J-ABS:一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 友成晋也|野球でアフリカにスポーツマンシップと平和を!
アフリカで求められる「規律、尊重、正義」を野球を通じて育む!
アフリカで若者たちに「規律、尊重、正義」などのスポーツマンシップを育み、野球とソフトボールを普及させる活動を行っているのがJ-ABSです。
アフリカで野球の活動を始めて25年の信頼と独自のネットワークを強みに、日本企業のSDGs支援やアフリカ進出のサポートも行っています。
アフリカの現状や野球を普及させることによる変化について、創業手帳代表の大久保が聞きました。
一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事
1964年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。大学卒業後、リクルートコスモス社を経て、独立行政法人国際協力機構(JICA)に転職し、約30年勤務。JICAガーナ事務所に赴任時には、仕事の傍らガーナのナショナル野球チームの代表監督に就任。2020年にJICAを早期退職し、一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構(J-ABS)の代表理事として、日本とアフリカの橋渡しをしながら、アフリカで野球を通じた様々な活動を行う。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
アフリカの現状
大久保:まずは活動内容から教えて頂けますでしょうか?
友成:私は、アフリカ全土への野球の普及を通じて、アフリカにおける人材育成と平和の実現に貢献したいと考えています。
まずアフリカの現状についてお伝えします。
一般的にアフリカと聞くと、貧困、難民、食糧危機などの社会課題ばかりが注目されがちですが、実際はITイノベーションや資源開発、人口増加などに象徴されるように、ものすごい勢いで経済成長が進んでいます。
このような背景もあり、近年のアフリカでは中間購買層の増加率も多く、ブルーオーシャンな市場も多いため、日本企業にも大きなビジネスチャンスがあります。
しかし、今まで日本企業がアジアや欧米に進出してきた際に培ったノウハウは、アフリカでは通用しないケースが多く見られ、多くの日本企業がアフリカ進出に苦戦しています。
アフリカ進出の最大のハードルは、アフリカの国々にそれぞれある「不文律、目に見えないネットワーク、掟」などのアフリカ特有の商習慣やルールの存在です。
これに適応するには、アフリカに長年かかわりを持ち、アフリカの文化、社会背景などを理解する必要があります。
なぜアフリカに野球を広めるのか?原体験はガーナの少年のある言葉。
大久保:友成さんの野球とアフリカの関係性を教えて頂けますか?
友成:私は、小、中、高、大学とずっと野球を続けてきました。
アフリカとの縁は、JICAで働き始めたことがきっかけです。
JICAに約30年間勤め、その間アフリカとの強い繋がりができました。
アフリカ3か国、ガーナ、タンザニア、南スーダン共和国に合計8年半駐在したのです。
私が初めてアフリカに勤務したのは、1996年から3年間、西アフリカのガーナでした。
当時のガーナには野球チームがすでにありましたが、指導者が不在の状態だったのです。
そこで、日本から来た野球の経験がある私に白羽の矢が立ち、ガーナに行って間もなく、ナショナルチームの監督を任されることになりました。
ガーナでは、3年ほど代表チームの監督をしながら、野球の普及活動も続けました。
ガーナ離任前には、少年野球大会が開催されるほど野球が広まったのです。
その少年野球大会に参加していたある少年に「野球楽しい?」と尋ねてみると、「バッターボックスが好きだ」と答えたのです。
その理由を訊ねると、「バッターボックスは、公平に順番に回ってきて、誰でもヒーローになれるチャンスがある。野球は民主的だから好きなんだ」というのです。
野球は民主的なスポーツであることを、この少年が教えてくれたのです。
私は、アフリカにこそ野球が必要で、野球を広めることで、アフリカに民主主義の大切さを広める可能性があることを確信しました。
本格的に野球によるアフリカ支援を開始。タンザニアでの新たな挑戦。
友成:私は、ガーナから帰国後、2003年に「NPO法人アフリカ野球友の会」を設立しました。アフリカ野球友の会は、JICA職員と兼任しながら、約18年間で8カ国で活動を行ってきました。
ガーナに続くアフリカ赴任は、2012年のタンザニアでした。
タンザニアでも野球を広める活動をしたいと思ったのですが、当時のタンザニアには野球が全くなかったのです。
ガーナでは、ガーナ人の方から野球を教えて欲しいと要望があり指導を始めました。
しかし、野球のないタンザニアでは、そもそも野球の存在さえないので、野球のニーズそのものがありませんでした。
そこで、まずは青少年への教育という側面からアプローチをしてみることにしました。
タンザニアは、若者人口が毎年増加する一方、学校数や教員数が追い付かず、体育、音楽、美術といった情操教育がおろそかになっているという現実があります。いわゆる人間教育のようなものを育む機会が少ないのです。
そこで「規律、尊重、正義」を育むことができるスポーツとして学校と協力しながら部活動の位置づけで野球を教え始めました。
すると、野球を始めた子ども達が目に見えるような人間的な成長とともに、学業成績まで向上するようになりました。
