インボイス制度後の確定申告のやり方|変更点や消費税の計算など個人事業主・法人向け
インボイス制度で消費税の確定申告はどう変わる?個人・中小企業向けにやり方や変更点、注意点などを解説
インボイス制度の開始により、インボイス発行事業者として登録した課税事業者は消費税の確定申告が必要になります。
なかでもインボイス登録をしたばかりの個人事業主・中小企業者は、これまでの確定申告の方法とは異なる点を把握しなくてはなりません。
そこで本記事では、インボイス制度によって確定申告がどう変わるのかや、具体的なやり方などについて、まとめてご説明します。ぜひ参考にしてみてください。
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この記事の目次
インボイス制度で確定申告のやり方が変わるのは?
インボイス制度が始まったことで、確定申告のやり方にはどんな変化があるのでしょうか。
実は課税事業者になったタイミングにより、影響が変わってきます。
「制度を機に免税事業者から課税事業者になった」、あるいは「制度前から課税事業者だった」かのどちらであるかがポイントです。
インボイス制度から新たに課税事業者になった事業者
確定申告で変更点があるのは、インボイス制度の開始によって適格請求書(インボイス)発行事業者に登録し、新たに課税事業者となった者です。この場合、消費税の確定申告が原則として必須になります。
従来、消費税の課税事業者となるのは、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える会社や個人だけでした。しかし、インボイスの発行事業者として登録をすると、課税売上高にかかわらず必ず消費税の課税事業者となります。
インボイス登録をした個人事業主・中小企業は、いつもやっている所得税の確定申告に加えて、消費税の確定申告が必要です。
一般課税方式を使っている事業者
制度前から課税事業者で、消費税の計算に一般課税(本則課税、原則課税)方式を用いていれば、インボイス導入にあたって仕入税額控除の特例措置が使えます。
特例措置の内容は以下のとおりです。
特例措置 | 概要 | 期間 |
---|---|---|
免税事業者等からの仕入れに係る経過措置 | 免税事業者との取り引きにおいて、期間ごとに50~80%の仕入税額控除を適用できる | 2029年9月30日まで |
少額特例 | 税込1万円未満の課税仕入れについて、一定要件を満たせばインボイスの保存なしに仕入税額控除を適用できる | 2029年9月30日まで |
少額特例の対象者は、基準期間の課税売上が1億円以下、または特定期間の課税売上が5,000万円以下の事業者のみです。
確定申告に直接影響するというよりは、日々の帳簿付けに特例措置を利用できるようになります。これまでどおり消費税と所得税の確定申告が必要なことに変わりはないので、特例を理解した上で準備を進めておきましょう。
免税事業者や簡易課税を使う事業者は変更なし
免税事業者と、簡易課税方式を使う課税事業者は、インボイス制度による確定申告の変更はありません。
年間の課税売上高が1,000万円以下で、かつインボイス登録をしていない免税事業者の場合、消費税の確定申告は不要です。いつもどおりのやり方で所得税の確定申告のみ行います。
インボイス制度前から消費税の課税事業者であっても、簡易課税で計算していれば処理方法や手続きに変更はないので、例年通りに帳簿付けをして消費税と所得税の確定申告をしましょう。
課税事業者になったら?インボイスで変わる確定申告のポイント
インボイス制度前は免税事業者であった個人事業主や法人が、制度を機に新しく課税事業者になったら、日々の帳簿付けや確定申告における変更点があります。
具体的な変更点を押さえておき、手続きをスムーズに進めましょう。
所得税とは別に消費税の確定申告が必要になる
免税事業者から課税事業者になった場合、所得税とは別に消費税の確定申告の義務が生じます。
別々の申告書が必要なものの、手続きの基本的な流れは同様です。申告年度(事業年度)の帳簿に基づいて税金額を算出し、申告書の提出と納税を行います。
所得税は負担者と納税者が一致する「直接税」、消費税は「間接税」なのが大きな違いです。消費税の負担者は本来であれば消費者ですが、実際には販売等を行なった事業者が預かり、まとめて納税します。
なお、消費税額は課税売上高に基づき算出するため、基本的に経費分を差し引くことはできません。ただし、インボイス発行事業者からの仕入れについては、一定の要件のもとで仕入税額控除を受けられます。
所得税と消費税との申告期限の違いに注意する
