法人化で得られる8つの節税メリットとは?節税効果のシミュレーション&注意点を解説
法人化による節税メリットはあるが注意点もある!
個人として事業が軌道に乗ってくると、次のステップとして法人化を検討する人も増えていきます。
法人化によって節税できれば手取りを増やせるのではと考える人もいるでしょう。
しかし、法人化は節税メリットがあるものの、それだけを目当てに法人化してしまうと想定外のコストが発生してしまうかもしれません。
注意点を理解した上で法人化を検討するようにしてください。法人化のメリットと注意点をまとめました。
創業手帳では、ちょっとした工夫で支払う税金を抑えることができるノウハウをまとめた「税金チェックシート」を無料でお配りしています。法人・個人と対策がわかれていますので、どちらの方でもご利用いただけます。あわせてご活用ください。
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
法人化によってなぜ節税効果が得られるのか?
個人であっても法人であってもビジネスに携わる人が重視しているポイントのひとつが節税です。
個人で事業をしていると、法人にしたほうが節税できるといったアドバイスを受けるかもしれません。
しかし、なぜ法人化するだけで節税効果が得られるのでしょうか。法人化による節税について、基本的な部分から解説します。
課税される税金が変わるから
個人と法人では、そもそも課税される税金が違います。個人で事業をした場合、所得に課税されるのは所得税です。
所得税の税率は、1年間すべての所得から所得控除を差し引いた課税所得に税率を適用して計算します。
所得税の税率は、所得が多くなるにしたがって段階的に高くなる超過累進税率です。
税率は、5%から最大で45%です。さらに住民税が10%課税されて最大で55%の税率になります。
一方で、法人に課せられる法人税は一律です。資本金1億円以下の法人は800万円以下と800万円超で税率が異なり、800万円以下で15%、800万円超で23.2%です。
つまり、所得が大きくなれば個人の所得税の税率のほうが法人税の税率より高くなり、法人のほうが節税しやすくなります。
経費にできる範囲が広がるから
個人と法人では、経費として認められる範囲も異なります。経費を多く計上できれば、それだけ課税される所得を減らして税金を減額可能です。
具体的には法人の代表者に支払う報酬は給与として経費計上可能です。しかし、個人では代表者への給与はないため経費計上ができません。
法人として給与を支払った場合、経費計上できるだけでなく、受け取った代表者は個人として給与所得控除を差し引けます。
法人は退職金や家族従業員への役員報酬も経費計上可能です。家族に役員報酬を支払って所得を分散すれば、代表者個人の所得税を減らす効果もあります。
法人化で得られる8つの節税メリット
法人化することによって個人よりも節税できるケースがあります。しかし、法人化すれば赤字でも法人住民税の支払いがあり、社会保険料の負担が発生する場合もあります。
法人化する時にはどういったメリットがあるのか、どの節税策を利用できるかを検討しておくようにしてください。
給与所得控除を活用できる
個人事業は売上から経費を差し引いたものを事業所得として、個人の所得税や住民税が課税されます。
一方で、法人化した場合には代表者は役員報酬を受け取る形となり、所得の種類は給与所得です。
給与所得は役員報酬から給与所得控除として一定額を差し引くことができます。給与所得控除で控除される金額は、収入金額によって異なります。
給与等の収入金額が162万5千円までは給与所得控除額は55万円で、段階的に控除額が増えて上限は195万円です。
詳細な給与所得控除額は、国税庁の給与所得控除のページで計算可能です。
家族への役員報酬で所得税を節税できる
法人の場合、役員報酬をいくら位にするかによって個人の所得税や住民税が大きく変わります。
家族が経営に従事している場合には、家族に役員報酬を支給して所得を分散する節税手段があります。
給与所得は、給与を受けたものそれぞれに対して給与所得控除が適用されるため、ひとりで多くの所得を受け取るより、所得を分散して複数人で受け取ったほうが課税所得を減らすことが可能です。
さらに所得税は超過累進課税なので高所得者は高い税率が適用されます。
そのため、報酬をひとりに集中させるのではなく家族に分散してひとり当たりの所得税を減らしたほうが納税額を減らせます。
配偶者控除や扶養控除など活用できる
個人事業主であっても、家族を青色専従者にして節税することが可能です。しかし、青色専従者として給与を支払った家族は配偶者控除や扶養控除の対象外になってしまいます。