この成果にタンザニアの教育関係者の方々が感激し、他の学校からも次々と「野球クラブを作ってほしい」と依頼が来るようになったのです。
タンザニア駐在から離任する頃には、タンザニア甲子園大会という野球の全国大会が開かれるまでに、野球が普及しました。
野球がアフリカに平和を導く。南スーダンで得た確信。
友成:タンザニアの次にアフリカに赴任したのは南スーダンです。
南スーダンは半世紀ほど内戦が続いていた国で、まだまだ危険な地域が多いです。
私は首都ジュバ市に駐在し、市内で安全な場所を探して、南スーダンでも野球の指導を始めました。
タンザニアで行ったように、南スーダンでも「規律、尊重、正義」などのスポーツマンシップを子ども達に教えました。
南スーダンでは、異なる民族同士の内戦が長年続いていました。
しかし、野球による子ども達の成長に感激した大人達が集まり、野球を通じた教育で南スーダンを平和にしようと、異なる民族間の大人達が一致団結し、野球連盟を立ち上げたのです。
この南スーダンでの経験から、野球は子ども達の教育だけでなく、平和をも作る力があることを確信しました。驚かされました。
ガーナ、タンザニア、南スーダンでの野球活動を通じて、野球には3つの力があると気づきました。
①:民主主義を広めるチカラ。
②:人づくりのチカラ。
③:平和を創るチカラ。
この3つのチカラを持つ野球こそ、今のアフリカに必要なスポーツだと確信しました。
JICAを退職し、J-ABSを設立
ここからアフリカで野球をもっと広めていこうと決意し、アフリカ野球友の会を解散することにしました。
そして、より事業を拡大し、持続性を高めるために、友の会の事業継承団体として、一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構(通称:J-ABS)を新たに立ち上げました。
しかし、創業早々、コロナ禍に見舞われたのです。
想定していた事業化が図れず、そもそもアフリカにも行けず、事業が全く進まなくなりました。
このピンチをチャンスに変えるには、全身全霊でこの難局に立ち向かうしかないと決意し、JICAを早期退職し、J-ABSに専念することにしたのです。
このような経緯で設立したJ-ABSの主軸事業は、「ドリームパートナー事業」です。
日本企業とドリームパートナー契約を締結し、その企業のパートナーとして、SDGsや宣伝広告、アフリカでのビジネスの拡大に貢献するという内容です。
J-ABSはアフリカ25カ国と繋がるネットワークがあり、アフリカ進出を狙う日本企業とアフリカの架け橋としての役割を担います。
J-ABSが持つ具体的なネットワークとは、アフリカ各国の野球経験者や、20カ国以上の野球連盟の関係者の方々、アフリカ25か国にあるJICA事務所の繋がり、アフリカ政財官の方々や、部族や民族間にある特有の繋がりも含みます。
これにより、一時的な市場調査では得られない現地に根ざした情報を提供できたり、信頼できる現地パートナーを紹介できたりと、日本企業がアフリカ進出をする上で必要なサポートをご提供しています。
また、企業のSDGsの取り組み支援として、J-ABSの活動に提携企業にも参加して頂いたり、企業で集めた野球道具をアフリカの野球チームに寄贈することもできます。
急成長を続けるアフリカのポテンシャルとは?
大久保:アフリカが持つポテンシャルについて教えてください。
友成:アフリカには多くの可能性が満ちていますが、特に、この10年間で中間購買層の厚みが増しているのを実感しています。
少子高齢化や人口減少が加速し、30年後には日本の人口は9,000万人台になると予想されています。この内、4割が高齢者です。
一方で、アフリカ全体の人口は現在12億人、30年後には25億人になると予想されています。現在のアフリカは中位年齢も19歳と非常に若いです。
また、一般的にアフリカでビジネスというと、BOP(貧困層)向けのビジネスがイメージされますが、最近はこの中間購買層をターゲットしたビジネスチャンスも拡大しています。
実際に、私がタンザニアに赴任した2012年の大型スーパーマーケットの客層は、欧米人や東アジア人が中心でしたが、今では現地のアフリカ人が目に見えて増えています。
他にも、ITイノベーションが急速に進んでいますし、技術力が向上したことにより、資源の採掘量も増え、一次産業も盛り上がっています。
野球により相手を思いやる気持ちを育む
大久保:多くの日本人はアフリカに対して、「感染症の流行」や「治安の悪さ」という怖いイメージを持っているかもしれませんが、実際はどうでしょうか?
友成:「感染症の流行」や「治安の悪さ」は今もなお、アフリカの社会課題ではありますが、だからこそアフリカには野球が必要だと考えています。
「感染症が流行したらマスクをする」や「交通ルールを守る」などは、日本では、他人に迷惑をかけない、という暗黙の社会ルールのようなものだと思います。
こうした社会性を、野球によって育んでいけると考えています。
野球にはたくさんのルールがありますし、そのルールを守って初めて試合が成立します。
キャッチボールをするにしても、相手が取りやすいボールを投げる心掛けが必要です。
暴投したボールを取りに行ってあげる。
そこに「ごめんなさい」「ありがとう」「どんまい!」といったコミュニケーションが生まれる。
このように野球を通じて社会性を若者たちに育むことが、アフリカの未来を変える原動力になると考えています。
大久保:アフリカの方々もルールを破るという感覚ではなく、ルールを守るということを知らない人が多いのですね。日本人が当たり前だと思っている病気や交通ルールなどの基礎知識が不足しているイメージでしょうか?
