インボイス制度の緩和措置「2割特例」とは?対象条件やメリット・注意点まで解説
免税事業者がインボイス発行事業者になるなら知っておきたい2割特例
2023年の税制改正により、2割特例が追加されました。2割特例とは、インボイス制度の緩和措置として設けられたものです。
そのため、免税事業者がインボイス発行事業者になる場合、知っておきたい特例だといえます。
今回は、2割特例の概要や対象事業者になるための条件、適用期間、適用するメリットなどについて解説していきます。
インボイス発行事業者であれば知っておきたい内容ですので、ぜひ目を通してみてください。
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この記事の目次
インボイス制度の2割特例とは?
まずは、インボイス制度の2割特例がどのようなものか、概要から解説していきます。
2割特例は、消費税の納税額を「預かり消費税-預かり消費税×80%」で計算する特例措置です。納税額が預かり消費税の2割に収まるため、2割特例と呼ばれています。
2割特例が導入された大きな理由として、インボイス発行事業者への登録率が低いことが挙げられます。インボイスを発行する事業者には登録をしなければいけません。
登録をするには消費税の課税事業者になることが条件となっているので、消費税を納めるか、従来どおりにするかという重大な選択を迫られます。
ここで申告に手間がかかってしまうこと、納税をしなければいけないことなどを理由に、発行事業者への登録は個人事業主を中心に敬遠されていました。
そのハードルを下げるために設けられたのが2割特例です。
2割特例の対象となる事業者の条件
2割特例の対象になるには、いくつか条件をクリアしなければいけません。続いては、対象となる事業者や対象外となるケースについてご紹介します。
対象は免税事業者からインボイス発行事業者になった場合
対象となるのは、インボイス制度が始まったことをきっかけに登録し、免税事業者からインボイス発行事業者になった場合です。
インボイス発行事業者は課税事業者とも呼ばれます。
課税事業者は、基準期間の課税売上高と特定期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者で、インボイス発行事業者に登録している者を指します。
インボイス発行事業者への登録は任意です。しかし、登録しないと適格請求書を交付しないことになるので、仕入税額控除を受けられなくなります。
つまり、買い手の納税額に大きな影響を与えます。
独占禁止法でインボイス発行事業者になることを強要できないことになっていますが、これからの取引きに影響を与えることは間違いありません。
2割特例の対象外となるケース
2割特例の対象外となるケースもあります。下記のいずれかひとつでも当てはまった場合、2割特例の使用はできません。
-
- 基準期間もしくは特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合
- 基準期間と特定期間の課税売上高は1,000万円以下でも、課税事業者選択届出書を提出して2023年10月1日以前から課税事業者になっている場合
- 課税期間を短縮している場合
2つ目の条件には例外的な扱いがあることも忘れてはいけません。
2023年10月1日が属する課税期間中に課税事業者選択不適用届出書を提出することにより、2割特例が適用となります。
あくまでもインボイスに登録して課税転換してからの負担軽減を目指す制度です。
2割特例の適用期間
2割特例には適用期間が定められています。個人事業主と法人企業で違いがあるので、それぞれも適用期間を解説していきます。
・個人事業主の場合
個人事業主の会計期間は1月1日~12月31日と一律です。2割特例の適用期間も一律となっています。
要件を満たしている場合、2023年10月~2026年12月までの3年3カ月にわたって特例を受けられます。
ただし、途中で売上高が1,000万円を超えるなど要件を満たせない期間があると、その分短くなるので要注意です。
・法人企業の場合
法人企業は、決算月によって2割特例の適用期間が変わります。最長で3年だけしか特例を受けられないため、9月決算の企業は最も不利だといわれています。
一方、8月が決算月の企業は最長で3年11カ月にわたって特例を受けられるので、決算月が大きな影響を与える点は個人事業主との大きな違いです。
法人企業の2割特例は2026年9月30日を含む事業年度をもって終わりになります。
2割特例と似ている簡易課税との違い
2割特例と似たものに簡易課税があります。この2つはよく似ていますが、相違点もあるので把握しておくことが重要です。
