Grand Central 北口 拓実 | キーエンス出身の若手起業家が日本の営業を刷新する!
営業支援のプロが語る!スタートアップこそ営業をアウトソースすべき理由
スタートアップや大企業にとって、営業組織の構築は大きな課題です。特に、起業初期はプロダクト開発や組織づくりに追われ、営業が後回しになることがほとんどです。
そんな日本の営業の刷新に取り組むのがキーエンス出身の若手起業家の北口拓実さん。
キーエンスはFA用のセンサや計測・制御機器のメーカーで、大阪の小さな工場から世界に飛躍。現在、時価総額では常にトップ5に入り、日本の代表的な企業といえます。
キーエンスの強みは商品力もさることながら、特徴的な営業力です。単純な体育会系の営業ではなく「キーエンス=サイエンス」、つまり科学的な営業がキーエンス流営業の真骨頂です。
スタートアップでは営業や営業の組織作りに課題を感じている会社が多くあります。そんな中、キーエンス流の営業をベースに営業領域に特化したコンサルティング事業を展開する北口さんに、営業の極意を聞きました。
株式会社Grand Central 代表取締役CEO
立命館大学を卒業後、新卒で株式会社キーエンスに入社。法人向けコンサルティングセールスに従事し、史上最年少売上レコードを更新。全社ランキング1位を含め、社内表彰を多数経験。2021年に株式会社Grand Centralを創業し、代表取締役CEOに就任。創業から僅か2年で国内4拠点、250名以上のセールスのエキスパートを集結させ、国内最大級のセールスコンサルティングカンパニーにまでグロースさせる。
情報経営イノベーション専門職大学 客員准教授
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
「目標に集中する」「余計なことは徹底してやらない」全てに理由があるキーエンスの凄み
大久保:起業の原点ですが、北口さんは、もともとスタートアップに興味があったんでしょうか?
北口:起業に興味があったわけではないんです。新卒でキーエンスに入社しましたが、家業の製造業をいずれ継ぐかもしれないという気持ちはありました。
キーエンスでは製造業に深く関わりながら、営業力を鍛える貴重な経験を得ることができました。成果に対しても非常に明確な評価制度があって、働いた分だけしっかりと報酬がある点も魅力的でしたね。
入社して一番印象的だったのは「まともなことしかしない」という企業文化です。
会社として「利益を上げる」「成果を出す」という目標に向かって、一貫して動いている。無駄が一切ない。だから成長しているんだ、と入って実感しました。
「とりあえず会議に出る」は無駄!商談も会議も目的がある
北口:キーエンスに入社して感じたのは、まず組織全体が非常にシステマティックだったということです。
営業の猛者が集まっているイメージがあるかもしれませんが、個人がどうかより会社の仕組みやシステムがキーエンスの強みです。
例えば、会議のやり方や営業の進め方など、あらゆるプロセスが合理的に設計されていて、無駄を徹底的に排除する文化がありました。会議も本当に必要な人だけが参加しますし、形式的な出席や「とりあえず参加する」ということはありませんでした。
最も大事だったのは「目的」です。会議でも商談でも目的が問われるわけですが、日本の会社の中でキーエンスほど目的意識を徹底する企業は少ないと思います。
データを重視するキーエンス流の営業
北口:キーエンスの営業の強さは、目的を明確にするという基本の他、データドリブンなアプローチと直販体制にあると思います。
キーエンスは代理店を通さずにお客様に直接販売しています。
お客様のニーズを直接収集し、製品やサービスに即座に反映していきます。競合他社ではそこまで徹底してやっているところは少ないです。
営業活動も徹底的にデータに基づいて行われます。
感覚や経験に頼るのではなく、全ての営業プロセスをデータ化して管理し、その結果に基づいて次のアクションを決めるんです。これによって、誰がやっても一定の成果を出せる仕組みが作られています。
例えば、営業のロールプレイングです。商談の前には必ず準備を行い、上長を含めたロールプレイングを実施していましたね。その結果、全員が同じ品質の提案を行うことができるようになりましたし、その積み重ねが営業力の底上げにつながっていると感じました。
大久保:ロールプレイングを徹底することで、どの営業担当者でも同じレベルの提案ができるというのはすごいことですね。まさに型化された営業力ですね。
北口:キーエンスでは「誰でも80点を取れる営業を作る」ことに注力していました。突出したトップセールスを生むのではなく、全員が安定して高い成果を出せるような環境を整えることが、組織全体の強さにつながっているんです。
とりあえず商談、とりあえず会議を見直してみよう
・会議よりロープレ
・スター選手より集団の平均値を上げる
もっと大きなインパクトを残すために起業。名古屋でのシェアハウス生活と地方起業の強み
大久保:ではなぜわざわざ起業をされたんですか?
北口:キーエンスは良い会社で、自分の配属された部署や営業所で結果を残すことには充実感がありました。でも、キーエンスにいると組織の中で与えられた役割の中でしか社会に影響を与えることができない。もっと大きい挑戦をしてみたいと思うようになりました。
起業した当時はベッドとパソコンだけの生活環境で、共同創業者とシェアハウスで一緒に暮らしていました。最低限のこと以外は全て仕事に時間を使うと決めていました。朝7時から深夜1時や2時まで働く日々でした。
大久保:振り返ってみて、創業初期にやって良かったことや、逆に後悔していることがあれば教えていただけますか?
