貯金ゼロから時価総額1000億円の会社経営者に。Jトラスト藤澤社長「逆張りの発想力」

創業手帳
※このインタビュー内容は2017年10月に行われた取材時点のものです。

成功したければ、失敗から多くのことを学べ

(2017/10/26更新)

ほぼ貯金ゼロの生活から脱するために31歳で飛び込んだ不動産担保融資の世界で、まったく未経験の分野から2年で社長まで登りつめた、Jトラスト株式会社 藤澤信義 氏。M&Aで国内や東南アジアで金融事業を大きく展開している藤澤氏に、競合他社と一線を画す事業戦略やM&Aをする際に必要な視点などをうかがいました。

藤澤信義
1970年、岐阜県岐阜市生まれ。東京大学医学部卒業。2001年、不動産担保融資を行う株式会社ビィー・ジャパンに入社。2003年、同社の代表取締役社長に就任。
2007年、かざか債権回収(現 パルティール債権回収)の代表取締役会長に就任。2008年、TOBによりJトラストの筆頭株主となり、同社代表取締役会長に就任。
2017年現在、Jトラスト代表取締役社長最高執行役員、Jトラストアジア代表取締役社長、Jトラストインベストメンツインドネシア代表理事、アドアーズ取締役、JTキャピタル理事を務めている。

「31歳、貯金ほぼゼロ」から始まった経営者への道

ーまず、藤澤さんの経歴を教えていただけますでしょうか。

藤澤:私は、大学時代からゲームセンターのアルバイトを始めてマネージャーとなり、大学卒業後も続けていました。当時の私は31歳。貯金もほぼゼロでした。「もうそろそろ就職しなければ」と思って就職活動をしていった結果、新宿にある不動産担保融資会社に就職し、そこで不動産と金融、不良債権の勉強をしていきました。

有難いことに、入社して2年での社長になることができ、そこから業容を拡大していくことができました。その後、2008年には個人で※TOBを実施し、Jトラストがスタートしました

※TOB:ある株式会社の株式等の買付けを、「買付け期間・買取り株数・価格」を公告し、不特定多数の株主から株式市場外で株式等を買い集める制度のこと。「株式公開買付け」と呼ばれる。

ー就職して2年で社長になる、というのはものすごいスピード出世ですね。

藤澤:会社を復活させた功績を評価されたんだと思います。上限金利の問題が起こったとき、私が勤めていた会社では、どこよりも早く自主的に金利を下げて貸していました。今まで29%で貸していたものが、いきなり15%になるので、売上も半分になるわけです。

業績が傾いて、赤字になると銀行が貸してくれなくなるっていうプレッシャーがありましたが、金融機関などにプレゼンテーションを地道に行なった結果、融資額を確保でき黒字に繋がって復活させることができました。そういう功績が認められて、社長にしていただきました。
入社当時は何も知らなかった私を社長にしてくれたことは、今でも本当に感謝しています。

東南アジアの首都ではなく地方・農村をターゲットにする理由

ー今は東南アジアにどんどん進出していますが、それにはどのような背景がありますか?

藤澤:これまで日本でやってきたのは、ローン会社やクレジットカード会社といった※リテールファイナンス会社とその債権をM&Aをしていく、というものでした。ですが、日本だけで事業を展開していくだけでは、会社の将来を考えると近い将来に限界が来てしまうのではないか?と感じ、「海外でチャレンジしてみよう」と思ったんです。

メガバンクも地方銀行も、リテールファイナンスが苦手だと耳にします。例えば、メガバンクは大企業に1兆円貸すことはできても、普通の会社員に50万円ずつ貸して1兆円の貸出残高を上げることは難しいとのことです。それは、弊社が展開している東南アジアでも同じで、そこに進出している銀行はリテール事業までは手が回っていないと考えました。

そこで、弊社はまず、東南アジアで最大の人口を持つインドネシアで銀行を持ち、そこでリテールファイナンスを広げていくことにしました。そうすることによって、他の銀行よりも早く銀行としてリテールファイナンスができる仕組みが出来上がると思っています。

※リテールファイナンス:銀行・証券会社・保険会社などの金融機関の業務の中で、個人や中小企業などの顧客を対象とした小口の業務のこと

ー世界の動きをつぶさに観察して、自社ができることをうまく当てはめているんですね。

藤澤:そうですね。自分の直感も少し入っていますが、過去の日本がどうだったか、その時の海外はどうだったか、というふうに考えることを意識しています。

例えば日本の40~50年前から今に至る変遷を見ると、ミャンマーとかインドネシアは、日本と同じような変遷を辿るのではないかと思っています。そうであれば、我々が銀行独自でリテールファイナンスの能力をつければ大きな武器になります。

都会ではなく地方に行って農機具をローンで購入してもらい、収穫時期の収入で、お金の一部を返済してもらう。そういう手間がかかることは銀行はあまりやらないんです。インドネシアの首都ジャカルタには2000万人いますが、それ以外の地域には2億3000万人もいます。そちらをターゲットにしています。

ーそういう地方では、貸してくれるシステムがないと、個人で貸し借りをしてトラブルになったりしますよね。そういうところも隅々までカバーしようということでしょうか?