一方で、法人化して会社から家族への給与を支払った時には、配偶者控除や扶養控除の適用は受けられます。
家族への給料を経費として計上して、さらに配偶者控除や扶養控除を利用して個人としての所得税の節税が可能です。
従業員の退職金が損金に認められる
退職金は、税金面で優遇されていて節税に活用しやすい費用です。退職所得は分離課税でほかの所得と合算されない上、退職所得控除を受けられます。
控除額は勤続年数×40万円なので、この範囲内では課税されません。
さらに退職所得控除を超えていても、超えた額の2分の1しか課税されません。ただし、これは勤続年数が5年以上ある場合に限られます。
法人側も支払った退職金は経費として損金に計上可能ですが、不当に大きな額の退職金を支給されると税務署から否認される可能性があるので、注意してください。
赤字を最大10年間繰り越せる
事業の成長期は赤字になってしまう可能性もあります。法人化すると事業で赤字になった時の損失を最大で10年間繰り越し可能です。
赤字の繰り越しとは、赤字を出した翌年以降に利益が出た場合、その利益から損失を相殺できる制度です。
赤字を長期間繰り越しできれば、それだけ長く翌期以降の納税額を抑えられます。
個人事業主であっても損失の繰り越しは可能ですが、最大で3年間しか繰り越しできません。
そのため、赤字の額が大きい場合には3年間で繰り越しできないケースも想定されます。
高額の設備投資があって大きな赤字を出す場合などは、長期間にわたって課税所得を減らせる法人が有利です。
社宅や車などを経費にできる
法人化すると、経費として計上できる範囲が広がります。より多くの経費を計上できれば課税所得を減らして納税額を抑えられます。
法人に認められている損金算入できる経費として代表的なのが、社宅や車です。個人事業主が業務用に車を購入した時には家庭用と事業用の利用割合に応じて経費計上します。
一方で法人として事業用に車を購入すれば、そもそも個人として利用するものではないため、全額が経費として計上可能です。
社宅の家賃も、個人事業主の自宅兼事務所は業務用に使っている部分を計算して経費計上します。法人では、法人契約で社宅にすればすべて経費です。
ただし、役員や従業員からは一定額の家賃を受け取らないと、経済的利益を受け取ったとみなされて給与扱いで課税されます。
減価償却で定率法が利用できる
減価償却とは、建物や機械、器具備品のように長期間にわたって利益をもたらす資産について、少しずつ費用化する処理のことです。
減価償却の方法には、定額法と定率法があります。定額法は、耐用年数の期間にわたって一定額を費用計上する方法です。
一方で定率法は、耐用年数の期間中最初のうちに多く減価償却費を計上して、徐々に減価償却費が減っていく方法です。
建物など一定のものについては、個人事業主でも法人でも定額法ですが、それ以外の減価償却資産ついては個人事業主は定額法で法人は定率法で計算します。
それぞれほかの償却方法を選択することも認められていますが、そのための届け出を行う必要があり、一度決めたものは原則として3年は変更不可です。
どちらの償却方法でも計上できる減価償却費の総額は変わりません。しかし、法人は届け出なしで定率法で最初に大きな額を償却できます。
そのため、早期に費用計上して節税したい場合には法人のほうが有利といえるでしょう。
消費税が2年間免除になる
個人事業主は開業してから2年間は消費税の納税免除を受けられます。しかし、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた時には、消費税を納付しなければいけません。
しかし、開業してから2年間消費税免除を受けてから法人化して2期目まで消費税の免除を受ければ、最大で4年間消費税の免除を受けることが可能です。
これは、消費税の課税・免税の判定で法人と個人事業主は別の事業者とみなされるためです。
できるだけ長く消費税の免税を受けたい場合には、法人化のタイミングを調整してみてください。
法人化で節税効果を得る際のシミュレーション
法人化してもどれだけの節税ができるのか、イメージしにくい人もいるでしょう。ここでは、どれだけの節税効果があるのか実際にシミュレーションします。
法人化を検討する目安である所得800万円を基準にシミュレーションしました。
個人事業主で所得800万円の場合
ここでは個人事業主で所得が800万円の場合の手取りを考えます。控除については基礎控除だけを適用し、青色申告特別控除を使ったケースで計算しました。
100円未満については切り捨てで計算しています。あくまで例なので正確な額を調べたい時には、個々の事情を反映してから計算してみてください。
まず、個人事業主で800万円の事業所得がある場合、青色申告控除の65万円と基礎控除48万円を差し引いて687万円が課税所得です。