北口:地方で起業したのは良かったなと思います。名古屋で起業したのですが、余計な雑音や情報に惑わされなかった。
どうしてもよその話とかが耳に入ると気になりますよね。他人に惑わされず、自分達の信じた道を愚直にやったのが良かったと思います。
そして地方とはいえ、地元には金融機関など地場の会社がある。地元のコミュニティや経済界の応援もある。さらに地方は競争が比較的少なく、急成長している企業が少ない分、注目を浴びやすい。
物価も安いですし、名古屋の場合はアクセスも良い。地方起業で良かったなと思います。
一方で、最初の資金調達に慎重になりすぎた点は反省しています。
当初は自己資金100%で進めていました。売上で得たキャッシュだけで事業を回していましたが、成長速度にどうしても限界が出る。もう少し早い段階でエクイティファイナンスを活用していれば、もっと早く成長できたかもしれません。
スタートアップで営業組織を作る難しさとメリット
大久保:営業組織を作るのはスタートアップの場合、結構難易度が高い。そこをアウトソースするときの支援として、北口さんのような事業の意義があると思います。
北口:確かにスタートアップが強い営業組織を初期段階から作るのは非常に難しいと思います。
スタートアップやベンチャー企業は、プロダクトの開発に集中することが多く、営業に十分リソースを割ける企業は少ない。営業は思っている以上にスキルやマインドが必要ですし、会社の成長フェーズに応じて柔軟に組織を変えていく必要もあります。
自社内で営業組織を立ち上げることが難しい場合、我々のような営業支援のプロを必要に応じて使えるのは意義があると思います。
営業を一部でもアウトソーシングするメリットは、リスクを抑えることができる点です。固定費が上がるのは経営にとってリスクですが、アウトソーシングの場合、変動費としてチームを持つことができます。
例えば、広告を大規模に打ち出したとして、その期間だけ営業を強化したいと考えても、急に増やした営業をクビにするわけにはいきません。アウトソーシングの場合は必要なタイミングで必要なリソースを投入し、状況に応じて柔軟に縮小・拡大が可能です。
弊社の場合は基本的に社員が営業活動を行います。営業のプロだけで構成し、トレーニングを受け管理されたチームが、クオリティの高いパフォーマンスを提供する点も重要です。在宅ワーカーやアルバイトに頼らず、経験豊富なエキスパートを揃えていることも他社との大きな違いです。
大久保:なるほど、それはスタートアップにとっては嬉しいですね。
売れなかった理由のフィードバックも価値になる
北口:我々の提供している意外な価値ですが、単なる営業代行だけでなく、成果が出るための原因分析や戦略の見直しも行うことです。
例えば営業のプロがやってもニーズが合わない場合「売れない」ということも起こりえます。その場合は、なぜ売れなかったのかを明確にし、その原因をもとに次にどう改善するか情報をご提供、フィードバックさせて頂きます。
通常の営業代行会社だと、例えば「100件テレアポして結果が出ませんでした」という報告で終わってしまうことが多いですが、私たちは「なぜ結果が出なかったのか」を追求します。そして、その結果をもとに戦略を見直し、次のアクションを取ります。
このプロセスが、結果として次の成功につながることも多いです。これは意外に重要な貢献だと思います。
大久保:成果報酬型ではなく、完全固定型の料金体系を採用しているとも聞きましたが、それについて教えていただけますか?
北口:はい、基本的には成果報酬型ではなく、固定型での契約をお願いしています。これにはいくつか理由があります。
一つは、私たちが提供するのは単なる成果ではなく、プロセス全体での価値だからです。成果報酬型だとどうしても目先の成果に囚われてしまいがちですが、私たちは中長期的な視点でお客様の営業力を育て、持続可能な成長を目指したいと考えています。
私たちのクライアントは約98%がBtoBのお客様です。売上規模で見ると、プライム上場企業が全体の約4割、シリーズA以降の成長企業が約3割といったところです。また、最近では地方の中小企業からのご依頼も増えてきています。
どのような規模や業種の企業であっても、営業支援を通してその成長を後押しできるのが我々の強みです。
・営業の「売れなかった理由」も貴重なデータ
「夢の大きさが会社の限界を決める」ノイズに惑わされるな!
大久保:これから創業を目指す方や、創業期の方に向けて、メッセージをお願いします!
北口:一番大事なのは「夢の大きさ」が会社の限界を決めるということだと思います。創業時にどれだけ大きなビジョンを持てるかが、その後の成長の天井を決めると思っています。「ほら吹き」や「オオカミ少年」と言われても大きな目標に挑戦しないといけない。
日本はまだまだスタートアップが弱いと思います。
我々のような若いスタートアップが、いずれキーエンスのように大きいインパクトを与えないといけない。
起業すると他の会社でこんなことをしているとか、どこが凄いとか、何が儲かりそうとか、ノイズも多いです。自分達はそんなことに惑わされず、徹底的なハードワークで顧客に向き合いました。それが結果的に良かったのかもしれません。
ノイズに惑わされず、自分達の信じる大きな夢に向かって欲しいと思います。
大久保の感想
創業手帳冊子版は毎月アップデートしており、起業家や経営者の方に今知っておいてほしい最新の情報をお届けしています。無料でお取り寄せ可能となっています。
(取材協力:
株式会社Grand Central 代表取締役CEO 北口拓実)
(編集: 創業手帳編集部)
日本の課題である、生産性や給与が上がらないという問題はキーエンス流の合理主義が突破のヒントになるかもしれません。
また起業家の目線で見ると起業初期はプロダクトを作るためプロダクトに偏った組織になりがちで、強烈な営業部隊を作るのは至難の業なので、こうした外部の営業リソースを組み込むのは良い手段だと思いました。
また、グランドセントラル、北口さん自身がストイックな努力で、凄まじいスピードで成長しています。どうしてもスタートアップは東京に偏りがちで、また初期は投資が入らない会社も多い中で、初期は投資に頼らず、地方発のスタートアップで大きく成長した会社として地方の起業家に勇気を与える事例だと思いました。