米国の知性 ジェフリー・ウェルサー博士「AIが世界をこう変える!」IBMリサーチCOO・Jeffery Welserさん

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年10月に行われた取材時点のものです。

「小さいAI」に注目しよう!日本にもチャンスあり。知日派のAI・量子コンピュータの第一人者が解説。IBMリサーチCOOジェフリー・ウェルサー博士が解説


AIと量子コンピューティングが社会をどう変えるのか注目を集めています。

世界・全米のトップクラスの研究者で特許を数多く保有し、多くの公職を務め、IBMリサーチを率いるJeffery Welser(以下、ジェフリー・ウェルサー博士)さんにデータ活用の第一人者のアステリア株式会社(東証プライム上場)代表の平野洋一郎さんと創業手帳代表の大久保がお話を伺いました。

平野さんは、アステリアの社長だけでなく、スタートアップワールドカップ2024の日本予選の審査委員長でもあります。

スタートアップワールドカップとはシリコンバレーと東京でも展開するペガサステックベンチャーズが運営する世界最大のスタートアップピッチ大会です。今回、スタートアップワールドカップ2024決勝にジェフリー・ウェルサー博士がゲスト登壇するのに合わせ、米国での取材が実現しました。

AIや量子コンピューティングが社会に与える影響と活用のカギを米国の知性 ジェフリー・ウェルサー博士が 解説していきます。

ジェフリー・ウェルサー博士(Jeffery Welser)
IBM Research COO
スタンフォード大学で電気工学の博士号を取得。IBM リサーチの最高執行責任者、探索科学および大学連携担当副社長。 IBM リサーチ ラボと、ケンブリッジの MIT-IBM Watson AI ラボを統括。
AI、量子コンピューティングの権威でIBMでの研究開発のほか、産官学の連携も行っています。

米国特許を 21 件保有し、75 件を超える技術論文やプレゼンテーションを発表。IEEE フェロー、IBM 技術アカデミーおよびアメリカ物理学会の会員、ベイエリア科学イノベーション コンソーシアムの会長の他、連邦機関、全米アカデミー、議会の委員会にも数多く参加する米国の先端技術のトップランナーです。

平野 洋一郎(ひらの よういちろう)
アステリア株式会社 代表取締役社長 CEO、スタートアップワールドカップ2024日本予選・審査委員長、一般社団法人ブロックチェーン推進協会 代表理事。
熊本県生まれ。熊本大学工学部を中退し、ソフトウェエア開発ベンチャー設立に参画。1987年~1998年、ロータス(現:日本IBM)でのプロダクトマーケティングおよび戦略企画の要職を歴任。1998年、インフォテリア(現アステリア)を創業し、2007年に東証マザーズに上場させる(現在東証プライム上場)。ブロックチェーン推進協会代表理事、京都大学経営管理大学院特命教授も務める日本の先端技術のトップランナーです。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

AIと量子コンピュータの与える影響


平野:博士はAIと量子コンピューティングの権威です。まず、量子コンピューティングは社会にどういう影響を与えますか?

ウェルサー博士:現時点では、量子コンピューティングは大規模なビジネス問題を解決できる段階には達していません。
しかし、近い将来、従来のコンピューターでは解決できない問題を解決できるようになるでしょう。
特に素材産業やファイナンス、サプライチェーンマネジメントなど複雑な分野への応用が有望です。

量子コンピューティングは、従来の技術では対応できない複雑な問題に対して重要性を増していくでしょう。量子コンピューティングはAI技術との組み合わせがカギになりますね。

大久保:では、AIは今後どのように社会を変革していくとお考えですか?

ウェルサー博士:AIは、今後私たちの生活のすべてに組み込まれていくと思います。現時点では、GPTなど大規模な言語モデルやAIシステムが注目されていますが、それらは日常生活の一部となるでしょう。

たとえば、今ではメールを書くときに自動補完機能が使われていますが、将来的にはさらに多くの業務が自動化されるでしょう。AIが日常的なタスクを支援するだけでなく、意思決定やクリエイティブな作業にも関与してくるはずです。

AIの進展が、私たちの生活やビジネスのあり方を大きく変え、日常的な活動に深く浸透していくはずです。

「小さいAI」に注目せよ


大久保:現在最も注目するAI技術は何ですか?

ウェルサー博士:私は、小規模で特化した生成AIモデル(Small Language Model = SLM)に非常に注目しており、非常にワクワクしますね。

大規模な生成AIモデルは非常に強力ですが、時には予期しない結果を生むことがあります。その点、小規模なモデルは、特定のデータセットに基づいて訓練できるため、より正確で確実な結果を得ることが可能です。

さらに、その小規模モデルを他のモデルと組み合わせることで、複雑なタスクにも効果的に対応できるようになります。

「大きいAIモデル」より「小さいAIモデル」に注目しています。

才能を組織でどう活かすか?


平野:ウェルサー博士はIBM ResearchのCEOとして、研究全体を率いていらっしゃいますね。どんな展開をされているか概要を教えて下さい。

ウェルサー博士:IBMには独自の研究ラボがあり、全世界に約3000人の研究者がいます。我々の研究は、エンタープライズ向けのプラットフォームやインフラに関するものが主で、半導体技術が基盤となっています。

この半導体技術が、私たちのシステムに組み込まれ、ハードウェア、ソフトウェア、クラウドプラットフォームがその上に構築されるという形です。

平野:IBMの研究拠点は世界中に広がっていますが、それぞれの地域ごとに特有の課題に取り組んでいるのでしょうか?