所得税に加えて、新たに消費税の確定申告が必要になった事業者は、両者の申告期限の違いに注意が必要です。
税種 | 個人事業主 | 法人 |
---|---|---|
所得税 | 3月15日 | 3月15日 |
消費税 | 3月31日 | 事業年度終了の日の翌日から2カ月以内 |
個人事業主における令和6年度分の確定申告で言えば、所得税の申告期限は令和7年3月15日、消費税は令和7年3月31日となります。
いずれも当日が土日祝日なら翌日が期限です。
消費税と所得税の確定申告の違いについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
消費税の計算方式を選ぶ必要がある
免税事業者から課税事業者になったら、消費税の計算方式を選択した上で帳簿付けし、帳簿内容に基づいて確定申告をしなくてはなりません。
計算方式と選べる条件は以下のとおりです。
計算方式 | 選べる条件 |
---|---|
2割特例 | ・免税事業者から課税事業者になった
・インボイス登録をしている ・基準期間(過去2年)の課税売上高が1,000万円以下である ・その他2割特例を使えない条件に該当しない |
簡易課税 | ・基準期間の課税売上が5,000万円未満である
・消費税簡易課税制度選択届書を税務署に出している |
一般課税 | ・すべての課税事業者が選べる |
消費税簡易課税制度選択届書を出しており、特定期間の売上高が1,000万円未満のインボイス登録事業者は、簡易課税と2割特例のどちらかを選択可能です。
2割特例は期限付きの方式であるため、最終的には簡易課税または一般課税を選択することになります。
インボイスにかかる消費税の計算方法
確定申告分の消費税の計算方法は、2割特例、簡易課税、一般課税(本則課税、原則課税)の3種類です。それぞれの方法について、あらためて説明します。
2割特例
インボイス制度を機に課税事業者になった場合にのみ「2割特例」が使えます。文字通り、納める消費税額を全体の2割とする計算方式です。
例えば、消費税率10%で110円(税込)のものを売ったとき、売上税額は10円です。2割特例を適用すると、10円の2割である2円のみを消費税として納税すればいいことになります。
2割特例は期間限定の計算方式で、令和5年10月1日~令和8年9月30日までの各課税期間が対象です。仮に令和5年10月1日から登録した場合、令和5・6・7・8年の申告分である計4年度分は2割特例で計算できます(令和5年は10〜12月分のみ)。
簡易課税
簡易課税は、売上にかかった消費税額に業種ごとの「みなし仕入率」を掛け、求めた金額を差し引いて残った消費税額を納税します。
例えば、サービス業のみなし仕入率は50%です。110円(税込)の売上であれば、消費税額10円の50%である5円を差し引き、残り5円が納税額です。
簡易課税の計算方式は、届出によって簡易課税方式を選んでいる人が使えます。
一般課税(原則課税、本則課税)
一般課税方式は、売上の消費税額から仕入れにかかった消費税額を差し引いて(仕入税額控除)、納税額を計算します。仕入れ先からもらった請求書などのインボイスがなければ、仕入税額控除はできません。
ただし2029年までは、免税事業者との取り引きにおける仕入税額控除の特例が使えるので、把握した上で帳簿を付けましょう。
売上と仕入れに合わせてその都度計算しなくてはならず、事務負担がもっとも大変な方法です。一方、簡易課税方式と比べて一般課税のほうが納税額が少なくなる場合、一般課税を選択するケースもあります。
消費税の確定申告の手順
インボイス登録をして消費税の確定申告が必要になったら、所得税の申告書とは別に書類の準備が必要です。
申告自体は所得税とあわせて行うのが効率的なので、計算や書類の作成は並行して進めておくといいでしょう。
ここからは、消費税の確定申告書の準備手順を紹介します。
申告書の作成方法を選ぶ
消費税の確定申告書は、主に次の方法で作成できます。
- 会計ソフト
- 税理士に依頼
- 国税庁の確定申告書作成コーナー
- 手書き
選択肢は所得税の確定申告書と同じです。所得税の確定申告の準備と一緒に進めるのが効率的なので、作成方法も両者で統一することをおすすめします。
消費税申告書を作成する
所得税の申告書とは別に、消費税申告書を用意して作成します。一般課税または簡易課税のどちらを選んでいるかで様式が異なるため注意しましょう。
方式ごとの申告書は国税庁のホームページに用意されています。
2割特例を選択している場合でも、申告書第一表については一般課税か簡易課税かを選んで作成が必要です。前提として2割特例は期限付きの措置であるため、原則はどちらかを選択しておかなくてはなりません。