藤澤:そうです。銀行口座を持っていない人がかなり多いので、かつて日本の町ごとにあった農協や郵便局みたいな役割をする拠点を作っていけたら良いですね。それは、ローンを出す拠点でもありますけど、コンビニみたいな形態かもしれません。実現すれば、そこに住んでいる方達にとっても大きな味方になるんじゃないかと思います。

成功より、失敗から学ぶことがはるかに多い

ーいくつものM&Aをしてこられていますが、M&Aで成功するためのコツというものはあるのでしょうか?

藤澤:全体で見ると成功しているように見えるかもしれませんが、実は同じぐらい失敗もしています。ですが、失敗するたびに学習能力は高まっていて、「こういうケースは失敗するな」というアンテナは張れるようになってきました。成功するコツは「失敗から学ぶ」ということだと思います。

M&Aでは、売り手の心もちゃんと汲み取ってあげないといけません。うまく汲み取れないと、失敗する原因になります。
会社をもっと大きくするために託してくれる場合もあれば、自分ではどうにもならなくなって、辛い思いをしながら託してくれる場合もあります。そういう相手の心を理解して、その思いに共感共鳴し、その後の経営に活かすように経営していかなければいけません。

ーでは、藤澤社長はM&Aを行う際に、どのポイントを重点的にチェックされますか?

藤澤:重要視している部分は2つあります。ひとつは「自分がどれだけ相手企業の理念・業務内容を理解しているか?」という点です。この部分が欠けていると、会社で何が起こっているかが分からなくて失敗する場合が多いです。必ず自分が経営しなきゃいけない、という訳ではありませんが、経営者が力量を含めて、ちゃんと理解していることが重要だと思っています。

もうひとつは「トラブルが起きた時には自分が行って、会社をうまく経営できるかどうか」です。そこはM&Aをするかしないかを判断する大きな材料になっていますね。

ー非常に難しい判断を迫られる場面があるかと思いますが、その際に拠り所とする信念はありますか?

藤澤これまで何回も失敗しているので、同じ失敗だけはしないようにしようと思っています。人間ですから、誰でもミスはしますし間違いもします。そこは甘んじて受け入れて、同じ失敗だけはしないようにしようと思っています。

ー創業手帳を読んでいる起業家の中では、30代男性の方が多いです。昔のご自身と境遇と似ている部分があるかと思いますが、当時の自分を思い返して「もっとこうしておくべきだった」と思うことはありますか?

藤澤:成功の数以上に失敗がありましたが、がむしゃらに頑張ってきたので、「こうしておくべきだった」という悔いはありません。なので、若い経営者には「失敗は別に恥ではなくて、失敗から学ぶことのほうが成功から学ぶことよりはるかに大きい」ということを伝えたいですね。
いろいろなチャレンジをして、1回目で成功する人もいれば、10回目で成功する人もいます。とにかくチャレンジをして、失敗した時に何を学んだかを刻んでおけば、必ず成功に結びつくと思います。

あとは自分を客観的に見られるようにすることも必要ですね。
例えば、「これまで会社でやってきた分野で独立すれば、もっと儲かるから独立しよう」と考える方がいるとします。そういう場合は、規模や信用の面で今までやってきたものには勝てません。客観的にその事業が需要と継続性、将来性があるかどうかを見極めて起業したほうがいいですね。思い入れや自信だけでは食べていけませんから。

人と違うことをやるには創造力が必要

ー藤澤社長は、よく「人と違うことをやろう。そこに必要なのは創造力だ。」と仰っていると伺いました。その言葉にはどのような思いが込められているんでしょうか?

藤澤:やっぱりみんなお金を稼ぎたいと思っているので、参入障壁が低い市場だと、はじめにうまくいったとしても、あとからライバルが出てきます。しかも、人と同じことをやっていたら、おそらく同じようにしか儲かりません。
ですが、参入障壁が高く、みんなが気づいていない市場を狙うと、当然ながら競争相手も少ないです。参入するまでの苦労はたくさんあるかもしれませんが、市場を独占するチャンスが生まれます。

なので、最初のうちはあんまり人に理解されなくても良いので、オリジナリティがあって、後から真似されないものであればうまくいく可能性は高まるんじゃないかと思います。

今、東南アジアには世界中から企業が来ていますから、その中で勝ち残っていくためには何か特徴がないといけません。そのために、我々は地方でリテールファイナンスをしていく、というやり方でシェアを広げていき、他者との差別化をしています。

ー最後に、起業家に向けてメッセージをお願いします。

藤澤:起業で失敗する確率は高いです。でも、夢を持つこと、社会の役に立つという志を持つことは非常に重要なので、若手経営者にはリスクを背負っても頑張ってほしいなと思います。

(取材協力:Jトラスト株式会社/藤澤信義)
(編集:創業手帳編集部)

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