H.I.F. 東小薗光輝|創業まもない会社でも融資が受けられる世界を作る
多くの企業・個人に対し適切な与信付与を目指した「AI定性与信技術サービス」を提供する気鋭の金融ベンチャー社長にインタビュー!
H.I.F.は、磨き上げられたAI定性与信技術によって、従来であれば金融取引ができなかったような人や企業にも金融サービスを利用するチャンスを拡げています。
そんなフィンテックど真ん中ともいえるH.I.F.を指揮するのが、代表取締役の東小薗光輝氏です。シングルマザーに育てられ、陸上自衛隊からキャリアをスタートした同氏は、エイチ・アイ・エスを経て、金融ベンチャーH.I.F.を社内起業するに至ります。
波乱万丈な人生を送りながらも、着実に金融業界の未来を切り拓きつつある同氏に、これまでのキャリアや起業への経緯、H.I.F.が誇る革新的な与信管理技術などについて、創業手帳の大久保が聞きました。
陸上自衛隊退任後、複数の金融機関に勤務。2011年にHIS入社後、法人営業部に配属。2016年HIS代表の澤田秀雄氏が運営する澤田経営道場に入門し、起業ノウハウを学ぶ。2017年11月に売掛債権の保証を行うH.I.S. Impact Finance株式会社(現:H.I.F.株式会社)を設立。2019年4月にHISから出資を受け入れてHIS子会社に。2020年2月にMBOして再び独立企業とする。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
自衛隊も消費者金融も、すべてが起業に生きている
大久保:H.I.F.はどのような事業を展開されているのでしょうか。
東小薗:与信審査や保証、ファクタリングなどの事業を手がけています。さまざまな事業を通じて自社のAI定性与信技を磨き上げ、その技術が弊社の強みになっています。
大久保:東小薗さんのファーストキャリアは自衛隊だったとお伺いしました。
東小薗:はい。うちは母子家庭で、高校3年生のときに母が交通事故で働けなくなってしまいました。私は大学に行きたかったのですが、それでやむなく大学進学を断念し、寮があってご飯も食べられる陸上自衛隊に就職することを決めました。
大久保:陸上自衛隊でのご経験が起業に役立っていることはありますでしょうか。
東小薗:ビジネスに生きているのは忍耐力と体力でしょうか(笑)。より直接的に起業に役立ったのは、自衛隊を辞めた後に転職した消費者金融での経験ですね。金融事故を起こした人も対象にサービス提供していたので、与信管理や保証など、今にもつながる金融業の基礎知識を深く学ぶことになりました。今のH.I.F.の与信管理モデルにも、そのときに学んだことが直接的に生かされています。消費者金融業をやっていたからこそ、今のビジネスモデルを思いついたところは大きいかもしれません。
大久保:その後、エイチ・アイ・エスに転職されるわけですね。
東小薗:そうですね。エイチ・アイ・エスの法人営業部で売掛先の与信審査をしたりしていました。当時、調査会社のレポートを使って審査をしていたのですが、それではある一定のスコア未満の企業とは取引ができず、「もったいない」と感じていました。私は営業マンだったので、「自分たちで与信審査と保証ができれば、この人たちとも取引ができるようになり、営業の数字も達成しやすくなるのでは」と思ったんです。そこで、当時参加していたエイチ・アイ・エス創業者の澤田秀雄さんが主宰する澤田経営道場にて、澤田さんご本人に提案したところ、「面白そうだからやってみなさい」と言われ、社内起業でH.I.F.を創業しました。
当初は社内起業だったのでエイチ・アイ・エスからも50%出資いただいていたのですが、現在はMBO(※1)したので出資比率は変わっています。
(※1)MBO…マネジメントバイアウト。既存株主から経営陣が株式を購入して出資比率を高め、経営権を取得する企業買収の方法。
大久保:資金調達などもされてきたのでしょうか。
東小薗:そうですね。都度調達してきましたが、ファクタリングに必要になる資金はお客さまの数が増えるほど増えていくんですね。金額もそのたび大きくなっていきます。自社で調達するのでは間に合わないので、お客さまへ融通する資金はすべて別法人で組成したファンドから調達する方式に昨年から変えました。
自社ファンドの資金も含めてエクイティ23億、デット60億(※2)を調達しています。
(※2)エクイティとデット…エクイティは株式、デットは債券や負債のことを指す。
エイチ・アイ・エスの取引データをフル活用した
大久保:H.I.F.の基盤となっているAI定性与信技術は、エイチ・アイ・エスの取引データを使うことによって最初から精度が高いものができたのではないでしょうか。
東小薗:エイチ・アイ・エスとの膨大な取引データを取得できたのはありがたかったですね。ただ、エイチ・アイ・エスとの取引で取得したがデータは、海外出張などがあるいわゆる「しっかりした」いい企業のものばかりでした。だからその後に与信力がない会社のデータを自分で集めていくのは大変でしたね。
大久保:創業した際には社内企業だったということですが、そこからMBOした後もエイチ・アイ・エスと取引が続いたのでしょうか。
東小薗:はい。創業当初から保証や債権の買い取りなど多くのお仕事をいただいていたのですが、MBOで分離する前から「いっぱいお仕事ください」とお願いしていたので、その後もご発注いただいていました。創業してから4ヶ月ほどで、エイチ・アイ・エスとの取引のおかげで黒字になりました。それから他のクライアントを開拓しにいきましたね。
