Facilo 市川 紘|顧客体験の向上を通して日本人の住み替えをもっと身近に

創業手帳
※このインタビュー内容は2026年03月に行われた取材時点のものです。

手軽に複数物件を比較検討できるマイページに情報を集約。不動産仲介会社の業務生産性と顧客体験の改善を実現

2021年に設立した株式会社Faciloは、不動産仲介会社と顧客とのコミュニケーションを一元化・可視化するクラウド「Facilo」を提供。2023年のリリース以来、業界大手38社中20社超が導入しています。東洋経済「すごいベンチャー100」の2024年最新版に選出された注目のスタートアップです。CEOの市川さんは、アメリカの不動産スタートアップのCFOを務め、M&Aで売却した過去を持ちます。今回は市川さんに、起業するまでのキャリアやCTOとの共同創業を選んだ理由などについてお聞きしました。

市川 紘(いちかわ こう)
株式会社Facilo 代表取締役 CEO
リクルート入社後、SUUMO事業部に配属。2016年にサンフランシスコで不動産テック企業MovotoのCFOとして勤務。同社を全米4位の不動産ポータルサイトに成長させ、年間18億円の赤字から黒字化に成功。2020年にはM&AによるEXITを実現し、米国の不動産/建築業界TOP100リーダーに選出された。2021年に帰国してFaciloを創業。2024年、Forbes JAPANが発表する「日本の起業家名鑑400」、東洋経済「すごいベンチャー100」に選出。

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シリコンバレーで不動産スタートアップのCFOを経験し、起業が身近に

提供されているサービス「Facilo」について教えてください。

市川:簡単に言いますと、不動産仲介の煩雑なやりとりを一元化・可視化するクラウドサービスです。不動産仲介会社の営業の方々が、家を売買したいお客様との仲介において力を最大限発揮できるように、クラウドやAI、テクノロジーで支援する仕組みを提供しています。

従来も不動産仲介会社向けのシステムはありましたが、オフィスでの事務作業を効率化するバックエンドの仕組みに限定されていました。私たちはオフィスの日々の業務を飛び越えて、家を売り買いするお客様向けに情報を分かりやすくまとめて提供しています。それによって仲介業の裏側の業務だけではなく、不動産を取引する顧客の体験も改善し、顧客満足度を上げて結果的に売上の向上まで支援する仕組みを構築しました。

ー起業までのキャリアについて教えてください。

市川:新卒でリクルートに入社しました。入社後たまたま住宅部門に配属されまして、そこから15年以上、日米の不動産業界で働いています。

リクルートでは営業からキャリアをスタートし、プロダクト担当や経営企画新規事業を経験しました。2016年、リクルートの海外展開戦略の一環で買収した、シリコンバレーにあるMovotoという不動産テック企業に出向しました。最初は、現地の子会社と東京にある本社との橋渡し役として駐在で行ったのですが、2018年にMovotoがリクルート資本から離れ、スタートアップとして再スタートする形になったんです。その会社を去ってリクルートに戻るのか、あるいはリクルートを退職して会社に残るのかという二択でしたが、当時Movotoが立てていた戦略や将来に向けたビジョンに対して強い思い入れがあったので、リクルートを辞めて会社に残るという選択をしました。2016年から2021年までの丸5年アメリカにいたんですが、前半の2年は駐在員として、後半の3年は現地の経営者として残ったという形になります。

ーMovotoのどのような点に思い入れがあり、残る決断をされたのですか。

市川:Movotoの事業内容は日本のSUUMOのような不動産ポータルサイトで、アメリカの物件情報を紹介するサイトです。最初は業界の中で10位ぐらいに位置していたのですが、「サイトそのものの品質を改善し、より使いやすいサイトにしていく」という、堅実だけれども技術力が問われる戦い方で順位をどんどん上げていき、最終的にアメリカで4位という、大手企業に肩を並べるところまで成長できました。そういった部分に手応えを感じていたことと、もうひとつ新規事業があります。

当時、不動産業界各社が「End-to-End(最初から最後まで)」というビジョンを目指していました。物件探しから次の物件への住み替えまで、一気通貫してフォローするということです。Movotoも物件探しという入り口だけではなく、最後の住み替えまでフォローしようというビジョンの元に仲介会社を立ち上げ、私がその責任者でした。本当にゼロの状態から300人ほどエージェントを採用し、やっと軌道に乗り始めたところだったので、しっかり責任を持ってこの会社の成長を見届けたいという思いがあり、残る決断をしました。

