みなし役員はどう判定する?家族経営にする時は注意しよう

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みなし役員になるかどうかは経営や税務でも重要なポイント


みなし役員は、役員として登記されていなくても、税法上で役員として扱われるものです。
みなし役員となるかどうかで、賞与や給与の扱いや社会保険、企業の経費にも影響がでます。
株式の保有や会社経営への参加などの条件によってみなし役員と判定されるため、家族と働く時には、どのような立場で働いてもらうのかをあらかじめ決めておきましょう。

みなし役員の基礎知識


会社では様々な役職の人々が働いています。中には、名前だけ聞いても意味が通じにくいものもあるかもしれません。
わかりにくい役職のひとつに、みなし役員があります。
みなし役員とほかの役員は何が違うのか、みなし役員はどういった人が該当するのか、みなし役員の基礎知識をまとめました。

みなし役員は税法上の役員

みなし役員とは、「税法上の役員」を指して使う言葉です。
役員でなくても、役員とみなされて役員と同様の扱いとなる立場です。

一般的に使われている「役員」には、会社法上の役員と税法上の役員があります。
会社法上の役員は、取締役や会計参与、監査役が該当します。

一方で、税法上の役員は会社法上の役員よりも広範囲です。
会社法上の役員である取締役や会計参与、監査役に加えて、執行役と理事、監事および清算人、そして、みなし役員が法人税上の役員に該当します。

税法上の役員で一定の条件を満たせば、おおよそ役員と同じとみなされ、みなし役員となり、給与や賞与に制限を受けます。
みなし役員に給与や賞与を経費にするためにも、条件を満たさなければいけません。

みなし役員かどうか判定してみよう

みなし役員に該当する定義は以下の2つです。

  • 顧問や相談役などの役職ではないが、役員と同じくらい経営に携わっていること
  • 同族会社の使用人のうち、株式所有割合の要件を満たし、かつ、該当する会社の経営に従事している者

同族会社とは、会社の株主が3人以下で、いずれもが家族や配偶者である個人、法人を指しています。

加えて、会社発行の所有株や出資金の合計が50%以上の場合にも同族会社です。
同族会社の従業員で、かつ経営に携わっているとみなし役員とされます。

株式所有割合の要件とは

株式所有割合の要件は以下のとおりです。

①株主グループ1~3位まで合計した時に、所有割合50%超となる株主グループに属している
②その使用人が所属する株主グループの所有割合が10%を超える
③その使用人(配偶者と、これらの者で所有割合50%超の会社を含む)が所有している割合が5%を超える

①でいう株主グループとは、その株主などと特殊な関係のある個人や法人を含むグループを指します。
上記にある株主所有割合で、特に該当しやすいのが③の5%超の要件です。

例えば、配偶者が要件に当てはまる場合を考えてみましょう。
③の条件は合算して求めるため、配偶者の持ち株割合がゼロだとしても合計で条件を満たしてしまう場合があります。

ただし、株式所有割合を満たすからといって、必ずみなし役員になるわけではありません。
みなし役員に該当するのは、法人の経営に従事している場合だけです。
例えば、経理や接客のみを家族が担当しているなどの場合にはみなし役員には該当しません

「経営に従事」の意味

みなし役員であるかどうかを判定する時に、基準のひとつとなるのが「経営に従事」しているかどうかの点です。
税法上で明確に定義されているわけではないため、税務調査で論点となることもあります。

ポイントとなるのは、重要な意思決定に関与しているかどうかです。
つまり、法人の経営方針・人事・技術・営業など経営の重要決定事項にどれだけ関与しているかによって判定します。
出社頻度・給料金額・勤務時間といった条件は、あまり関係ありません。

中小企業の場合は、社長の決定権が強く、従業員の意見をあまり聞き入れないケースもあります。
親族には実質的に決定権がなくても、「経営に従事」していると判断されてしまうかもしれません。
また、取締役会に参加して発言している場合には、「経営に従事」に該当すると考えられます。

みなし役員になると何が変わる?

