【税理士監修】インボイス制度をわかりやすく解説!免税事業者・課税事業者どっちをとる?

創業手帳

免税事業者が取れる3つの選択肢と免税事業者のまま・課税事業者になるメリット・デメリットについて解説


インボイス制度が開始されると免税事業者は売上高や取引先の減少といった悪影響を被る可能性があります。

なぜなら、課税事業者が仕入税額控除を利用するために必要な適格請求書の交付が、免税事業者にはできないためです。

本記事では課税事業者・免税事業者とは何か免税事業者は課税事業者になれるのかについて解説していきます。

また、免税事業者のままでいるメリット・デメリット、課税事業者になるメリット・デメリットについても解説していますので、免税事業者の方が今後の対応を検討する際に参考にしてください。

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芳賀 保則(はが・やすのり)
経営革新等支援機関 税理士法人ハガックス 代表社員
1970年生まれ、渋谷区で生まれ育つ。東京大学大学院卒業後、東京ガス勤務を経て、税理士法人ハガックス(渋谷区、税理士4名・スタッフ合計14名)の代表社員に。
中小企業大学校にて経営改善計画策定支援研修の講師及び試験評価委員を務める。主な著書は『現場で使える創業相談の手引き』。趣味はゴルフ、ジム、輪ゴムでハエを落とすこと。

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免税事業者と課税事業者とは


インボイス制度開始後に事業者が仕入税額控除を利用するには適格請求書発行事業者から交付された適格請求書を保存していなければなりません。

適格請求書を交付するには適格請求書を交付できる登録事業者として登録している必要があります。

この登録事業者になれるのは課税事業者のみであり、免税事業者のままでは適格請求書を交付することはできないのです。

この章では免税事業者・課税事業者とはどのような事業者であるのかみていきましょう。

免税事業者とは

免税事業者とは消費税の納税義務が免除されている事業者のことです。

多くの個人事業主やフリーランスの方はこの免税事業者に該当するのではないでしょうか。

免税事業者になるには

  • 基準期間における課税売上高が1,000万円以下

に該当していなければなりません。

「基準期間における課税売上高が1,000万円以下」の基準期間とは、個人事業主の場合は前々年の課税売上高、法人の場合は前々事業年度の課税売上高のことを指します

つまり2年前の課税売上高のことです。

「設立1期目及び2期目」の法人には2年前の課税売上高が存在しませんので、原則的に免税事業者となります。

なお、基準期間における課税売上高が1,000万円以下でも特定期間における課税売上高が1000万円を超え、かつ、特定期間中に支払った給与等の金額が1,000万円を超えると免税事業者ではなくなります。

特定期間とは個人事業者の場合はその年の前年の1月1日から6月30日まで、法人の場合は原則的にその事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月間を指します。

基準期間における課税売上高が1,000万円以下の場合でも、特定期間における課税売上高が1000万円を超え、かつ、特定期間中に支払った給与等の金額が1,000万円を超えた場合にはその翌課税期間から課税事業者となるので注意が必要です。

免税事業者は消費税を納税する義務がないため、課税事業者に比べて消費税の納税は得をしているといえます。

しかし、免税事業者のままではインボイス制度において重要な適格請求書を発行することはできません

課税事業者とは

課税事業者とは消費税の納税義務がある事業者のことです。課税事業者になると毎年消費税を納めなければならなくなります。

下記のどれかに該当する事業者は課税事業者に該当します。

  • 基準期間における課税売上高が1,000万円以上
  • 特定期間における課税売上高が1000万円を超え、かつ、特定期間中に支払った給与等の金額が1,000万円を超えた場合
  • 事業年度の開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である新設法人や特定新規設立法人

課税事業者は2023年10月1日から開始されるインボイス制度において適格請求書発行事業者に登録できます。

適格請求書発行事業者が交付した適格請求書を保存していることが、インボイス制度開始後に仕入税額控除を受ける要件の一つになっています。

そもそも、免税事業者が課税事業者になることは可能なのか?


免税事業者が課税事業者になることは可能です。

ここからは基準期間における課税売上高が1,000万円を超えてしまい課税事業者にならざるを得ない場合と、基準期間における課税売上高は1,000万円以下だがあえて課税事業者になりたい場合の2つのケースに分けてご紹介します。

基準期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合

基準期間における課税売上高が1,000万円を超え免税事業者の条件から外れてしまった事業者は、課税事業者にならなければなりません。

この場合には課税売上高が1,000万円を超えた事業年度の2年後から消費税の課税事業者となり納税が始まります。

課税売上高が1,000万円を超えたら速やかに『消費税課税事業者届出書(基準期間用)』を所轄税務署に提出しましょう。

尚、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合にも届出書の提出を行う必要があります。

その場合は『消費税課税事業者届出書(特定期間用)』を利用します。

基準期間における課税売上高が1,000万円を超えていない場合

基準期間における課税売上高が1,000万円を超えていない事業者でも、自らの意志によって課税事業者になることを選択できます。

免税事業者の方が課税事業者になることを選ぶ場合には『消費税課税事業者選択届出書』を記入の上、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに納税地を所轄する税務署長へ提出する必要があります。

インボイス制度のためにあえて課税事業者になりたい場合には、こちらの方法が利用できます。

尚、『消費税課税事業者選択届出書』を提出してから2年間は免税事業者に戻ることができませんので、その点留意が必要です。

免税事業者でいることのメリット・デメリット


インボイス制度が始まると免税事業者のままでは適格請求書が発行できません

そのことは事業者にどのような影響をもたらすのでしょうか?