続いては、2割特例と簡易課税の違いについて解説していきます。
・適用できる事業者について
2割特例は、インボイス制度をきっかけに課税転換した事業者と、課税売上高が1,000万円以下の事業者であれば適用できます。
一方簡易課税は、課税売上高が5,000万円以下の事業者が適用となります。
・事前手続きについて
2割特例は事前手続きがありません。しかし、簡易課税は事前の手続きが必要となります。
・計算方法について
2割特例の計算方法は、「預かり消費税-預かり消費税×80%」または「売上げにかかる消費税額×20%」です。
簡易課税の計算方法は、「売上税額-売上税額×みなし仕入れ率」です。
このほかにも、2割特例は適用期間の縛りがありませんが、簡易課税は2年縛りがあるなどの違いがあります。
これらの違いを加味した上で、2割特例を選択するのが適しているのか見極めることが重要です。
2割特例を適用するメリット
2割特例を適用することで様々なメリットを受けられます。続いては、2割特例を適用するメリットを4つご紹介します。
事前の手続きなしで適用される
2割特例は、事前の手続きが必要ありません。簡易課税の場合は、あらかじめ簡易課税制度選択届出書を提出することが適用されるための条件となっています。
一方2割特例の場合は、消費税の確定申告書に「2割特例の適用あり」と追記するだけで済むので、非常に簡単です。
手続きを忘れてしまったり、必要な書類が漏れてしまったりする心配もありません。
簡易課税よりも適用されるためのハードルが低くなっているため、導入しやすいと感じる方も多いと考えられます。
簡単な手続きで税金の負担を軽減できるので、メリットは大きいでしょう。
節税効果がある
2割特例を適用することで、節税効果が期待できるというメリットも生まれます。
簡易課税と比較すると、卸売業と小売業以外は2割特例のほうが控除される割合が大きくなります。
つまり、課税事業者に転換して納税義務が生じたとしても、負担の大幅な増加を抑えられる可能性が高いです。
その理由は、簡易課税が「売上税額-売上税額×みなし仕入れ率」で算出される点にあります。
みなし仕入れ率は以下のとおりです。
-
- 卸売業……90%
- 小売業等……80%
- 製造業等……70%
- その他の事業……60%
- サービス業等……50%
- 不動産業……40%
納税額の計算が容易になる
納税額の計算も、2割特例のほうが簡単です。本則課税だと、売上額の消費税額のみならず経費にかかる消費税額も計算し、結果的な納税額を算出しなければいけません。
簡易課税は計算が簡単だといわれていますが、値引きや割り戻し、返品などがあると計算が煩雑になってしまいます。
しかし、2割特例の場合は、「預かり消費税-預かり消費税×80%」または「売上げにかかる消費税額×20%」の計算式に数字を当てはめることで簡単に算出できます。
対価の返還なども含めないので、経理業務の負担軽減にも有効です。
申告する度に算出方法を選択できる
簡易課税だと2年間の縛りがあり、止めるためにも届け出が必要です。しかし、2割特例は、申告の度に算出方法を選択できるため、自由度が高くなっています。
選択できるのは、本則課税もしくは2割特例か、簡易課税もしくは2割特例の2種類です。
簡易課税選択届出書を提出していない場合は本則課税もしくは2割特例か、提出している場合は簡易課税もしくは2割特例か、のいずれかを選べます。
申告する際に両方の計算(本則課税または簡易課税と2割特例)をする必要はありません。
申告のタイミングで自分にとって有利なほうを選べるのは大きなメリットです。
2割特例を適用する際の注意点
2割特例を適用することで得られるメリットもありますが、注意しなければいけないポイントもあります。後悔しないためにも知っておきたい注意点をご紹介します。
2割特例の適用は期間限定
2割特例には簡易課税のような2年縛りはありません。しかし、適用可能な期間は限定的となっているので注意が必要です。
2割特例の適用期間は、2023年10月1日から2026年9月30日までの課税期間となっています。
前述したように、個人事業主と法人企業にも違いがあります。
個人事業主の場合は2023年10月1日から2026年12月31日まで、3月決算の法人企業の場合は2023年10月1日から2027年3月31日までです。
つまり、一定期間が過ぎると2割特例の恩恵は受けられなくなります。
経過措置が終了した後は納税の負担が増えてしまうので、それを見越した上で課税事業者に転換するか否かを決めるようにしてください。
少しでも条件から外れれば適用されなくなる
少しでも条件から外れれば適用されなくなる点にも注意が必要です。最初の課税期間で2割特例の対象になったとしても、それ以降も対象になるという保証はありません。