ウェルサー博士:そうです。IBMの研究拠点はサンタクララ(アメリカ)、ケンブリッジ(イギリス)、東京、インド、イスラエル、英国、アイルランド、ブラジル、南アフリカなどにあります。各地域では、現地の課題や文化的な背景を踏まえた研究を進めています。例えば、アフリカでは持続可能性や気候変動、地元の金融問題に対する研究が進行中です。

世界各地に研究拠点を持つIBMは、地域ごとの特有の課題に対応しながらグローバルな技術革新を進めています。現地の文化や社会的背景を反映した研究が、各地域の問題解決に貢献しており、その知見が世界全体にフィードバックされています。

大久保:IBMリサーチが才能を活かしイノベーションを促進するためのマネジメントでユニークなものがあれば教えて下さい。高度な人材からモチベーションと才能を引き出すのはとても難しいことですから日本の起業家の参考になると思います。

ウェルサー博士:重要なのはコラボレーションと柔軟性です。

我々は、分野の専門家を採用するだけでなく、他の分野の人々と協力できる柔軟性のある人材を求めています。

特に、技術に深く関わっている人々は、他の技術分野の人々と連携することが重要です。IBMリサーチの強みは、非常に大規模かつ学際的に物事を進められることです。大学などでは、一つの専門分野に縛られがちですが、IBMでは様々な分野の人々が協力し合うことができます。

また、我々はキャリアの早い段階で異なる役割やプロジェクトに挑戦する機会を提供し、個人のハードなスキルだけでなく、人との関係などソフトなスキルも育成します。大学教育で言うところの、学際的なアプローチを取り入れ、個人の能力を広げることに重点を置いています。そこがユニークな点かもしれませんね。

アメリカの強さの秘密は「大学とビジネスがつながる風土」


大久保:中国など新興国が勢力を伸ばしている中で、未だにアメリカは世界のトップランナーです。アメリカのテクノロジーが強い秘密は何だとお考えですか?

ウェルサー博士:アメリカの強みの一つは、非常に強力な大学と大学の周辺も含めた「エコシステム」にあると思います。

大学のエコシステムが産業界と積極的に協力していることも重要です。

多くのスタートアップが大学から直接生まれ、教授陣が学生にスタートアップを奨励する文化があります。また、政府のサポートも重要で、国家科学財団(NSF)などが基礎研究に対して資金を提供し、それが最終的に企業の技術発展に繋がっています。

アメリカのイノベーションは大学と産業界、そして政府の産官学の連携に支えられています。産官学が連携していく風土がとても大事ですね。

平野:研究には短期的な目標と長期的なビジョンがあると思います。バランスを取る秘訣は?

ウェルサー博士:我々の研究プロジェクトは、半年や1年で実用化を目指すものが多いですが、同時にもっと長期的な視野で進めるプロジェクトもあります。

研究プロジェクトには短期的なものと長期的なものがあり、両者のバランスを取りながら進めることで、持続的にイノベーションを起こせるわけです。

会社のことだけでなく、アカデミックな貢献も重要視しています。研究の成果を学会で発表しています。

会社でのイノベーションが社会に還元され、それがまた会社の発展につながっていくわけです。

「実は日本企業で働いたことがあり、多くのことを学びました」


大久保:ウェルサー博士のキャリアについて教えて下さい。

ウェルサー博士:私は、キャリアの初期に住友化学に勤めていたことがあります。非常に貴重な経験で、異なる文化の中で働くことで多くのことを学びました。

IBMにはその後、すぐに入社し、以来ずっと様々な役割を経験しています。自分の専門分野での研究も好きですが、新しい挑戦としてソフトウェアやシステム設計の分野にも取り組み、それらを成長させることができたことはとても興奮しました。

大久保:IBMリサーチのビジョンとウェルサーさん個人の目標について教えてください。

ウェルサー博士:私は、IBMリサーチが今後もIBMの成長の原動力であり続けることを望んでいます。IBMのテクノロジーの多くがリサーチに根ざしており、それがIBMのビジネスに繋がるというのが理想です。

個人的な目標としては、AIの効率的な運用、特にエネルギー効率やコストの面での改善を進め、AIが広く社会で利用されるようにすることです。それによって、AI技術が一部の大企業だけでなく、より広範な社会に貢献できるようになることを願っています。

チャンスは目の前にある!


大久保:日本の起業家に向けたメッセージをお願いします。

ウェルサー博士:日本には独特の強さがあります。それを活かすことが非常に重要です。

例えば半導体産業の再成長は、大きなチャンスだと思います。半導体だけでなく、その周辺も含めて起業家にとってチャンスがあるはずです。

日本独自の技術や環境を活かして、他国では解決できない問題に取り組むことが、競争力を高める鍵です。

まずは日本というユニークで大きな市場で強みを磨きましょう。

そこからぜひグローバルな展開も視野に入れて欲しいですね。

大久保写真大久保の感想

量子コンピュータとAIのトップランナーのウェルサー博士に、東証プライム上場でテクノロジー・データ分野の第一人者のアステリア平野社長、日本の起業家の視点で創業手帳の大久保が聞く、聴き応えのあるインタビューでした。

個人的には「小さいAIのチャンス」や「産官学の連携」「異なる才能とのコラボレーション」などが印象的でした。今後のウェルサー博士と平野社長の挑戦に注目ですね。

また、今回、スタートアップワールドカップをきっかけに貴重な対談が実現しました。こうした海外でのイベントでは日本にいると得られない気づきもあるはずです。

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(特別協力:スタートアップワールドカップ・ペガサステックベンチャーズ
(取材協力:IBM Research COO ジェフリー・ウェルサー博士(Jeffery Welser)
(取材協力:アステリア株式会社 代表取締役社長 CEO 平野 洋一郎
(編集:創業手帳編集部)

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