ここからはインボイス制度開始後に免税事業者でいるとどのようなメリット・デメリットがあるのか解説します。

免税事業者でいることのメリット

    消費税を納税しなくてよい

インボイス制度開始後も免税事業者のままでいるメリットは、消費税の納税をしなくてよいことです。

課税事業者となると今まで納税を行っていなかった消費税の納税をしなけばなりませんが、免税事業者のままであればその必要はありません。

免税事業者でいることのデメリット

    取引先が減る可能性がある
    値引きを要請される可能性がある
    売上が減る可能性がある

インボイス制度が開始されると仕入税額控除に適格請求書の保存が必要になってきます。

しかし、この適格請求書を交付できるのは登録事業者となった課税事業者のみです。

免税事業者のままでは適格請求書を交付できません。

例えば、免税事業者に税込110円で仕事を依頼する場合と、適格請求書発行事業者である課税事業者に税込110円で仕事をする場合を比較すると、後者の場合のみ仕入税額控除により10円消費税の納税を少なくできます。

そのため、免税事業者のままでいる場合には、取引先から税込金額において消費税相当分の10円の値引き要請があったり、取引を控えられたりする可能性が考えられます。

取引が控えられると結果的に取引先と売上も減少します。

課税事業者になることのメリット・デメリット


インボイス制度開始後に免税事業者でいるとどのようなメリット・デメリットがあるのか解説します。

課税事業者になることのメリット

    適格請求書の交付ができる

インボイス制度開始後に課税事業者になると、適格請求書を交付できる適格請求書発行事業者になれます。

適格請求書は適格請求書発行事業者として登録した事業者しか交付することができず、仕入税額控除を利用したい企業はこの適格請求書発行事業者が交付した適格請求書を保存していなければなりません。

適格請求書が発行できなければ、仕入税額控除を利用したい企業から取引を見送られる可能性があります。

そのため、適格請求書を発行できることはメリットとなるでしょう。

課税事業者になることのデメリット

    消費税を納税しなければならない
    申告手続きの手間が増える
    適格請求書に合わせて請求書のフォーマットを変更しなければならない

課税事業者になることの一番のデメリットは消費税を納税しなくてはならないことです。

今まで納付を免除され手元に残っていたお金を納付しなくてはならないため、手取り額が減少します。

消費税を納税するには申告を行う必要があります。申告書の作成や納付額算出のための数値の集計など、今まで掛かっていなかった手間が増えることになるでしょう。

また、課税事業者になり適格請求書発行事業者への登録を済ませた事業者は適格請求書を交付できます。

この適格請求書は今までの請求書とは記載事項が異なっているため、適格請求書の交付を始める前に請求書フォーマットなどの変更を余儀なくされるでしょう。

免税事業者が今後検討すべき選択肢


2023年10月1日のインボイス制度開始に向けて、免税事業者には3つの選択肢があります。このうちどれを選択するべきか、制度開始までに考えていきましょう。

1.免税事業者のまま現状を維持する

インボイス制度が始まっても免税事業者のまま現状維持を続けることができます。

何も対応をしていないからといって、法律で罰則を受けることはありません。

そのため売上・取引先の減少というリスクを飲み込める場合は現状維持を選択することも一つの選択肢です。

また、インボイス制度が始まっても影響の受けない事業を行っている場合も免税事業者のまま現状維持を選ぶことができます。

それには下記の3つケースが該当します。

    適格請求書の交付義務が免除されている場合
    取引相手の大半が一般消費者などの場合
    他に代えられない商品・サービスなどを提供している場合

一つ目の適格請求書の交付義務が免除されている場合には、下記のケースが含まれています。

出荷者等が卸売市場において行う生鮮食品等の譲渡
生産者が漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の譲渡
自動サービス機により行われる課税資産の譲渡等
引用:適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-|国税庁

これらの事業を行っている事業者は適格請求書の交付義務が免除されているため、適格請求書を交付できない免税事業者のままでも取引相手に支障を与えることはありません。

続いて二つ目です。

取引相手の大半が一般消費者などであり、仕入税額控除の要件となる適格請求書の交付が必要とされない場合、適格請求書の交付を求められることはないでしょう。

免税事業者は仕入税額控除を行う必要がないため、適格請求書ではない請求書のまま取引を続けられます。

最後の他に代えられない商品・サービスなどを提供している場合とは、自分が提供している商品やサービスに代替品がなく、例え取引相手が仕入税額控除を受けられないというデメリットを被ったとしても取引を続けてもらえる場合が該当します。

