エピテみやび 田村雅美|「エピテーゼ」が当たり前になる社会を目指して

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2020年03月に行われた取材時点のものです。

体の一部を本物さながらに再現するエピテーゼ(人工パーツ)事業の話を聞きました

(2020/03/13更新)

「エピテーゼ」をご存知でしょうか。人体の一部を本物さながらに再現した人工パーツの総称で、事故や病気、生まれつきにより体の一部をなくされた方向けに、見た目と心を補うために使われます。

エピテみやび株式会社代表の田村雅美氏は、エピテーゼを日本に普及するために、エピテーゼの制作・販売事業を立ち上げました。2018年には、一般社団法人日本起業アイディア実現プロジェクトが展開している、起業を目指す女性向けの支援プログラム「女性起業チャレンジ制度」でグランプリを受賞。これを機に、個人事業から法人化した形です。

もともと歯科技工士として活躍していた田村氏。どんなきっかけで、エピテーゼ事業を始めたのでしょうか。起業エピソードを聞きました。

田村 雅美(たむら まさみ)エピテみやび株式会社 代表取締役
歯科技工士として経験を重ねる中で、自身の技術力向上を目的に渡米。渡米中、エピテーゼによる「外見回復」の場に立ち会い、その効果に感銘を受ける。帰国後、歯科技工士として働くかたわら、エピテーゼの技術を習得するための学校に通い始める。友人の乳がん手術後の精神的苦しみを知ったことをきっかけに、エピテーゼ事業に本格的に取り組むことを決意。2018年に「女性起業チャレンジ制度」でグランプリを受賞し、エピテみやび株式会社を設立した。

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オシャレの延長線上で気軽に外見ケアできるエピテーゼを

ー事業の概要を教えて下さい

田村:当社が提供するエピテーゼは、大きく3つに分けられます。まずは事故や病気などで指先を失くされた方向けの「指」、もう1つが乳がんで胸を失くした方向けの「胸」。そして、性同一性障害の方向けの「陰茎」です。

材料は医療用シリコンで、海外から輸入しています。皮膚に安全な専用の接着剤で装着するため、お湯につかっても外れることがありません。エピテーゼは医療器具ではなく、ウイッグなどと同じ雑貨扱いです。当社のエピテーゼは身体の一部を失った方が仕方なく使うものではなく、前向きにオシャレを楽しむ感覚で外見と心のケアができるアイテムを目指しています。

エピテみやびのエピテーゼ。細かな皺から色合い、質感まで、本物そっくり。

エピテーゼは会社によって作り方や素材、考え方も違います。とはいえ、一定のルールはあったほうがいいということで、2019年11月にエピテーゼ協会も設立しました。これによって、他団体同士の技術交流やコラボレーションが可能になると思っています。

エピテーゼ作りの原点は、歯科技工士時代の渡米経験

ーこれまでの経歴と、エピテーゼとの出会いについて教えて下さい

田村:起業する前は、歯科技工士として働いていました。その間、自身のレベルを高めるため、歯科技工の水準が優れている米国へ学びに行きました。

カリフォルニア州の会社で一定期間お世話になったのですが、研修中に縁あって、近くの病院を見学できる機会がありました。その時、事故で顔の半分を失った男性が顔のエピテーゼを着用するシーンに立ち会ったのです。

エピテーゼを貼り合わせていくことで、徐々に男性の顔が復元されていきます。装着や色合わせを終え、男性が鏡の前に立って最終的な姿を見た時、本人はもちろん、そばで見守っていた家族もとても嬉しそうでした。その瞬間、彼が二度目の新しい人生を手に入れたように見えて、とても感動的な場面でした。

米国滞在で、歯科技工士の技術を高めるという目的は十分に達成できたのですが、それ以上に、エピテーゼによる「外見回復の効果」が鮮明な印象として残りました。帰国後は、歯科医院で歯科技工士として従事しながら、国内でエピテーゼの技術を学べるところを探し、少しずつ技術を獲得していきました。最初は事業にするなんて全く考えておらず、趣味として始めた感じでした。

ーエピテーゼづくりを事業化することにしたのはなぜですか?

田村:ある時、友人が乳がんで右胸を全て失い、精神的にショックを受けている姿を見ました。友人もお医者様も、エピテーゼの存在を知りませんでした。もし友人が、病気になる前からエピテーゼを知っていたら、ショックを和らげることができたのではないかと思いました。

日本ではエピテーゼの認知が低いので、友人と同じような悩みを抱えている方が他にもきっといるだろうと考えました。そこで地元群馬を中心にヒアリングを試みたところ、農業用の機械を扱う職種や、プレス加工といった工業系の職種が多い地域であることもあってか、欠損事故後の見た目に悩んでいる方が予想以上に多いとわかりました。さらに驚いたことに、交通事故や家庭内で起きた事故も多いことがみえてきました。

例えば、手先が不自由になった方からは、

「手先を隠すためにずっと包帯を巻いている」
「夏でも長袖を着ている」
「手をずっとポケットに入れている」
「欠損してから自信がなくなり、趣味や外出ができなくなった」

といった、様々な悩みを聞きました。この現状を知り、「もっと多くの人にエピテーゼの存在を知ってほしい」と一念発起し、2017年に個人事業主としてエピテーゼづくりを本格的にスタートしたのです。