添付書類を準備する
消費税の確定申告書に添付する書類は、2割特例・簡易課税・一般課税のいずれかで異なります。
計算方式 | 添付書類 |
---|---|
2割特例 | 税率別消費税計算表(付表6) |
簡易課税 | 税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表(付表付表4-3)
控除対象仕入税額等の計算表(付表5-3) |
一般課税 | 税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表(付表1-3)
課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表(付表2-3) |
3種類の計算方式に応じて準備しておきましょう。
期限内に申告書類の提出と納税をする
消費税の確定申告書は「e-Taxによる電子申告」「税務署窓口への持参」「信書による郵送」「税務署の時間外収集箱へ投函」のいずれかの方法で提出します。所得税の申告とあわせて行うのがいいでしょう。
申告期限は所得税と消費税とで異なるため注意してください。
確定申告書類を作成し、消費税額を算出したら、以下の6つの方法のどれかで消費税を納税します。
- 電子納税(e-Tax)
- 振替納税
- クレジットカード納付
- コンビニ納付
- スマホアプリ納付
- 窓口納付
納税の締切は3月末日までですが、振替納税の場合、4月30日に振替になります。期限をギリギリまで引き伸ばしたい場合には、振替納税を選択しましょう。
ただし、振替納税を利用する場合には、3月15日までに振替納税の依頼書を提出する必要があります。所轄の税務署か、利用する金融機関に書面で提出、あるいはe-Taxから提出可能です。
確定申告だけじゃない!インボイス制度で注意したい変更点
インボイス制度とは、2023年10月1日より施行された、請求書のあり方・納税の新しいあり方を定めた制度です。
インボイス制度による変更は確定申告だけにとどまりません。
実際の事業における変更の方が大きいため、インボイスがどのように影響するかを改めて理解しておきましょう。
登録したら適格請求書の発行ができる
課税事業者として登録すると、インボイスが発行可能です。
インボイスは日本語で「適格請求書」と呼ばれます。売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額を伝えるために、以下の3項目が追加された請求書です。
- 登録番号(俗に「インボイス番号」とも呼ばれている)
- 適用税率
- 消費税額等
この3つの項目のうち、「登録番号」(インボイス番号)は、事業者がインボイス登録をしなければ交付されません。そのためインボイスを発行したければ、消費税の納税義務がある課税事業者になる必要があります。
登録の有無が取り引きに影響する可能性がある
インボイス登録をしていない事業者は、インボイスを発行できません。インボイスを伴わない仕入れについては仕入税額控除ができず、その分損をしてしまう可能性があります。
つまり、インボイス登録していない事業者は控除を適用できない相手とみなされ、取引対象から外されてしまう恐れがあるのです。
実務の手間が大きくなる
インボイスを導入すると取り引きから外される懸念は解消しますが、計算や書類の管理といった実務の手間が大きくなります。
例えば7年間の保存義務です。発行者と受領者のどちらにも、インボイスの保存が義務付けられています。
また、課税方式によって計算方式が変わったり、インボイスとそうでない請求書や領収書などの仕分けが必要になったりもします。インボイスがある取引は仕入税額控除ができて、そうでない取引は仕入税額控除ができないためです。
仕入税額控除の金額を正確に計算するためには、その両方を仕分けする必要があります。従来の「区分記載請求書」か、「インボイス(適格請求書)」なのかを仕分けておいて、確定申告の際の計算に使用します。
インボイス登録した個人事業主は確定申告の準備をお早めに
以上、インボイス登録をした個人事業主・中小企業者の方向けに、確定申告で変わることをメインにご紹介しました。インボイス発行事業者には、課税所得額に関係なく消費税の確定申告が義務付けられます。
個人事業主の場合、2025年(令和7年)提出分の締め切りは3月31日(月)までですので、忘れずに手続きしてください。
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(編集:創業手帳編集部)