種は最低資本金を確認する
行政からの許認可が必要な業種では、取得要件をよく確認してください。先に述べたとおり、一部業種の許認可取得の要件には資本金が含まれています。
ほかの要件を満たしていても、資本金が不足していれば事業の許可が下りません。
業種ごとに最低でも必要となる資本金の金額は異なるため、許認可を行う行政のホームページや問い合わせて確認してください。
社会的信頼を得たいなら100万円以上にする
創業時は創業者の資金から資本金を捻出することが多く、個人の生活を圧迫しない範囲で投じる必要があります。
しかし、極端に少ない資金だと取引先や金融機関から信頼を得られないかもしれません。
取引先や金融機関との信用に考慮するのであれば、資本金は100万円以上にするのがおすすめです。
妥当な金額は事業内容や会社の規模などにもよりますが、少なくとも100万円以上の資本金があれば、取引先や金融機関も一定の企業体力があると判断してくれる傾向にあります。
まとめ
理論上1円からでも会社設立は可能ですが、実際に起業する際は様々な費用がかかるため現実的ではありません。
極端に資本金が少ないことにはリスクがあり、膨大な借金を抱えたり、倒産したりする可能性もあります。
リスクを抑えて起業を成功させるためにも、資産にはある程度余裕を持たせることが大切です。
初期費用や開業後の運転資金に基づいて、自分の会社に適した資本金を確保した上で会社設立を目指してください。
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(編集:創業手帳編集部)