繊細な技術で作ったエピテーゼを、世界中に広めたい

エピテーゼを装着した手。よく見ないと、どこに装着しているかわからないくらい自然。

ー個人事業主から法人化するまでのエピソードも教えて下さい

田村:大きなきっかけが2つあります、1つ目は、NHK様からテレビ取材を受けたことです。最初は群馬県内だけの放送予定だったのですが、反響が大きかったことを受け、首都圏と全国にも放送されました。それをきっかけに、北海道から鹿児島まで、多くのお問合せをいただきました。全国にどれくらい身体を欠損している方がいらっしゃるのか、具体的な統計は出ていません。放送後にお問合せの数から、「こんなにも悩んでいる方がいるのか」とショックを受けました。具体的な需要がわからないまま、手探りで進めていた事業の意義が、確信にかわったのです。これを機に、アクセスの良い東京に拠点を移そうと考えました。

2つ目が、女性限定のビジネスコンテスト「女性起業チャレンジ制度」に応募して、グランプリを受賞したことです。タイミング良く首都圏のテレビ放送前に受賞したので、その賞金を使わせてもらい、東京に事務所を構えさせていただきました。

法人化は、「女性起業チャレンジ制度」で出資してくださった個人投資家様のお考えで、「会社を創って、賞金を社会・会社・困っている方のために使い、事業を大きくし、後世につなげる“恩贈り“をしなさい」という意思を受けたからです。

その意志を受け継いで、私も法人化して社会にエピテ―ゼを広め、技術者のエピテニストを育成していくことを決めました。

ー個人事業主から法人化するにあたって大変だったことを教えて下さい

田村まず登記が大変でしたね。何から始めればいいか全く分からないので、創業手帳さんの記事を見たり、インターネットで調べたり、色々な方に聞いたりしながら進めました。

また、オフィス探しも苦労しました。サロン形式で気軽に相談に来てもらいやすいオフィスを目指し、ビジネス感の薄い物件を探していたのですが、なかなか見つからなくて。結局、自宅兼オフィスという形に落ち着きました。

オフィスは東京日暮里にあります。もともと群馬で登記をしたのですが、群馬だとお客さんとの対面のやり取りをしにくいというデメリットがありました。拠点を東京日暮里に移した結果、相談件数が増えました。お客様との距離が近くなった分、業務効率も良くなっていますね

ー今後の事業の展望を教えて下さい

田村:まずは、日本でエピテーゼの存在を広く知ってもらうこと。これが、最初のハードルだと思っています。認知を広げるために、エピテーゼを「見て」「触れて」「着けて」もらうための展示会を定期的に開催しています。

展示会の効果もあってか、「実際に自分でエピテーゼをつくってみたい」という方も増えてきました。エピテーゼを普及させるためには、後進を育てることも必要だと考えていたので、2019年11月から女性限定のスクールを開講しています。エピテーゼを特別なものとしてではなく、つける人にとっても作る人にとっても、当たり前のように身近な存在として認知してもらうことが目標です。

体験会でエピテーゼ作りにチャレンジする参加者

事業を始めて以来、身体の一部を失くされたことで、本来の笑顔を失ってしまった方が想像以上に多いことを実感しています。きっと同じような悩みを抱えている方は世界中にいると思うので、いつか海外でもエピテみやびの事業を展開したいですね。自分たちが赴任するのではなく、現地スタッフに技術を教える仕組みをつくろうと考えています。実現すれば、新たな雇用を生むことになり、現地の活性化にもつながるはずです。

エピテみやびの繊細な技術で作ったエピテーゼを、逆輸入で世界中に広めていきたいと思っています。

ー起業を考えている人にメッセージをお願いします

田村:起業は、まず一歩踏み出してみないと何も始まりません。好きなことや興味のあることから、行動を起こすことが大切だと思います。会社という縛りがなくなる半面、自分の責任は増えます。時代も変わってきたので、まずは副業からスタートするのをおススメします。

私も起業する前はとても怖かったですし、もとが専門職だったため、PCも持っていませんでした。そんな状態からでも、起業することができました。本気で取り組める事業を見つけたことで、ようやく本当の自分になれた気がしています。今後も、たくさんの方の笑顔のために頑張っていきます。

創業手帳・WOMAN編集部のコメント:エピテみやび・田村 雅美代表による義手や義足とは異なる“自己肯定感を高める身体的な装具”

編集者
創業手帳woman編集部です。

記事にあるように、義手や義足とは異なる身体的な人工パーツ(装具)で、人々が前向きに社会復帰や自己肯定感などQOLを上げることを後押ししてくれます。

ダイバーシティ(多様性)が尊重される昨今、あらゆる状況におられる人々が楽しんで生きていくためには、まだまだ課題があり、事業の可能性が隠れているとも言えるのでしょう。

乳がんで胸を失った友人を思い、事業を始められた田村代表の真っ直ぐな思いは、エピテーゼの繊細さに現れているように感じます。

テレビでの露出も増えていらっしゃる田村代表のエピテみやび。これからも要注目です!!

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(創業手帳WOMAN編集部)

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(取材協力:エピテみやび 代表 田村雅美)
(取材協力:三幸エステート株式会社
(編集:創業手帳編集部)

(取材協力: 三幸エステート
(編集: 創業手帳編集部)



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