みなし役員に該当した場合、税法上役員と同様の扱いになります。
例えば、役員退職金の損金算入に制限がかかったり、過大な役員給与の損金不算入になったりすることがあるので注意が必要です。
つまり、みなし役員は役員登記をしていなかったとしても、法人税上では給与や賞与を役員として扱います
以下では、みなし役員になることで、どのような点が変わるのかを説明します。

給与

みなし役員に該当すると、給与も制限を受けるようになります。
みなし役員は、自分の給料を決められる立場なので、役員報酬を引き上げて利益を減らし、課税を免れるなどの手段が可能だからです。

会社の利益と課税を公平にするためにも、役員報酬は毎月同額である定期同額給与でなければいけません
役員報酬額を変更できるのは、原則として、毎期決算日後の3カ月以内のみです。
これは、みなし役員にも適用されます。

賞与

年2回の賞与(ボーナス)が一般の従業員に支給される企業があります。
一方で、役員が賞与を受け取るケースはまれです。

役員賞与を支給する場合には、税務署に「事前確定届出給与に関する届出書」を提出しなければいけません。
届け出た金額や支給時期通りに支給しなければ、損金算入は却下されます。

賞与に対するこれらの決まりも、みなし役員に適用されます。
役員報酬額に賞与を含んでおく方法も、あらかじめ検討しておくのがおすすめです。

退職金

退職金も役員と一般の従業員では扱いが異なります。
一般の従業員は、勤続年数・給与・役職などの条件から退職金を算定するのが通常で、退職金は会社の規定に従って支給すれば損金算入できます。

一方で、役員への退職金は株主総会で適正金額・支給時期・支給方法を決定します。
支給した退職金は適正な額であれば、原則として額が確定した事業年度に損金算入が可能です。
ただし、退職金が明確に決まっていない、取締役会で内定した費用を未払金として計上するとなどのケースでは損金として認められません。

雇用保険

一般の従業員とは立場が違うため、役員は雇用保険法が適用されません
しかし、使用兼務役員のように一定の条件を満たすことによって適用となるケースがあります。
雇用保険の対象となるかどうかは、業務内容や報酬などの実態によって判断されます。

社会保険

社会保険は、申告によって加入します。
そのため、みなし役員の働き方に関係なく、社会保険に加入しないことも可能です。

ただし、非加入の状態で常用として勤務している実態がわかれば、過去分にさかのぼって社会保険料が徴収された事例もあります。
雇用実態については正確に申告するようにしてください。

同族経営の場合は業務内容と報酬に注意


中小企業においては、同族だけで経営している会社が数多くあります。
同族企業は経営者と株主とが同じであることも多く、上記で説明したみなし役員と捉えられる条件では、多くの企業が持ち株割合の条件に該当していると考えられます。

みなし役員と判断するか否かで重要なポイントとなるのが、前述のとおり、経営に従事しているかどうかです。
単純に接客や入力業務をしているだけであれば、経営に従事していると判断される心配はないと考えられます。

しかし、金融機関との交渉や商品価格の決定など会社の重要な意思決定に関与する場合には、みなし役員と判断される場合があります。
役員ではないからといって給与や賞与を支払っていると、税務調査で指摘されて追加で課税されることもあるため、注意が必要です。

家族を役員にするメリット・デメリット


起業にあたって、人材をどのように募集するかは大きな課題です。
できるだけ身近で信頼できる人と働きたいと考え、家族を役員にしようと考える人も少なくありません。
家族を役員にすることには、メリットもデメリットもあります。
それぞれを確認しておきましょう。

メリット①所得税の節税

家族を役員にするメリットのひとつが節税です。
所得税は累進課税が採用されているため、収入が大きくなれば大きくなるほど税率も高くなっていきます。

つまり、ひとり当たりの収入を低く抑えたほうが、支払う税金の税率は低くなります。
例えば、ひとりで1,500万円の収入を受け取るよりも、事業者が900万円、配偶者が600万円といった形で家族である役員に分配したほうが個人の所得が小さくなり、税率も低くなる仕組みです。