ー米国で不動産テック企業のCFOとして事業成長やEXITを経験する中で、「いつかは自分で起業しよう」と意識するようになったのはどんなタイミングでしたか。

市川:実はアメリカに残ると決断した時点で、Movotoは残り半年ほどでキャッシュがなくなってしまうような状況だったんです。当時は経営者として、会社をどうやったら立て直せるかしか考えていませんでした。日々減っていく銀行の残高をにらみながら、やるべきことを地道に積み上げて、1年くらいかけて黒字化することができたんです。そこから事業がV字回復して業績が伸びていく間に何社か買収の声をかけていただき、2020年にある大きな不動産テックのスタートアップにM&Aで売却という運びとなりました。そのタイミングで、アメリカで会社を立て直し、現地の社員の方々の雇用を守り、かつM&Aでの売却ということで一定のキャピタルゲインも提供することができたので、アメリカでの自分の仕事は一区切りついたと感じ、起業を考え始めたんです。

アメリカでCFOとして、エンジニア出身のCEOと二人三脚で経営をしてきて、そのスピード感やダイナミックさにやりがいを感じていましたが、その会社自体は自分が立ち上げた会社ではないという思いがありました。また、シリコンバレーという土地柄、周りで事業を立ち上げて、苦労もありながらキラキラと輝いている創業者の方々を間近で見ていたので、自然と新しい事業の立ち上げだけではなく、事業を含めた会社という仕組みを自分自身で一から作ってみたいと思いました。

魂をこめてプロダクトを作るため、CTOとの共同創業を選択

ーその後日本に帰国され、数あるテーマの中から「不動産仲介のコミュニケーション」に着目して起業されたのはなぜですか。

市川:アメリカでの生活も気に入っていたので、アメリカで起業するという選択肢もありました。ただ外から見た時に、日本の不動産のポテンシャルも感じましたし、アメリカで学んできたことが活かせる余地もあると思ったので、結局は帰国して不動産テックで起業することを選びました。

駐在員から現地の社員になったタイミングで、日々の経験をブログなどで発信するようになりました。それをきっかけにセミナーに呼んでいただいたり、日本の不動産会社の方がシリコンバレー出張の際に訪ねてくれたりと、自分の経験が喜んでいただけている実感はあったんです。それまでは「たまたま不動産業界で仕事をしている」という感覚で、特に不動産業界で生きていく覚悟ができていたわけではありませんでした。でも自分自身も30代前半になってきて、自分の発信や経験が役に立てることに喜びを感じ、人生をかけて不動産の世界で生きていこうという覚悟ができました。その上で、日米の不動産業界を比較したときに、顧客とのコミュニケーションの質の向上に注目したという経緯です。

ーアメリカの不動産業界と、日本の不動産業界を比べて、特に大きな違いを感じた点はどこでしょうか。

市川:日本はアメリカと比べて住み替えのハードルが高く、日本人の住み変えの平均回数の3.0回に対してアメリカは11.7回で約4倍開きがあります。人口もアメリカの方が多いですが、その比率以上にアメリカの不動産市場が巨大なんです。日本では不動産を買うことが一大プロジェクトで、顧客が触れる情報が紙やメールや電話で五月雨式に飛び交っていてわかりにくいことが、不動産は難しいという印象につながっているのではないかと感じました。日本の不動産業界の顧客満足度を向上させて紹介やリピートを増やすことを目指し、今まで接点を持たせてもらった日本の不動産会社さんとのコラボレーションで、その4倍のギャップを少しでも埋められたら、不動産という切り口から日本を元気にさせられるのではないかと考えました。

ー創業当初、この課題は業界に受け入れられると確信できていましたか。それとも手探りでしたか。

市川:手探りでしたね。当時はエンドユーザー用の不動産ポータルサイトと、不動産仲介会社が使うバックエンドの事務的な業務を行う基幹システムしかなかったので、その両者をつなぐ共通のプラットフォームのようなものは存在していなかったですし、誰かにニーズがあると言われたわけでもありません。

ただ、バックエンドの業務がちょっと効率化されたところで、劇的に顧客体験が変わるとは思えませんでした。顧客体験を大きく改善するためにはどうすればいいのかを考えた結果、五月雨式に飛び交っている情報をわかりやすく整理整頓して可視化するために、シンプルにクラウド上に情報をまとめてマイページのように表示させました。アメリカでは、顧客フォローを人力でやっているんです。ただ市場も巨大ですし、働いている人数も桁違いなので、そのまま日本でやろうとしても同じようにはいかないため、このようなプロダクトを考えました。

ーCTOと共同創業という形を選んだ理由を教えてください。

市川:シリコンバレーに身を置いて、プロダクトの力によって世の中が変わっていく様を間近で見ていたというのは大きいですね。魂を込めてプロダクトを作りたかったので、外注ではなく実際に開発ができるCTOと一緒に創業したいというイメージが最初からありました。

ーCTOとの役割分担や意思決定は、どのように行っていますか。

市川:Faciloを共同創業したCTOの梅林とは、米国時代に出会いました。開発は全てCTOに任せています。私はいわゆるビジネスサイドを担当していて、ビジネスと開発の両方が関わるプロダクト戦略については二人三脚でやっています。