友成:アフリカでは、毎年増え続けている子ども数に比べて、校舎と先生の数が追いついていません。そのため、午前と午後の2部制で教育が実施されているところも多いです。
この限られた時間内で最低限の教育を進めようとすると、どうしても国語、数学、理科、社会などの主要科目が中心になり、体育や音楽などは省略されてしまいます。
しかし、実際の学校教育は、受験勉強だけでなく、体育で他の生徒と交流したり、クラスメイトと一緒に歌ったりする過程で、育まれることも多くあるはずです。
今のアフリカでの教育には、勉強以外の部分が足りていません。
校舎も先生も足りない状況で、いきなり体育の授業を入れるのは困難ですが、学校の課外活動としての野球クラブを作ることはできます。
野球を通じて、不足している情操教育の部分を補っていくことが、J-ABSの社会貢献の形です。
貧富の差に関係なく、打順は平等に回ってくる
大久保:冒頭で「野球は民主的だから楽しい」と言っている少年のお話がありましたが、アフリカには民主主義の国家がまだ少ないということでしょうか?
友成:国家が民主主義かどうかというよりも、貧富の差が激しいという意味で、不平等な場面が多くあると思います。
お金がある家庭の子どもは、学校で教育も受けられますし、病院で医療も受けられます。
一方で、貧しい家庭の子どもは労働力にならないといけないので、学校にも行けませんし、病院で十分な医療も受けられないのが現実です。
しかし、野球であれば裕福でも貧しくても、バッターボックスに立つ順番は平等に回って来ます。
打順が来た選手には、誰でもヒットを打つチャンスがあります。
さらに、打席に立てば、誰でもみんなから応援されます。
この「平等さ」の価値を気づかせてくれるのが野球というスポーツなのだと思います。
大久保:一般的なイメージでは、アフリカと言えばサッカーだと思いますが、あえて野球をする理由はありますか?
友成:ある一定以上のレベルのサッカーチームは別として、子どもたちがするサッカーでは、下手な人にはパスは回ってきません。しかし、野球では違います。
野球は1つずつの動作の間に、少し時間が空く「緩急のあるスポーツ」です。
その間の時間に、全ての参加者が「考える時間」を持てます。
「考えて、備えて、確認して、立ち向かう」この流れを試合中にチームメイトと何度も繰り返すことで、チームワークを育めるのです。
大久保:最終的には、プロ野球選手の輩出やプロリーグの創設なども視野に入れていますか?
友成:やはり野球を普及させるためには、アフリカ初のスター選手の存在は必要だと思います。
大谷翔平選手が大リーグで活躍して、日本でも野球への関心が高まっているように、アフリカでも日本やアメリカのプロ球団に所属し、活躍する選手が登場してほしいと願っています。
私たちの目的は、あくまでも野球を通じた人材育成ですが、アフリカで野球の普及活動を続けていると、いつか実現するかもしれません。
実は先日、初めてウガンダから2名の選手が、ロサンゼルスドジャースに育成選手として入団しました。
ウガンダの野球の歴史は25年ほどと長くはないのですが、ようやくそのような選手も出てきました。
この2選手はドジャースがウガンダに作ったベースボールアカデミーの卒業生です。
松井秀喜さんと協力の元、アフリカに野球を普及させる活動を続ける
大久保:松井秀喜さんがJ-ABSのドリームパートナーになるまで、どのような経緯がありましたか?
友成:松井さんに協力を依頼しようとしたら、周りからは絶対に無理だと言われました。
しかし、私は松井さんこそがJ-ABSの活動目的の象徴のような方なので、何とか実現したいと考えました。
松井さんに関連する本を28冊読んだり、生い立ちを肌で感じるために出身地や出身校を視察しました。
このように徹底的に下準備を行い、松井さんの気持ちになって提案資料を作ったところ、松井さんに共感して頂け、実際にお会いできることになりました。
大久保:J-ABSが活動を続けるために、今後どんなことが必要になりますか?
友成:J-ABSと契約して頂けるドリームパートナーを増やすことが必要です。活動資金があれば、アフリカでの活動地域が増えていきます。
パートナーになって頂ける企業の方々にとっては、アフリカへの支援というSDGsの側面もありますが、アフリカ進出を前進させる現地調査やパートナーの紹介という側面でもご協力させて頂きます。
今後アフリカ進出を計画している企業とは、良い協力関係が築けると思います。
ドリームパートナーとして、アフリカに野球を普及させる活動を行いながら、ビジネス面でも、アフリカを一緒に盛り上げていける企業を募集しています。
(取材協力:
一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事 友成晋也)
(編集: 創業手帳編集部)