つまり、家族に入る収入は同じでも支払う所得税は小さくなり、その結果、家族での手取りは増加します。

メリット⓶相続税・贈与税の節税

家族を役員にすると、所得税以外の税金も節税可能です。
事業や財産を譲り渡す時や相続する時には、贈与税、相続税が課税されます。
しかし、子を役員にして実務を担当させ、役員報酬を支払えば少しずつ相続や贈与を進めることが可能です。

メリット③社会保険への加入

家族を役員にすると、社会保険へ加入させることもできます。
会社の代表として支払う時には大きな負担になる社会保険ですが、家族が加入すれば将来受け取るお金を増やすことが可能です。

メリット④妥当性があれば高額な報酬も支払える

役員と一般の従業員では、給与体系も違います。
家族を従業員として雇用するよりも、役員報酬のほうが高額の支払いが可能です。
ただし、実務に対して適切な報酬でなければいけません。

デメリット①家族経営が不利になることも

家族経営であることは、メリットが多い一方で、家族経営であるために事業がうまくいかないケースもあります。
家族経営の企業は、一般的に規模が小さく閉鎖的であると思われてしまう場合もあり、新しい人材が働きたがらないかもしれません。
また、働いても同族以外は出世できないと一般の従業員のモチベーションを削ってしまうケースもあります。

デメリット⓶役員報酬は簡単に下げられない

役員報酬は、定期同額給与と原則定められています。
つまり、業績悪化時でも変わらず、利益に関わらす一定の額を支払うことを意味しています。
業績が悪い時、事業資金がひっ迫している時でも一定の役員報酬を支払わなければならないことが、経営の足かせになってしまうかもしれません。

デメリット③社会保険が負担になる

役員報酬が高額になれば、社会保険料の負担も大きくなります。
業績が悪化している時に、高額の社会保険料が負担になってしまう場合があります。

家族と一緒に起業するにはどうすればいい?


家族と一緒に働きたい、信頼できる人に人手を補ってほしいと考える事業者も多いのではないでしょうか。
家族も一緒に仕事に携わってほしい場合に、どのような選択肢があるのかを紹介します。

個人事業主として起業して家族を従業員にする

ひとつの方法が、個人事業主として起業する方法です。
家族を従業員として手伝ってもらいます。
青色申告にすれば、青色事業専従者とすることができます。

従業員として雇用する場合は、家族であってもほかの従業員同様の扱いです。
ただし、雇用保険に加入できない、労災保険の対象外などの点で違いがあるため、注意してください。

法人として起業して家族を従業員にする

法人を設立する場合には、法人で家族を雇用して従業員にすることができます。社長の家族であっても、雇用するのは法人です。
家族従業者以外を雇用するケースと大きな違いはありません。
ただし、家族従業員は原則として雇用保険に加入できない、労災の対象外である点には注意してください。

法人として起業して家族を役員にする

法人として起業する場合には、従業員でなく役員として就任してもらう方法もあります。
役員として就任する場合には、社会保険や所得税はほかの役員と変わりません。

登記していない場合でも、働き方によってはみなし役員と判断されてしまうケースもあります。
家族にどのような立場で働いてもらうかを、事前に検討しておくようにおすすめします。

家族従業員について、詳しくはこちらの記事を>>
家族を従業員にする2つのメリットと注意するべきポイント

まとめ

みなし役員と判定されると、企業の損金算入など様々な部分で影響を受けます。
判定を避けるためには、株式を保有している場合には経営には触れさせない、経営に従事するのであれば保有を避けるなどの明確な線引きが必要です。

起業して家族に働いてもらう場合には、どのような立場で働いてもらうのかを、はじめにはっきりと決めておくと良いでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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