専門的な技術を持っていたり唯一無二の商品を販売していたりして「その事業者との取引を止めることができない」と取引相手が判断してくれる場合には現状のまま免税事業者を続けられるでしょう。

2.免税事業者のままで値下げに対応する

インボイス制度で免税事業者が課税事業者に比べて不利になる点は仕入税額控除に関してです。

免税事業者と取引をした課税事業者は、その取引に関して仕入税額控除を利用できません。そのため、免税事業者との取引を敬遠する課税事業者も出てくるでしょう。

それと同時に、免税事業者に消費税分の実質値引きを要求する課税事業者も出てくると推察されます。

値引きに応じても生活に支障がでないのであれば、免税事業者のまま値引き対応をし課税事業者と取引を行う選択肢もあるでしょう。

またその際、制度開始当初の経過措置に着目し、経過措置に対応する分の値引きにのみ応じるという交渉の余地が残ります。

取引先の側では、インボイス制度導入から一定期間は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。

令和5年10月1日から令和8年9月30日まで仕入税額相当額の80%、令和8年10月1日から令和11年9月30日まで仕入税額相当額の50%が控除できるという経過措置です。

しかし、値下げ対応には取引相手の同意が必要になります。

免税事業者と取引を行うと、納付税額の算出のために取引相手は免税事業者に対する売上高と課税事業者に対する売上高を分けて集計を行う必要が出てきます。

つまり、課税事業者だけと取引をしている場合に比べて、経理処理が煩雑になってしまうのです。

そのため例え値引き対応をしても、課税事業者との仕事の取り合いに負けてしまう可能性があります。

3.課税事業者となり適格請求書発行事業者となる

課税事業者になると適格請求書発行事業者に登録できます。

その場合、取引相手は仕入税額控除を利用できるため、取引を敬遠される可能性はなくなるでしょう。

このケースのデメリットは、納税額が発生することと、納税に伴う事務処理負担が増えることです。

今まで免税事業者は消費税の納付が免除されていたため、納付が発生するとその分手元に残るお金は減少します。

また、今まで行っていなかった消費税の納付額を算出する作業が発生します。

原則的には消費税の納税額は仮受消費税ー仮払消費税で算出します。

基準期間における課税売上高が5,000万円以下の場合には算出を簡略化できる簡易課税制度が利用できますので、該当者はこちらの利用を検討してみましょう。

まとめ

インボイス制度開始後に事業者が仕入税額控除を利用するには適格請求書を保存していなければならず、またこの適格請求書を交付できるのは課税事業者のみです。

免税事業者のままでは適格請求書は交付できません。

免税事業者・課税事業者とはこのような事業者を指します。

<ココ重要!>免税事業者と課税事業者
  • 免税事業者:消費税の納付を免除されている事業者
  • 課税事業者:消費税の納付義務がある事業者

免税事業者になるには
基準期間における課税売上高が1,000万円以下
に該当していなければなりません。

また、下記のどれかに該当する事業者は課税事業者に該当します。

<ココ重要!>課税事業者に該当するのは
  • 基準期間における課税売上高が1,000万円以上
  • 特定期間における課税売上高が1000万円を超え、かつ給与等が1000万円を超える場合
  • 事業年度の開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である新設法人や特定新規設立法人

インボイス制度に対応するために、免税事業者があえて課税事業者になることもできます。その際には下記メリット・デメリットを考慮の上検討を行いましょう。

<ココ重要!>免税事業者と課税事業者のメリット・デメリット
  • 【免税事業者でいることのメリット】
  • 消費税を納税しなくてよい

  • 【免税事業者でいることのデメリット】
  • 取引先が減る可能性がある
    売上が減る可能性がある

  • 【課税事業者になることのメリット】
  • 適格請求書の交付ができる

  • 【課税事業者になることのデメリット】
  • 消費税を納税しなければならない
    申告手続きの手間が増える
    適格請求書に合わせて請求書のフォーマットを変更しなければならない

インボイス制度は免税事業者に影響があることがわかりました。

それを鑑みて、免税事業者が取れる選択肢には下記3つがあります。

<ココ重要!>免税事業者の今後の選択肢
  • 免税事業者のまま現状を維持する
  • 免税事業者のままで値下げに対応する
  • 課税事業者となり適格請求書発行事業者となる

現在免税事業者として活動している個人事業主・フリーランスの方は2023年10月1日のインボイス制度開始に向けて対策の検討を進めていきましょう。

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(監修: 税理士法人ハガックス/代表社員 芳賀 保則
(編集: 創業手帳編集部)

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