大久保:最初から下駄を履かせてもらっていたのですね。
東小薗:そうですね。今でもエイチ・アイ・エス在籍時の同僚の方々とは仲よくしていただいています。ありがたいことですね。
与信審査をアップデートしていきたい
大久保:今後は、どのような方向性で事業を伸ばしていこうとお考えですか。
東小薗:現状、保証やファクタリング、請求代行、家賃保証などをやっていて、これからは車の販売におけるファイナンスもやっていきます。これらはすべて、弊社のAI定性与信技術を磨き込むのに役立ちます。toBもtoCも、どちらの取引のデータも集めてAIの精度をより高めていくことで、与信審査をアップデートしていきたいと考えています。
弊社が保証やファクタリングなどで磨き込んだAI定性与信技術は金融機関や事業会社に販売することもしています。それらの企業の取引がよりスムーズになればいいな、と思っています。
大久保:toBもtoCも、すべてのデータがAIの精度を高めるために役立つのですね。
東小薗:おっしゃる通りですね。H.I.F.のAIによるスコアリングがあるからこそ、より円滑に審査がしやすくなり、お金が循環していく社会をつくりたいです。最近では、弊社のファクタリングを利用したことで与信力が高まり、その結果VCや他の金融機関からも資金調達がスムーズになった例も出てきています。
将来的には海外展開も視野に入れています。
大久保:信用がある人がよりお金を借りやすくなる社会になるということでしょうか。
東小薗:人を裏切らない人はどんどん有益なサービスを受けられるような社会になる、ということです。信用コストがかからないからですね。逆に悪いことをした人はサービスが受けづらい社会になります。きちんとした信用に基づいた社会にしたいですね。
大久保:最近、新しい事業も始められたと伺いました。
東小薗:弊社のAI定性与信技術を利用できるSaaSですね。今年の1〜6月にユーザーテストをして、7月から有料課金を始めました。このSaaSはSalesforceなどと連携して使うことができます。
例えば、Salesforceに新たな会社を記録する際に、弊社のSaaSからスコアリング情報を取得して、Salesforceに情報として格納することができます。創業してまもない企業であってもスコアリングできるので、営業をかける会社の優先度の見極めなどにご利用いただけます。
信用スコアが高い人の特徴
大久保:つまるところ、与信とは何でしょう。
東小薗:与信は信用コストです。信用できるか、信用できないか、ということですね。全員が信頼できる人であれば、本来は不必要でムダなものです。家族間であれば、与信という概念は要らないですから。
だから弊社は、究極的には与信が不必要な世界を作りたいと考えています。現在は逆に与信を付与する会社ですけれど。
大久保:それは面白いですね。与信力が高い人の特徴はデータからどのように見えてきましたか。
東小薗:一言で言うと、第三者から見られている人は与信力が高いです。悪いことをしてもバレてしまうからでしょうね。
逆に悪さをしても特定されないような人、情報をあまり露出していない人は遅延や滞納のリスクが高いことがデータから見えてきています。
大久保:SNSに露出しているとか、そういったことも関係がありますか。
東小薗:データで見ると、事実としてSNSで露出している人のほうが与信力は高いですね。
逆に財務諸表などを見ても、見抜けないことが多いです。悪い会社の場合、数字を修正したりしていますから。もちろん、監査法人などがついている会社は別ですけれどね。
大久保:面白いです。
東小薗:債権の種類によっても遅延や滞納の起こりやすさは変わります。そういったことも、保証やファクタリング、請求代行の実データを通じてわかってきています。
これからの目標は上場と学校設立
大久保:上場は視野に入れているのでしょうか。
東小薗:はい。2025年の上場を目指しています。今はそれに向けて準備を重ねていっている段階です。
大久保:事業も順調に伸ばされているので、今後が楽しみです。上場されたとして、上場後の目標はありますか。
東小薗:日本では金融リテラシーの教育が公教育において十分になされないので、与信力の高め方などを学べる学校を民間主導で作りたいです。
大久保:学校ですか。それは意外でした。
東小薗:日本だけではなく、海外も含めて、各地に金融リテラシーを学べる学校を作りたいです。
大久保:なるほど。それは素敵な目標ですね。これから起業する人に向けて、創業時から与信力を高めるコツなどあれば教えてください。
東小薗:創業者だけですと能力も与信力もないので、能力・人脈・信用残高が高い人をいかに集めてこられるかがポイントですね。創業者だけですと与信力が低くて金融機関に相手にされなくとも、取締役などの経営陣にそういう人がいれば全然違います。
大久保:法人としてだけではなく、個人のことも調査しているのですね。
東小薗:調査の際、弊社は経営陣のことも調べていますね。だから最初の創業メンバー集めは重要ですよ。
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(取材協力:
H.I.F.株式会社 代表取締役 東小薗 光輝)
(編集: 創業手帳編集部)