所得税額は、所得税率20%-所得控除額427,500円で946,500円になります。さらに946,500円に復興税率2.1%を掛けて約19,900円です。
次に住民税は、所得割と均等割で構成されています。ここでは均等割5,000円で所得割が10%の税率で687,000円として合計692,000円とします。
個人事業税は、事業所得から事業主控除290万円を差し引いて税率5%乗じて255,000円になります。上記の税金をすべて足すと約1,913,400円です。
法人の事業所得が800万円の場合
上記と同じように事業所得が800万円で法人の場合を考えます。800万円×15%=120万円で法人税が計算可能です。
法人を設立した場合には代表者への労働対価として役員報酬を設定できます。役員報酬経費として計上する時には、給与所得-給与所得控除×所得税率-控除額で計算します。
役員報酬が800万の場合(800万円-190万円)×20%-42万7,500円で792,500円が所得税です。
法人住民税の法人税割の税率は法人税の7%です。均等割は資本金の額や従業員数で区分されています。
資本金等1,000万円以下、従業員数50人以下であれば法人税割額は84,000円になります。均等割額は70,000円です。
法人事業税は、400万円以下の部分が3.5%で400万円超800万円以下の部分が5.3%です。それぞれを計算して足すと352,000円になります。
特別法人事業税は法人事業税額×税率をかけて約130,200円です。
利益を800万円とした時には法人税に法人住民税と法人事業税を足して約1,836,200円が税額になります。利益800万円を役員報酬とした時には1,428,700円が税額です。
ただし、この額に個人の住民税と社会保険料も考慮しなければいけません。
法人化することで発生する費用もあるので、節税を目的として法人化する場合は800万円を基準として個々の事情を踏まえた上でどちらが得かシミュレーションしてください。
個人事業主が節税目的で法人化する際の注意点
個人事業主から節税を目的として法人化を検討する場合、税金以外の費用や負担を考慮していないことがあります。
どういった点に注意して法人化すればいいのか確認してください。
設立費用がかかる
個人事業主は、開業届を提出するだけなのでほとんど費用をかけずにはじめられます。しかし、法人は初めに設立費用が必要です。
収入印紙代や定款認証手数料など、株式会社であれば25万円程度は最低でも用意しなければいけません。初期費用について事前に計算して準備しておいてください。
赤字でも税金が発生する
法人税が支払う法人住民税の均等割は、事業の利益に関係なく支払わなければならない税金です。
法人税は課税されなくても法人住民税の均等割を支払わなければいけません。
ただし、非営利法人として活動している場合や事業の休業中には、免除されることもあります。免除を受ける時には地方自治体に確認して適切に手続きをしてください。
社会保険への加入が必須になる
個人事業主が法人化して経営者になると健康保険や厚生年金保険への加入が義務付けられます。そのため、健康保険料と厚生年金保険料で負担が大きくなります。
社会保険料の支払いは役員報酬の設定によっても変わるので、事前にシミュレーションしておくようにしてください。
税務負担が大きくなる
法人化すると決算が必要となり、会計処理もより高度な知識が求められます。個人事業主の時には自分で会計処理していても法人だと困難になるケースもあります。
会計ソフトを導入したり、会計士に依頼したりする場合にはその費用について考えておいてください。
自由な事業運営が難しくなる
法人化すると、意思決定が制約されるため、個人事業主のように自由に事業運営するのは困難です。
具体的には、株主総会や取締厄介を通じて意思決定をしなければならなくなり、議事録の作成と保管が求められます。
法人化によって事業運営の手間も大きくなると考えておいてください。
まとめ・注意点も加味しつつタイミングを見て法人化も検討しよう
法人には、個人事業主の所得税とは違う税金が課されます。個人事業主としての税負担が大きい時には、法人化によって節税できるケースもあります。
利益が800万円を超えてきた時には、法人化も検討してみましょう。
ただし、法人化する時の注意点もあるのでタイミングや法人化にともなって増える負担についても考慮しておいてください。
創業手帳では「税金チェックシート」を無料でお配りしています。税金については知っているか知らないかで支払い額が数十万円変わってくることも。法人・個人と対策がわかれていますので、どちらの方でもご利用いただけます。あわせてご活用ください。
(編集:創業手帳編集部)