ープロダクトづくりにおいて、初期から特に大切にしてきた考え方は何でしょうか。

市川:スピードです。リソースがあまりないスタートアップが大企業に勝てる点はスピードだと思っているので、必ずしも100点を追求せず、70点のプロダクトでもセキュリティ面や安全対策はしっかり行った上で、スピード感を持って世に出すことを大事にしています。

ちょうど今日もエンジニアと会議をしていたんですが、プロダクトをリリースした瞬間にユーザーの反響で注目されている機能がわかりますし、期待が高いものについては「ここをもっとこうして欲しい」という要望がすぐに届きます。弊社の「Facilo物件売却クラウド」というプロダクトは、物件のオーナーさんが物件を売るときに仲介会社が提供する様々な情報を売主専用のマイページで表示するものです。その中で「成約物件レポート」という機能を新しく作りました。売ろうとしている物件の周辺で、類似した物件の過去の成約事例が見られるものです。リリースした瞬間から非常に多くのお問い合わせをいただき、反響の多さに驚きました。

会議室で考えて100点のものを目指すのは非常に難しく時間もかかるため、まずは世に出してみて、ユーザーの反応を見ながら改善していく方が精度が高いものができると感じています。

ー2023年のリリース以来、業界大手38社中20社超が導入という素晴らしい結果を出されていますが、リリースから短期間で業界大手企業に導入が進んだ背景には、どのような工夫がありましたか。

市川:「日本の不動産業界は日本経済を牽引していくくらいのポテンシャルがあり、そのためにはより顧客に向き合っていくべきだ」というビジョンや想いに、熱意ある方々が共感してくれたのだと思います。もちろん熱意だけで導入いただけるわけではないので、プロダクトのクオリティや完成度が高かったということも一因だと思いますね。

ー保守的と言われがちな不動産業界で、最初の導入を決めてもらうために意識したことは何でしょうか。

市川:最初はご縁をいただいていた不動産会社の方々に相談をしながら、徐々にご提案をさせていただきました。前に申し上げた通り、今までになかった分野のプロダクトなので、地道に現場を回って提案してということを繰り返しました。

我々のプロダクトは、今までやってきた業務をガラッと変えなくてはいけないというものではなく、これまでの業務はそのままに、システムによってスムーズになるというものです。提案すると使いやすそうというフィードバックをいただくことが多く、かなりの確率で受注につながっていきました。またカスタマーサクセスでのフォローに力を入れ、問い合わせへの対応はもちろん、より能動的に研修や定期的なフォローをむしろこちらからお願いして、クライアントがしっかり使いこなせるまで寄り添うことにこだわってきました。単なる業務効率化なら、慣れ親しんだ業務フローを変える過渡期のストレスの方が勝ってしまいます。しかし、我々のプロダクトは顧客体験が改善されて売り上げが伸びる仕組みに昇華できていたので、他社の結果を見て「自社もやってみるか」と思っていただけたのは大きいと思います。

AIは不動産仲介業で働く人を後押しする存在

ー2024年にシリーズAで12億円を調達されていますが、投資家にはどの点を最も評価されたと感じていますか。

市川:投資家の方々の言葉を引用させていただくと、定量面では「日本のB2Bプロダクトとしてこのスピードで成長しているところは見たことない」という評価や、契約後の解約率が非常に低いという実績がありました。また、定性面では導入企業からのコメントで、顧客満足度が圧倒的に高かったという点も評価いただいています。

ー今後、Faciloとして実現したい次の成長や挑戦について教えてください。

市川:「AIが不動産仲介業を滅ぼすのか?」という話もありますが、我々のスタンスとしては、AIは仲介営業に代わるものではなく、仲介営業の人の力を後押しする存在だと思っています。不動産は単価も高く、人生で一番大きな買い物です。全部の条件を満たす物件を買うことは難しいため、優先する点や妥協する点を考えながら進める検討のプロセスに寄り添うのはやはり人間ではないでしょうか。AIが代替できない3つの職種は裁判官、アーティスト、カウンセラーと言われていますが、不動産仲介業は人と人とのコミュニケーションが大事という点でカウンセラーに近いものがあると思っています。

これからも「住みかえを軽やかに、人生を鮮やかに。」というビジョンと、「人の価値を中心にプロダクトを育み、不動産の顧客体験を進化させる」というミッションを大切に、不動産営業の人が顧客の意思決定に寄り添えるよう、テクノロジーやAIを活用していきます。

ーこれから起業を考えている人や創業初期の起業家に向けて、今伝えたいアドバイスがあればお願いします。

市川:起業のテーマは、自分の天命と思えるようなものにするべきだと思っています。事業のことを考える中で、「絶対にこれは自分が解決するべきだ」と思えるテーマでないと、様々な変化や逆風の中で精神的に踏ん張り続けることが難しいのではないかと感じるからです。

起業する方には、ぜひ「自分が人生をかけてこれをやり遂げるんだ」「社会にこういうインパクトを残すんだ」というテーマを見つけていただきたいですね。

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