基準期間の課税売上高が1,000万円を超えたり、課税期間を短縮する届け出をすると、2割特例の対象から外れてしまいます。
申告の都度、対象外になっていないか確認することが重要です。確認を怠ると、適用条件を満たしていない状況に陥る可能性もあります。
簡易課税を選択したいと考えた場合は、簡易課税制度選択届出書を2023年10月1日の属する課税期間の末日までに提出してください。
インボイス制度開始前に課税事業者になっていると適用されない
2割特例は、インボイス制度が始まる前に課税事業者になっていると適用されません。
なぜなら、インボイス制度が始まったことをきっかけに登録し、免税事業者からインボイス発行事業者となった場合に利用できる措置だからです。
つまり、2023年10月1日以前からインボイス発行事業者になっているケースは適用外となります。
しかし、消費税課税事業者選択不適用届出書を利用すれば2割特例が適用になります。
消費税課税事業者選択不適用届出書は、国税庁のホームページからダウンロード可能です。提出先は、納税地を所管する税務署長となっています。
還付はなし
2割特例には簡易課税と同じように還付はありません。預かり消費税よりも支払消費税が高くなってしまったとしても、戻ってくることはないので要注意です。
しかし、本則課税の場合は業種によって還付を受けられるので、こちらを選択したほうがメリットも大きくなるケースがあります。
還付を受けられるのは、以下に当てはまる場合です。
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- 輸出中心の貿易業を営んでいる場合(簡易課税制度の適用を受けている場合は還付の対象外)
- 大幅な設備投資をした場合
- 赤字計上をした場合
輸出の場合は輸出免税となるので売上げで預かった消費税は0円ですが、宣伝広告費・交際費などには消費税がかかるので消費税還付を受ける可能性が高いです。
簡易課税の適用を選ぶ場合は別途に届け出が必要
2割特例を簡易課税と選択適用で使おうと考えるケースがあるかもしれません。
経費がそこまでかからないフリーランスや人件費がかさんでしまう会社などは、簡易課税を選択したほうが好都合となる可能性が高いです。
気を付けたいのが、簡易課税の適用を選ぶためには届出を提出しなければいけない点です。
2023年10月1日の属する課税期間から選択した場合には、その期間の末日までに簡易課税制度選択届出書を提出してください。
2割特例以外の制度に関する変化は、2023年10月時点で特にありません。そのため、取引先などの意思を尊重し、必要であれば忘れずに届け出をしてください。
2割特例を適用しないほうが良い具体的なケース
2割特例は、どの業者にもメリットがある措置とはいえません。適用しないほうが良いケースもあります。
最後に、2割特例を適用しないほうが良いケースについて具体的な事例をご紹介します。
簡易課税でみなし仕入れ率が80%以上の場合
簡易課税を適用した時のみなし仕入れ率が80%を超える場合は、2割特例を使わないことをおすすめします。
簡易課税は、消費税額にみなし仕入れ率を掛け合わせた金額を預かり消費税から差し引いて消費税額を計算できる制度です。
卸売業はみなし仕入れ率が90%となっています。売上げが700万円、預かり消費税が70万円だった場合を比べてみます。
・2割特例
70万円-70万円×80%=14万円
・簡易課税
70万円-70万円×90%(みなし仕入れ率)=7万円
このようなケースだと、簡易課税のほうが支払うべき消費税額が少なくなります。
本則課税で消費税が還付される場合
本則課税で消費税が還付される場合も、2割特例を適用しないほうが良いケースに該当します。本則課税は、仕入れ取引をもとにして税額を計算する一般課税です。
本則課税を適用する場合、仕入れが売上げを上回り、控除しきれない仕入税額部分があると還付できる可能性があります。
しかし、2割特例は一律で売上税額の8割を引くので、該当しても消費税の還付は受けられません。
本則課税で消費税が還付されるとわかっているなら、2割特例は選択しないほうが良いといえます。
まとめ
2割特例は、インボイス発行事業者になるなら知っておくべき措置です。
どのような条件で対象になるか、適用期間はどのくらいか、などの基本的な内容は把握しておくことが重要です。
どのようなメリットや注意点があるかという点も理解していれば、税金面におけるリスクを軽減できます。
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(編集:創業手帳編集部)